SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
それは、本当に偶然の巡り合わせだった。
「おい、あのままじゃあの子! 俺助けに行ってくる!」
「よせ!」
〈グラン・ネペント〉が出現した直後。エイミーの姿を捉えたプレイヤーが2人ほどいたのだ。そのうちのひとりは、〈グラン・ネペント〉のその体格、そしてカーソルが認識できるギリギリの距離にいたために見えてしまった圧倒的な赤黒いそのレベル差を表す表示に驚愕した。
だが、それと同時にモンスターの目の前にいるプレイヤーーエイミーのことだがーが危険であることを察知して、すぐに助けるために駆け寄ろうとした。だが、彼のその行動は、隣にいた彼の親友とも言うべきプレイヤーによって止められてしまう。
「なんでだよ!」
「あのモンスターは俺たちよりも相当強い。なんの策も無しに戦いに行くのは、自殺行為だ」
と、彼は言う。そんなこと、自分だってわかっていると、駆け寄ろうとした男性プレイヤーは言い、こう言葉を続けた。
「でも、それはあの子だって同じかもしれないだろ!」
自分達では、モンスターと対峙している女性プレイヤーのレベルがいかほどのものなのかは計り知ることは到底不可能だ。もしかしたら、彼女は自分達より相当強く、あの巨大なモンスターと互角に渡り合うことができるプレイヤーなのかもしれない。
しかし、そうじゃない場合は別だ。早く、あの子を助け出さないと。そう訴える彼に対して、親友のプレイヤーは言う。
「いいから首を突っ込むな……俺たちがすべきことは、戦うことじゃない。この世界で、生き残ることだ」
「……」
一理ある考えだ。と言うよりも、正論に近い。ゲームオーバーによる死、それを避けるために、不必要な戦いは、そして身の丈に合わないような敵との戦いは避けるべきだ。そして、今目の前にいる女性プレイヤーはその大原則を破ろうとしている。だからこそ、死に近づいていっているのだ。本人が気づいていないにしても、気づいていたにしても。
けど、違うのだ。男は、親友の胸ぐらを掴むようにして言った。
「自分が生き残るために、誰かの命を犠牲にしていいわけないだろ!」
「……」
「俺は戦う……戦って、あの子のことを助ける。そして俺も生き残る……それでいいだろ!」
あまりにも、目に見えた暴論。もしも戦いになれば、あの巨体の敵を、女性プレイヤーも含めて三人で退けることなんて不可能に近い。そんなこと、自分でも気がついているはずなのに、どうしてこうもこの男はこうもお人好しであるのかと、心の中で頭を抱えた親友。
《前》の時からそうだった。お人好しで、余計なことに首を突っ込んで、無茶なことをすすんでしようとする正義感が服を着てあるいているような人間。彼の現実の世界での上司からは、『祭の取材に行っていつの間にか神輿を担いでいるような人間』だと評されていると聞いたが、まさしくその通り。
いつの間にか自分の方からすすんで首を突っ込んでいく。例え、それがどれほど危険で、命をかけるような戦いであったとしても。それを、理解していたとしても。止まることなんてない。例えそれが多くの人間に笑われるようなことでも、馬鹿となじられたとしても、それでも、彼は進む。あの時と、同じように。
「城戸……」
「なんだよ」
この時、彼が城戸、と呼んだ人間に対して何て言葉をかけようとしたのか、それがわかることはなかった。
「あの、どうかしましたか?」
新たなるお人好しが通りすがったおかげで。
その後、これまた偶然通りかかったサマーとその仲間達、そしてもう1人のソロプレイヤーに対し、城戸、いや≪キッド≫が頭を下げて頼み込んだことにより、合計で9人のプレイヤーがエイミー救助のために向かうことになった。その際、一番危険な位置。モンスターの動きを一瞬でも止める為に本体にソードスキルを当てる人間にキッド、そして親友の《ナイト》が名乗りを上げたのは、提案した人間故の責任だったのか、それとも何も考えてなかったのか、そしてそれに反対していたナイトがなぜ付き合ったのかは、今となってはもはやどうでもいい話し。
そして〈グランネペント〉が怯んだ隙に、彼女のことを拘束しているツルを切断する。これは、≪投剣≫スキルを保持していたプレイヤー≪サーヴァント≫、≪クリプテイッド≫、≪ラフルール≫、≪スノー≫、≪ハワード≫が担当。
