魔王の苦悩アカデミア   作:黒雪ゆきは

19 / 51
019:魔王と行くUSJ。

 マスコミ騒動から数日。

 再びヒーロー基礎学の時間がやって来た。

『RESCUE』と書かれたプレートを教壇に立つ相澤先生が見せ、その説明を始める。

 どうやら人命救助の訓練をするらしい。

 

 みんなも何だか乗り気なようでワイワイと盛り上がっている。

 俺は不安しかない。

 多分助けること自体はできる。

 

 

 できるけど───

 

 

『フハハハハハ!! なんだ? 魔王である我に助けを求めるというのか? フッ、ならば貴様、我に忠誠を誓えるか?』

 

 

 なんてことを言ってしまうのは目に見えている。

 それがマスコミに流され問題視。

 その不和の波はヒーロー全体へと波及していき……なんて最悪なことも考えられる。

 

 はぁ……不安だ。

 

 憂鬱な気分でバスが待機している場所へ向かう。

 いつも通り、遠回りしながらゆっくりと。

 コスチュームに着替えるのは自由と言っていたけど当然俺には関係ない。

 俺が着いた頃には、すでに何人ものクラスメイトが準備を終えて待っていた。

 

「バスの席順でスムーズにいくよう、番号順に二列で並ぼう!」

 

 メガネ君、確か飯田と言う奴が張り切っている。

 やっぱり委員長っぽいわ。

 それからバスに乗り込む。

 乗り込んでみるとバスの席は対面するタイプだったので意味が無く、飯田は落ち込んでいた。

 まあこんなこともあるわ。

 

 それで俺の隣はというと───

 

「お前とはいずれ、こうして話す時がくる運命だと思っていたぞ……破魔矢」

 

 カラスみたいな頭の男。

 なんか外套を纏ってるし、俺と若干服装も似ている。

 いやというか喋り方も若干似てんのよコイツ。

 だから名前は覚えている。

 確か───

 

「───常闇、といったか」

 

「ほう、これは嬉しいな。闇の王たるお前に名を覚えてもらっているとは」

 

 ……なんかやっぱ喋り方が似ている。

 コイツもまさか個性のデメリットで……って訳では無いよな多分。

 デメリットが被るってどんな確率だ、有り得ん。

 ということはこれが常闇の素の喋り方。

 

 …………。

 

 なんかすっごい仲良くなれそうな気がする。

 今までそんな喋ったことないけど、俺はすでに常闇への好感度が苦楽を共にした旧友のごとく高かった。

 

「フハハハハハ!! 我は偉大なる魔王。貴様のことは知っているぞ? 闇を飼う者よ」

 

「……やはり気づいていたか。コイツの名はダークシャドウ」

 

『ヨロシクナ!』

 

「コイツの制御には俺も手を焼いているところだ」

 

「ほう、明確な意志をもっているのか。また稀有な力に目覚めたものだな貴様も」

 

「フッ……まったくだ。だがいずれ使いこなしてみせるさ」

 

「励むといい。その力をものにした暁には、我の配下に加えてやろう」

 

「お前の力は知っている。……それも悪くないかもしれんな。だが、覚悟しておけ。いずれ俺はお前をも超えるつもりだからな」

 

「フ、フハハハハハ!! 面白い!! 我を超えるか!! いいだろう、我は逃げも隠れもせん。いつでも挑みにくるといい」

 

『……オマエラ、何カ似テルナ』

 

 なんかコイツとは気楽に話せる。

 なんだろう。

 上手く言えんが恥ずかしさが半減しているような。

 そう、半分背負ってもらっている感じ。

 仲良くなれそうだわ。

 

 と、思ってると───

 

「おい、うるっせェぞクソローブッ!! 馬鹿みたいに笑ってんじゃねェッ!!」

 

 ついに絡まれた。

 爆発不良に。

 いやー、今まで絡まれてなかったのが奇跡なんだけど。

 だってコイツことある事になんか俺を睨んでるんだもん。

 あー怖い怖い。

 

「別にいいじゃねーか。つかお前もたいがいうるさいからな?」

 

 トゲトゲ頭の切島が爆豪を諌める。

 

「アァッ!?」

 

 諌められてない。

 

「でもやっぱ派手さと強さってなんなら……爆豪と轟、そして破魔矢だよな!」

 

