2月26日。
雄英高校ヒーロー科一般入試当日。
あっという間だったなーとか思いつつ、俺は今雄英高校の門前にいた。
周りを見渡せば、特別な事情がない大抵の奴らは己の通う中学の制服を着ている。
そう、俺みたいな特別な事情がない限りは。
……うん、耳を済まさなくても色々聞こえてくる。
「おいなんかすげぇのいるぞ。なんだよあれ……なんかヤバそうなんだけど……」
「コスプレ……じゃないわよね……さすがに?」
「そういう個性ってことか?」
……うるせぇ、ほっとけ。
そう言えば、雄英に合格するための特訓の中でこの暑苦しいローブにも結構凄めの効果があることが分かったんだが、それはまあいい。
「相変わらずアンタ目立ってんねー」
俺の傍から聴き慣れた声が聴こえる。
「フハハハハハ!! 何人たりとも魔王である我から逃れることはできない!!」
……あんま目立ちたくないんだけどねー、って言いたかったんです。
何言ってんのマジで俺。
入試本番の門前で逃れることはできない!! って何?
ほんと死にたくなるんですけど。
うわー、余計にこっち見てるぅぅうう。
響香にはほんっっっと申し訳ない。
「いやーもう慣れてるからいいけど。ま、とりあえず入試がんばろうよ」
「無論だ!! ゆくぞ響香!!」
「はいはい。えっとウチら受験番号近かったよね? 多分筆記の会場は同じだと思うから……」
俺の扱いに慣れまくっている響香に黙ってついて行く。
てか何この子、ホントいい子すぎるんだがッ!?
幼い頃からの付き合いとはいえ、こんな恥ずかしい奴が隣に居て周りからすっごい微妙な視線向けられてるのに、この子はいたって普通に接してくれる。
もう泣きそうなんですけど。
俺は心の中で響香に最上級の感謝を捧げる。
口に出したら多分また恥ずかしい思いをさせてしまうだろう。
だから俺は黙って響香について行く。
あー、緊張してきたー。
でもまあ響香も俺も大丈夫っしょ。
あんだけやってきたんだし。
もうここまで来てうだうだ考えてもしゃーねーよなー……とか考えていると、俺は一人の男子生徒に目が留まった。
緑のモジャモジャ頭の奴だ。
それ以外の特徴は大してない。
その緑髪から目を離すことができない。
なぜだかは分からない。
俺は、よく分からないことは何でもかんでも個性のせいにしがちだが、これは断言できる。
間違いなくこのクソみたいな個性のせいだ。
「は、えぇ、なにっ!?」
気づけば俺は、響香を無理やり連れて緊張のせいか異様にオロオロしているソイツのもとに向かっていた。
近づくとその気配に覚えがあることが分かった。
そうこれは、テレビでオールマイトを見た時に抱いた感覚と同じ───
「フハハハハハ!! この男には気をつけろ響香!! 勇者の素質を持つ者だ!!」
「は?」
「ひィっ!! え、僕!?」
何言ってんのコイツ、って反応の響香。
いきなり変な奴(俺)に絡まれてビビりまくる緑髪。
……いやあの……ほんとすみません。
なんか体が勝手に……。
「行くぞ響香!! この者とはいずれまた出会うことだろう!! フハハハハハ!!」
口が勝手にィィイイイイ。
もうこれ以上状況を混乱させるわけにはいかないので、俺はこの場を早々に立ち去ることを決める。
いや意味わからなすぎて開いた口が塞がってないじゃん緑髪君。
そりゃそうだよいきなり意味わからんこと言ってほんとごめんよ。
響香も巻き込んでほんとごめん。
え、てか自分で言っといてなんだけど勇者って何よ?
オールマイトとあの緑髪に一体なんの共通点があんの? 全く似てないじゃん。
もう嫌この個性ほんとに!!
……切り替えなきゃな。
とりま筆記頑張ろー。
++++++++++
はい、筆記完璧ー。
自慢じゃないけど、俺の唯一の長所は勉強はできるってとこなんだよなー。
ここ覚えておこーって思ったら基本覚えてるし、数学で詰まったことなんてほぼないし。
……なんとなーくこれも個性のおかげな気がしてるんだけど。
魔王が頭悪かったら滑稽だし。
まあいいや。
響香の方は大丈夫だったかなー。
『今日は俺のライブにようこそー! エヴィバディセイヘイ!』
そんなことを考えてると、なんか知らんけどライブが始まったっぽい。
全く盛り上がってないけど。
というか葬式みたいなムードだわ。
あ、てかあれボイスヒーローのプレゼントマイクじゃん。
うわーすげー、有名人だー。
結局全く盛り上がることなく、プレゼントマイクだけがハイテンションのまま試験説明を続けていった。
『俺からは以上だ! 最後にリスナーへ我が校の校訓をプレゼントしよう。かの英雄ナポレオン・ボナパルトは言った! “真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者”と! “Plus Ultra”! それでは皆、良い受難を!』
うおー、やっぱかっけぇわ本物のヒーロー、とか思いながら試験会場に向かう。
うん、今日も今日とて俺は目立つ。
そして避けられてるように感じるのは気のせいではないだろう。
試験に集中できるからいいけどな。
周りに人がいてもうるさいだけだし。
………。
はぁ……。
試験会場、作られた広いビル群が目に映る。
試験内容は頭に入ってる。
大丈夫、落ち着いていけば───
『ハイ、スタートー!』
……え?
唐突な試験開始の宣言。
俺はもちろん他の受験生も困惑の色を隠せない。
だが、またもや俺の口は勝手に動き出す。
なぜなら俺が───『魔王』だから。
「フハハハハハ!! 魔王であるこの我を試すか!? 面白い!! 面白いぞ!! ならばその余興、乗ってやるとしよう!! フハハハハハ!!」
静寂の中、俺の恥ずかしいセリフが響き渡る。
……死にたいんですけど。
一刻も早くこの場から立ち去りたい。
恥ずかしすぎて死ぬ。
俺はその一心ですぐさま翼を生やした。
そして勢いよく羽ばたき上空へ。
恥ずかしいセリフのおかげというべきか、せいというべきか、奇しくも俺は最高のスタートをきることができた。
お読みいただきありがとうございました。