同居人のエルフが俺の体液を欲してる 作:パスタん
うちのクラスには噂の女の子がいる。
名前は"
そんな美少女の伊鈴灯理であるから、当然モテる。入学当初は毎日のように告白されたし、街に出ればスカウトとナンパが猛アタックを仕掛けてくる。しかし彼女はそのすべてをバッサリと断っていた。イケメンもやべー奴も全て等しくだ。一度有志が家を特定しようと躍起になっていたが、ついぞ叶わなかったらしい。
誰の手にも渡らず、プライベートの一切が謎の美少女。
そんな孤高過ぎる彼女は一年の中旬、大体十ヶ月ほど前には、住む次元の違う存在として、"妖精ちゃん"や"エルフ"と呼ばれるようになった。この近辺で妖精やエルフと言えば話が通じるぐらいに伝説の女である。
さて、最終的に全ての存在にとっての高嶺の花となった伊鈴灯理について長々と話してきた訳だが。
実は周りの人間の知らない伊鈴灯理の秘密を知っている。
例えば、それは伊鈴灯理の自宅であったり。
例えば、それは伊鈴灯理のプライベートであったり。
例えば、それは伊鈴灯理の本来の性格であったり。
こんなにも知り得ているのは俺が彼女のストーカーだからでも、彼女の彼氏だからでもない。
答えは単純。
「おかえり」
「ただいま」
俺"
「言われたもの買ってきたぞ」
「ありがと。部屋には自分で運ぶから先にシャワー浴びてきたら?」
「もうすぐ飯だし、その後風呂入るから別に」
「だめよ、汗臭い」
「…わかった」
男物のTシャツにホットパンツという、学校の男が是非とも見たいだろうラフな格好でリビングのソファに寝そべったままの灯理に買い物袋を手渡して部屋を出る。流石に汗臭いと言われると心に突き刺さるものがあった。
さて、何故伊鈴灯理と同居しているのかと言うと、単純に親が再婚したからだ。
謎の職業で世界中を飛びまわり過ぎて、前の嫁に愛想つかされた我がクソ親父と、同じくモデルとして活躍する灯理の母親が再婚した結果、俺と伊鈴灯理は同居する羽目になったのである。
ちなみに苗字が異なるのは灯理の母親の「夫婦別姓とか新しくていいじゃない?世界だと普通だし、世界を飛びまわる謙一さんにぴったりよ」という発言によるものだ。ちなみに謙一とは俺の親父の名だ。
「さっさと上がってきて、今日はパエリアだって永久子さん言ってたから」
「さっき外で会ったよ。あの材料パエリアかよ。永久子さん「ヒ・ミ・ツです」って言ってたからな」
両親が二人とも忙しい身の上であるが、当然高校生の男女を二人で放置する訳もなく、住み込みの家政婦を雇っている。その家政婦さんが"
俺と灯理が同居しだした4年半前から見た目が変わらないので、年齢を推測できない。一応誕生日は4月18日らしいので歳はとる模様。
「でもまだ5時半だ。飯には早いだろ。ならゆっくりでも」
「ご飯はまだ余裕があるけど、上がったら私の部屋に来て。いろいろしたいから」
部屋にお呼ばれしました。普通なら舞い上がりそうなものだが。俺の心は凪いでいた。せいぜい、あ、いつもの入りまーす。ぐらいである。
「わかりましたよ」
「普通目の前で脱ぐかしら?実の姉弟でもやらないわよ」
「なら脱衣所出てけよ。実の兄妹でもやらないぞ」
「ちょっと筋肉に触りたいのよ。言わせないでよ」
「皆の高嶺の花。学校の妖精ちゃんが筋肉フェチとか、言っても信じてもらえなそうだ」
既に腹筋に触れている灯理にそっとジト目を送るものの、一切意に介さない。正面から腹直筋を堪能したら手を動かして腹横筋を撫で、やがて背筋へと手を伸ばす、腹に息があたってむず痒い。現在の灯理の顔はお見せできないほどの緩みを湛え、何なら涎でも垂れてそうだ。
伊鈴灯理の秘密1。毎日人の筋肉を一通り触るのが趣味の筋肉フェチ。
ついに灯理の手が肩甲骨周りに触れた。
「勘違いしないで、貴方の筋肉だから良いのよ」
「ドヤ顔で言われてもな」
「……それより、いつもの…」
「汗臭いんじゃなかったのか?」
「汗臭いけど嫌いな匂いじゃないのよ」「えぇ…」
