SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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どこにでもある家庭の姿(元タイトル:SAO×干物妹! うまるちゃん)

 干物。魚などの魚介類の身を干した乾物である。古くは奈良時代に宮廷への献上品として贈られたこともあり、江戸時代頃には一般庶民に普及したそれは、保存食としても、常用食として食べてもおいしいものである。

 ここに、一人の高校生の少女がいた。名前は土間埋(どまうまる)

 成績優秀、容姿端麗、スポーツ万能。人気も実力も兼ね備えたまさしく完璧人間であるその少女。だが、しかしそれは仮の姿。今もこうして友達と一緒に下校中の彼女も、ひとたび家に帰ると水を得た乾物も如くの大変化を起こす。

 だが、それはまた後述することとして、今は彼女たちの日常風景を覗き見させてもらうとしよう。

 

「え? SAO」

「そうですわ! ご存じありません?」

「し、知らないけど、何なのそれ?」

 

 そう突如として声をかけたのは、友人の一人である橘・シルフィンフォード、通称シルフィンである。

 ドイツ出身のハーフのお嬢様で、水色の長髪が特徴的な女の子。とても目立ちたがり屋で大げさな動作を用いて他人に声をかけることが多く、努力家の一面を持った女の子だ。ドイツ出身でありながら日本の文化を好んでおり、特にゲームに関しては、ゲーマー『TSF』の異名を持つほどの実力者である。因みにTSFとは個人情報を特定されないために用意されたハンドルネームではあり、そのため顔を隠すためのアイマスクも配布されてはいるのだが、目立ちたがり屋であることが災いしているのか当人は全く隠すつもりなく、ゲームの大会では本名で参加していたりする。

 そんなシルフィンの発したSAOに関してうまるはよく知っていたのだが、シルフィンを含めた友人たちには自分がゲーマーであることを隠しているので知らない体で話を進めることにする。

 

「確か、新しく発売されるゲームの名前……だよね?」

「それまでのゲームシステムから一線を画すVRMMORPGという新ジャンルのゲームで、ゲームの中に自分の意識が入り込んで、自分の身体でプレイしている感覚を味わえるゲームだと、ニュースで言っていました」

 

 というのはこれまたうまるの友人である海老名菜々(えびななな)本場切絵(もとばきりえ)である。

 海老名は、秋田から一年前に東京にある高校に通うために上京してきた秋田美人で、うまるの住むアパートの一階、真下に住んでいる。うまるの親友たる少女である。普段は標準語であるが少し気を抜いたりすると元々の秋田弁をしゃべったりする。あと、この女子高生四人組の中でも一番の食べ盛りであり、以前ファーストフード店に行った際にはハンバーガーを一人で何個も食べる姿が目撃されている。だが太らないというかなりうらやましい体質の持ち主でもある。

 切絵は、小柄でポニーテールの女の子。目つきが鋭かったり無口であったり無表情なことが多めであったりとかなり近寄りがたい印象を持った少女だが、実はただの人見知りのだけのコミュニケーション障害を持った女の子である。水泳部に所属しており、都大会で3位に入るほどであったり、家ではある事情で事あるごとに木刀を振っているという運動神経が良いという一面を持っている。

 

「そう、そのSAOですわ!」

「それで、そのゲームがどうかしたの?」

「実は私、そのSAOの予約抽選に当選いたしましたの!」シュバーン

「えッ!?」

 

 SAOは、その人気に反比例して初回販売本数がたったの1万本という販売開始の前からプレイするのに非常に何度が高いという超プレミヤ商品なのだ。

 そのため、店頭販売されるSAOはごくわずか、ほとんどのお店では抽選販売という形を取ってSAO、そしてそのSAOをプレイするためのハードであるナーヴギアを販売しているのだ。

 この販売本数1万本という狭き門をかいくぐって話題のゲームを手にいれることが出来たのだ。目立ちたがりやのシルフィンが自慢したがるのも分かる気がする。

 のだが。

 

「あ、そういえば私のところにも当選の連絡が来ていました」

「「え!?」」

 

 そう言ったのは切絵である。彼女の言葉に、自慢をしていたシルフィン、それからうまるもまた驚きを隠せないでいた。二人同時に目線を向けらえた切絵、仲良くなったとは言えコミュニケーション障害であることは変わらないため少しだけおどおどとしながら言う。

 

「え、えっと……じ、実はある人の影響でここ最近ゲームに興味がありまして……それで……」

「あ……」

 

 このある人、というのはうまるには察しがついた。うまるの妹『ということになっている』こまるの事だ。

 切絵は、よくうまるの家に遊びに来るのだが、その際うまると一緒にゲームで遊んだりうまるの絵をかいたり、時に夕飯をご馳走になっていたりするのだ。そのためゲームのことに関して以前よりも詳しくなってSAOにも興味を持ったのだ。

 因みに、切絵が影響を受けたというのがこまるという少女なのにうまると遊んでいると言ったかについてはとある理由があるのだが、これもまた後述することにする。

 