最後に、筋力を鍛えていた≪サマー≫が受け止める手はずになった。しかし、まだレベルも低く、筋力の数値に不安が残っていたサマー、それを補助するためにソロプレイヤーである≪クレール≫が加わったことによって作戦は無事成功に終わった。
タイミング、あるいは正確性が少しでもずれていれば彼女の命は助かることがなかっただろう。そう誰もが考えるような、まさしく紙一重での作戦だった。それが、一時間前に発生した戦闘の顛末である。
「ってことがあったわけよ」
「そう、だったんですね……」
場面は、再びエイミーとサマーの二人が逃げ込んだ安全エリアの中に戻った。だが、中にいるのはその二人だけじゃない。
あたりは真っ暗闇に包まれ、そのエリアの外に出ると自分の手元すらも見えづらくなるような視界不良の中。その1エリアの中だけは淡い6つの炎が立ち上っていた。
うち四つは、もともと安全エリアを指し示すために四方に張り巡らされていた松明だ。なら、残る二つは何なのか、単純明快、答えは焚火である。
「いやぁ、でもこんな真っ暗の中で焚火をするのも悪くないって思えるよな」
「まぁ、そんじょそこらからモンスターの鳴き声が聞こえてこなかったら、だけど……」
能天気なキッドの声に、サーヴァントがあきれながらもそうツッコミを入れた。そう、今この場所にはすでに帰っていったクレール以外、全員の姿があったのだ。安全エリアとはいえ、のんきに焚火をやっていていいのかと思うかもしれないが、これには訳がある。
先の戦いの際、エイミーは主要武器として使用していた片手剣、〈救済の剣〉を〈グラン・ネペント〉の攻撃によって失っていた。そのため、今彼女が持っている武器は、強化も何もしていない初期武器の一つであるスモールソードただ一つ。それで危険なモンスターひしめくダンジョンを攻略するのは厳しい。
加えて、今はすでに夜。モンスターの出現アルゴリズムという物が変化して、昼間とはまた違ったモンスターが、真っ暗闇の中から襲ってくるという状態である。ちゃんと強化をした武器を持っている面々にとっても、視界の悪い状態で戦うのは困難だ。
この二つの状態で、一番近い村までフィールドを超えていくのは、厳しいと判断した彼、彼女たちは急遽、この安全エリア内をキャンプ地とすることに決定。事前に始まりの町の片隅で売られていたとても安いキャンプセットを広げて暖を取っていたのである。
このキャンプセット、性能のいい物であるのなら使用者の周囲に安全エリアを作り上げ、モンスターはおろか他のプレイヤーの侵入すらも防ぐ便利なものであるのだが、彼らが格安で買ったこのキャンプセットはそれにあらず。
安全エリアの中で使用するからこそ、こうやってのんきにキャンプをすることができているのだ。
簡単な夕食、この世界では最も簡単に手に入れられる食材である硬いパンと、これまた簡単にどこでも手に入れることができる水を焚火によってお湯にした物を口にしながら、話は先ほどのモンスターの話題になった。
「〈グラン・ネペント〉というモンスター……厄介だな……」
「確かに、僕たちもあとほんの少し引き際を間違えていたら危なかった……そう思います」
「あれが、エイミーさんが受注したクエストの標的なのは、間違いないんだよね?」
「はい……黄色い枠が見えたから……」
エイミーは、そんな危険なクエストに巻き込んでしまったことを申し訳なさそうに、うつむき加減でそう言った。クレールの言った通り、一歩間違えれば誰かが自分のせいで死んでいたのかもしれない。そう考えると、恩人とはいえその目をはっきりと見ることも憚れるのだ。
そんな彼女の心境を知ってか知らずか、スノー、そしてラフルールが言う。
「そんなに自分を責めたらだめですよ」
「そうですよ。みんな無事で帰って来たんですから、まずはそれを喜ばないと」
「そう……ですよね」
しかし、彼女の顔つきが変わることはなかった。今の彼女は、自責の念という名前の巨大な岩石がその身体にのしかかっている状態だ。そんな彼女に対して、何を言っても重荷をのけることなんてできない。
自分みたいな半端物が、ゲーム攻略なんて物に挑んだから。だから、こんなことになった。多くの人間を巻き込んだ。その事実は決して消えないのだから。
そんな彼女をフォローするために、クリプティッドは言った。
「あのモンスターの強さから推測すると……本来は、もっと上の階層まで行った後、パーティーを組んで挑むべきクエストだったんだよ。きっと」
