北天に輝く   作:ペトラグヌス

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一陽来復─The rising of the sun

今日は、いつだろうか?

四回目の今日?ようやくたどり着いた"明日"?

 

……曲がりなりにもこの狂った世界で生きてきたんだ、わかっている。

他人に余計な情を抱いていては、生きてはいけない。それがこの世界というものだ。

傭兵団だってそうだ。ただ、お互いにお互いのことを『使える』と思っていただけ。

一番大事なのは自分のことだ。あいつらの誰かが死にかけていようが、おれは命をかけて助けるようなことなんてしない。自分の命は変えが効かないけれど、使える人材は変えが効く。

おれは、自分さえよければそれでいい。自分以外のことなんてどうでもいい。

 

……けれども今この時だけは、あんなに明日に行きたがっていたおれだけれど、今日のままであってくれと願った。

別に情が移ったとかそういうわけではない。ただ、あれでみんな死んだというのは後味が悪い。

……ただそれだけ。そう。ただのおれの気分の問題だ。それ以上でもそれ以下でもない。

──だから、頼む。早くおれに通信してくれ。

そう願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいW、さっさと来い。今日は仕事だ」

「…………」

「おい、聞いてんのか?」

「……なあ。今度、飲みに行かないか」

「はあ?」

「……そういう気分なんだ」

「……珍しいな。お前がそんなこと言うなんて」

「……悪いか?」

「いいや。こっちはいつでも大歓迎だ。……お前が誘っても来ねえだけでな」

「悪かった。……集合は30区の28番だよな?」

「おうよ。今日はさっさと仕事を終わらせて、パーッと飲もうぜ!」

「……ああ」

 

「あ、やっぱ今日は無理だわ」

「おい!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の──四回目のお仕事は敵拠点の制圧だ。敵主力は前線のほうに移って本隊と相手しているので、さながら空き巣といったところか。だが、空き巣といっても敵の拠点。たっぷりと兵隊を腹の中にため込んでいる。流石におれ一人では荷が重い。

ということで、今回は二人でのお仕事だ。

 

「こちらW。準備完了だ」

「こちらモロー、準備了解」

「それじゃあ手はず通りに」

「おう。……いいか、絶対に俺を巻き込むなよ」

「おっけーおっけー」

「いやマジで!シャレになんないから!」

「カウントいくぞ。3、2、1、」

「ああもう!頼むぞ!」

 

カウントがゼロになると共に爆音が響き渡る。おれが仕掛けた爆弾だ。

その爆風で何人かが消し飛んだが、そんなことが目的ではない。

爆弾は正面玄関を木っ端みじんにしていた。これほどわかりやすい宣戦布告もないだろう。

わらわらと集まってくる敵兵。その視線は吹き飛んだ玄関のほうへと向いていた。

 

一人の男が、ゆっくりと歩み寄ってくる。右手には銃、左手には銃。両手に銃を持った男だ。

多勢に無勢。そう形容するしかないような圧倒的な戦力差。あまりに自殺的な行為に、思わず多勢のほうが呆気にとられる。次の瞬間、男の両手が火を噴いた。

放たれる銃弾、銃弾、銃弾。あっという間に前列の敵兵たちに風穴があいていく。

勿論、敵もそれを黙ってみているはずがない。銃、弩、弓。ありとあらゆる火器が男に向けられ、その殺傷能力が解き放たれた。矢と銃弾、それにアーツが混じりあい、男に殺到していく。

その爆心地、グラウンド・ゼロには当然──()()()()()()()()()()

 

呆然とする敵兵。それを見て、男はニヤリと笑うのであった。

 

「……で、実際のところどうだ?」

「……ヤバい。あと一発同じのを食らったら絶対死ぬ」

「……だろうな。さっさと連れてこい」

「オーケイ!」

 

男──モローが両手の銃を乱射する。飛び散る弾丸と血飛沫。一瞬にして敵は恐慌状態に陥った。そうなった生物の行動は二つに一つだ。逃げるか、戦うか。

そして、多くがその前者を選ぼうとした中、無謀にも後者を選択した者がいた。

──殺される。その恐怖が敵兵を無謀な攻撃へと突き動かした。半ば泣き叫ぶようにして放たれる矢。

決して届かぬはずの攻撃。誰もが、放った本人すらそう確信していたそれは、果たして男の頭を掠めていった。

しんとその場が静まり返る。その中で、男の頭から滴る赤い血の音がぽたり、ぽたりと響く。

瞬間、モローは踵を返して敗走を始めた。

 