「チッ……ただの器用貧乏野郎だろうが」

 

 でも新鮮だなー。

 こんな強気に俺に絡んで来る奴ってのも。

 ぶっちゃけ遠目で見られてるより全然いい。

 爆豪のことはそんな好きってわけじゃないけど、案外嫌いじゃないかもなー、とか俺は思った、

 

 ……そう、俺は爆豪の言葉など微塵も気に止めていなかったのだ。

 器用貧乏野郎、というのは悪口だろうが、悪口を言われることすら俺には新鮮で、嫌というよりそちらの感情の方が強かった。

 

 なのだが───

 

「でもアンタより強いと思うけど、破魔矢は」

 

 爆豪の自尊心に殴りかかるのは……俺の幼馴染み、耳郎響香。

 よく見たら爆豪の隣に座っている。

 

 …………。

 

 いや何してるんですか響香さんッ!? 

 

「ア゛ァン? ンだとテメェ耳女!!!!」

 

「……何?」

 

 バチバチにメンチ切り合う2人。

 えぇ、なんで響香はそんな怒ってんの!? 

 てか響香ってこんな気強かったん!? 

 いや昔から弱くはなかったけど、こんな不良にも怯まないほどだったのー!? 

 いや待て。

 冷静に考えろ。

 俺が今とるべき行動はなんだ? 

 

 …………。

 

 クソー!! わからん!! 

 こればっかりは経験値が足りなすぎる!! 

 

「おいおい落ち着けって2人とも!」

 

 切島が2人を仲裁する。

 ナイス!! 

 

「つか爆豪、お前ってほんとクソを下水で煮込んだような性格してるよなー。こりゃ人気でねぇわ」

 

「んだコラそのボキャブラはクソ電気!! テメェもブチ殺すぞッ!!」

 

 それからもしばらく爆豪を中心に騒ぎは続いていたが───

 

「……おいうるさいぞお前ら。もう着くところだ。いい加減にしとけ」

 

 相澤先生のおかげでなんとか丸く収まった。

 いやー、もう大変だねほんと。

 でも正直悪くない。

 誰とも関わることなく穏やかなだけだったこれまでの日々よりも、今の騒がしい毎日の方が断然楽しい。

 

 でも響香の意外な一面には驚かされた。

 度胸ありすぎでしょアレは。

 そこら辺の男よりよっぽど男気あったんだけど。

 ……てか、もしかして俺を貶されたと思って怒ってくれたんかな? 

 前を向いているため響香の顔は見えないから、結局その答えはわからなかった。

 

 

 ++++++++++

 

 

 大きなドーム状の建物の前でバスが止まる。

 相澤先生に引率されて中に入ると、そこにはアトラクションテーマパークのような光景が広がっていた。

 

「水難事故、土砂災害、火事、などなど.……あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も、ウソの災害や事故ルーム! 略して『USJ』!」

 

 そんな説明をしてくれたのは雄英教師であるスペースヒーロー、13号。

 ……申し訳ない、全然知らない。

 でも災害救助で活躍する人気ヒーローらしい。

 緑谷ほどにとはいかなくとも、俺ももっとヒーローに興味を持たないとな……。

 

「えー、訓練を始める前に、お小言を一つ、二つ……三つ……四つ……」

 

 増えるなー、と思いながら聞いておく。

 13号先生の個性は『ブラックホール』。

 なんでも吸い込みチリにしてしまう能力だという。

 ……凶悪だなおい。

 また負けうる奴と出会ったよ。

 プロヒーローってやっぱ凄いんだなと再確認した。

 それから13号先生は色々と言っていたが、要は個性を使用するときは責任を持てということだ。

 個性は一歩間違えば簡単に人の命を奪えるのだ、と。

 確かになと俺は思う。 

 

「君たちの力は人を傷つける為にあるのでは無い。助ける為にあるのだと思って下さい。以上、ご静聴ありがとうございました」

 

 そう言って、13号先生は締めくくった。

 大きな拍手が巻き起こり、ブラボーとメガネくんは言っている。

 

「よーし、そんじゃまずは───」

 

 相澤先生がいよいよ授業を始めようとしたその時、異変は起こる。

 俺は静かにその方向を見つめる。

 広場の噴水前。

 黒いモヤが漂っている。

 それは瞬く間に大きくなり、そこから───

 

