SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ 第二章 3話

「そ、そんな……」

 

 カーソルの色を見たエイミーは、絶望感を覚える。だが、それも致し方ないのかもしれない。

 彼女が攻略に挑み始めてから一週間。その間数多くのモンスターと出会い、戦い、経験を積んできた。その中で、一つ分かったことがある。

 それが、敵の強さを知る方法、というものだ。

 同じ敵でも自分よりもレベルが低く弱いモンスターというのはいるし、その逆でレベルが自分よりも高いモンスターというのも当然いる。弱いならまだしも、強いモンスターと出会った場合は、無策で戦うのは文字通り命取りとなりうる行為だ。だから、敵の強さの判別が、このゲームにおいて重要なファクターとなりうる。

 しかし、普通、敵モンスターのレベルというものはプレイヤーの方からは数値としては判別することができない。これがもし何かのスキルをプレイヤー側で持っていたのなら違うのかもしれないが、少なくとも第一層の時点では数値として計り知ることができないのだ。

 では、どうすればいいのか。答えはカーソルにある。

 エイミーの直感的には、カーソルの色が白に近い方が倒しやすい、つまりレベルの低い敵で、逆に赤に近い方が倒しにくいレベルの高い敵であると考えている。

 では、目の前の敵モンスター〈グラン・ネペント〉はどうだろうか。

 赤い。あまりにも赤すぎて黒にも見えるくらいに赤い。と、いうことは確実に自分などより格段に格上の敵であるということがわかってしまった。

 この場合、彼女に取れる選択肢は二つ。一つは、無謀にも戦うという方法。もう一つは、一時撤退である。いや、大多数のプレイヤーは後者を選ぶことだろう。

 普通のゲームであるのならばまだしも、これはSAO、一度のゲームオーバーで全てが終わってしまう世界だ。これがβテスト時代だったら、多少無謀であっても敵に突撃し、瞬く間にゲームオーバー、どうしてかなうはずもないのに戦ってしまったのだろうかと悔しさと恥ずかしさが入り混じった感情で復活してそれで終いだ。

 だが、このゲームは違う。一度の死で全てを終わらせる事になってしまう最悪なゲーム。二度目はない。言われて猪突猛進に敵に向かっていくのは、自殺志願者の行動にしか見えない。さらにいけば、このクエストは時間制限もないため、撤退しても何のデメリットもない。レベルアップや武装の強化をしてまたいつの日にか挑めばいいことの話だ。

 

「でも……」

 

 そう、撤退が許されるはずの、戦いだった。

 

「おばあちゃんが待ってるから……」

 

 エイミーの脳裏に浮かんできたのは、このクエストを自分に授けてくれたNPCの顔。

 指輪のことを話す時のあの悲しみのこもった表情は、決して忘れることができない。

 もしかしたら、彼女は勘違いをしていたのかもしれない。このゲームがあまりにもリアリティに凝っているからこそ、幻想を抱いていたのかもしれない。そのNPCが本物の人間だと、思い込まなければ、使命感という勇気を振るうことができなかったのかもしれない。

 

「はぁぁぁ!!!」

 

 少女は飛び込む。例え、無謀な戦いであると分かっていたとしても、待っている人がいるからと、ただその使命感という毒に侵されたまま。

 けど、結果は明白だった。

 

「っ!」

 

 ムチの一本がエイミーの身体目掛けて降ってきた。彼女は、それを間一髪で避ける。避けたはずだった。しかし、少しだけ動くのが遅かったのかもしれない。飛んで避ける際に残った足に、ムチの先が掠ったのだ。その瞬間。

 

「嘘……」

 

 HPが、一気にイエローゾーンにまで達した。この戦いまで、HPは確かに、緑色の液体で満たされていたはずなのに、一体どれだけのレベルの差があるというのだ。自分と、敵に。

 

「っ!」

 

 これは、まずい。エイミーは、ようやく自分の判断の過ちに気がついた。でも、それも後の祭りである。

 

「あっ……」

 

 〈グラン・ネペント〉が吐き出したのは、その下位互換であるリトル・ネペントも使用する粘着効果のある腐食液、それも上位種である〈グラン・ネペント〉が発するものであるため、粘着効果の持続時間も長い。

 エイミーは、自分自身の行動の後悔をしている時に食らってしまった。

 

「嫌、そんなっ!」

 

 視界に映るHPバーが、減っていく。元々イエローゾーンに入り、危険域まであとわずかとなっていたなけなしのHPが、その液体に吸収されるかのように急激にその量を減らしていく。

 自分の命の灯火が揺らされている感覚。実際には、1秒にも満たない時間。でも、彼女には永遠のような時間に思えたであろう。思わずには、いられなかったのだろう。

 とまれ、とまれ、とまれ。そう、何度もエイミーは心の中で祈った。たった一ドットでも構わない。だから、消えるな、命の液体よ。きえないで、命の灯火。そう、願わざるを得なかった。

