『私が投影された!!』
「おぉー!!」
「オールマイトだぁ! 見て見てにいちゃん! オールマイトだよ!!」
「おーるまーとー」
「静かにしなー。 ───いよいよだよ」
今日雄英から封筒が届いた。
多分例のアレだろということで、皆で見ることとなった。
……いやおかしい。
こういうのはまず一人で見るものだろ。
まぁいいや。
どのみち神楽坂さんには逆らえんし俺。
んで開けたらこれよ。
封筒の中には手のひらサイズの薄い端末が入ってたから、とりあえず電源入れたらオールマイトが映し出された。
ガキ共がそれはもう大騒ぎ。
『初めまして破魔矢魔央くん! 私はオールマイトだ! 何故、私が投影されたのかって? ハハハ! それは私がこの春から雄英に教師として勤めるからさ! さあ早速、君の合否を発表しよう!』
え、マジか。
オールマイト教師になったんだ。
ドラムロールが鳴り響く。
ガキ共も目をキラキラさせている。
え、急に不安になってきた。
これで落ちてたらマジ恥ずいんですけど大丈夫だよね。
急激な不安に俺が襲われていても時は止まってくれない。
ダンッ、という最後のドラムがなった。
『おめでとう!! 筆記試験は満点!! 実技は127ポイント!! 文句なしのトップ合格だ!!』
……ふぅ、よかった。
「フハハハハハ!! 当然の結果よ!! 我にとってこの程度造作もないわ!!」
「わぁ!! やったー!!」
「すごい!! さすがまおにいちゃん!!」
「まおーしゃま、だっこ」
大きな歓声が上がった。
皆が自分のことのように喜び、騒ぐ。
いやー、受かってよかった。
コイツらをガッカリさせたくないしな。
フハハハハハ!! と俺は笑っているだろうが、内心ではめちゃくちゃ安堵した。
とりあえず、抱っこを求めてきた一番下の妹を抱いてやる。
「よくやったよお前は。頑張ったな」
神楽坂さんが俺の頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でる。
それが妙に嬉しかった。
しばらく余韻に浸ってると、コホンという音が端末から聴こえた。
……あ、まだいたんだオールマイト。
『先の実技入試! 受験生に与えられるポイントは、説明にあった仮想敵ポイントだけではない! 実は審査制の救助活動ポイントも存在していた! 破魔矢魔央くん! 敵ポイント107点、救助レスキューポイント20点、合計127点! 文句なしの合格だよ。破魔矢少年、改めておめでとう! 雄英で待っているぞ!』
今度こそ本当にメッセージは途切れた。
だがガキ共のどんちゃん騒ぎは終わらない。
神楽坂さんも今日はご馳走にしなきゃだなと一緒になって笑っていた。
そのすぐあと響香から電話がかかってきた。
無事合格したらしい。
よかった。
アイツいなかったらマジでボッチだったかもしれん。
ウチが受かってんだからアンタは余裕しょ? だってよ。
聴き方サバサバしすぎでしょ、落ちてたらどうすんのよまったく。
信頼されてるー、って良い方向で受け取っておこうかね。
まあ何はともあれ。
ヒーローへの第一歩ってことで。
++++++++++
一般入試後。
ここ雄英高校ヒーロー科の会議室では、雄英の校長や教師陣が出席する重要な会議が行われていた。
前方の大画面に受験生の名前と成績が上位からズラリと並ぶ。
それを見た教師陣から感嘆の声が複数上がった。
目立つのは爆豪勝己、緑谷出久、そして───破魔矢魔央である。
「救助ポイント0で2位とはなあ!」
「後半、他が鈍っていく中、派手な個性で敵を寄せ付けず迎撃し続けた。タフネスの賜物だ」
「対照的に敵ポイント0点で8位」
「アレに立ち向かったのは過去にも居たけど、ブッ飛ばしちゃったのは久しく見てないね」
「思わず、YEAH! って言っちゃったからなー」
会議は盛り上がりをみせながら講評を行う教師陣。
そして話題は次の注目者に移った。
「そして───1位の破魔矢魔央。それも2位と大差をつけてのトップ合格」
