北天に輝く   作:ペトラグヌス

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生存競争─Beyond the Corpse

「Ω!まだ生きてるか!?」

「……っ、当たり前、よ!!」

 

返答とともに背後で爆音が響く。おそらくはこれでまた幾人かのサルカズの命が失われたことだろう。

……むかし、何かで読んだことがある。曰く、一人の死は悲劇だが、百万人の死は数字に過ぎないと。

なるほど、この戦場こそはまさにそういう場所に違いなかった。この仕事が始まってから、おれは一体いくつ殺しただろうか?5,6人の集団をアーツでぐちゃぐちゃのミンチに変えた。向かってきた連中の首を刎ね飛ばした。渓谷の側面を崩壊させ、数十人を土砂の下に永遠に閉じ込めた。

けれども、一向に敵の数は減らない。いつまでも雪崩のように留まることなく敵が押し寄せてくる。ここは、おれが経験した中で一番命の価値が軽い戦場だった。

 

 

 

敵の襲撃が始まったのは作戦開始から7時間ほど経ったころ。いつ押し寄せてくるかもわからない敵を警戒し、神経をすり減らしながら進み続けてしばらく。過度のストレスと疲労感から注意力が散漫となりつつあったその時だった。

テレシス側についた傭兵たち……否、元傭兵たち。彼らが大軍となって押し寄せてきたのは。

 

そこからはもう大混戦だ。ヘドリーは誰かが近づいてきたら迷わず撃てなどと寝ぼけたことを言っていたが、迷う必要もないほど殺意に満ち溢れた連中が怒涛となってやってきたのだから。遠距離からアーツやグレネードランチャー、ボウガンで数を削っても効果は雀の涙。あっという間におれたちは輸送部隊を中心に包囲され、ぐちゃぐちゃの近接戦闘が始まった。

初めは律儀に輸送部隊を守ろうと戦っていたのだが、途中からおれたちが担当しているのはどうやらダミーらしいという事が分かった。しかしながら敵さんにはどの部隊が本命の部隊なのかがわかっていないようで、依然として攻撃を緩める気配はない。

ダミーに敵を引き付けているというのは全体の作戦にはだいぶ寄与しているんだろうが、それでこっちが潰されたのでは元も子もない。幸か不幸か、通信環境も劣悪でヘドリーからとやかく言われることはなさそうだ。おれはそのことが分かった時点で、Ωと打ち合わせてギリギリまでは車列を守るように立ち回り、それからは爆弾とあいつのアーツでダミーもろとも敵を吹き飛ばして一時撤退することにした。

 

 

 

 

……そして、今に至る。

テレシスには今回のことで狙いが二つあったらしい。一つはバベルの輸送する何かを破壊ないし強奪すること。そしてもう一つは……のこのこ護衛の依頼を受けた傭兵たちを血祭りにあげることだ。

引き連れていたはずの部隊の連中はもはや周りにはいない。皆目の前で殺されるか見えないところで殺されたかのどちらかで居なくなった。残ったのはおれとΩの二人だけ。そして、そのおれたちにしてももう満身創痍といっても相違ない状況に追い込まれていた。

このために大量に持ち込んだはずの弾薬はもう切れた。おかげで脚のホルスターに収まったSMGは無用の長物と化した。まあ最悪弾持ちの悪いこいつに関しては仕方ないとしても、背中に提げてあるARの弾が切れたのは初めての経験ではないだろうか。この時点でおれに残っているのは刀にナイフ、それと手榴弾が幾らか。中距離で使えるのはもうアーツくらいのものだ。

恐らくは彼女も同じような物だろう。先ほどの爆音からしてまだいくらか源石爆弾の手持ちはあるようだが、尽きるのはもう時間の問題に過ぎない。

 

だが、おれたちはまだ生きている。

少し前までのおれならもう数十回は死んでいたであろうこの戦場で、まだ地に足をつけて立っている。

それは、背中を守ってくれる心強い味方がいるからだ。

 

先読みして配置したアーツで敵の左半身を消し飛ばすと、背中に熱い体温を感じる。

 

「……手持ちが切れたわ」

「そうか……降参でもしてみるか?」

「冗談!だったら切り刻んでやるわよ」

「その意気だ」

 

