風が吹いてる。
蒼い東の空から流れる朝風。
高い市壁の上で涼し気な風を感じる少女は、静かにたたずみ、それを見つめていた。
都市の中央を、白亜の巨塔を。
「私は・・・何で生きているの?」
アイズ・ヴァレンシュタインは一年の眠りから目覚め、【ロキ・ファミリア】の団員から矢継ぎ早に豹変したアイズの一年の凶行・奇行を聞かされた。
一番衝撃だったのが【フレイヤ・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)だ。
俄には信じ難い内容だった。
【フレイヤ・ファミリア】の最強戦力八人の戦士に自身が一人で勝ったという。
【炎金の四戦士】【黒妖の魔剣】【白妖の魔杖】【女神の戦車】を打ち破り・・・・あの【猛者】オッタルを殴り合いで勝ったというのだ。
アイズはオッタルを訪ねた。
現在【フレイヤ・ファミリア】は活動休止状態。主神フレイヤは行方不明。
幹部六人もオラリオ外。
【猛者】と【女神の戦車】は『豊穣の女主人』にいるらしい。
【女神の戦車】アレン・フローメルは【狂姫】敗北後に何故か妹愛が炸裂し、重度のシスコンに転身。酒場で働く妹にベッタリと張り付いているらしい。
【猛者】オッタルは、【狂姫】敗北後に・・・Lv.8にランクアップするが一線を退くと宣言。
そして・・・豊穣の女主人を営んでいるミア・グランド、20以上も年の差がある彼女と結婚し、オッタルは酒場の皿洗いをしているらしい。
酒場で働くオラリオ最高ランク冒険者。エプロンを着けて働くオッタルの姿に吹き出しそうになった。
休憩時間に僅かに話せた。
「俺は全てを出し切った・・・・俺の中に残ったのはフレイヤ様でもない、【女帝】でもなく、ミアだった」
一線を退く理由を聞いた。
するとオッタルは彼女が見たことがない豪快に笑って言った「お前が言うか?」と。
「アルフリッグ・ドヴァリン・ベーリング・グレール・ヘグニ・へディン・アレンの7人を倒したお前が突然装備していた武器を地面に突き立て、鎧を脱ぎ捨てた」
そして『秘密兵器ゴッコはもういいだろう?小細工を労して勝ったところで然程意味が無い・・・殴り合おう!正面からだ、足を止めて男らしく堂々と!』
『オッタルに勝つ・・・魔法で勝つ?装備で勝つ?どっちも違う!オッタルに勝つってそういうことじゃない!力で勝つ!避けずに!防御を捨て!真っ正面だけ!殴って、押しきる!!!』
「自分の半分も満たない少女に押し負けた。これほどの恥辱はないだろ?俺は出し尽くした・・・そして悟った俺の上限はここまで。俺の最頂はここ(Lv.8)までなんだと」
オッタルから話を聞いた後、私は行くあてもなくさ迷い歩いた。その行く先々で話し掛けられた。
町を歩けば子供達に先生と呼ばれ抱き付かれた。
「先生っ!今日は何を教えてくれるの?」
「先生っ!この前の宿題一人で解けたよ!」
「先生っ!この前の授業でわからなかったところがあるんですけど!」
子供達の質問攻めに答える事ができず、小さい子供が突き出してきた問題集の問題が解けないと『え?こんな簡単な問題解けないの?』という視線を浴びせられ、本気で勉強しようかと頭を悩まされた。
お店の前を通ると、
「先生っ!この前はありがとよ!これお礼っ!受け取ってくれ!」
「先生っ!実は相談があるんだけど?ちょっといいかい?」
「先生っ!先生のアドバイスのおかげで売上が倍になったよ!」
「先生っ!食事は済ませました?まだ?それならぜひウチの店に!」
「先生っ!偶々良いお酒が手に入ったんですよ!ぜひ試飲お願いします!」