匂いフェチも追加ですか。このエルフ様は。いつものをねだられたので灯理の背に手を回す。最初は壊れ物を扱うようにそっと。そしてだんだんと力を込めていく。
「…もうちょっと強く。苦しいくらいに」
「へいへい」
ギュッと彼女を抱きしめる。お互いの鼓動を感じる程に密着して数十秒。不意に背中がタップされる。終了の合図だ。そっと身を離すと、灯理はヤバイクスリをやった時のようにトロッとした熱に浮かされた顔で佇んでいた。
伊鈴灯理の秘密2。ハグ中毒者。
はじめは筋肉を触る延長線上だったのだが、次第にハグの時間が長く、力も強くなり、気がつけば今のようなハグになったのである。
「さ、シャワー浴びてきて」
「ON-OFF急すぎて怖い」
灯理を見送って風呂場に入る。俺は勢いよく蛇口を捻って冷たいシャワーを浴びた。頭と体を冷やさなければ。次第に落ち着きを取り戻した頭で俺は決意する。
鍛えなければならない。
あんな神が作ったような美少女と毎日朝晩ハグしているのである。当然男としてムラムラする。
そんな今にも暴走しそうな性欲、いや、もう肉欲とか獣欲と言った方が的確なこの煮えたぎる本能を鎮めるには鍛えるしかないのだ。
あの筋肉フェチのために鍛えているのではない。己の中の獣を御するために鍛えているのだ。
お互いに恋愛感情も無いのに、俺が性欲に忠実に動いてアイツの信頼を踏みにじる訳には行かないのだ。
頼むから下着は自分で洗濯ネットに入れてほしい。
ホントに永久子さんいてよかった。二人暮しだったら確実にもう手を出してる。
とりあえず、後で飯食ったら風呂の前に鍛えよう。走ってこよう、何キロか。
頼むから朝のハグの時に布団に入ってこないでほしい。
もう上がろう。これ以上は風邪を引いてしまうのでお湯に切り替え、手早く体を洗うとスウェットに着替えて灯理の部屋に向かった。
「来たわね。昨日の続きするわよ」
風呂から上がって灯理の部屋に入ると、まず目に飛び込んできたのは魔法陣。
直径30センチほどの幾何学模様が床と平行に虚空に浮かんでいるのだ。
「今日こそなんか出ると良いわね。壮太郎。血を出して」
「はいはい」
折りたたみナイフで指先を切って魔法陣の真ん中に血を垂らす。もう慣れたものだ。痛みもほとんど気にならない。
綺麗な緑色だった魔法陣は血に触れた途端に赤く染まり、ややあって眩しく光る。
そして、いっそう眩く光った瞬間。
「…キャ!」
「うぉ!」
クラッカーのような音をたてて爆発した。
尻もちをついた灯理の髪が乱れて尖った耳が顕わになる。
伊鈴灯理の秘密3。実は本物のエルフ。
「今日こそ上手くいくと思ったのだけど」
ナイフで傷つけた指を治しながら灯理がため息をついた。やっぱり魔法すげーわ。切傷一瞬だもの。
「おばあちゃんの家で見つけたエルフの秘伝書って奴、本物なのか?」
「多分ね。私に魔法を教えたのはおばあちゃんだけど、習った魔法陣の基礎的に中身は間違ってないし」
治療と爆風で散らかった部屋の片付けが終わると反省会に入る。
俺は机で、灯理はベッドに寝そべりながら秘伝書を読み込んでいる。
「あるいは俺の血が問題かもな」
「それは無いわね。貴方の血は芳醇な魔力を含んでるし、供物としては最高の素材の筈だもの。その上で魔法陣も間違ってないならどうすれば」
「別のモン捧げてみるか?」
なんとなくそう言うと、灯理は我天啓を得たり、といった表情で起き上がった。
「供物を変える。その考えありね。別の体液を採取させて」
「お前は何を言ってるんだ」
「血以外だと唾液に涙に汗、それから精液かしら?ゲームとかだと血液か精液だし、今度は精液にしましょう。という訳で貰える?」
「やれるかバカ。そういうのは彼氏に頼みなさい」
彼氏の話を振ると途端に不機嫌な表情に変わる。
「いないわよ。それに、たとえ彼氏がいたとしても貴方以外の精液に興味が無いわ」
「精液に興味持たれてたの俺?!つーか俺の精液採ろうとしてるけどな。精液なんかやれる訳ないだろ!」
「あら、彼女でもいたの?」
クールな声のままだが、明らかに顔が取り乱す。オイ、目泳がすな。俺そんなに彼女いなさそうか?泣くぞ?
