到着してすぐ、オールマイトはウチらを助けてくれた。
とんでもないスピードで。
その時にはすでに皆が安心しきってたと思う。
かくいうウチもそう。
魔央が凍らせた化け物がワープさせられそうになったけど、不味いと思ったのかすんでのところでオールマイトがどこかにぶん投げた。
そのまま天井を突きぬけて飛んでいった。
相変わらず凄いパワー。
でも、その間にあのヤバそうなヴィラン2人はワープで逃げてしまった。
オールマイトは悔しさのあまり叫んでいた。
ヴィランの残党は他にも残っていたけど、オールマイトが一瞬で倒してしまった。
その後先生たちも到着して、ようやくこのヴィラン襲撃事件は収束する。
すぐに警察や救急車も到着し、重傷な相澤先生、13号先生、そして───魔央が運ばれていった。
すぐにウチは付いて行かせてほしいと言ったけど、警察の人にダメだと言われた。
自分が思っている以上に君たちは心身共に疲れているから今日は休養するように、だって。
もちろん全然納得できんかったから粘ったんだけど、結局ダメだった。
その日の夜はまったく眠れなかった。
そしてヴィラン襲撃事件の翌日である今日、臨時休講となったのでウチは朝から魔央が入院している病院に来ていた。
いてもたってもいられなかったから。
魔央の意識はまだ戻っていなかった。
とは言っても、眠っている感じに近いらしい。
早ければ今日中に目を覚ますってナースさんに説明された。
いつものローブを着ていない魔央は、少しだけ弱々しかった。
しばらくすると、クラスの皆や神楽坂さんと孤児院の子どもたちもお見舞いに来た。
それでも……魔央が目覚めることはなかった。
時間だけが過ぎていき、あっという間に日が沈んでしまう。
神楽坂さんは子供たちを連れているからあまり遅くまでいることができず、ウチに無理しないようにと言って帰って行った。
『心配すんな。魔央はこんなことじゃくたばりゃしねーよ』
ケラケラと笑う神楽坂さんは自信に満ちていた。
心から魔央が死ぬわけないと確信しているようで、その言葉にウチは心が少しだけ軽くなるのを感じた。
明日も早い。
そろそろウチも帰らないといけない。
最後に未だ目を覚まさない魔央の頬に触れた。
「早く目覚ましなよ。……いつも守ってもらってばっかりで、ゴメン。でも待ってて。いつかウチも強くなって、アンタを───」
その時、突如黒い粒子がブワリと舞い上がった。
++++++++++
朦朧とした意識が覚醒していく。
眠い。
眠すぎる。
頭がガンガンする。
身体もだいぶしんどい。
ここどこだ?
ゆっくりと起き上がる。
てか俺、何をして───
「……魔央」
響香の声。
振り向くとそこには、案の定響香がいた。
いろんな感情が一気に溢れた。
良かった。
無事で本当に良かった。
「フハ───」
ちょっと待て。
「魔央アンタ……大丈夫、なの……?」
俺が微妙な感じで笑うの止めたから、すっごい不安そうに響香が覗き込んでくる。
いやそりゃそうだよ。
でもちょっと待て。
───個性を完全に支配できる。
皮肉すぎるでしょ。
今まで自分の個性が嫌で嫌で仕方なくて、目を背けてきた。
なのに向き合うことで───その呪縛から一時的にでも逃れることができるようになるなんて。
自分の身体に宿る魔力を今まで以上に感じる。
完全に操れる、支配できる。
魔力がめちゃくちゃ体外に滲み出ている。
これじゃダメだ。
内側だけに巡らせろ。
感情も乱してはダメだ。
鎮めなければ。
心に波をおこすな。
「魔央……」
もうちょい。
もうちょいだから響香。
そして───
───ローブが消えた。
「え……アンタ、ローブが……」
これは一時的なもの。
個性を使おうと思った瞬間またあのローブと恥ずかしい言動は戻ってくる。
それは俺の個性の根幹、切り離せない。
当然、ヴィランから逃げられないってのも変わってない。
なんとなくそれがわかる。
これは一時的に個性を解除できるようになっただけ。
でも俺にとってはめちゃくちゃ嬉しい。
何年も悩んでたことが、こんな呆気なく解決された。
響香が驚いている。
そりゃそうだ。
なんて言おう。
ずっと自分の言葉で話したかった。
でもマジでなんて言えばいいのかわからん。
「あー、響香。ういす……」
上手く言葉が出なかった。
やっと自分の言葉で喋れるってのに。
「……は? アンタその言葉……つかそんなことより───」
え、何するんだろう。
というか、そんなことって。
やっと喋れたってのに、響香らしいというか。
なかなかの感動シーンじゃないのこれ?
と思った次の瞬間にはなぜか響香のプラグが俺の耳に。
「うぎゃぁぁぁぁああああ!!」
爆音が全身を駆け巡った。
「心配しすぎて死ぬかと思ったわ!! ざっけんなよマジで!!」
「え、俺けっこう頑張ったくない!? てか怪我人なんだからさ、もうちょっといたわってくれてもいいんじゃね!?」
「うっさいうっさい!! だいたいなんであんなヤバそうな奴と戦ってんの!? こんな大怪我してまでさ!!」
「いやだって、ほっといたら響香が襲われるかもしれんと思ったからさー」
「……ハァッ、そ、それでも怪我すんな!」
「無茶言うなよー、マジでヤバかったんだって」
俺たちが言い合っていると、スライド式のドアが少し荒々しく開いた。
「病院ではお静かにッ!! って破魔矢さん!! お目覚めになられたんですね!!」
熟練っぽいナースさんに怒られた。
それから医者の診断を受け、もう大丈夫だと言われた。
でも念の為今日までは病院に泊まっていけだって。
いやー、よかったよかった。
その後、俺と響香はギリギリまで喋っていた。
それは、これまでずっと一緒に過ごしていたのに、自分の言葉で語ることのできなかった時間を埋め合わせるかのようなとっても濃いもので。
正直、めちゃくちゃ楽しかった。
あっという間に時間が過ぎていって、名残惜しかったけど響香を見送った。
まあいい。
時間はいくらでもある。
これからゆっくりと、もどかしかった今までの時間を取り戻していこう。
お読みいただきありがとうございました。