───『第1種目 障害物競走』
「マジ感動したッ!! 俺この雄英体育祭、破魔矢くん応援するわッ!!」
「あたしもあたしも!! なんかよくわかんないけどファンになっちゃったかも!!」
「破魔矢くーん♡ 頑張ってねー♡」
何故か鳴り止まない歓声を聴きながら、第1種目のスタートラインであるゲートに向かう。
そして俺は考える。
……なんだこれは、と。
「ちきしょぉぉおお!! 破魔矢めぇぇええ!! なんであんな意味不明な選手宣誓だったのに美女から応援されてんだよぉおお!! 確かになんかものすごい迫力だったけどよー」
「凄かったよ破魔矢くんっ! なんかこうー、ゾワゾワってしたよわたし!」
「破魔矢ちゃんって、不思議な魅力があるわよね」
「あーわかるわかる!! 上手く言えないけどすっごいわかる!!」
「なぁああッ!! クラスの女子にまでウケてんのかよクソぉぉおお!!」
「でもマジカッコよかったぜ破魔矢! ナイス選手宣誓じゃね!」
峰田が肩に乗っかってくる。
陽キャを遺憾無く発揮してくる上鳴。
相変わらず良いヤツら。
そして女子に褒めてもらえて素直に嬉しいです。
……でもなんでこんな感じになってるんだろうか。
改めて俺は会場を見渡す。
俺への声援で溢れている。
いやガチで意味がわからない。
俺の頭ん中には時々訳の分からんセリフが妙に具体的に浮かんでくるときがある。
USJで個性の本当の能力に気づく前からそういうのはあった。
頭真っ白になったから、ヤケになってそんなかの1つを言っただけなんだけど。
気づいたら妙に人気者になってた。
これも俺の謎個性のせいなのだろうか……。
「……やけに人気じゃん、アンタ」
そしてなぜか不機嫌な響香。
謎は深まるばかり。
いよいよ訳分からん。
「フハハハハハ!! 我を讃える声に満ちておるなあ!!」
「ふーん、よかったじゃん」
えー、それなりに長い付き合いだけど未だに分からないんですけど。
時々あるんだよね響香の謎の不機嫌。
と思ったら、急に真面目な顔になった。
「───がんばろね、お互い」
ほんとコロコロ変わるな表情。
でも───
「魔王たる我が力、存分に知らしめるとしよう」
響香の前だし、ちょっとくらいカッコつけたいとは思ってしまうわ、やっぱり。
『計11クラスでの総当たりレースよ! コースはこのスタジアムの外周、約4km! 我が校は自由さが売り文句! コースさえ守れば何をしたって構わないわ! さあさあ、位置につきまくりなさい!』
ミッドナイト先生の声が響く。
スタジアムのゲートの一つが音を立てて開かれていく。
11クラス、約220名の生徒がゾロゾロとスタートラインへと向かう。
「アンタは前行かないの?」
「フハハハハハ!! 我の心配をしている場合か? 響香よ」
「別に心配してない。ただちょっと気になったってだけ。んじゃウチは行くから。───負けんなよ、魔央」
そう言って響香は離れていった。
負けんなよ、ね。
ここは宣戦布告するとこじゃないの? とは思うけど、なんかやる気でた。
こりゃー負けられん。
生徒全員が位置についたところで、スタートシグナルの明かりが音を立てて一つ消えた。
うわ、いよいよだ。
───俺は翼を広げる。
また1つ消える。
なんか緊張してきた。
でもまあ───負ける気はしないけど。
『スタート!!』
俺はとりあえず思いっきり翼をはためかせた。
「フハハハハハ!! 我が行く手を阻むものなし!!」
++++++++++
『ついに始まったぜ雄英体育祭1年部門! 実況はボイスヒーロー、プレゼント・マイク! 解説は抹消ヒーロー、イレイザーヘッドの2人でお伝えしていくぜ! 解説のミイラ……っていつの間に完治してんだ!?』
『無理やり呼びやがって……。あぁ、うちのクラスに便利な個性持ってる奴がいてな。婆さんが後継にしようと猛勧誘中だそうだ』
ついに始まった第1種目の障害物競走。
我先にと飛び出し、ゲートは混乱を極める。
そして───全てが凍りつく。
『さぁ! スタートダッシュで先頭に立ったのはA組の轟だ! 更に氷結で後続を妨害!』
多くの生徒が轟の攻撃に拘束される。
だが全てではない。
A組はもちろん、B組を含めたヒーロー科生徒のほとんどは轟の攻撃を見事に回避していた。
当然、魔央もである。
『おぉーッ!! 同じA組の破魔矢ッ!! 空を飛んで轟を猛追しているーッ!!』
そもそも空を行く魔央にとっては何ら関係のない事であった。