言葉を交わし、おれたちはくるりと二人の位置を入れ替えた。

ぎょっとした表情でこちらに向かってくる殿下の手駒を視界にとらえると、アーツを解き放つ。荒れ狂う空間の歪みが頭部を包み込み、数瞬後には脳漿があたりにまき散らされた。

 

「ふふっ、阿吽の呼吸ってやつかしら?」

「ま、そういうことだ」

 

会話をしつつも、決して敵への目線は切らない。今は車列を護衛していた時のような大軍に包囲されているわけではないが、無限に敵が湧き出てくる組み手をやっているような状況だ。一人を始末するころにはもう次の敵がこちらの視界に入ってくる、そんな感じの。

……極めて不愉快なことだが、手加減をされているような感覚がある。人数で袋叩きにされれば流石にどうしようもなくなるのだが、敢えてそれをせずにこちらの消耗を待つような戦術。弾薬が尽きた今、接近戦を強いられればますます消耗は激しくなっていくだろう。……ここまで散々アーツを披露させられたのだ、懐に潜り込まれれば使えないという事などとっくに分析されている。

おれのそんな考えを裏付けるかのように、先ほどまでのボウガンなどで武装した部隊とは違う、大剣を担いだ連中が現れる。おれは柄に手を掛けた。

 

「……どうやら、ここからが本番みたいだな」

「……死ぬんじゃないわよ。……あたしはともかく、あんたが死んだら一巻の終わりなんだから」

 

……おれはこの作戦が始まってから既に何回か戻っている。

奇襲、不意打ち、面制圧。そんなどうしようもない詰みを回避してここまでやってこれたのは、偏に彼女がいたからだ。まっすぐにおれに撃ち込まれようとした弾丸を身代わりに受けて死んだ彼女。不可避の面単位の攻撃に対して、一歩前に出ることによって一足先に死んだ彼女。おれは、この戦場で何度も彼女の死を見てきた。

そのたびに感じる喪失感、絶望感、無力感。

もう死なせやしない、そう決意しているはずなのにおれの足は動かないまま、ただ黙って彼女が死ぬのを見ているだけ。おれはこれまで、そうやって何人のΩを殺してきたんだろうか。

 

……だから、これは贖罪なのかもしれない。

これまでも、そしてもしかするとこれからも、おれはお前を死なせてしまうだろう。殺してしまうだろう。きっと知っているのはこの世界でおれだけの罪。何度も誓いを立てて、そのたびに何度もそれを破ることになってしまうかもしれない。けれども、これだけは。これだけは信じてほしい。おれは、例え何度やり直すことになったとしても、必ずお前を明日へ連れていく。他のどんな今日より素敵で幸せな、そんな明日へと。

 

だから、こんな所では絶対にくたばったりはしない。

 

 

 

「ああ。……生き残るぞ、二人でな!」

 

腰から刀を抜き放ち、居合の要領で敵の太刀筋を搔い潜ってわき腹から刃を通す。確かに脊椎を断ち切った感触を感じながら、おれは努めて獰猛に笑った。

 

「さあ来い、狗野郎ども!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………り…………いよ……!

…………まだ………だって………のよ…………!

 

どこからか音がする。まるで水の中に居る時みたいな、くぐもった音。……これは、声だろうか?ふわふわと現実味のない浮遊感に包まれながらぼんやりと考える。何かを必死に呼ぶ声。それは、おれの心地よい眠りを妨げているようだ。こうやってゆったりと落ちて沈み込んでいくのはとっても楽で気持ちがいいのに、何なんだろう。……まあ、いいや。このままゆっくりしていれば、そのうち…………

 

ぴとり、と。何かが落ちてきたような気がした。

 

それはとても熱くて、なんだかしょっぱくて。

なぜだかおれは、それを止めなきゃいけないと思った。

 

水底から意識が急速に浮かび上がっていく。見上げた水面は、きっと意識の境界線だ。おれはあの向こう側に帰らなきゃならないんだ。上がっていくにつれて、どんどん思考が、感覚が、クリアになっていく。それに伴って全身を苛む痛みもまた鋭く襲い掛かってきたが、構うものか。痛みは生きている証だ。おれはまだ、生きている。

