魔王の苦悩アカデミア   作:黒雪ゆきは

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002:耳郎響香の独白。

 ウチの名前は耳郎響香。

 今は中3。

 ウチには幼馴染みがいる。

 最高に変わった幼馴染みがいる。

 幼稚園からの腐れ縁ってやつ。

 

 アイツと出会った時のことは今でも憶えてる。

 いっつも1人だったし、色んな意味で目立ってたから。

 同じ変な服をずっと着ているし、喋り方とかも含めてかなりヤバい奴だったから。

 まあそれは今も変わんないけど。

 

 どんなやつか少しだけ興味が湧いて、ウチから話しかけたの。

 

「ねぇアンタ、何してんの?」

 

 するとアイツは一瞬キョトンという目をした。

 そしてすぐに、変な笑い声を上げた。

 

「フハハハハハ!! 我と対等の対話を望むとはなかなかに度胸がある! 面白い、気に入った! 女、我の第一の眷属にしてやろう!」

 

「……誰が眷属だ」

 

 そんときはムカついてすぐどっか行っちゃった。

 チラりとあいつを見ると、大した女だとか言いながら相変わらずバカ笑いしていたけど、目だけは悲しそうにしてた。

 だからウチはあんま悪いヤツじゃないんじゃないかなと思った。

 

 これがウチとアイツの出逢い。

 それからはちょくちょく喋るようになった。

 でも正直アイツと一緒に歩くのは恥ずかしい。

 なんせ目立つから。

 めちゃくちゃに目立つから。

 

 でも、そんなことで避けるのは全然ロックじゃない。

 

 だからウチは頑張って慣れた。

 幼稚園でも小学校でも今も、アイツがウチ以外と喋ってるのは全然見ない。

 まあ仕方ないっちゃ仕方ないんだけど。

 独特の雰囲気だし、喋り方がアレだし。

 

 でも、ここまで付き合ってきたから分かるんだけど悪いヤツじゃない。

 それどころか凄いやつだ。

 アイツは無駄にハイスペックなんだよね。

 テストの順位も1位以外見たことない。

 体育祭でも出場した種目は全て1位。

 要は運動も勉強もできんのよねアイツは。

 

 正直、雄英を目指してるウチからしたら気になる。

 だから聞いてみたの。

 

「破魔矢、あんたなんで勉強も運動もできんの?」

 

「フハハハハハ!! 我が眷属にしては愚かな問いだな!! 我が我だからに決まっておろうが!! フハハハハハ!!」

 

「聞くんじゃなかった……」

 

 本当に聞くんじゃなかった……。

 風の噂でアイツも雄英を受けるって聴いた。

 本人に確認してみたけど相変わらず意味不明だった。

 でも多分アイツなら受かると思う。

 

 確か個性は───『魔王』

 正直イメージ通りと言えばイメージ通り。

 あの雰囲気は確かに魔王っぽい。

 ……ぶっちゃけイタい奴って感じだけど。

 服とかも個性のせいなんだとか。

 

 1回個性を見せてもらったことがある。

 感想としては……凄い。

 ウチにはそれくらいしか言い表せない。

 アイツの運動神経とかも個性の影響なんだって。

 どんな万能個性だ。

 

 そう言えば飛ぶこともできるって言ってたっけ。

 翼も見せてもらった。

 正直ロックだと思った。

 カッコよかったから冗談半分で、ウチを乗せて飛んでみてよって頼んだの。

 そしたら───

 

「フハハハハハ!! この魔王たる我に頼み事とは、相変わらず度胸があるな我が眷属は!! いいだろう。この魔王の名にかけて約束しよう。しかし今は制御に手間取っている。いつか必ず、貴様を空の旅へ連れて行こう!! フハハハハハ!!」

 

「あっそ、アリガト。忘れんなよ」

 

 というわけでいつかアイツはウチを空の旅とやらに連れて行ってくれるんだってさ。

 こうして振り返ってみると、やっぱりアイツはそう悪いヤツじゃない。

 ウチも嫌いじゃない。

 変な奴ってのは間違いないけど。

 

 

 ───そんなことを考えながら、ウチは帰り道を歩く。

 

 

 今日は用事があって隣にアイツはいない。

 別に寂しくはないけど、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけつまらないと感じる。

 あの馬鹿みたいな笑い声を聴きながら帰るのは、いつの間にかウチの日常になっていたんだと思う。

 

「明日はアイツと帰ってやるか……」

 

 ボッチだしなアイツ───とか考えている時だった。

 

「みぃつけたぁぁあ♪」

 

 その声を聴いた瞬間、ゾワリと嫌なものが身体を走った。

 人通りの少ない住宅街の道。

 反射的に声のした方向を向くと、そこには蛇のような頭をした男がナイフをカチャカチャと回しながらゆっくりと近づいてきていた。

 

 すぐに分かった。

 

 

 ───ヴィランだ、と。

 

 

 ウチはヒーローを目指している。

 でも今この瞬間ウチの心にあるのは……恐怖だけだった。

 

 怖い。

 怖い怖い。

 怖い怖い怖い。

 

 体が思うように動かない。

 

「だめだよぉぉおおお♪ こんな時間に女の子が1人でいたらさぁぁああ♪」

 

 コツ、コツ、と蛇の頭をした男がゆっくりと近づいてくる。

 それに合わせて、ウチの心を染め上げる恐怖は濃くなっていく。

 

 助けて。

 誰か助けて。

 

 声が出ない。

 皮肉すぎる。

 音に関する個性なのに、こんな時になんの役にも立たないなんて。

 

「うひゃひゃひゃ♪ ラッキー♪ 俺はやっぱ───ツイてる!!」

 

 蛇の頭をした男が走りだす。

 もう距離はない。

 ウチは目を瞑った。

 この現実から目を背けたくて。

 

 いろんな思い出が駆け巡る。

 

 そして最後に映ったのは───バカみたいに笑うアイツ。

 

 ねぇ助けてよ、魔央───

 

 カキンッ

 

 何かが弾かれる音がした。

 

 そして───

 

「フハハハハハ!! 何やら楽しそうなことをやっているではないか。我も混ぜてはもらえぬか?」

 

 本当にあの馬鹿みたいな笑い声が聞こえてきた。

 あの馬鹿みたいな笑い声が本当に頼もしかった。

 ウチはゆっくりと目を開ける。

 そこには、暑苦しいローブとマントが写った。

 

「魔央……」

 

「情けないぞ我が眷属よ!! 我が眷属ならこの程度の有象無象、一蹴してもらわねばな!! だがまあよい。今回は我が直々に手を下してやろう。……して、貴様───」

 

 

 ───此奴が我が眷属と知っての狼藉か?

 

 

 魔央はそう言って、ヴィランを睨む。

 こんな時だと言うのに、ウチは何故かすでに安心しきっていた。

 たぶん確信していたんだと思う。

 

 

 

 

 魔央が……いや、『魔王』がこんな奴に負けるわけないって。

 


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