魔王の苦悩アカデミア   作:黒雪ゆきは

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016:孤高の魔王はもういない。

 寸止めフェイントからの拘束テープぐるぐる巻き作戦。

 初手の脅しで決められなかった以上、これしか無かった。

 これがこの天才イケメンに勝つために俺が導きだした答えだ。

 ここまでの戦闘は、今までに見せていなかったスピードでの奇襲を主軸に組み立てたものだった。

 だから決死の覚悟でそれを実行したのだが、一歩手前に終了を告げる声が聴こえた。

 

 だって、コイツとんでもないもん。

 どうやって『デイン』避けてんの?

 雷よ? マジどうやってんの?

 しかも反射速度半端なさ過ぎて全然パンチ当たんないし。

 氷が攻守共に優れすぎてヤバすぎた。

 

 いやー、さすが雄英。

 はんぱないわー。

 でも勝ちは勝ち。

 やったぜい、って思っていたら最後にとんだサプライズがあった。

 このイケメンくん改め、轟が話しかけてきたのだ。

 

 え、何これ。

 戦いを通して芽生える友情的なアレではッ!?

 しかもこんなクールで自分からは決してこういうことをしないであろうイケメンがッ!?

 最高すぎる!!

 こんなことはもう俺の人生で二度起きない自信がある。

 もちろん是非友達に───

 

「ハッ、我と友好を望むか戯け者。眷属の末席にならば、加えてやっても構わんが?」

 

 …………。

 

 グワァァアア!! 

 死ね!! 俺!!

 こんなこと言ったらせっかく友好的なのに、速攻で嫌われてまうやんかぁぁあああ!!

 もう頼むぜまじでよ!!

 

 と、思ったのに。

 

「あぁ……それでいい」

 

 ……ファッ!?

 神対応すぎるんだがッ!?

 イケメンが中身までイケメンってこれ無敵すぎるんですけど。

 

「それが、お前なりの言葉なんだろ……」

 

 ───あ。

 これは知ってる。

 今まで幾度となく向けられてきた───哀れみの目だ。

 イタイ奴に理解を示しつつ哀れみを向ける目。

 や、やめてくれ……死にたくなるからやめてくれ!

 

「2人とも凄かったよー! ……私は怖くてずっと隠れちゃってた」

 

 トコトコと近寄ってきた葉隠がそんなことを言った。

 

「チームとしては勝ちだけどさ、実際は破魔矢くん1人のおかげで私は───」

 

 ───それはちがうって。

 

「それはちがうぞ、葉隠よ」

 

 よかった。

 言いたいこと言えた。

 俺は、これだけは伝えずにはいられなかった。

 

「貴様の能力はこの我をしてできないことを可能とするもの。必ずやその力を必要とする者たちが現れる。魔王である我が言うのであるから、間違いはない。───誇るといい」

 

「………へ」

 

 葉隠の見えない顎をクイッとしながら、俺はそんなことを言っていた。

 

 …………。

 

 ……何言ってんの俺は相変わらず。

 ……なにやってんのこの手は。

 

 …………。

 

 めちゃくちゃ上から何言ってんの俺は!!

 てか今日初めて喋った女の子に顎クイって……どこの勘違い野郎なんだぁぁあああ!!!

 死ね!! 頼むから死んでくれ俺!!

 はい終わりました。

 俺の学校生活終わりました!!

 こんなん葉隠もドン引きして───

 

 

 ────ポタッと、俺の手に何かが落ちた。

 

 

 俺は瞬時にそれが涙であると理解した。

 

「あわわわわ! ご、ごめんね破魔矢くん! 私なんかすごく嬉しくて……あの、うん、ありがと破魔矢くん!!」

 

 手をバタバタとさせながら、葉隠は答えた。

 え、待って……分からん。

 涙流す意味が分からん。

 葉隠の今の気持ちが全然理解できない。

 泣くほど嬉しい……のか……?

 

 …………。

 

 あるか!!

 あるわけがないだろそんなん!!

 ……あぁそうか、ドン引きしすぎて思わず涙が流れたんだ。

 いやそっちの方が何倍も可能性が高い。

 だけど、葉隠のどこまでも優しい心が俺を傷つけまいと紡いだ偽りの言葉。

 

 ……な、なんていい子なんだ。

 

「どうしたの破魔矢……くん? ……あ、さっきのこと!? ほ、ほんとに深い意味とかないからね! あんまり、その……わ、忘れてよお願い!」

 

 この子みたいな優しい子がヒーローになるんだ。

 俺はこの時深く確信した。

 

「……俺は邪魔か?」

 

 轟がポツリと呟いた。

 それに対してまた葉隠がまたアワアワと何か言っている。

 俺は葉隠に対する申し訳なさとか、やってしまった感とか、色んな感情で疲れてそれ以降あんまり喋れなかった。

 それから俺は気を失っている障子を抱え、オールマイトやクラスメイト達が待つ場所へと向かった。

 

 

 ───レベルアップした、独特の感覚を味わいながら。

 

 

 ++++++++++

 

 

「……破魔矢」

 

 みんなが待つモニタールームに戻ると、響香が俺の元へとやってきた。

 

「おぉ、我が眷属響香ではないか。しかと見たか? 魔王である我の───」

 

 ───ブスり

 

 響香のイヤホンジャックが俺の目に。

 

「ぬわぁぁあああ!! 何をする響香ぁぁあああ!! またもや謀反だと言うのかぁぁあああ!! なぜだ、何が気に食わなかったあああ!!」

 

「別に。アンタがあんまり楽しそうだったもんで、ツイ」

 

「理由になっとらんわぁぁあああ!!!」

 

 なんなんだよホントにもう!!

