彼女がおれたちの傭兵団に加わって半年ほどが経った。
半年という期間はおれが思う人生の尺度からいえばだいぶ短い期間だが、サルカズ、ひいてはカズデルという尺度からすれば、それは余りにも長い期間だったようだ。
長い間この地で続いていた混沌とした生存競争は、急激にその姿を近代的な「戦争」へと姿を変えてしまった。原因はただ一つ。テレシスにテレジア殿下が反旗を翻した。これだけ。たったこれだけのことで世界は大きく変わってしまった。流石殿下の求心力だとか、もっと早く態度を露わにすれば良かっただとか世間の反応は様々だが、おれたちにとって重要なのは戦いが激化したという事実だけだ。
テレシス率いる軍事委員会と殿下という二大勢力の覇権争い、その構造にカズデルに氾濫する傭兵たちは取り込まれる事を余儀なくされている。現時点でほとんどの傭兵は旗色をあらわにし、各陣営の尖兵、兵隊と化した。
兵隊と兵隊の戦い。これまで傭兵として無秩序に振るわれてきた暴力が、絶対者の下で束ねられ、鍛えられ、冷徹に研ぎ澄まされた武力になった。だとすれば、戦いの激化は必然だろう。
だから、もう傭兵などというのはほとんど存在していない。この情勢下にあって未だどちらにもつかないのは、よっぽどの日和見主義者か自殺志願者くらいだ。前者はカズデルの地にあってはとっくに淘汰されているし、後者は頭がイカれてる。つまり、そんなことをするやつはまずいないということだ。
ただ何事にも例外は存在するもので、未だに傭兵という仕事を続けている連中が存在している。話の流れからお分かりの通り、それがおれたちというわけだ。知り合いの傭兵連中はみんな就職にめでたく成功し、無所属なのはおれたちかヘドリーとイネスのところくらい。
ということで皮肉なことではあるが、どうやらおれたちは最後の傭兵になれたらしい。
なぜこんなことになったのかといえば、傭兵団の構造が原因だ。各部隊にかなりの裁量権を与えているのがここでは仇となった。独自色を持ち始めていた各部隊はよく言えば多様性に富み、悪く言えば纏まりがない。様々な人材を取り込んで巨大化していった組織だ、どちらかに付けば忽ち組織は空中分解し内紛を始めるだろう。自ら育て上げてきた組織をそのような形で破壊することを、団長は望まなかった。
その結果がこれだ。団長の求心力、政治力、そして暴力。そのおかげでおれたちは組織としての体裁を保ったまま今日まで存在している。
危うい組織に見切りをつけ立ち去るもの、縛られるのを是とせず、自由な傭兵を求めやって来るもの。
みんな人それぞれだ。
おれとΩは残ることにした。誰かの命令で死ぬのは嫌だし、命令されて殺すのもまっぴらごめんだ。
あくまで自分の意思と責任において殺し、そして死ぬ。ここに生まれ落ちた時からそう決まっていたんだ、今更それを捻じ曲げることなどできない。
彼女が残ったのも同じだ。好きなように生き、好きなように死ぬ。それがおれたちなのだから。
そんな今では珍しくなった傭兵として過ごしているある日。
おれたちは依頼を受けてとある廃工場に向かっていた。
依頼、というのは基本的には団長がどこからか受注してきたものだ。色んな場所に顔が利くらしく、二大勢力の間でのらりくらりと仕事をしている。
今回の依頼内容はある傭兵団のトップ会談を潰すこと。廃工場で極秘に行われているそれを妨害し、ついでに頭を潰してしまおうという作戦だ。
情報によれば奴らはごく少人数でこの会談に赴いており、おれとΩでなら十分に殺れると判断された。
隊長から作戦を知らされたときは部隊全員で仕事をするように進言したのだが、別件があるらしくおれたち二人での作戦に落ち着いたというわけだ。
「そっちはどうかしら」
「うーん……」
双眼鏡を覗き込んで視線をめぐらす。先ほどから見張っているのだが、見回りも人の出入りも見られない。
「……人影は見当たらないな」
「こっちも同じ。情報通りってことかしら」
