ありがとうございます。
──1-A控え室──
ついにきた体育祭当日。
俺はとりあえず選手宣誓のことが頭から離れなくて吐きそう。
緊張で吐きそう。
今からでもいい、本当に誰か代わって欲しい。
残念ながら俺は『頼む』という行為ができない。
だから相澤先生に選手宣誓のことを告げられたときも、馬鹿みたいにフハハと笑って引き受けるしかなかった。
嫌だから代わって欲しいと頼むことができないというね。
くたばれクソ個性。
まあ、名誉なことだしせっかくだから頑張ってみようかなと最終的には思ったんだけど……絶賛後悔中。
「コスチューム着たかったなー」
「公平を期す為、着用不可なんだよ」
「アンタはやっぱそのローブ着てんだね」
「我が『闇の衣』は常に我と共にある」
「ほんと不思議だよなー、破魔矢の個性。それに比べてオイラのは超シンプル」
「……闇を纏うが宿命」
みんなが体操服着てんのに俺だけローブ。
こういうのも嫌なんだよ俺は。
人と違うってのが嫌なのよ。
常闇も何言ってるか分からんし。
いやそんなことしてる場合じゃない。
選手宣誓の文をもう一度頭ん中で復唱しよう。
部屋で1万回くらい音読したけど今まで1回も文面通り読めてない。
だが俺は諦めない。
もしかしたら奇跡が起きるかもしれないから。
神様が本当に存在するなら、俺の努力はそろそろ報われてもおかしくないはず。
「そろそろ入場だ! 準備は良いかい!」
そう考えた矢先、飯田の声が響いた。
最悪だ……。
もう行かなければいけないのか。
処刑台に上がる死刑囚の気分だわ。
その時───
「緑谷」
俺がとてつもなく暗い気持ちで立ち上がると同時に、轟が緑谷を呼び止めた。
「轟君……なに?」
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う。けどお前、オールマイトに目ぇかけられてるよな。別にそこ詮索するつもりはねぇが───お前には勝つぞ」
うわー、なんか始まったんですけど。
少年漫画でありがちな、主人公とライバルがバチバチに火花散らす的なアレが始まったんですけど。
「───破魔矢、お前もだ」
……巻き込まれたんですけど。
「お前には戦闘訓練の時一度負けてる。USJんときも俺は見てるしかなかったが、お前は戦ってた。しかもあんな化け物にお前は勝ちやがった。はっきり言ってすげぇよ。───でも、俺は負けるわけにはいかねぇんだ」
……怖っ!!
すっごい睨まれてる。
親の仇って感じなんだが。
なんで轟はこんな感じになってんのよ。
クラスメイト達もざわつき始めた。
「クラスNo.2がクラス最強に宣戦布告……! 緑谷まで巻き添えくらってるわ……!」
「おいおい急に喧嘩腰でどうした!? 直前にやめろって」
「仲良しごっこじゃねぇんだ。別にいいだろ」
切島が止めるが、轟はその手を払い除け、言うことは言ったとばかりに離れていく。
こういう時なんか言った方がいいんだろうか。
いや、俺思ったこと言えないんですけど。
「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってるのかはわかんないけど……そりゃ君の方が上だよ。実力なんて……大半の人に敵わないと思う」
このなんとも言えない空気に俺が困ってたら、緑谷が弱弱しく話し始めた。
「緑谷も、そういうネガティブなこと言わない方が───」
「でもみんな……本気でトップを狙ってるんだ。最高のヒーローに、遅れをとるわけにはいかないんだ……! ───僕も本気で獲りに行く!」
か、カッコイイィイイイ。
緑谷こんな熱い奴だったんだ。
「フハハハハハ!! 我は逃げも隠れもせん。かかってこい、氷を操りし者よ!!」
とりあえず便乗したけど、熱い空気ぶち壊すようなことしか言えなくてゴメン……本当に。
でもこの変な宣戦布告イベントは乗り切った。
ふぅ、とりあえず良かっ───
─── BOOOM!!
突如響く爆発音。
今度は何ッ!?
もう嫌っ!!
ただでさえ俺は選手宣誓で頭いっぱいなのに何なんマジで!!
