「フハハハハハ!! 我は今帰ったぞ!!」
「わぁー! 魔王様帰ってきたー!!」
「マオにーちゃん、おかえりー!」
「まおうしゃま、おかえりなさしゃい」
「フハハハハハ!! 皆の者!! 出迎えご苦労!!」
「ご苦労!」
「ごくろうさまです!!」
「ごくろー!!」
俺がその扉を開けると無数の子供の声が飛び交った。とてもうるさい。
でもまあ、嫌いじゃない。
俺の半分もない子供たちをしゃがんでわしゃわしゃと撫でてやる。
するとまたキャハハと笑い出す。
うん、でも魔王はやめてくれよ……ってもう今更か。
ここが俺の家。
いわゆる孤児院ってやつ。
別にこれに関しては自分が不幸だとか思ったことは無い。
むしろ恵まれてんじゃねーの? とすら思ってる。
だってぶっちゃけ嫌いじゃねーもんなー、こいつらのこと。
「おかえりーマオ〜。相変わらずアンタは騒がしい奴だね〜」
奥の扉が開く音ともに、タバコを片手にした何となく元ヤン感のある女性が現れた。
初めて彼女を見た人は誤解するだろう。
だけど彼女は元プロヒーローであり、この孤児院の院長である神楽坂さんだ。
「おお、我が参謀の神楽坂ではないか!! 今帰ったぞ!!」
「誰が参謀だ、誰が」
俺の口がまたしても失礼な言葉を発するが、いつもの事なので適当に流される。
てかなんで神楽坂さんが参謀なんだよ。
訳分かんねーマジでこの個性。
俺は物心着いた頃からここにいるから、むしろ母上ーとかになるんじゃねーの?
まあどうでもいいか。
……てか今日は少しだけ疲れた。
なんていうか……精神的に。
「ご飯はできてるよ。食べちまいな」
「フハハハハハ!! ご苦労だな我が参謀神楽坂!! 下の者にやらせればいいものをお前も物好きだな」
「はいはい、ウチに下の者なんて雇う金はありませんよ〜」
……もう、本当意味わからんことばっか言ってすんません。
ほんとにすんません。
それから俺はご飯を食べ、風呂に入る。
疲れてるからそのまま自室へと向かった。
ふぅー。
ガチャりと自室のドアを閉めた。
───同時に、俺の纏っていたローブとマントが消えていく。
どういう理屈か知らんけど、自室で1人になった瞬間このローブとマント消えんのよねー。
相変わらずの謎個性。
俺は部屋着に着替え、ベッドに横になった。
そして目を瞑る。
すると自然と今日の出来事が蘇ってくる。
ヴィランを気絶させたあとはプロヒーローに連絡して、対応してもらった。
当たり前だけどすっごい怒られた。
ほんと申し訳ありませんでした。
反省してるんです。
でもこの個性のせいで……フハハハハハ!! 我に説教とはいい度胸をしている!! 貴様!! 名はなんと言う? みたいなことしか言えず申し訳ありません。
あの場に俺の個性を理解してくれている響香がいなかったら、あの3倍は説教をくらってたと思う。
いやマジで。
……響香、折れてないかなー。
それなりに怖い経験をしたんだ。
プロヒーローの道を諦めても不思議はない。
うーん……。
って、んな事俺が考えても仕方ないか。
なるようになるわなー。
まあ、響香がどんな選択をしても俺は尊重するわ。
……んでこっからちょい考察。
今日ヴィランと戦ったあと妙な感覚があった。
なんて言うのかなー、こう、なんか新しいもの手に入れた的な感覚。
実際俺は新しいもんを手に入れている。
だからあの感覚を俺は便宜上『レベルアップ』と呼ぶことにした。
具体的に何を手に入れたかというと“呪文“だ。
『メラ』と『デイン』
俺はこれがどういう呪文なのか誰に教わることもなく理解している。
『メラ』は魔力を小さな火の玉に変えて攻撃する呪文。
『デイン』は魔力を雷撃に変えて攻撃する呪文だ。
おぉーって感じ。
なんとなく出来るという感覚は以前からあった。
でも出来なかった。
火について学んでみたり、実際の火に魔力をぶつけみたり。
じゃあなんで急にできるようになったかと言うと……十中八九この『レベルアップ』がトリガーとなったんだろう。
ふーん、なるほどねー。
あんなに練習したのに微塵も出来るようにならなかった。
にも関わらず今日の出来事を経て、新しい呪文をすんなりと獲得した。
どうやら俺はあの『レベルアップ』の感覚と共に新しい呪文を手に入れられる……っぽい。
あくまで確証はないからっぽいとしか言えんけど。
じゃあ『レベルアップ』はどうやったら起こるのか、というと。
一番可能性があるのは───『戦闘』なんじゃないかと思う。
今日のヴィランとの戦闘によって俺はレベルアップした、と考えるとまぁ辻褄が合う。
んじゃ、雄英の試験まで戦いまくればいいんだ〜、ってか?
いやー無理無理。
そんなぽんぽんヴィランと出会ってたまるかっての。
訓練してくれる師匠的な人もいないし。
まあせっかく受けるんだから受かりたいしなー、俺にできることをしよう。
というか、魔力の制御を練習した方がいいっしょー。
威力調整できないと人に使えないし。
はぁ……めんど。
もう考えるの疲れた、寝よ。
考えるのをやめると、すぐに意識が遠のいていくのを感じた。
どうやら俺は自分が思ってる以上に疲れていたらしい。
雄英の入試まであと……どんくらいだっけ……まあいいや。
とりあえず悔いが残らないようにしよう。
お読みいただきありがとうございました。