おれはどうだかなと思った。極秘会談ということだし、分かりやすく見張りをつけていないというのは十分に理解できる。人の出入りについても同様だ。
だが、この手招きされているような状況がおれはどうにも気に入らなかった。ふたを開けてみたら工場内に兵隊がぎっしり詰まっているなんてことも十二分にあり得る。
ついこの間もそれで殺られかけたのだ、用心するに越したことはない。
「……この前みたいに派手にぶっ放すのはやめろよ?」
なんてったってこの隣におわすΩさんは人気がないのをいいことに正面からグレネードランチャーをぶち込んだ前科をお持ちだ。結果として10倍の弾をお返しされて死にかけたのをおれは忘れてないぞ。
そうやってくぎを刺すと、彼女は両手をあげてお手上げのポーズをとって手をひらひらとさせた。
「ちゃんと反省してるから安心しなさい。今日は慎重にやるわ」
「頼むぞほんとに……」
若干の不安さを覚えながら行動開始だ。
障害物に身を隠しながらじりじりと工場へと近付いていく。時々空に目をやって巡視ドローンがいないか確認しながら、おれたちは工場外壁部までたどり着いた。
「さてと……ここからどうするかだな」
「あんたのアーツで壁をぶち抜くってのはどうかしら?」
確かにおれのアーツなら大した音は出ないし確実に壁をぶち抜ける。いつもだったら爆弾を使いそうなところだが、この間の反省を存分に生かしてくれているようだ。
「冴えてるな。よし、それでいこう」
「ふふっ、あんたも自分のアーツの使い道くらいちゃんと考えときなさいよ」
満足げな表情のΩを無視しつつ、工場の見取り図を取り出す。ぶち抜くにしても場所が肝心だ、ちょうど倉庫のような一室を発見したので、その外周に当たる位置へと移動する。
「よし……準備はいいな?」
「ええ」
返答に対して頷き返すを、壁に向かってアーツを発動させた。空間がぐにゃりと捻じ曲がって分厚いコンクリートがぐしゃりと潰れる。石材の煙越しに向こう側の景色が見えたことから、貫通を確信した。
行くぞとハンドサインを出しつつ、穴から中へと躍り込む。狙い通り、そこは倉庫だった。
右、左と敵がいないことを確認しつつ、Ωと頷きあって前を進む。
倉庫というだけあって棚が立ち並んでおり、死角が多い。二人でカバーし合いながら慎重に進んでいく。
幸いにもここには敵はおらず、無事に扉の前へとたどり着くことが出来た。
この向こう側は恐らく工場の操業スペースのはずだ。大きく開けた構造になっており、身を隠す場所に乏しいだろう。
彼女が壁に耳を押し当てて音を聞いていたので、何か情報が得られたか尋ねる。
「どうだ?」
「数人分の物音がするわね。まあ、大勢いるってことはなさそうだけど」
どこかに向こう側を覗ける隙間がないかと探すが、どうにも見当たらない。またアーツを使ってもいいが、人がいそうである以上気付かれてしまう危険がある。
……ここはいっそのこと爆弾で派手に吹き飛ばしたほうがいいだろう。爆炎に紛れればこちらもある程度動ける。そう思ってΩの方を見ると、任せろとばかりの表情で爆弾を手にする彼女の姿が。
どうやらおれの考えはお見通しだったらしい。
爆弾をセットする様子を横目で見ながら銃を構える。セーフティーを連射に合わせて準備は万端だ。
セットが終わったのか、Ωも得物を構える。確認をするようにこちらを向いた彼女に対して親指を立てると、壁から離れて時を待った。
火薬が炸裂し、重い金属の扉が吹き飛ぶ。よく計算された爆発はおれたちに危害を加えず、綺麗に扉だけを吹き飛ばしていった。
発生した爆炎に紛れ、扉に向こうへと転がり込む。煙の向こうに人影を認めたおれは銃を構え、そして引き金を……
「来たか、W。それにΩ。遅かったな」
引こうとしたその刹那。煙の向こうから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……隊長?」
隣のΩも思わず動きを止める。
なぜ隊長がここにいるのだろう。別件があるんじゃなかったのか?