呆気にとられたのも一瞬、敵兵は猛烈な勢いでモローを追いかける。

笑いながら自分たちを蹂躙していた相手が、攻撃を食らって情けなく逃げ出したのだ。

地獄から天国に行ったようなもので、脳内麻薬がドバドバと分泌されていることだろう。

走るモロー。追いかける敵。辺りに銃弾をまき散らしながら、狂乱する集団が半ば廃墟と化した街を突き進んでいく。その様子はまるで狩りのようだ。もっとも、どちらが狩られる側かは言うまでもない。

……死ぬのは奴らだ。

 

やがて、集団は細い路地へと突入していく。陽の光も差し込まないような高い建物の間、細く、長いその路地を背後から射かけられながら逃げるモロー。だが、唐突にその追いかけっこは終わりを告げる。

 

「っ!」

 

行き止まり。路地の終端には、高い建物が壁となって行く手を阻んでいた。

愕然とするモロー。勝利を確信する敵兵。

勢いそのままに、ハンターが獲物を射殺すかに見えた、その時だった。

空間がぐにゃりと捻じ曲がり、渦を描く。

極度の興奮状態にある敵兵たちは、それに気づかず次々とその渦に突っ込んでいき──その姿を変えた。

生暖かい液体に、白っぽい柔らかな何か。そこにねっとりとした黄色とぶよぶよしたピンクがトッピングされたモノ。もはやどれが誰のどこかわからない程、雑多にミックスされたグロテスクな塊。それが今の彼らの姿にしてその末路だ。

 

呆然と立ち竦む敵さん方。目の前で起こった突然の現象に、どうやら脳の処理が追い付いていないらしい。

……防衛本能ってやつなんだろうな。理解してしまったらどうなるか、生き物ってやつは本能的にわかってるんだ。でも、悲しいことにおれたちは中々にかしこいものだから、ある時点──臨界点──に到達すると気づいてしまう。理解してしまう。

そして、その時はやってきた。失禁、嘔吐。そんなのは可愛いもんだ。発狂して銃を乱射し、味方を撃ち殺す奴。逃げ出そうとして味方を撃ち殺す奴。いやあ、まさに地獄って感じだねえ。

屋上から見下ろす奴らの姿は、なかなかに滑稽だった。

どうにか路地から脱出しようかという奴らもまた、ミートボールになった。

そんな分かりやすいところ、何もないわけないでしょう。

で、残った奴らも同じようにグチャっと。大きな肉塊を三つほど拵えて、敵兵の殲滅が完了した。

 

 

 

 

「よっ、お疲れさん」

 

逆バンジーで屋上まで登ってきたモローに声を掛ける。

 

「いやー、疲れた疲れた。あんな鬼ごっこ久しぶりだぜ」

「いい運動になったろ?」

「お前なあ……」

「冗談はこれくらいにしておいて……アーツはどうだ?」

「あと半分くらいってとこか?鬼ごっこ中にプチプチ喰らったせいでちょっと減っちまったぜ」

「といっても、まあ敵兵の殲滅はできたっぽいしな。後は拠点を吹っ飛ばせって話だが……」

「……W、お前もなかなか悪よのお」

「……傭兵の嗜みってやつだ。だからお前もわざわざおびき出すなんて作戦に乗ったんだろ?」

「……まあな!」

「……よし!じゃあお宝探しと行きますか!」

 

 

 

おれたちは肉塊製造工場と化した路地を後にし、敵拠点へと向かった。

予想通り、ほとんどの戦力は出払っていたみたいで、残っていた雑魚を始末すれば後はやりたい放題だ。

それぞれ思い思いの品を探す。一回目の時パスタを持っていた奴がいたから、もしかしたらと思い探してみれば大当たり。ラテラーノ物産展と化した倉庫が見つかった。パスタや生ハム、その他諸々の食料品や名産品の銃なんかもたくさん置いてある。おれは昔からラテラーノみたいな料理が好きだったから、これは非常にうれしい。

……それに銃。こいつに関しては"郷愁"を感じるとでもいうのかな。とにかくそういう感じのものだ。

わざわざ銃を使っているというのにも、一応の理由らしきものはあるってわけ。未練がましいかな?