 葉隠といい響香といい、女子はイマイチ理解できないときがある!!

 

 それから、全員で2戦目を振り返った。

 オールマイトがまず講評を述べる。

 俺は一応ベストという評価を受けたが、轟との差は勝利したか否かしかないと言われた。

 核のある部屋で大規模破壊の伴う攻撃を実行したことに加え、炎を用いた攻撃を行ったことが大きな減点対象だったらしい。

 

 あの轟の圧倒的質量の氷に包まれた時だ。

 どうしようもないのならともかく、あの氷を壊す手段を他にも有しているうえで炎を選択したことが減点なんだとか。

 

 いやー厳しい。

 確かにその通りであるから何も反論できない。

 これからも頑張らなければな。

 

 そして一通り意見が出終わったら、すぐに次の試合へと移っていった。

 

 

 +++++++++

 

 

「なあ! 放課後は皆で訓練の反省会しねぇか?」

 

「あ、それいいじゃん! やろうやろう!」

 

「お、いいな。参加するぜ」

 

「あ、俺も」

 

下校時間となり皆が帰る準備をする中、誰かが反省会をしようと呼びかける。

 すぐに別のピンク色の肌をした女子が諸手を挙げて参加を表明し、その流れで多くが参加する事になった。

 

 あー、これはあれだ。

 誘われずに悲しい思いするやつだ。

 少しでも精神的ダメージを和らげるために、俺は帰り支度を急いだ。

 

 あの爆発不良、確か爆豪といったか。

 羨ましい事に誘われていた。

 しかもそれをガン無視するという暴挙。

 ちくしょうテメェ!! 自分がどんだけ恵まれてんのか気づいてのか!? このバカタレが!! と心の中で怒鳴っておいた。

 

「おいって! ……帰っちまった。まぁいいか、轟はどうすんだ?」

 

「……すまない、用事があるんだ。帰らせてくれ」

 

「そうか、引き留めて悪ぃな。じゃあまた明日な」

 

 轟も誘われていた。

 羨ましい。

 さて、帰り支度は終わった。

 さっさと俺は帰るとしよう。

 

「葉隠と破魔矢はどうだー?」

 

「もち参加するよー! 破魔矢くんも参加するでしょ?」

 

 ───え。

 

「…………」

 

 まさか……さそわれ、た、のか。

 俺は声が出なかった。

 

「あれ参加しないの破魔矢くん? おーい」

 

「どうせ暇でしょアンタ。参加していきなよ」

 

 葉隠と響香の声に意識が覚醒した。

 

「あ、あぁ……」

 

 き、奇跡だ!!

 

「轟と破魔矢のバトル凄ぇアツかったぜ!! 男同志のバチバチの戦いって感じがしてよ!!」

 

 切島と呼ばれた男が声をあげる。

 

「マジでそれな! プロ顔負けのバトルだったわ。つかそのローブ個性だったのかよ!? マジでどんな個性なんだ破魔矢!?」

 

 上鳴が切島に続いた。

 

「あ、私もそれ知りたい!! なんか電気も出すし炎も出すしパワーも凄くて、超万能って感じだったね!!」

 

「俺も気になる!!」

 

「僕も知りたいよ☆ まあ僕の方がエレガン───」

 

「2戦目があんなんだったから、俺もめちゃくちゃ気合い入っちまったぜ!」

 

「破魔矢てめぇぇぇえええ!! 詳しく聞かせろやぁぁあああ!!! 葉隠の見えないおっぱ───ブベッ!!」

 

「峰田ちゃん、いやらしい話はダメよ」

 

 あぁ本当に。

 雄英受かって良かった。

 こんなヤツらがいたのかよ。

 

「ほら、はやくこっち来なよ」

 

 響香が俺の手を引く。

 今日は間違いなく最高の日だ。

 だって俺は───こんなにも良いヤツらに囲まれてたんだって気づけた。

 

「フハハハハハッ!! 我は今気分がいい!! その反省会とやらに、参加してやろう!!」

 

「おぉ!! 魔王様参加するってよ!!」

 

 心の底から俺はフハハハハハと笑った。

 なぜか俺以上に嬉しそうに笑う響香を横目で見ながら。

 




お読みいただきありがとうございました。

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