上がって、昇って。だんだんと水面へ、光の強いほうへ。おれはただひたすらに向かっていき、遂にその境界をぶち破る。

……こんどの声は、ちゃんと聞こえた。

 

「……だから、目覚ましなさいよ…………!」

 

「お……め…が……」

 

開かれた瞼の隙間から光が差し込んでくる。最初に見えたのは、琥珀色の瞳になみなみと潮を溜めた彼女の顔だった。おれはその名前を呼ぶ。口の中がカラカラでうまく言葉が出てこなかったけれど、それでもちゃんと届いたようだ。

 

「……っ!」

 

驚いたというように大きく目が見開かれる。やがて、その驚き顔は泣いているような笑っているような、くしゃくしゃの顔に変わった。まるで、いつだったかこいつが無事だと分かった時のおれみたいだ。あの時は散々からかわれたけれど、彼女もこんな顔をするなんて。決していいことではないけれど、なんだかすこし嬉しい。……とはいえ、いつまでも泣かせていてはこちらの立つ瀬がないというものだ。おれはどうにか自力で上体を起こすと、謝罪の言葉を口にした。

 

「…………悪い、心配かけた」

「……馬鹿。もっと早く起きなさいよ」

 

ごしごしと乱暴に目をこすって答える彼女。口元にはニヒルな笑みを浮かべているけれど目は真っ赤で、それがどうしようもなく愛おしい。

思えば、こうしておれが心配される側にまわることはこれまでなかった。

……傷を負って倒れるのは、いつもΩだったから。

けれども今日は違う。ちゃんと守れた。おれが、自分の手で、一等大切な彼女を。

そう思ったら、自然と笑みが浮かんできた。

 

「……な、なに笑ってんのよ。あたしは本気で心配して……」

「ああ、違うんだ。別にからかってるわけじゃない」

「……だったら何なの?」

「……今度はちゃんとお前を守れた。それが嬉しいんだ」

 

彼女の瞳を見つめて、そう告げる。いつもだったら気恥ずかしくなって目を背けてしまっていたけれど、今ならちゃんと言える。目を見て、おれのまごころからの言葉を伝えることが出来る。

じっと見つめ合う事しばらく。さっきまでの泣き笑いではなく、Ωは柔らかに微笑んだ。

 

「……馬鹿ね。あんたにはいつも助けられてるわよ」

「…………そっか。なら、よかった」

 

会話が途切れ、二人を心地よい静寂が包み込む。まるで時間がゆっくりと流れているようだ。いつまでもこうしていたい気分だが、残念ながらおれたちがにるのは戦場。その欲望に流されるわけにはいかない。おれはどうにか気持ちを切り替え、敢えてこの雰囲気を壊すように問いかけた。

 

「Ω。今の状況は……おれがアーツで周り全部吹き飛ばした、であってるか?」

「…………ええ。あってるわ」

 

 

 

 

数時間か、数十分か。どれほど意識を失っていたかは分からないが、とにかくしばらく前。おれたちはいよいよ追い込まれていた。接近戦に切り替えてからは戦場を駆け回るように移動しながら戦っていたのだが、ヘドリーやイネスとは連絡がつかず、掩護が望めない中の戦い。しかも連戦のこちらに対して、毎回満タンとは言わないまでも体力を残した状態の相手。足が動かなくなってきてから囲まれるまでは早かった。

一応型通りの降伏勧告はされたものの、それをおれたちが受け入れるはずもなく。いよいよ集団に嬲り殺しにされる寸前。そのタイミングで、おれはアーツを暴発させた。

 

おれのアーツは空間を歪めてぐちゃぐちゃにするもの。そこに何かを巻き込めば、つられてそれもぐちゃぐちゃになって吐き出される。その原理でこれまで敵をミンチにしてきたわけだし、建物は瓦礫の山に変えてきたわけだ。ところで、この空間を歪めるという表現は非常にあいまいで、引き延ばすこともできれば逆に押しつぶすこともできる。では、膨大な体積を無理やり空間ごと押し縮めて圧縮したら、そいつはどう吐き出されるだろうか?