最も、殺しに使いすぎてそんな感覚はもうほとんど残っていない。今のコレクションはただの惰性だ。

とは言え惰性というのも案外しぶといもので、コレクションはいまだに増え続けている。おれは雑多に保管された銃の中から審美眼に適うものをいくつか選び出し、倉庫を後にした。

 

もう十分に満足したので、そろそろ爆破して仕事を終わりにしたかったのだが、なかなかモローが下まで降りてこない。いい加減に呼び出そうかと思ったその矢先、モローから通信が入った。

 

「遅いぞモ」

「おいW!ちょっとこっち来い!」

「……何だ?敵襲か?」

「違うが……似たようなものかもな」

 

モローの言い草に、引っかかるものがあった。敵襲のようなもの。おれたちは、いやおれは、その敵襲のようなものにあったじゃないか。

通信機片手に案内を聞きながら、おれはモローの居場所へと急いだ。言われた部屋が近づいてくる……と同時にあたりに漂ってくるものがあった。

……異臭だ。それも、おれたちが嗅ぎなれた種類の。

 

扉を開け、部屋に入った。

そこには予想通り、いや予想以上に凄惨な光景が広がっていた。

……女、男、子供。色々なサルカズの死体がそこにはあった。

……先程まで敵を肉塊に変えて楽しんでいた奴が言えることではないだろうが、これをやった奴は相当な屑だ。

年齢、性別もバラバラな死体だが、一つだけ共通点があった。

それはみな()()()()()()ということだ。徹底的に。……これ以上は何も言いたくない。

 

「……なあ、W。俺たち、あいつらをああしといて正解だったな」」

「……だな」

 

「……人質だってさ。遅れるたびに一部を送り付けてたらしい」

「……それでテロをさせようってわけか」

「ああ。他にも金で雇ったりなんだり……まあ色々だ」

「……合点がいったよ」

「何がだ?」

「こっちの話だ。……で、なんでそんな書類が残ってたんだ?」

「わからん。俺たちに夢中だったからかもな」

「……そんなもんか?」

「ここに脳筋連中しか残ってなかったら、そうなるだろ」

「そんなもんか」

「そんなもんだ」

 

この情報は、早急に団長及び各隊長の元に届けられた。多分、これでこの前みたいなことにはならないと思う。

……というか、これではおれがあの女をどうこうしたところで結局は同じようなことが起こっていたのかもしれない。

そういう意味でも今回ここにこれて本当に良かった。……何より、あの女のことも少しはわかったしな。

何はともあれ、これでお仕事完了だ。

 

 

 

 

 

あの後、きちんと言われた通りに拠点を吹き飛ばし、おれたちは帰投した。

団長たちの本隊もこの前と同じく敵の頭を討ち取り、敗残兵もまとめて撤退していった。

ということはつまり、このちょっとした戦争にも蹴りがついたということだ。後はおれたちにできることはなく、上で処理されてそれでおしまい。

それが傭兵という組織だ。戦争が終わってしまえばお互いに手出しはできない──というのが業界のルールのはずなんだけれど、今回はちょっと違う。

暗黙の了解を破るような禁じ手。明文化されてなきゃ何でもやっていいってわけじゃないんだけどねえ。

──傭兵外部の人員を使った爆弾テロ。

そいつに対応するため、団長はじめみんなてんやわんやだ。

全員バラバラに分散してやり過ごしてもいいのだが、やはりここはきちんと禍根を断っておきたい。

返り討ちにするため、トラップやらなにやらの準備が猛スピードで進行している。

おれやモローもそいつに駆り出されているんだが、おれもそろそろ自分の仕事をしなきゃならんのでね。

 

「ってことで、後は頼んだ」

「は?っおい、W!」

「用事だ!団のためにもなる!」

「ったく……」

 

 

 