「あの驚異的な飛行能力。そして極めて強力な遠距離攻撃。しかも炎に雷など多種多様。まさしく強個性。惜しむらくは救助を行ったのが1度のみという点か」
魔央の試験の様子がいくつかの画面に映し出される。
「しかしこちらをご覧ください。彼が緑谷出久を救助したすぐあとです。───ココです。彼は攻撃能力だけでなく極めて稀な回復能力も有しております」
「YEAH! 万能すぎるぜこの個性! 間違いなく激レア中の激レア個性だぜ!」
「そう、この点を評価したからこそ1度しか行っていない救助活動をこれだけ評価したのだ。能力頼りの面が強く、ヒーローとしての精神はまだまだ未熟。これからこの雄英でじっくりと学んでもらわねばな、クケケ」
意見が活発に飛びかう。
彼は良くも悪くも目立っていた。
それは同じ受験生からだけでもなく、教師陣からもであったのだ。
端的に言えば魔央が類稀なる『素質』もつ生徒だったからこそ、活発に意見が飛び交う。
「ちょっといいかな!」
根津校長の一声で会議止まる。
「彼の入学が正式に決まった以上、改めて彼について理解をここにいる皆で確認しときたいのさ! 彼の個性はそれだけ特殊だからね」
根津校長の声と共にここにいる各自の手元に資料が配布される。
「まずはこの志望動機を見てくれるかな? まあ色々水増しされて書かれているけど、彼の本質はこの最後の一文に全て現れているのさ!」
全ての者がその最後の一文に目を向ける。
そこに書かれていたのは、
『強いヒーローとなり人々を救う、これ以外の道は私にはない』
強い意志を感じる一文だが、大して珍しいものでは無い。
だが───
「これが比喩ではないのさ! 彼には本当にヒーローとして生きる以外の道はないのさ! もうちょっと詳しく説明するよ。次はこっちを見てくれるかな、12ページ、彼の個性についてだね」
聴こえるのはページをめくる音だけ。
相澤も乾きがちの目でその項目を注視する。
++++++++++
破魔矢 魔央
個性『魔王』
魔王っぽいことができる。
【備考】
発動型、変形型、異形型、3つの特徴をもつ複合型個性。
頭部に1対の角あり。
魔力と呼ばれる本人しか知覚できないエネルギーを用い、『呪文』をトリガーとしてあらゆる超常的事象を引き起こす。
現在使用可能な呪文『アタカンタ』『バイキルト』『メラ』『ドルマ』『デイン』『ホイミ』『ルカニ』。
呪文詳細は別紙参照。
デメリットとして特定の言動や行動を強制的に行わなければならない。
当人曰く、発言は魔王が言いそうなことに変換され、魔王がしないはずの行動はできないとのこと。
当人の魔王というイメージが影響してると推測。
++++++++++
この後も長々と魔央の個性に関する説明が続いている。
だが、今回根津校長が言いたいのは最後に書かれているこの部分であろうと相澤は確信する。
そこには彼が中学2年生時にヴィランと遭遇した際の、事情聴取が抜粋され載っている。
着目すべきは───
『ヴィランと遭遇時逃げることが出来ない』
「そう、もうみんな分かったよね。彼はその強力な個性のデメリットとして、ヴィランと遭遇しても逃げることはできないのさ。───それがどんなに凶悪なヴィランだとしてもね」
「HA! コイツは確かにプロヒーローになるしかねぇぜ!! それもとびきり強いヒーローにな!!」
また面倒な個性を持ったものだ、と相澤は思う。
根津校長の言葉通り、破魔矢魔央にはヒーローになる以外の道がない。
個性が発現したその瞬間、それ以外の選択肢を失ったのだ。
「おそらく、この“魔王というイメージが強制される”というデメリットの影響だろうね。───彼には嫌でもウチで学んで、最高のヒーローになってもらう必要があるのさ!」
根津校長の視線が相澤に向く。
彼の担任は相澤と既に決定しているからだ。
些細とは呼べない不安を残しつつ会議は続く。
お読みいただきありがとうございました。