色々な人が話し掛けてくる・・・今までこんな事なかったのに。どれだけ多くの魔物を殺しても。どれだけ強い魔物を殺しても。
ギルドへ行くと私を師事しているという少年に出会った。少年はギルドに入ってきた私を姿を見つけると駆け寄ってくると元気よく挨拶をしてくれた。私は少年に事情を説明し、記憶が無い事を伝えると、少年は一瞬凄く悲しそうにするも笑顔を作り、「それでも貴女は・・・僕の憧れです!」と言ってダンジョンへと走り去っていく。
私はその後1日、ファミリアの本拠地へは帰らずにさ迷い歩いた。
自分が『記憶を無くす前』の『遠征』の最中の事を思い返しながら。
50階層、ダンジョンの中でもモンスターが産まれない貴重な安全階層に辿り付いた事は覚えてる。
それから【ディアンケヒト・ファミリア】の冒険者依頼(クエスト)『カドモスの泉の泉水の採取』の為に、一班アイズ・ティオナ・ティオネ・レフィーヤ。二班フィン・ベート・ガレス。拠点防衛にその他団員で別れて行動した事は覚えてる。
私がいた一班が向かったカドモスの泉の前で異常があった。泉の前に大量の積もる灰。その灰にカドモスの皮膜が埋まっており、間の主である強竜(カドモス)と断定。突如、ラウルの絶叫が入り乱れた迷宮に響き渡った。
悲鳴の方角と勘を頼りに進むと、芋虫の形状に似ている新種らしきモンスターに、第一級冒険者が揃う二班が、戦闘を放棄して、全力で逃走している姿を見つけたのは覚えてる。
『怪物の宴』に『野営地が強襲された』・・・思い出した。私は50階層で、紫紺の外套に禍々しい仮面を着けた謎の人物に胸を貫かれた事を。
私の最後の記憶、私の身体を貫通したメタルグローブを装着している腕を押し返すのは私の貫かれた穴から生えた男性のモノと思われる逞しい腕。薄れゆく意識の中、『離セ!』と不気味な肉声と仮面の人物の手の骨が折れ、肉が握り潰される音が生々しく耳に入ってくる。私はもう意識が朦朧として身体に力が入らない。しかし、私から生えた腕は圧倒的な力で仮面の人物を振り回し、ダンジョンの壁へ投げ飛ばした。
身体が自分の意志に関係なく勝手に動く。私から生えた腕が地面に落ちた細剣を掴むと切っ先を壁に突き刺さった仮面の人物へと向ける。そして、私の口から私の声ではない男性の声で唱えられる。
【創生せよ 天に描いた星辰を 我らは煌めく流れ星】
【愚かなり 無知蒙昧たる玉座の主よ 絶海の牢獄と 無限に続く迷宮で 我が心より希望と明日を略奪できると何故貴様は信じたのだ】
【この両眼を見るがいい 視線に宿る猛き不滅の焔を知れ 荘厳な太陽を目指し 高みへ羽ばたく翼は既に天空の遥か彼方を駆けている】
【融け堕ちていく飛翔さえ 恐れることは何もない】
【罪業を滅却すべく闇を切り裂き 飛べ蝋翼 怒り 砕き 焼き尽くせ】
【勝利の光に焦がされながら 遍く不浄へ裁きを下さん】
【我が墜落の暁に創世の火は訪れる】
【故に邪悪なるもの 一切よ ただ安らかに息絶えろ】
【超新星ー煌翼たれ 蒼穹を舞う天駆翔・紅焔の型】
最後の記憶、視界を埋め尽くす赫怒の炎。闇を砕く核爆発した赤き炎。
その炎は私の、最強の【力】と精霊【魔法】を合わせた【黒嵐】ですら遠く及ばない。
「私は・・・目覚めるべきじゃなかった?」
注)アイズさんの中身はオリ主であり、とあるゲームキャラではありません。
作者が詠唱厨の為。
『光の奴隷』を知ってる人達がいるならいいか、本作品のネタばれになりますが、アイズとオリ主は一時的に分離します。そこからが本編がスタート。
分離時期は59層予定・・・つまりは、まだまだプロローグ的なヤツです。