 

その答えが今の惨状だ。辺り一面が爆撃にでもあったような有様になっている。上空の大気を押し縮めてから炸裂させた、言わば空気爆弾。その効果は絶大で、危うくおれも死ぬところだった。

左胸に深々と突き刺さった金属片を眺めてそう独り言ちる。あばらで逸れてくれたおかげで心臓は無事だったが、それでも肺をいかれているのは間違いない。他にも左脚に刺さった剣の残骸やら何やらで、正直もう限界すれすれだ。幸い、Ωのほうはあちこち切れてはいるものの大きなけがはない。今回は自分の意思で事を起こしたので、咄嗟に覆いかぶされたのがよかったみたいだ。

 

なぜこんな破れかぶれのようなことをしたのかといえば、巻き戻りの法則によるところが大きい。いつも朝に巻き戻っていたために勘違いしていたが、どうやらこれはおれが最後に覚醒した時間に戻されるようだ。途中、一時敵を撒いたタイミングで仮眠をとったのだが、以降の巻き戻りはそこからになってしまっていた。恐らく、今回の気絶も巻き戻りが更新されるだろう。

ともかく、巻き戻りがそこからになったせいでどうやっても囲まれる未来にしか行きつかなくなってしまったのだ。何度もやり直したが、爆弾も切れている以上どうやっても正攻法では突破が出来ない。そこでこんな方法をとったのだが、どうにかうまくいったようだ。

 

「おれってどのくらい寝てたんだ?」

「……あたしもちょっと前まで気を失ってたから、わかんないわね」

「なるほど……なら敵もまとめて殺れたみたいだな。……悪い、ちょっと肩貸してくれ」

 

Ωの肩を借りてどうにか立ち上がる。すこしフラフラするが、これは血が足りないせいだろうか。まあ、動けないほどじゃない。

 

「……っし、どうにかヘドリーと連絡をとって、本隊に合流しよう」

「……生きてるかしら?」

「おいおい、おれたちがこんなに敵を引き付けてたんだぞ?本隊は生きててくれなきゃ困る」

「それもそうね。……ほんと、良く生き残ったわね、あたしたち」

「……だな。今回ばっかりはダメかと思ったよ、ほんとに」

 

ようやく彼女も調子が戻ってきたようで、軽口も叩けるようになってきた。先ほどの滅多に見ない表情には正直なところドキリとしたが、やはり目を腫らした姿など似合わない。

 

そのままおれたちは瓦礫の山をかき分けるようにして進んでいく。途中途中でちらほらとガタイのいいサルカズの死体を見つけた。恐らくはおれのアーツの被害者であろう。やはりこうして見てみると、あれは相当な威力だったようだ。時折まだ息があるのにしっかりととどめを指しながら、Ωに話しかける。

 

「しかし、この分じゃ味方も巻き込んだかもな」

「うーん、どうかしらね。少なくとも掩護してくれる味方はいなかったけど」

「……言うねえ。ま、もう巻き込まれるような味方は残ってないか」

「……あんたも大概ブラックなこと言うわね……って、あれ?」

 

気を紛らわすようにジョークを言い合っていると、ふと彼女が何かに気付いたように指を指した。その方向に沿って視線を移動させていくと、おれの目にも何かが飛び込んでくる。どこかで見たような服を着て、たぶん見たことがあるようなアーツの補助装置を持って、絶対見覚えのある顔をした黒髪の女。平たく言えば、イネスがそこに倒れていた。

 

「ちょっと、あんた思いっきり巻き込んでんじゃないの!」

「マジかよ……おい、イネス!」

 

半ば引きずられるようにして二人でイネスの下へと駆け寄る。首筋に手をやって確認すると、規則正しい脈拍が伝わってきた。

 

「……大丈夫、呼吸もちゃんとしてるみたい」

 

心なしかホッとしたようにΩが告げる。特に目立った外傷もなく、どうやらただ気絶しているだけのようだ。これには思わずおれも安堵のため息を漏らした。まさかイネスも巻き込んでしまっていたとは。だが、彼女がいるというのに近くに部隊の姿は見えない。もしかすると、こちらと同じように壊滅させられてしまったのだろうか。

 