 結果的には、彼女のHPはレッドゾーンにまで達したものの、それでもなんとか生き残ることに成功した。といっても、風前の灯には変わりない。いや、それどころか、もうすでに死神がその灯火に向けて息を吐こうとしている。そんな風にも思えてくるほどに、どうしようもない状態に陥っていたのだ。

 

「動いて、お願い動いて!!」

 

 エイミーは、必死に身体を動かそうともがく。しかし、上半身自体は動くものの、下半身は一切その場から動くことはなかった。

 それもそのはず。エイミーは、グランネペントの腐食液によって身動きを封じられたのだから。いや、それだけじゃない。実は。彼女の持っていた〈毛皮の外套〉が腐食液による耐久度減少によって砕け散り、電子の海に帰ってしまっていたのだ。

 しかし、そんなもの些細な事であるかのように、いや、些細な事だ。防具は、また買えばいい。でも、命は買うことはできない。授かり、育むことはできても、全く同じモノには決してならない。大切な命が、失われようとしているのだから。

 

「あっ!」

 

 グランネペントは、エイミーの身体に向けてムチを投げかけた。エイミーは、それを〈救済の剣〉で防ぐ。〈グラン・ネペント〉の攻撃は、まるで剣に吸収されるかのように消え去ったが、しかし、〈救済の剣〉の方もまた砕け散ってしまった。

 確か、事前に修繕もして耐久値は回復させていたはず。ソレなのにただの一度攻撃を防いだだけで砕けてしまうなんて、しかし、エイミーは戦慄する時間も与えられなかった。

 〈グラン・ネペント〉はその身体にムチを絡ませると、彼女の身体は地面から離れ、自らの目線の高さにまで掲げた。勝者の余韻にしたる王者のような振る舞いに怒りを感じればいいのか、それとも一思いに殺さないその情けに対して喜びを感じればいいのか、もうどっちかわからない。

 粘着効果によって動きを封じられているエイミーに対し、〈グラン・ネペント〉はさらに四肢を拘束するようにムチを絡ませる。追い討ち、いやもしかしたらそういう攻撃パターンのひとつなのかもしれない。わざわざ身動きが取れない相手に対してさらに身動きを取れなくするなんて、全然合理的ではないからだ。

 いや、もう合理的とか非合理的とかそんなこと考えている時間なんてない。今自分に与えられているのは、後悔の時間だけだ。

 そもそもからして、最後の悪あがきとして粘着効果から脱するために動いていたエイミー。しかし、こうして四肢まで抑えられてしまうとなると、例え粘着効果が解除されたとしても、その拘束から逃げることは不可能であろう。

 絶体絶命だった。

 

「私、死んじゃうんだ……」

 

 HPの残り、そして敵モンスターの攻撃力を見る限り、どう考えても次の攻撃を受ければゲームオーバーになることは確実。エイミーの脳裏に死という言葉が浮かんだ瞬間だった。彼女は、生きることに抗うのを止めた。

 腕も、足も脱力し、身動き一つ取らないエイミーの姿は、まるで屠殺される前の、電気ショックによって意識を失った家畜のようだった。生を諦め、目の前に迫った死を受け入れてしまっていた彼女は、もう、ヒトでは無かったのかもしれない。そう思えて仕方がない。

 死、とはどれほど痛いのだろうか。頭を焼かれる痛みというのは、一体どれほどの痛みを自分に与えるのだろうか。また、ゲームオーバーになった後どのくらいで自分は死に向かうのだろうか。もう、生を逆流し始めた彼女の中に、希望なんてものは存在しなかった。

 エイミーは自嘲する。なんで、こんな無茶をしてしまったのだろうかと。こんなことになるのなら、あの始まりの町にずっとずっといればよかった。羽化をまつ蛹のように、ずっとあの街の宿屋のなかで丸まっていればよかった。自分なんかが下手に勇気を出したせいで、友達や、家族を悲しませることになってしまう。自分は、なんと愚かな人間なのだろうか。

 

「罰、なのかな……これって、きっと私が弱虫で、勇気もないくせに、誰かのためになりたいって、思ったから……バチが、当たっちゃったんだ……」

 

 このままじゃいけない。そう思ったから、ほんのすこしの勇気を振り絞って、戦って、あのおばあちゃんのためになりたいって、そう思って。結果、こうなってしまって。

 なんという愚かな選択をしてしまったのだろうか。SAOをプレイしたことか、それとも蛮勇を侵してしまったことか、それとも、自分が、この世に生を受けたことか。

 それともーーー。

 生きるのを、諦めたことか。

 もう、何も考え付かなかった。

 

『シャァァァァァァ!!!』

 

 〈グラン・ネペント〉は、ツルのムチを彼女に絡ませたままその巨大な口を開けて、奥に見える虚空の中に招き入れようとする。

 身動き一つ取らないエイミーは、もう、モンスターの思うがまま。煮るなり焼くなり好きにしろという状態。

 虚空の中に招き込まれる刹那、エイミーの脳裏を掠めたのは、親への謝罪、弟への期待、友への詫び、そしてーーー。

 

「……」

 

 自分自身には、何も思わなかった。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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