「つくづく俺の神経逆撫でするよなァ……テメェらはよォッ!!!!」
はい爆豪参戦ー。
しかもその表情は正しく悪鬼羅刹。
関わりたくない顔ランキングぶっちぎりの一位。
「……全員ぶち殺して俺が一位になる。完膚なきまでの一位になってやるクソがッ!!」
爆豪はそう言うと、緑谷、轟、そして俺をしばらく睨み倒し、舌打ちをしてから出ていった。
何が気に食わなくてそんな怒ってんのよアンタは。
え、しかも最後なんで俺見て舌打ちしたの?
怖いんですけど。
うわー、てかどうしてくれんのよこの空気。
とんでもなく微妙なんですけど。
と思いきや、『皆! 入場の時間だぞ!』と飯田が入場時間を知らせるロボットのように言った。
いよいよ、雄英体育祭が幕を開ける。
……それからの記憶はあまりない。
緊張のあまり記憶が飛んでいる。
気づいたら───
───『選手宣誓!!』
と言う声が聴こえた。
ミッドナイト先生が壇上でムチを鳴らしている。
いつからあそこにいたんだろう。
───『選手代表!! 1年A組、破魔矢魔央!!』
振り返り、俺に視線を向けるクラスメイトたち。
死刑宣告の間違いだろこんなん。
うわー、やけに人が多いなー。
ワーワーうるさいやー。
……いやダメだ。
現実逃避してる場合じゃない。
宣誓台に上がらないと。
俺はゆっくりと歩き出す。
えーと、なんて言うんだけ。
我々選手一同は、ヒーローシップにのっとり……あれ、続きが思い出せん最悪。
あんなに読みこんだのに。
頭真っ白なんですけど。
てかヒーローシップって何よ?
シップの意味がまず分からん。
どういう意味なのか誰か教えて欲しい頼む。
……なんてことを考えてるうちにマイクの前まで来てしまった。
ミッドナイト先生相変わらずエッロ。
いや馬鹿か。
そんな事考えてる場合じゃない。
ヤバい。
なんか言わないとさすがにヤバい。
深呼吸。
覚悟を決めろ。
よし言うぞ。
せーの。
「我は偉大なる魔王にして、絶対無比の存在なりき……」
俺の意味不明な言葉が会場に響いた。
++++++++++
『我は偉大なる魔王にして、絶対無比の存在なりき……』
静かに語られたその言葉に人々は息を呑んだ。
脳天から足の先まで何かが走ったような感覚。
会場だけにとどまらず、その声を耳にした全ての者が立ち止まり、呼吸を忘れ、意識がそこへと収束した。
『万物の長たるは我以外にはなし。神に作られしデク人形どもよ。まだそれがわからぬのか』
───ゾクリ。
会場中が静まり返り、衣擦れの音さえ聞こえてこない。
『かつてお前たちが神と崇めし者は、我が永劫の闇に葬り去った』
何を言っているのだ、などという疑問を口にするものは誰一人としていなかった。
決して偽りではない。
本当に彼は神を屠り去ったのだと、理屈抜きに納得してしまっている自分がいるのである。
『愚かなる者よ。そなたらに我を崇めるほか生きる道は無いのだ。───我が名は破魔矢魔央!! 万物の王にして、天地をたばねる者!!』
ビリビリと響き渡る威厳に満ちた声。
どんなにあやしても泣き止むことのなかった赤子さえも、泣くのを忘れた。
『さあ、来るがよいッ!!』
太陽を抱きかかえるように広げられた両腕。
暴風が吹き荒れたと錯覚してしまうほどの迫力。
『我が名をそなたらの骸に、永遠に刻み込んでやろうッ!!』
全てを言い終え、踵を返す魔央。
静かに壇上をおりて行く彼の姿を、人々はただただ唖然と見ていた。
だがしばらくすると、ポツポツと拍手の音が聴こえ始め、それは万雷の喝采へと変わった。
皆が声を上げ、彼を讃える。
涙を流し、感動にむせび泣く者さえいた。
後に、この選手宣誓を聴いた者は口々にこう言ったという。
『意味はわからなかったが何か凄かった』と。
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