「……イネスが起きるまでは動けないな。Ω、周囲の様子を探ってきてくれないか?」

「任せなさい。……あんたもケガ人なんだから、気を付けて」

「ああ」

 

……言われてみれば、この中でおれが一番重症かもしれない。胸にぶっ刺さったブツを見てもそれは

明らかだ。不思議なもので、意識をしだすと色々しんどくなってきた。片肺をやられているせいで呼吸は苦しいし、何より無茶苦茶痛い。さっきまで出ていたアドレナリンが切れてきたのだろうか。これは早いところ本隊に合流できないとまずそうだ。

 

「イネス……頼むからさっさと起きてくれよ?じゃないとおれがくたばりそうだ」

 

 

 

 

 

 

 

「ぐっ…………」

「……!イネス!」

「……あなたは……W?何が……」

「おーい、Ω!イネスが目覚ましたぞ!」

「ほんと!?」

 

Ωが周りには今のところ敵はいないようだという報告とともに帰って来てから少し経った頃。ようやくイネスが意識を取り戻した。

 

「Ωも…一体、何があったの……?」

「あー、ええとだな……」

「こいつがアーツを暴発させたのよ。それであんたも巻き込まれたってわけ。ご愁傷様ね」

「いやほんとに申し訳ないです」

 

まあ確かに何があったかと言われればそうとしか言いようがないだろううが、それにしたって言い方があるだろうに。……まだこの前からかわれたことを根に持っているんだろうか?

ともかく、おれはただ平謝りするほかない。色々と事情はあったのだが、それを下手に言うべきではないだろう。

 

「……」

「……」

「……ええと」

 

謝罪を聞いたきり黙り込んでしまったイネス。何となく気まずくなった空気をどうにかすべく、おれが口を開こうとしたその時だった。

 

「……っ、まずい!」

 

イネスが血相を変えて叫ぶ。それを聞いてから数瞬経ってようやくおれはイネスが黙っていたのはアーツを使って周りを探っていたからだと分かった。……そして、もう手遅れだという事も。

 

「……WにΩ、それとイネスだ。……ああ、リストに載った三人全員いる」

 

「……あなたたち、付けられてたみたいね」

「チッ、あたしも焼きが回ったかしら……」

「すぐに来なかったのは集結を待つためか。……クソっ」

 

「お前たちには本隊まで案内してもらうつもりだったんだがな。三人そろっているとなれば話は別だ」

 

現れたサルカズ傭兵。纏っている威圧感から相当な手練れだと伝わってくる。万全の状態なら殺れないこともないだろうが、この状況では流石に厳しいだろう。

 

「……で、あたしたちに何か用かしら?」

 

同じことを思ったのか、Ωが吐き捨てるように男を問いただす。

 

「お前たちの部隊はもう八割以上壊滅した。残りの二割ももうじき同じ運命を辿るだろう」

 

……まあそんなものだとは思っていたが、よくよく聞いてみると酷いものだ。

 

「……だが、将軍はお前たちのことを気に入っていてな。バベルから受けた依頼の全貌を我々に語れば、お前たちに新たな晴れ舞台を用意することもできる」

「そいつは光栄なこった。ちなみに、この中じゃ誰が高評価なんだ?」

「ふむ……将軍はΩが特にお気に入りの様だ。それにW、貴様のアーツもな」

 

……やばい。そろそろ体に力が入らなくなってきた。どうにか立って見せてはいるが、それもいつまで続けられるか。

 

「お前たちも生き残りたいだろう?ならば提案だ。Ω、イネス。Wの四肢を捥ぎ、視覚以外の五感を潰せ。アーツは魅力的だが、それ以外は邪魔なのでな。これは死んでいった仲間たちへのケジメでもある」

「断る。そんなことをするくらいなら死んだほうが余程ましよ」

「断るわ。随分と下らない提案をするのね、あなた」

「……残念だ」

 

視界が霞んでくる。せめて、あいつにアーツをぶち込んでから……

 

 

『イ……聞こえ……ある……』

『お前たち……救出……』

 

……?なんだ?通信は死んでるはずなのに、ヘドリーの声が聞こえる。

それに、なんだか不思議な感覚が……白い、おんな?

 

 

そこで、おれは意識を手放した。

 

 

 

 

 

 


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