なるほど、確かにその可能性も無きにしも非ずだ。それは、〈グラン・ネペント〉の攻撃方法にも見て取れる。今回エイミーを助け出した方法のように、ツタによる拘束をほかのパーティーメンバーの攻撃によって解放。そしてできた隙を狙って攻撃する。そういう意図の攻撃だったと考えれば複数人で戦うことを前提とした相手であることは十分考えられる。
しかし、もしそうだとしたら―――。
「私、そんなこともわからずにたった一人でそんなモンスターと戦った……私って、本当にバカですよね……」
「……」
完全に藪蛇の推論だった。自分の認識が甘かったという事をマジマジと思い知らされたようで、エイミーの自信は、ほとんど地に落ちたも同然。どう見繕っても、自分のような臆病者がほんのちょっぴりの勇気を出したところで同じことだったのだ。そう思えてならない。いや、そう思うしかないのだ。彼女には。
もう、彼女にかけられる言葉なんて、何もなかった。
「あぁ、確かにバカだな」
「ッ……」
ただ一人、ナイトを除いては。キッドは、そんな彼の言葉に驚き、言う。
「おい蓮!」
「ナイトだ。それに、俺は事実をありのままに言っただけだ」
「……」
キッドは、その言葉に黙り込むしかなかった。その隙に、ナイトはさらに言葉を重ねる。
「たった一度だけのチャンスを不意にして、心のないゲームキャラのために使おうとするなんて……俺の知る限り、そんなことをするような人間一人しか思い当たらない」
「え?」
その言葉、つまり、彼の中にはいるのだろうか。そのたった一人の心当たりが。
「おい蓮、それってまさか俺の事じゃないだろうな?」
「どうやら自覚はあるみたいだな」
「コイツッ……」
と、キッドが握りこぶしを作り、立ち上がろうとした。今にも殴りかかりそうな勢いだ。このエリアの中ではHPの減少は起こらないため、彼がいまナイトを殴ったところでその衝撃だけが伝わるだけで双方ともに害は与えられない。だが、誰かが誰かを殴るということ、そんな文字を耳にするだけで、その現場を目撃するだけでも、気分がいい者とは思えない。
そんな二人を、サマー、そしてサーヴァントの二人が止めにかかった。結果、何とか双方とも、というよりもキッドは落ち着きを取り戻し、元の席に座った。そのタイミングで、クリプティッドは聞く。
「でも、何ですか? たった一度だけのチャンスって?」
確かに、それは気になった。彼の言うところの、たった一度だけのチャンスが何なのか、その意味が。
ナイトは、飲んでいたお湯を勢いよく飲み干すと、コップを目の前にあった今にも崩れそうな木製の机の上に置くと、たった一言だけ。
「命だ」
とだけ、教えてくれた。
「命……いのちは、チャンス……」
エイミーは、その言葉を反芻するかのようにつぶやき続けていた。自分は、そのチャンスを不意にしようとした。命のないはずの、ゲームキャラのために。そんな自分に後悔はないだろうか。
あるに決まっている。そんなこと。でも、でも、でも。
「私の命なんです……よね」
「え?」
どうして、そんな言葉が出てしまったのか。エイミーは、ただそれだけつぶやくと人の輪から離れ、事前に買っておいた寝袋を出すとその中に入り込んだ。まるで、その言葉をつぶやいた自分を、永遠に眠らせようとするために。
悶々とした気持ちを抱えながら彼女の心の夜も、闇も、深まっていく。だが、それを晴らすことができる時は、その夜ついに訪れることはなかった。
プレイヤー№ 70 ???(キッド【KID】)≪原作:???≫
プレイヤー№ 71 ???(ナイト【KNIGHT】)≪原作:???≫
プレイヤー№ 72 ???(サーヴァント【SERVANT】)≪原作:???≫
プレイヤー№ 73 ???(クリプティッド【Cryptid】)≪原作:???≫
プレイヤー№ 74 ???(ラフルール【Lafleur】)≪原作:???≫
プレイヤー№ 75 ???(スノー【Snow】)≪原作:???≫
プレイヤー№ 76 ???(ハワード【Howard】)≪原作:???≫
プレイヤー№ 77 ???(クレール【Claire】)≪原作:???≫
この内、キッドとナイトは同じ作品。
前回出てきたサマーとクリプテイッド、ラフルール、スノーの四名は同じ作品からの出典となります。
他、サーヴァント、ハワード、クレールの三名はそれぞれ別々の作品からの登場。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい