【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインの豹変から約半年が経過した。
最近の【ロキ・ファミリア】の内部の雰囲気は最悪でありギスギスしており殺伐とした空気が漂っている。
【ロキ・ファミリア】の本拠地『黄昏の館』の食堂での朝食時、半年前は和気藹々であった空間は今では見渡せば、イライラ顔、疲れ顔があちらこちらに見える。
先日のアイズ・ヴァレンシュタインの『Lv3』へのランクアップの報で更に酷くなり、アイズに憧憬の念を抱いていたレフィーヤは生気のない、魂が抜けたような顔で座っていた。
無理もない、彼女の現在のランクはLv3…冒険者歴3年。たった半年で追いつかれたのだ。彼女はまだいい、抜かれた者は堪ったもんじゃない。
焦りからかLv1・2の団員から無茶をする者が増えて、死者は出ていないものの重傷を負い冒険者を引退せざるをえない者が少なからず出ていた。
原因の一端でもあるアイズ・ヴァレンシュタインの姿は食堂にはない。
彼女の朝は早く、3:00頃には起床して4:00頃にはダンジョンに向かってしまう。
昼頃に一度地上に戻ってきて昼食と教会で天界にいる神様にお祈りを捧げてから再びダンジョンに向かう。
一度主神ロキが『アイズたんの神はウチなんやからウチに祈ったらええや~ん』と言ったら鼻で笑われたそうだ。
『下界に降りてきた零能の神様って…有難味薄れますよねwww。それに裏切り者の代名詞にもなってるロキにですか?閉ざす者、終わらせる者、邪悪な気質で気が変わりやすい、狡滑さでは誰にも引けを取らず、よく嘘をつく…そんな神様に何を祈れと?今から誰か陥れるんでうまくいきますようにって祈れと?裏切りの予定皆無なんで結構です。己の過去と向き合ってから出直してください。はい、ごめんなさい』と。
18:00にはダンジョン探索を切り上げ、本拠地に戻り、私服に着替えて夜の街へ繰り出す。
下戸であったはずのアイズがお酒を愉しむようになった。
一度主神ロキが『アイズたん!アイズたん!お酒飲むならウチと一緒に飲も!』と誘ったらハッキリ断られた。
『私は一人で静かに飲みたい派なんで。酒に飲まれる人って嫌いなんですよね。ロキの飲み方は汚いんで一緒にはちょっと…あと酔った勢いでセクハラされそうで正直、嫌です、ごめんなさい。さっきからチラチラ見てくるカタパルト(ベート・ローガ)さんも、ごめんなさい』と。
*なぜベートがアイズに【射出機(カタパルト)】と呼ばれているかは本編(主人公視点)スタート時にわかる。
23:00に帰宅し、0:00までに就寝。3:00に起床が月曜~金曜日までの彼女の日常である。あと土日はスキル習得のために費やしているらしい。アイズは土日外泊するので・・・この半年、【ロキ・ファミリア】団員との交流はほとんどと言っていいほどない。
アイズ・ヴァレンシュタイン 元Lv5【剣姫】、半年経過 現Lv3【狂姫】
白銀の鎧を身に纏い、Lv3になり長剣と盾から『特大剣と大剣の二刀流』に切り替え、『風と炎と雷と光の4種』の魔法を操り、『漆黒の翼』で飛翔し戦場を舞う少女。
その姿…その強さ…その美しさ…は、Lv5だった【剣姫】になんら遜色ない姿だった。
彼女はLv1の一時期、『一定以上の装備過重時における能力補正スキル』の習得の為に『サポーター』をやっていた時を除き、基本はソロ。Lv3になり次の遠征を視野に、アイズを同行させるか決めるため久しぶりにフィン、リヴェリア、ティオネ、ティオナ、ベート、レフィーヤ、アイズでダンジョンへ行ったのだが。
6人はアイズの新たな姿を見せられ…いや、見せつけられたように思えた。
『貴方達がちんたらしてる間に私ここまで強くなれましたけどwww。この調子なら1~2年もしないうちに余裕で追いつき…いえ、追い越しそうですねwww』
と6人がドヤ顔のアイズを想像してしまうほどに。
【狂姫】の理由はLv.1の頃、【イシュタル・ファミリア】のフリュネが率いる女戦士(アマゾネス)の集団にダンジョン内で襲撃され半殺しにされた。報告を受けて【ロキ・ファミリア】の団員が現場に駆け付ける。アマゾネス達は【ロキ・ファミリア】の接近に気付いて慌てて逃げ出した後だった。残されていたのは武器は破壊され鎧は剥ぎ取られ、全身痣だらけ、骨を折られ、全裸にされ手足を鎖で縛られ放置されており、呼吸が止まっていた無残な姿のアイズだった。
性的な暴行は受けていないようだったが・・・もし駆けつけるのが遅ければされていたかもしれない。ロキの危惧していた事が現実になった。もしかしたら今回の一件でアイズの心は折れてしまったかと。
しかし、やられた本人は何もなかったかのように目覚めてすぐロキの所へステータス更新する為と治療費を持ってきた。
そして目覚めた日の夜に【イシュタル・ファミリア】の本拠地へアイズは単身で乗り込んだ。
フリュネに一対一の決闘を申し込むが、申し出を受ける気がなく大勢で囲んでリンチにしようとするフリュネに条件を叩き付けた。
『負けたら・・・絶対服従、お前の奴隷になる。死ねと命令すれば介錯無しで腹を切って死んでやる。気に入らないヤツがいるなら殺してきてやる。男に抱かれてこいと言うならその辺の男共に抱かれてやるよ・・・ただし、私が勝ったら、お前を絶対に殺す。お前はLv.1に負けたLv.5と未来永劫語り継がれて逝け』
結果、アイズはフリュネに勝利した。
決闘後に逃がさないと【イシュタル・ファミリア】の女戦士達に囲まれるが、何故か【フレイヤ・ファミリア】が介入して助かった。気を失い、地面に倒れそうになるアイズをドレスを汚すのを躊躇わず抱き止める女神フレイヤの顔は・・・恍惚な笑みを浮かべていた。
フリュネ決闘時、【アイズ装備】
二刀流短剣、全裸にボロボロの灰色のマントを羽織っただけの姿。現れた時点で身体は既にボロボロ、全身傷だらけで血塗れの状態だった。
※全裸だったのも傷だらけであったのも『スキル発動条件を満たす』ためです。けしてマゾや露出に目覚めたわけではありません!
『さあ、続きを始めましょう』
『あれが、【剣姫】、元Lv.5の女剣士・・・アイズ・ヴァレンシュタイン!!!』
アイズ・ヴァレンシュタインの新たな伝説の始まりの目撃者の中に・・・白兎の姿が。
【ベル・クラネル】
この時点では【ヘスティア・ファミリア】に入っていません。受け入れてくれるファミリアが見つからず、【イシュタル・ファミリア】の本拠地である歓楽街の酒場でアルバイトをしていた。
心の中ではどこかで冒険者を諦めかけていた・・・だが、見てしまった。Lv.1がLv.5を破るジャイアントキリング。大岩も砕いてしまいそうな大斧にみすぼらしい短剣で挑むその姿に白兎の消えかけていた火が燃え上がる。
※今作品では本作のダンまちイベント時期は、ズレています。