魔王の苦悩アカデミア   作:黒雪ゆきは

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022:ヒーロー。

「うェ〜〜〜い……」

 

 広範囲無差別放電。

 上鳴の個性によって全ての敵は行動不能になった───かのように思われた。

 

 突如、地面から腕が突き出される。

 

 絶縁体シートの中にいる響香と八百万。

 個性の反動によって思考能力が大幅に失われている上鳴。

 地中に隠れていたことで、上鳴の放電を逃れたヴィランに気づく者はいない。

 

(やはりガキ。詰めが甘い)

 

「うェ、うェ〜〜〜い」

 

 上鳴にその魔の手が迫り───

 

「ダークシャドウッ!!」

 

『アイヨッ!!』

 

「なッ!! なんだおま───ゴバァッ!!」

 

 闇を纏った巨腕が、不意を突こうとするヴィランを反撃の隙すら与えず押し潰す。

 駆けつけた常闇はすぐに辺りを警戒する。

 だが、周りにはすでに行動不能となり横たわるヴィランのみ。

 

「最後の一人だったか」

 

「うェ〜〜〜い……」

 

「……上鳴」

 

 常闇は他に誰かいないか聞きたかったが、会話はできないと判断する。

 破魔矢との約束が常闇を焦らせる。

 あの脳剥き出しの男を見た瞬間、常闇は身体がすくんだ。

 破魔矢が強いのは知っているがあれは危険すぎる。

 

(今考えることではない……ッ!!)

 

 常闇は焦る気持ちを鎮める。

 今自分がすべきことをしなければならない。

 そう無理やり結論付け、次の行動に移ろうとしたその時───ゴソゴソと動く布があることに気づいた。

 

「なんだ……アレは」

 

 恐る恐る近づき、それをめくれば───

 

「なっ、常闇!」

 

「常闇さん、無事だったんですのね!」

 

「……ッ!」

 

 八百万のあられもない姿を目にし、尋常ではない速度で常闇は即座に後ろを向く。

 常闇の心は羞恥に染まってしまう。

 

 ───しかし、次の瞬間には全く別のものに目を奪われることとなる。

 

 それとほぼ同時のことであったのだ。

 

 轟音と共に、USJの高い天井に届かんばかりの巨大な氷塊が突如現れたのは。

 

(……破魔矢)

 

 それが誰によるものなのか瞬時に理解した常闇は、何としても果たさなければならない約束を思い出した。

 

 

 ++++++++++

 

 

 ───ズガン

 

 ───ズガン、ズガン

 

 ───ズガン、ズガン、ズガン

 

「ヒヒっ……」

 

「ほう、まだ立ち上がるか。大したものだな」

 

 全身に手を纏う男の気色悪い笑い声。

 響き渡るありえないほどの打撃音。

 それを見守る周りのクラスメイトの表情も希望から絶望へと変わる。

 

 はぁ……まじかよ。

 

 連続で響く打撃音と共に氷塊が砕かれていく。

 

 そして───ソイツは再び姿を現す。

 

「オールマイト並みのパワーに『ショック吸収』。対平和の象徴として作られたのが脳無。お前の力は確かに凄いが、それじゃ脳無はやれねぇよ」

 

 自慢げに喋る手の男。

 え、なんで教えてくれたんだろ。

 普通にありがたい情報なんだけど。

『ショック吸収』ね。

 まあ相澤先生を助ける時の1発で、あの妙な手応えはなんかあると思っていたけど。

 

 とは言ってもこっちもはっきり言ってヤバい。

『ゾーマ』とやらの力を宿しているこの状態を長くは保てない、ってのがなんとなく分かる。

 早々にコイツのケリはつけなくてはならない。

 俺は黒い靄の男と手の男を見る。

 あと2人、ヤバそうな奴が残っている。

 

「死柄木弔」

 

「黒霧、13号はやったか?」

 

「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして……1名逃げられました」

 

「はぁ……? 黒霧お前……あぁもう、どうしてこうも上手くいかない。オールマイトはいないうえに、あのふざけたガキ…………」

 

 ガリガリ。

 ガリガリガリガリ。

 死柄木と呼ばれた男は首を掻く。

 

「……まあいいや。アイツの個性、かなりチートだ。───“先生”が喜びそうだなぁ」

 

 そう言って死柄木はようやく掻き毟る手を止める。

 その顔には邪悪な笑みが浮かんでいた。

 

「よく喋る奴よ、小童」

 

 うわ、口に出てた。

 最悪。

 ギロリと死柄木の目がこちらを向く。

 

「やっぱり殺そう。───脳無、早くソイツを殺せ」

 

 気色悪い雄叫びを上げながら脳無と呼ばれたソイツは、再び俺に突っ込んでくる。

 冷静に俺は考える。

 負ける気がしない。

 この力があればなんでもできる。

 

 俺は指先を脳無に向ける。

 

 

 ───『凍てつく波動』

 

 

 冷たい波動がほとばしる。

 まずは『ショック吸収』とやらを無効化しよう。

 はっきり言ってこの能力は相澤先生の下位互換だ。

 能力は個性の一定時間無効化。

 この点は同じ。

 だが無効化できるのは一部の発動型と変形型のみ。

 どちらも増強系のように攻撃力、防御力、素早さのいずれかを純粋に強化するものしか無効化できないという強烈な制約がある。

 爆破や氷を生成するなんて個性は無効化できない。

 

 敵の弱体化をはかる個性の場合、その効果自体を解除することはできるが、個性自体を無効化することは出来ない。

 唯一のアドバンテージとしては、そういった個性をいくつ持っていようが全て無効化できるという点だが、個性を複数持ってる奴が存在するとは思えない以上あまり意味が無い。

 

 

 ───だけど良かった。

 

 

 コイツの『ショック吸収』なんて明らかに“防御力”の向上に直接繋がる個性は無効化できる。

 とは言ってもコイツの勢いが止まるわけではない。

 俺はすかさず防御の姿勢をとる。

 

 その勢いに身を任せ、またしてもあの砲弾のような拳が迫ってくる。

 

 だが、不思議と俺にはなんの恐怖もなかった。

 

 

 そのまま脳無の拳が俺に突き刺さり───いたっ。

 

 

 え、マジか。

 あのバラバラになるような破壊力が、一般人に殴られた程度になっている。

 嘘だろおい。

『闇の衣』の性能が上がりまくってる。

 

 

 ───この瞬間、俺の戦略が決まった。

 

 

「フハハハハハ!! この我と殴り合うか? 良かろう!! その余興、のってやろう!!」

 

 ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。

 お互いの拳の連撃がぶつかり合う。

 

「ハハッ、馬鹿だぞアイツ。脳無と殴りあって勝てるわけねぇだろ」

 

 死柄木の嘲笑の声。

 

「えぇ……ですが───」

 

 黒霧の訝しむ声が消え入るように響いた。

 オールマイト並みのパワーを宿す脳無。

 本来一瞬で片がつくはずの攻防。

 それが何故かいつまで経っても終わらないのだから。

 

「ほう、さすがだな異形の者よ。我をもってしても打撃では決められぬか。───ならば」

 

 俺は脳無の右腕を止める。

 続いて振るわれた左拳も受け止める。

 完全に動きを封じた。

 

「受けてみるがいい」

 

 

 ───『凍える吹雪』

 

 

 俺は口から青紫色のブレスを吐く。

 本来範囲攻撃の技であるが、目の前のコイツのみに集中させる。

 筋繊維は十分に破壊した。

 どう見ても『マヒャド』によるダメージがない以上、回復能力も相当高い。

 この化け物を殺さずに拘束する手段が俺にはない。

 

 

 ───だが、壊した状態で凍らせれば問題ない。

 

 

 脳無と呼ばれる化け物の首から下を、俺は一瞬で氷漬けにしてやった。

 

「フハハハハハ!! 我が魔力を込めた氷結の牢獄!! その状態で破れるものなら破ってみるがいい!!」

 

 静寂の中響く笑い声。

 微動だにしない化け物。

 それは誰がどう見ても勝負の決着であった。

 

「うおおおおぉ!! 破魔矢の奴やりやがったぞぉぉおお!!」

 

「けろけろ、本当に凄いわ破魔矢ちゃん」

 

「す、凄い……オールマイト並みのパワーがあったのに……」

 

 それを見ていた全ての者が勝利に沸き立った。

 

「は? 対平和の象徴用に作られたんだぞ? ……クソクソクソクソッ!! チート野郎が!!」

 

「死柄木弔!! 落ち着いて下さい!!」

 

「これが落ち着いてられるか!! アイツ───」

 

 この場にいる全ての者が見守るなか、その変化は起こった。

 

 ───カハッ

 

 俺は血を吐き出した。

 意識が急速に遠のいていく。

 そしてそれは、もはや回避する余地がないものだとすぐに分かった。

 

 嘘だろ。

 

 1分も能力を使っていない。 

 

 まだあと2人残ってんのに。

 

 消耗している状態だったとはいえ、これ……………………は、頼むぜ、ま………………じ……。

 

 

「魔央!!!!」

 

 

 今にも消えそうな意識のなか、響香の声が聴こえた。

 

 

 ++++++++++

 

 

 それは誰にとっても分かりやすい異常事態だった。

 

 出会った時からずっと纏っていた魔央のローブが、黒い粒子となり消えていったのだから。

 

 初めて見る制服姿の魔央。

 

 だが、誰もそんなことを気にしている余裕はなかった。

 

 転々と移り変わる状況についていけず、誰一人動けないなか、響香だけが駆け出す。

 

 崩れ落ちる魔央に向かって。

 

 響香を突き動かすのはたった一つの感情。

 

『恐怖』である。

 

 魔央を失うかもしれないという底知れない恐怖。

 

 崩れ落ちるすんでのところで、響香は魔央を抱きかかえる。

 

「きょう……か……逃げて、くれ……」

 

 聞き慣れた声の聞き慣れない言葉。

 しかし、そんなことは今の響香にとってどうでもいいことだった。

 

「ふざっけんな!! 逃げるなんてできるか!! ウチがどうしてヒーローになったか分かる!? アンタ、こんなに……」

 

「そう、言うなよ……俺は、お前をまもり……たくて───」

 

 そこまで言うと、魔央は目を閉じた。

 

「魔央? 魔央! 魔央!! 目開けてよ……いや……いやだって……」

 

 取り乱す響香。

 だがそれは、第三者によって諌められる。

 

「大丈夫耳郎さん。気を失ってるだけだよ」

 

「み、緑谷……」

 

 緑谷は魔央の状態を冷静に判断する。

 

「まったく不甲斐ない。恐怖で体がすくみ動けんとは。───だが、破魔矢一人がここまでしたのだ。ここで動けず、ヒーローになる資格無し!!」

 

「常闇も……」

 

「けろ、でも正面から戦うのは得策ではないわ。破魔矢ちゃんでさえここまでになる相手よ」

 

「うわぁぁぁぁああ!! やってやるよもぉぉおお!! オイラだってぇぇえええ!!」

 

 気づけば響香の傍には蛙水、常闇、緑谷、峰田の4人が集まっていた。

 恐怖に抗い、魔央を助けるために動いたヒーローの卵は響香だけではなかった。

 静かな闘志を宿しながら、敵を見すえる。

 

「あぁ、ゲームオーバーだ。帰ろう黒霧」

 

「死柄木弔……」

 

「だけど最後に───コイツらだけでも殺して帰ろう」

 

 死柄木は走り出す。

 殺意と狂気に満ちた目が向けられ、響香たちは一瞬怯んでしまう。

 だが覚悟を決める。

 

「ダークシャドウ!!」

 

『アイヨッ!!』

 

 真っ先に動いたのは常闇。

 緑谷もいつでも『ワン・フォー・オール』を発動できるように備える。

 

 そして、ダークシャドウと死柄木が衝突する───その瞬間。

 

 轟音と共に扉が吹き飛んだ。

 

 誰もが動きを止め、振り返り、土煙の中から現れた1人のヒーローに視線を向けた。

 

 

「もう大丈夫。───私が来たッ!!」

 

 

 最強のヒーローにして、『平和の象徴』。

 いつも皆を安心させる笑顔はない。

 怒りに満ちたオールマイトがそこにはいた。

 




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