やがて煙が晴れ、人影の全貌が明らかになる。
そこにいたのは隊長だけじゃない。おれたち以外の部隊員全員だった。
緊張が一気に弛緩する。
どうやら仕事は既に隊長たちが片付けていたようだ。
しかし、別件というのは一体……
そんなことを考えながらおれが隊長に近づこうとした瞬間、それは起こった。
おれの体は地面に突き飛ばされ──鉄が肉を切り裂く音が伽藍洞の工場に鳴り響いた。
「は?」
目の前の情報が何一つとして頭に入ってこない。
どうして隊長が剣を抜いているのか。
どうしておれが地面に倒されているのか。
どうしてΩは微笑んでいるのか。
どうして──あいつの首が宙を舞っているのか。
残された胴体から噴水のように鮮血が吹き上がる。血に濡れながらようやくおれは理解した。
隊長が裏切ったのだと。
「……すまんな、W」
言葉とともに剣がおれに振り下ろさ
「はっ……はあ……はあ……」
目が覚める。どうやらおれは今朝に戻ってきたらしい。死んだはずのΩも隣ですやすやと眠っている。規則正しい寝息の音が、きちんと胴体と首から上がくっついていることを教えてくれていた。
「ふう……」
頭では戻れるとわかっているのだが、何度やっても慣れない。あいつがちゃんと生きていることを確認するまでは安心できないのだ。
眠っているΩの頭を軽く撫ぜる。銀糸のさらさらとした感触とともに温かな体温が伝わってきて、不安と恐怖で凍り付いたおれの心を溶かしてくれる。
もう殺させはしない。おれは立ち上がると今日起こる出来事を整理し始めた。
まず今の状況だ。おれたちは今とある廃ビルにいる。拠点からはだいぶ離れていて、作戦のために遠征してきた場所だ。ここに宿泊することについては現地に着いてから決めたから、おれたち以外は知らない。
発信機が付けられていれば話は別だが、装備のチェックはきちんとしてあるし、寝込みを襲われていない時点で隊長もここは知らないのだろう。
今日の任務である会談の襲撃だが、隊長の裏切りを考えるとそもそもそんな任務はないという可能性が高い。何せ、この任務は隊長から伝えられたものだからな。
団長が仕事を引き受け、それを各部隊に割り振って、隊長から部隊員に伝えられる。つまりおれたちは仕事のことを隊長からしか知ることができない。
この仕組みで今までやってこれたのは、隊長が裏切ることなんてなかったからだ。団長と昔から付き合いがあるし、その恐ろしさと強さをおれたち以上に知っているのが隊長たちだ。下っ端が裏切ることはあれど、隊長の裏切りなどこれまででは考えられなかった。
だが、現実に隊長は裏切った。ほかの部隊員もいたのを考えると、説得できなさそうなおれとΩを殺してその首を手土産に部隊丸ごとどちらかの陣営に就こうという算段なのだろう。恐らくは摂政王のほうだと思うが。
では、おれたちはどうするべきだろうか?
一つはさっさと逃げ出すというのがあるだろう。罠と知っていてこちらから飛び込んでやる必要はないし、この場をしのぐには一番良さそうだ。
ただ問題なのは、逃げた後どうするかという事。恐らくおれたちが工場に現れなければ隊長は団長におれたちが仕事をせずに逃げ出したと報告することだろう。そうなれば裏切り者はおれたちでこの先仕事にありつけるかはかなり怪しくなるし、それどころか追われる身になるかもしれない。
こうなれば傭兵を続けていくことは最早不可能で、どちらかの陣営に就くことを余儀なくされるだろう。
……いや、隊長が裏切るということはそろそろこの傭兵団も危ういのかもしれない。
元から二つの陣営の間をフラフラしていた集団で、精鋭ぞろい。厄介なのは間違いないのだ。
力のある集団であるためにこれまでは見逃されてきたが、本腰を上げて潰しにかかられればいくら団長といえども対抗するのは難しいだろう。そうなれば待っているのは破滅だ。
バーナーに火をつけ、水の入ったコッヘルを乗せる。ガスの燃焼音をBGMに、思考が張り巡らされていく。
おれを殺す時の隊長の顔。あの表情は何だったんだろうか。悲しそうな、寂しそうな、苦しそうな、そんな表情。……まるであの時のモローのようだ。
隊長にはやむにやまれぬ事情があるのだろうか?