もう既に夜になってから幾ばくかの時間がたった。果たして、今行ったところであの女がまだいるかはわからない。が、仮にこちらに居なかったとしても返り討ちに会って死ぬか捕まるかはしているはずだ。

前回で分かったことだが、多分あの女が死ぬとおれは朝に戻る。おれが殺したかどうかは関係ない。

となれば、何としてでもここで身柄を確保したい。果たしてこの現象がどうやったら終わるのかはわからないし、仮に女が死ななければ明日を迎えることができたとしてもそれで終わる保証はない。

その場合は女がおれの知らないどこかで死んだら最悪だ。どこまで戻されるのかは知らないが、女を探し出すまでに何回繰り返せばいいかわからない。

捕えられれば最高。死ねばその次によし。捕まってもよし。最悪は逃げられることだ。

女が逃げない保証がどこにもない以上、何としてでも今回で終わらせたい。

……最も、今回の保証もないがな。

 

 

 

森のように廃墟が立ち連なる、その中を一人歩いていく。

おれは歩きながらなるべく人気の少ないところに向かっていた。つまり、隠れ家のほうだ。

結局、いつもの場所になるらしい。まあ、当然といえば当然か。

他人に襲わせる、というのはなかなか難しい。警戒心を露わにすれば、力の劣るものは絶対に攻撃を仕掛けてはこない。奇襲というのは弱者が強者を倒す唯一の手段だからだ。

とは言え、無警戒でいればそれこそ奇襲される。前回、前々回は心に隙があったから女も襲ってきた。

 

……今回は、最初とその次との複合型で行ってみようと思う。つまり、戦利品にウキウキしていながらもアーツで背後を警戒、という作戦だ。行けるかどうかはわからないが、やってやるしかない。

 

気持ち弾んだような足取りで路地を歩いていく。聴覚と触覚は警戒に回し、頭の中では、なるべく今日の戦利品のことを思い浮かべるようにした。パンに生ハムを乗せ、その上からオリジムシを漬けていたオイルを垂らす。少し身を乗せてもいいかも知れない。生ハムのパンチのある塩味と滋味にとんだオリジムシ、香り豊かなオイル。想像するだけで──来るっ!

 

常に背中に貼り付けるようにイメージしておいたアーツを起動し、全速で駆け出す。

着弾と同時に爆発するだった手榴弾は噴出した爆炎ごと空間に喰われてぐちゃぐちゃになった。

 

「!?」

 

おれはそれを確認し、駆けながら電灯のスイッチを入れる。光に包まれる襲撃者のシルエット。

用が済んだ電灯を投げ捨て、おれは昼間に見つけてきたものを発射する。

もとはハンティングにでも使っていたのだろうか。物好きのサンクタが拵えた一品、捕縛銃だ。

発射された錘付きの縄が襲撃者の体に巻き付いていく。

 

「なっ……!」

 

中々よくできた品物だ。昼間に実験した時もそうだったが、敵をほぼ無傷で捕らえられるというのは。

そうそう、ほぼっていうのは……

 

「うっ……」

 

最後の一発で錘を食らうってことだ。まあ、旋回半径が小さいので大したダメージはない。

背嚢から予備の電灯を取り出す。ぐるぐる巻きになって倒れている襲撃者を照らしてみれば、そこにはよく見知った顔がいた。

銀髪で赤い角の女サルカズ。通算三回目ともなれば慣れるというものだ。

 

「……気づかれてたとはね」

「慣れだ。初めに言っておくが、挑発しても手出しはしないから黙ってろ」

「……ちっ。何から何までお見通しってわけ?」

「まあそんなところだ」

 

会話もほどほどに、手際よく処理をして女を隠れ家に連れ込む。二日ぶりのご訪問だ。こいつは覚えてないだろうが。

この前と同じように椅子に縛り付け、目隠しと猿轡を取る。

今回は下らない会話は止して、いきなり本題から入ることにしよう。

 

「ぷはっ……!…………あたしをどうするつもりかしら?」

「お前に命令した傭兵たちだが……今日で奴らは解散だ」

「!?……へえ、そう」

「……人質は全員死んでた。悪いな」

「……あたしは金での雇われよ。関係ないわ」

 

そう言った時の女の表情に、変化はなかった。

冷たすぎるほどに冷たい、鋭い刃物のような口調で言い捨てた。

女は完全に無関心だった。

 