避ける必要すらない。
「フハハハハハ!! 我の前を行くとはいい度胸しているなぁッ!!」
次々と抜き去っていく魔央。
「待てやクソローブッ!!!!」
「……チッ」
爆豪の怒声が響き、轟が舌打ちをする。
しかし、徐々に調子を上げていく爆豪の個性の特性上、すぐにトップスピードへと至った魔央に追いつける道理はない。
先頭を走っていた轟もそのまま抜かれてしまう。
『あっという間にトップだぜ破魔矢ッ!! すげぇなッ!!』
スタジアムに設置されている巨大ディスプレイに魔央の姿がアップで映し出される。
選手宣誓からすでに注目を集めていた魔央。
歓声の声はより大きなものとなる。
『っておいおい!! もう最初の障害物かッ!? 速ぇなあ!!』
魔央の視界には入試の実技試験で見た仮想ヴィランが映る。
その中には、あの超巨大な0ポイントの仮想ヴィランも数体いる。
プレゼントマイクの実況に合わせ、ちょうどスクリーンにも魔央の姿が再び映し出された。
彼は何を見せてくれるのか。
その期待に会場が沸き立つ。
『でもよイレイザー!! 破魔矢は飛べるんだぜッ!? 地上の仮想ヴィランなんて関係なくなくないか!? 不平等じゃないかよおい!?』
どこか演技じみたプレゼントマイクの声が響く。
しかしその疑問にはその声を聴いたほとんどの者が共感せざるを得ない。
どう考えても飛行能力のある者が有利すぎる。
『個性有りの時点で平等もクソもないだろ。飛行を筆頭に、跳躍や高速移動に長けた個性が有利なのは当たり前だ。それはプロになってからも変わらん。───だがまあ、当然ヴィランの中にも飛行能力に優れた個性持ちはいるわな』
魔央はその声を聴きながら、悪い笑顔をする相澤を思い浮かべた。
『YEAHHH!! そうだよな!! 受難ってのは誰にでも降り注ぐもんだぜッ!! 一部の仮想ヴィランには飛行機能が備わっている!! 気をつけろよ破魔矢ッ!!』
その言葉が合図とばかりに、地上にいた仮想ヴィランの数体が歓声をかき消す轟音と共に地を揺らし、ロケットのように空へと飛び上がる。
少し遅れ、比較的後方にいた巨大ロボットも2体ほどジェットパックのようなものが一段と大きな爆音と共に噴射される。
そして、その勢いの矛先は当然の如く魔央だ。
(うわー、来んのかーい。でもまあ───問題はないけど)
雄英体育祭までの2週間、魔央も遊んでいたわけではないのに。
主にやっていたのは加減の練習。
USJでの膨大な戦闘経験により一挙に起こったレベルアップ。
それにより使用出来る全ての呪文の威力が格段に跳ね上がり、制御するのが一段と困難になってしまっていたのだ。
それに加え、使用できる呪文も新たに増えたため個性を使いこなせているとはとても言えない。
だが、関係ない。
ロボットならば加減する必要がない。
魔央の表情に、魔王らしい笑みが浮かべられる。
そして考える。
何を使おう、と。
(───んー、決めた。MPの無駄遣いだけど……まあいいか。これの威力を制御すんの無理すぎるから、こういう機会は貴重だし)
魔央は目の前に迫る仮想ヴィラン達を、どうやって屠り去るのかを決めた。
両手に魔力を巡らせる。
普段ならその際、魔力の量を調整するのに意識を割くのだが今回その必要はない。
殺してしまう、なんてことを考えなくて良いのだから。
右手に『ライデイン』を。
左手に『ドルクマ』を。
「フハハハハハ!! 鉄屑風情など、我の前に立つ資格すらないわッ!!」
両手を合わせ、魔央は呪文を発動させる。
───『ダークデイン』
闇を纏った雷が全てを呑み込んだ。
会場はあまりの光景に、一瞬時が止まったように静寂が支配した。
そして───
『や、やりやがったぁぁあああッ!! 超特大の黒い雷で襲ってきた仮想ヴィランを一掃ッ!! 巨大ロボもお構いなしかよチキショー!!!!』
プレゼントマイクの実況と共に、会場は熱狂的な盛り上がりが爆発した。
どこか静かな心で魔央は改めて思う。
やはり負ける気がしない、と。
お読みいただきありがとうございました。
体育祭後に掲示板回やりますか?
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有り。反響気になる。
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なし。早く職場体験行こう。