ハンディミルで豆を挽くと、はじけるようにして辺りに芳醇な香りが漂い始めた。微細な泡がポコポコと湧き出る音に合わせ、豆が砕けて歌をうたう。
だが隊長はその事情をおれには話さず、おれを殺すことを選んだ。だとすれば、話し合いでどうにかしようという道は既に閉ざされているのかもしれない。
試してみることはできる。だが、おれは隊長が一度決めたことをそう簡単に翻意する人ではないと知っているし、そのためにあいつがもう一度死ぬようなことがあってはならない。
未だにどうして時間が巻き戻るのかわかっていない以上、いつ時間が戻らなくなってもおかしくはないのだ。
……もしあいつのいない世界にひとりで取り残されることになったら。
……正直、おれは生きていく自信がない。
チタニウムのカップにドリッパー、フィルターをセットして粉を入れ、沸かしたお湯を注ぐ。もこもこと泡が湧き出てくるのを眺めながら、抽出が終わるのを待った。
逃げる以外におれが考えていたこの状況を打開する方法は隊長や他の奴ら全員を殺るということだ。
……これを思いついた時のおれは裏切られたのとあいつが殺されたというので頭が沸騰していたのだろう。
隊長、ネビル、リュウ、マニー、ワイノット、リコ、ピート。どいつもこいつも長い付き合いをしてきた奴らだ。
もう敵になった以上、殺るとなったら殺るしかない。それはわかっている。情に流されて殺したくないだなんて言うつもりはない。
ただ。昨日まで確かに同じ側に立って戦っていた奴らだ、それを殺すというのは胸の底に何かしらの苦々しいものを感じずにはいられない。
そして、それはおれだけが感じるものではないのだろう。……隊長。
出来上がったコーヒーを啜る。ほろ苦く、ナッティーで、僅かながらに酸味を感じた。
黒い水面に映る自分の顔を見つめる。どうすればいいか、答えはもう決まっている。きっと初めから分かっていたことだ。
おれがそう決意を固めたとき、後ろからもぞもぞという音がしてきた。
タイミングがいいことに、あいつが起きたようだ。
「ん……ふわぁ……」
「おはよう、Ω」
「……おはよ。相変わらず早いわね、あんたは」
「……大事な話がある」
寝袋から抜け出して身だしなみを整えたのち、おれたちはマグカップ片手に向かい合っていた。
議題はもちろん、今日のことだ。
「……で、さっき言ってた大事な話って何なのよ?」
「今日の作戦のことなんだが……放棄しようと思ってる」
「……はあ?ぱーっと行ってぱーっと吹き飛ばすだけの簡単な仕事じゃない。なんであんたがそんなに弱腰なのよ」
「……2回目だ」
理解できないという表情から一転、Ωの顔つきが険しいものになる。
「へぇ……。今回のあたしはどう殺されたのかしら?」
「……隊長に首を刎ねられた」
「は?」
「おれたちは隊長に嵌められたんだ。この仕事は罠だ」
……沈黙があった。長い、沈黙が。
その間、Ωの視線は両手に包み込まれたマグカップに向いたままでピクリとも動かない。
驚愕、混乱、憤怒。胸中には様々な感情が渦巻いていることだろう。
おれは静かにあいつが口を開くのを待った。
「……で、これからどうするつもり?」
「逃げる。傭兵団ともおさらばだ」
「返り討ちにするってのもいいんじゃない?」
「……おれたちで隊長に勝てるか?それ以外の奴らもいるのに」
おれが逃げることにした最大の理由がこれだ。
単純に勝てる見込みが薄い。自分で言うのもなんだが、確かにおれやΩは強いし、大抵の奴らは殺れるという自信はある。
ただ、隊長は近接特化の身体強化系アーツの使い手で剣の達人だ。あまりにも相性が悪すぎる。
「……モローがいれば勝てるかもね」
「……死んだ奴が助けに来てくれるとでも?」
「……言ってみただけよ。……しかし、こんな世界で自分以外の奴を信じることほど愚かなことはないわね」
「…………」
「……誰かさんと過ごしてるうちに忘れてたみたい」
……Ωの言う事は理解できる。ここはカズデル、弱肉強食の地。生き残るためには自分以外を蹴落としていかなければならない。誰であろうと。