「一固まりになって動くな! 13号! 生徒を守れ!」

 

 相澤先生の緊迫した声が飛ぶ。

 次々とその黒いモヤから人間が現れる。

 俺はなんとなく肌で感じていた。

 一度出会ったことがある。

 響香を襲った奴と同じ、アレは───

 

「動くな! あれはヴィランだ!」

 

 そうあれはヴィランだ。

 本当に最悪だ。

 

「どこだよ、オールマイト……。せっかくこんなに大衆引き連れてきたのにさ。子どもを殺せば……来るのかな?」

 

 底知れない悪意が俺たちに浴びせられる。

 嫌でも気付かされたことだろう。

 これがただの演習などでは決してないことを。

 多くの者が目を見開き、顔を引き攣らせる。

 

「ヴィラン!? バカだろ!? ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!!」

 

「……何にせよセンサーが反応してねぇのなら、向こうにそういう事が出来るヤツがいるって事だ。バカだがアホじゃねぇ。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

 こんな時でも轟は冷静だ。

 俺は内心焦りまくっているというのに。

 だってこんなにいるのに───俺は逃げることを許されない。

 そして俺はなんとなく分かる。

 マジでヤバそうな奴があの中には混じってることを。

 

「13号避難開始! 学校に連絡を試せ! センサー対策も頭にあるヴィランだ。電波系の個性が妨害している可能性もある。上鳴、お前も個性で連絡試せ」

 

「っス!」

 

「先生は!? 1人で戦うんですか!? あの数じゃ、いくら個性を消すといっても……。イレイザーヘッドの戦闘スタイルは個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は……」

 

 緑谷が心配そうに声を上げる。

 いや俺も泣き叫びたいんですけどマジで。

 こんなことってある?? 

 こんなクソみたいな個性のせいでただでさえ人生ハードモードだってのに……運まで悪いの俺!? 

 

「一芸だけじゃヒーローは務まらん。───それに」

 

 相澤先生が俺を見た。

 

 え、何。

 

 なんすか一体。

 

「いけるな───破魔矢」

 

 えぇ……。

 

 嘘でしょマジでか……。

 

 と、内心は鬼のように弱気だった。

 

 だが───

 

「フハハハハハ!! 誰にものを言っている? 先導者相澤よ」

 

 こんな時に笑ってるバカは誰よ? 

 と思ったら俺だった。

 最悪すぎる。

 

 でも多分、相澤先生は俺の個性を分かってくれてるからこそ言ってるんだ。

 お前は逃げられない、ならやるしかないよな? と言外に言っているんだと思う。

 

「まったく、貴様らには失望したぞ」

 

 俺はクラスメイトの方を見ながらそんなことを言っていた。

 恐怖と困惑の表情をしたクラスメイトたちの顔が、やけに鮮明に見える。

 こんな怖いのに、どこか冷静な自分がいる。

 前もそんなだったなー、と考えてしまうほどに。

 

「魔王である我がついているというのに、何を恐れることがあろうか」

 

 俺は現れたヴィランの方へ歩を進め、見下ろす。

 うわー、やばいよ。

 改めて見るとまじでやばいよ……。

 あの手をいっぱいくっつけてるいかにもなサイコ野郎はなに? 

 脳みそむき出しの筋肉も絶対に危ない奴だ。

 

「仕方ない。開戦の狼煙は我自ら務めるとしよう。───刮目せよ、魔王たる我の力を!!」

 

 もうやるしかないか。

 ここまで来たら引き下がれない。

 ちょうど対集団の呪文も新たに手に入れてるんだ。

 

 俺は右手に『バギ』を発動させる。

 

 竜巻を発生させる呪文だ。

 これだけでもいい。

 だが、俺が苦手なんかこれあんまり攻撃力が高くない。

 だから……できるかは知らんけど試す。

 

 さらに俺は左手に『ギラ』を発動させる。

 

 これも新たに手に入れた対集団の火炎魔法。

 呪文を合わせるなんてできるかは知らん。

 でもやってやる、クソッたれが。

 

 

 ───合体魔法『バギラ』

 

 

 火炎を纏った旋風が、広場に吹き荒れた。

 




お読みいただきありがとうございました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。