「ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいって!!!」
「く、謀反か!! 我が眷属響香よ!! な、何が、何が気に食わなかったと言うのだー!!」
俺は今、響香に絞め殺されようとしていた。
原因は───空を飛んでいるから。
今日は雄英高校登校初日。
『友達と行った方がいいっしょ、心強いし』と言って響香が俺を誘ってくれた。
神すぎる。
相変わらずなんていい子なのマジで。
そこまでは良かったんだけど、響香が一緒に空を飛ぶという約束が果たされていないことに気づいてしまった。
それが間違いだった。
雄英高校の正門につくまで延々と首を締め続けられる羽目になってしまったのだから。
「死ぬかと思った……」
こっちのセリフじゃい。
響香の瞳に光がない。
あれ、一応息できるようにとか考えてゆっくり飛んだんだけどなー。
よっぽど怖かったんかね。
「でも、楽しかったからまた背中乗せてよ」
「……我をして理解不能なことを言うとはな」
あんな死んだ目してたのに、次の瞬間にはケロッとしてそんなことを言ってきた響香。
ジェットコースターとか好きなタイプ……ということだろうか。
まあいいわ。
また暇なとき響香を乗せて飛べばいい。
それから俺たちは、広すぎる校舎に迷いながらも進み、なんとか1-Aと書かれた教室に辿り着いた。
すんごーいでかいデカい扉。
「ちょーデカイね、この扉」
同じこと思ってたわ。
やっぱ思うよねーこれは。
「我も同じことを考えていたぞ、響香よ」
さて、こんなとこつっ立ってても仕方ないし入り───
「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないか!?」
「思わねーよ、てめー! どこ中だよ端役が!」
扉越しに怒鳴り声が聞こえてきた。
うわー、入りづら。
まあしゃーないか。
俺はその巨大な扉に手をかけ、ゆっくりと開けた。
そして、いろんな視線が俺に突き刺さる。
慣れてるけどな!! そういうの!!
とりあえず早く席に着こー、って思ってたんだが───
「む、君は!」
なんか凄い勢いで俺のところに向かってくる奴がいた。
眼鏡をかけたいかにもクソ真面目そうな奴。
動きがすっごいカクカクしてる。
「やはり! 試験会場が同じだった魔王を名乗っていた男!」
……あの、公開処刑やめてもらっていいですか?
「……誰だ貴様は?」
やべ、ちょっと不機嫌になったらすぐ言葉が強くなるわ。
気をつけないと。
てか貴様って……。
「き、貴様!? ぼ……俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ。よろしく頼む。ああ、そうだ。席は出席番号順になっているぞ」
「そうか、ご苦労」
お、サンキューって言いたかったんです。
ほんとすんません。
それから俺は今度こそ席に着こうと思って歩き出した。
だけど───
「ま、待ってくれ。君の名前はなんて言うんだ?」
呼び止められた。
あ、そういえば言ってなかったわ。
ここは気さくに自己紹介をして、アレこいつ意外と話しやすそうじゃね? って周りの奴にも思わせることが肝心。
そう、気さくに───
「フ、フハハハハハ!! 我が名を知りたいか!! いいだろう!! 我が名は破魔矢魔央!! 偉大なる魔王である!!」
…………。
気さ………く…………。
…………。
はい、空気終わりましたー。
眼鏡君意味わからなすぎて固まっとるがなー。
「ちなみにウチは耳郎響香。よろしくねー」
「あ、あぁ……よろしく頼む」
響香ー!! ありがとう!!
もう俺君なしでまともに生きていける気がしません。
口説き文句とかじゃなくて割とガチで!!
はぁ……これ以上余計なことを喋って順調に事故るのは精神が持たない。
早いとこ席に着こう。
大人しく座ってよう。
そう思ったんだけ……
「あ、君は!!」
……また俺を呼ぶ声が聞こえた。
これ以上俺のメンタルを削るのは止めて欲しいんだけど、無視することも出来ないんで俺は渋々振り向く。
そこに居たのは見覚えのあるモジャモジャとした緑髪の少年。
コイツは───
「勇者ではないか! やはり貴様もここへ来たのだな!」
見覚えのある超パワー少年がいた。
「う、うん! あの時はほんとありがとう! おかげで腕もなんともないよ!」
「ふむ、そうか。なに、我が宿敵があまりにも不甲斐なかったので手を貸したまでよ」
「え、あ、うん。僕、緑谷出久。よろしくね」
「我が名は破魔矢魔央、偉大なる魔王だ。いずれは戦う運命だが、その時までせいぜい楽しむとしようではないか」
「え、えぇ、なんで戦うの……?」
いやあの気にしないでください。
てか偉大なる魔王って言わなきゃ自己紹介も出来ないこの呪い誰か解いてくれませんか?
シンプルに辛いんですけど。
でもそっかー、コイツも受かったんかー、良かった良かった。
なんか嫌いになれないしな俺、こいつのこと。
そのあと俺は緑谷と少し話してからようやく席に着いた。
緑谷は後から来た丸顔の女子に絡まれてた。
……はぁ、疲れた。
自己紹介だけでこんなに疲れるなんて。
俺はふと周りを見渡す。
当然だけど皆雄英の制服を着ている。
俺も制服着たいわー、何このローブ。
マジでなんなん? 呪いすぎるんだけど。
せっかく雄英受かったのによー。
「お友達ごっこがしたいなら余所へ行け。ここは……ヒーロー科だぞ」
声が聴こえたので目を向けると、そこにはモゾモゾと動く芋虫のような男がいた。
え、立った。
入ってきたんだけど怖ー。
「はい、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね……担任の相澤消太だ。よろしくね」
まさかの担任でワロタ。
さすが雄英、常識破りって感じ。
「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」
え、なぜに?
それだけ言うと、戸惑う俺らなんて知らんってかんじで相澤先生は出ていってしまった。
もうなんなんほんと。
まあいいか、とりあえずグラウンドに行こう。
───こうして、魔王のいるクラスは胎動を始めた。
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