そんな風に思っていた。おれも、昔はそんな風に。
……けれども気づいてしまったんだ。誰かと一緒にいることの暖かさに、温もりに。あいつがそれを教えてくれたから。
確かにこの世界は信用できないもので溢れている。他者なんてその最たるものだ。例えアーツを使ったとしても、他人の心の内を100%知ることなどできない。
でも、だからといってだれも信用せず、一人孤独に生きていくというのはあまりにも寂しすぎるじゃないか。
「……確かにカズデルじゃ誰かを信じることは愚かなことなのかもしれない」
「……」
「……自分以外を信用しちゃいけないのかもしれない」
「……」
「……けれども。おれは……おれはお前のことを裏切ったりなんてしない。絶対に。……だから」
おれのことは信じてほしい。そう続けようとしたおれのことを遮ったのは、鈴を転がすような笑い声だった。
先ほどまでの緊張した空気が一気に弛緩する。
「ふふふ……あっはっはっは!」
「……そんなに変なこと言ったか?」
訝しげな顔をしたおれの質問に対して、彼女はニヤニヤとした笑みを浮かべながら答えた。
「……だって、信用してなきゃ一緒に住むわけないじゃない」
「……そうか」
口をついて出てきたのはたったの三文字。その裏にどれだけの想いが渦巻いているのかはここでは言うまい。Ωにからかわれるに決まっているからな。
「ふふっ、にしてもあんたは心配性ね。安心しなさい、これからもあたし専属シェフとして働いてもらうから」
「そっちは本職じゃないんだけどなあ…」
ぼやきつつ席を立ち上がる。
……さて、飯を作るか。
なんだかあいつの言っていることがあながち間違いでないような気がして釈然としないまま、おれは食材を用意し始めた。
せっかくおれが頑張って用意したジェノベーゼパスタとバゲット、ついでにぶどうジュースはあっという間にΩの胃袋の中へと消えていった。
早食いと大食いにかけてこいつの右に出るやつはいないんじゃないかと思う今日この頃……などと考えているとジト目の彼女が視線を送ってくる。はいはい、余計なことは考えるのやめます。
遅れることしばらくしておれも食事を終えると、向こうは既に荷物をまとめ終わったようだった。
飯の恩を売って片付けを手伝いさせながら今後の動きについて話し合う。
「……で、逃げるって言っても当てはあるのかしら?」
「……一応聞いておくけど、軍事委員会に付くのは…」
「なし」
おれの言葉を遮って返事が返ってくる。まあ、そりゃそうだろうな。いろいろな話を聞く限り、テレシス陣営の評判はすこぶる悪い。
にもかかわらず人が集っているのは、やはりその力故だろう。皆勝ち馬に乗りたいのだ。
裏を返せば殿下はかなり危機的な状況ということになる。わざわざ負けたいやつはいないから人が集まらない。人が集まらなければますます旗色が悪くなる。悪循環だ。
となればおれたちの取る道はだいぶ絞られてくる。カズデルから出るか、独立傭兵となるか。
……いや、実質一択というべきか。カズデルから出たところでおれたちサルカズに生きる道はない。
「……ヘドリーのところに行く」
「……へえ。お知り合い?」
「ま、何度も弾をプレゼントしあった仲だ」
「ずいぶん仲良しじゃない。……どうすんのよ」
肘で小突いてくるΩ。まあ、何も手がないわけじゃない。物事は交渉次第でどうにかなることだってある。
……あっちのプランじゃどうしようもなかったけれど、こっちのプランでなら取れる手がある。
あまり使いたい手じゃないが、この際仕方あるまい。
「古い友人を頼る」
「友人?あんたに友達なんていたのね」
「うっさい。……行くぞ」
「……ええ」
仮の宿を引き払いって歩き始める。
しばらくすると背後で一際大きな爆音がした。
隣に目をやるとにっこりと笑顔の彼女。念入りな証拠隠滅に感心するような、呆れるような。
ともあれ、これで宿に残してきたおれたちも派手に消し飛んだだろう。しばらく時間は稼げるはずだ。
目的地はまだ遠い。それまで……二人旅と洒落込もうか。