……その完璧さが、動揺を表しているように見えた。

人が自分の本心を隠すためにすることは二つだ。無表情を貫くか、狂うか。あるいはその両方か。

おれにはわかる。おれも、狂って見せているから。

自分の本心が微塵も入り混じっていないから、演技に没入できる。自分だと認識していないから、狂いきれる。そう、完璧にだ。

そして、その完璧というのは不自然なんだ。世に完璧なものなどないはずなのだから。

 

だが、おれはそのことを指摘するつもりはなかった。この後うまく交渉しなければならないんだ。わざわざ余計な茶々を入れることもない。

女の言葉をそのまま受け止め、おれは問うた。

 

「で、お前はどうする?もうお前を縛る契約はないぞ」

「……そうね。じゃあ、あたしを開放してくれないかしら?」

「それは無理だ」

「……なぜ?」

「試さなければならないことがある。お前を使ってな」

「……嫌だといったら?」

「……嫌とは言わせない」

「そう……なら……」

 

……言っておくが、別に鈍感系主人公のまねをしているわけではない。

交渉術だ。ドア・イン・ザ・フェイスとかそういう類の。それのこっち版とでも言おうか。

意味ありげなことを言って見せて、相手の中で膨らませる。このクソみたいな世界だ、いくらでも想像できることがある。で、本来の要求を言ってみれば、なんだ、そんなのかと拍子抜けするわけだ。

おれは今まさにそれをやっている。この次が本題だ。

 

「宿付き。飯付き。安全の保障。……これでどうだ?」

「は?」

「お前には死なないでいてもらいたい。それが実験内容だ」

「…………」

「……不満か?」

「……あっはっはっは!何それ!?愛の告白のつもり?」

「いや、違うが」

「……なんだ、つまらないわね。……で、どういうつもりなのよ」

「言ったとおりだ。お前が死ぬことで不都合なことがあってな」

「何よ、不都合って」

「……いや、言っても信じないと思うぞ」

「いいから、早く言いなさいよ」

 

思えば、おれは今まで誰にもこのことを言ったことがなかった。

普通に考えて頭がおかしくなったとしか思えないし、信じてもらえるはずがない。だからだ。

だが、なぜかおれは女の言葉に促されるままに言ってしまった。

 

「お前が死ぬと、おれは今日の朝に戻されるんだ」

「…………?」

 

女が目をパチクリさせてこちらを見返してくる。

その目線は、妙に優しかった。あたかも痛い中学生を見るかのような目だ。

 

「だから言いたくなかったんだよ……」

「……わかったわ。そういう設定なのね」

「設定言うな」

 

 

「……ま、その真偽のほどは置いといて…………さっき言った条件、ほんとかしら?」

「本当だ。……おれの実力の程はさっきで分かっただろう?」

「あれはノーカン。あんたはあたしが来るのが分かってたんでしょ?……なら、ノーカンよ」

「負けず嫌いか?」

「ええ。悪い?」

「……いいや。で、どうなんだ?」

「……そうねえ。ま、取りあえずは付き合ってあげようかしら」

「……本当か?」

「ええ。……でも、覚えておきなさい。あんたを殺れると思ったらいつでも殺るから」

「……覚えておこう」

 

 

 

かくして、契約はなった。

おれは住む場所と食うもの、それに安全を提供する。

あの女は死なないことを提供する。

何とも奇妙な契約だが、おれの身に起こっている現象を解き明かすためには仕方がない。あの女が鍵なのは間違いないのだ。

期待と不安を抱えながら、おれは眠りについた。

……勿論、女は縛り付けておいた。ぶつくさ文句を言っていたが仕方が無い。第一、寝首を搔くと宣言している奴を野放しにするわけないだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝だ。目が覚める。見慣れた天井。ここはおれの隠れ家だ。

今日はいつだろうか。今日のままか、それとも明日か……

 

 

 

 

 

「あら、起きたみたいね。で、早くこれを解いてくれないかしら」

 

……明日だ。ここは、明日だ。

何故かって?

銀髪で赤い角の女サルカズ。

名もなきその女は、確かにそこにいた。

 

 

 

 

 

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