「いや居ないけど」
「そう、なら安心ね。精液を私に頂戴。なるべく新鮮な方が良いわね。私も手伝うから儀式の直前に私の前でだ…」
「いやそういう問題じゃないだろうが!」
この魔法研究バカエルフが!頑なに同居人の精液採取しようとすんな!そんな事されたらいよいよ我慢できなくなるわバカたれ!
「とにかく、精液なんかやらねえからな!」
「堅いわね。そんなんだから彼女できないのよ」
「うるせぇ!精液やる事が彼女できる条件なら永遠に彼女いらねぇよ!つーか、そんなに言うならお前が彼女になってくれよ!なら問題無いだろ!無理だろうけどな」
「いいわよ」
ほらな、できないだろ。ならこの話はここで………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………今なんつった?
「なんて?」
「だから、彼女になるわよ?好きな男を挙げろと言われれば貴方の事が最初に挙がるくらいは好きだもの」
「断る!精液目当てに彼氏にすんな。クソビッチかお前は」
頭が痛くなってきた。研究バカも大概にしろ。もっと自分を大事にしなさい。
「失敬ね!貴方の精液は欲しいけれど、恋愛関係とこれは別なのよ」
灯理の顔が憤怒に染まる。本当に別らしい。精液が理由じゃないとするとむしろ何で付き合うのかがわからない。
「ほら、私達高校二年でしょう?遊ぼうとして遊べるのなんて今年ぐらいじゃない?」
「まあ、そうだな」
「私としてはそんな思い出の瞬間には、貴方が隣に居てほしいのよ」
まっすぐ見つめる灯理。あれ?なんだこれ照れくさいぞ?え?マジ告白?いやまてあの灯理だぞ。一旦落ち着け関係ないことを考えるんだ。そういやもうすぐ前期中間か、終わればすぐに夏休みになるし、ひと夏の思い出が欲しい男子共の告白ラッシュが始まるのもそろそろか。灯理はいつも煩わしそうにしていたな………あ、これか?理由。
俺虫よけか?
なるほどなるほど。たしかに灯理が遊びに行ってもナンパばかりだから楽しめないもんな。そんな時に俺が隣にいれば心置きなく楽しめると。確かに俺は筋肉ある方だし、見た目も威圧的だしな。なるほど、こやつめハハハ。納得。
「理解した。とりあえず今から夏休みの間は付き合うか?」
「季節限定なの?」
「とりあえず試用期間って奴だ(お互い、ホントに好きな相手ができるかもだしな)」
「そう、是非お願いするわ」
交渉はまとまった。今から夏休みの終わりまでの間、俺と灯は"恋人どうし"だ。問題は、勢い余って俺が襲わないかどうかだ。
かくして、俺、織辺壮太郎は同居人の伊鈴灯理と付き合うことになったのだった。
次話と合わせて一話になります。宜しければお読みください。
読了ありがとうございます。