「そ、そうなんだ……実は私も応募はしておいたんだけれど外れちゃったみたいで……」

「え、海老名ちゃんも?」

「うん……」

 

 どうやら、海老名もまたSAOの抽選に興味本位で申し込んだようだが、残念ながら彼女は外れてしまったらしい。

 だが、もしも全人類がこの抽選という物に応募していたとすれば、当選確率は1%を下回っているはずなので、四人中二人が当選しているだけでもすこぶる運が良いと言えるだろう。

 いや、二人ではなく三人だ。海老名の言葉を聞いたうまるは苦笑いを浮かべながら言った。

 

「そうなんだ。残念だね、私もお兄ちゃんの知り合いのβテスターだった人からSAOとナーブギア貰っていたから、もし海老名ちゃんも持ってたら四人で遊ぶことが出来たのにね」

「「「え!?」」」

「うまるさんも、SAOをGETしたのですか!?」

「それも、βテスターからって……よくその方は譲ってくれましたね……」

「えっと、βテスターって?」

「あっ、βテスターは、ゲームを販売する前にテストプレイをしてくれる人たちの事です。確か、SAOは千人のβテスターを募っていて、その千人にはそれぞれSAOのソフトが謝礼として贈られたそうです」

 

 と、師匠―うまるの妹(仮)のこまるのこと―が言っていました。と切絵は最後に付け加えた。

 

「えっとね、その人は仕事の一環でβテスターをやっていたらしくって、もう役目は終わったからってお兄ちゃんが貰って……それで、少し興味があったから私もやろうかなって」

「そうだったんですの……」

 

 ともかく、これで四人中三人が初回で販売されたSAOを所有するということになった。こうなると、唯一持っていない海老名が少しだけかわいそうになってくるのだが。海老名は。

 

「わ、私のことはいいから。みんなは楽しんできて」

 

 と言うので、やや後ろ髪を引かれる思いにはなる物の三人でしばらく一緒にプレイして、海老名にもその途中で貸したりしようということで話が終わった。

 

「そういえばうまるちゃん」

「? なに、海老名ちゃん」

 

 帰る中で、別々の道を行くシルフィンと切絵の二人と別れたうまるは、同じアパートである海老名と一緒に並んで帰っていた。そんな時、海老名がふと聞いた。

 

「今日はすぐ家に帰らなくてもよかったのかなって」

「えッ?」

「だって、うまるちゃんここ最近学校が終わったらすぐに家に帰っていたし、休日もあまり遊べなかったから……」

「あぁ、えっと……」

 

 実はここ最近うまるは学校が終わればダッシュで家に帰宅し、休日もまた遊びに誘ってもほとんどを忙しいということを理由として海老名やシルフィンたちと遊びに行かなかったのだ。

 それは、確か夏休みの途中の8月から始まったと記憶しているのだが、一体何をしていたのだろうか。それが、海老名の疑問であり、また今日は帰らなくてよかったのかというのも彼女の疑念の一つであった。

 それに、なんでさっきは嘘をついていたのかも気にはなったが、しかし今はその事だろう。

 うまるは、どこか遠い目をして考えるようなそぶりをした後に言う。

 

「ほ、ほらさっきお兄ちゃんのβテスターの知り合いがいるって言ったでしょ? その人に、SAOがどんなゲームでどう遊ぶのかとか教えてもらって。実は、私も少しだけプレイさせてもらっていたんだ」

「そうなんだ……」

「うん!」

 

 と、言い訳を言っているが実のところ少し違っている。

 厳密にいえばあっているのは実際にSAOをプレイしたことがあるという部分だけ、それ以外が嘘をついているのだ。

 実のところ、彼女はβテスターなのである。そのため夏休みの途中から付き合いが悪くなったというのもほぼ毎日一日中、下手をすれば夜中までもSAOの中に入り浸っていたのだ。

 では、何故彼女はそのことを隠しているのか。理由は簡単である。βテスターというのはその性質上応募してくるのは最新のゲームを誰よりも早くプレイしたいと願うゲーマーがほとんど。つまり、βテスターであるということは自分がゲーマーであることを公言するようなものなのだ。

 うまるは自身がゲーマーであるということは隠しているし、何ならゲーム等あまり興味がないという体裁で生活している。そのため、元βテスターであるということがばれると彼女自身が困るのだ。

 因みに、同じゲーマーであるシルフィンにはライバルが存在する。その名も『UMR』。この字面を見てもらえれば分かると思うが、正体はもちろんうまるである。

 だが、何故かばれない。普通に声をかけてもばれない。そのマスク一つあるだけで顔がばれない。なんでばれないんだと言わんばかりにうまる要素バリバリであるというのにばれない。それこそパンが主人公のあのアニメに出てくる細菌の変装張りに全くばれることがない。

 以上の事から、彼女自身がゲーマーであるということを知っているのは、基本的に兄と、その同僚くらいなのである。

 なお、このゲーマーであるということを隠しているというのもまた、彼女の裏のキャラクター、いや彼女の本性に係わってくるものであるのだが、あともう少しだけそれを説明するのは待ってもらいたい。

 

「じゃあね、海老名ちゃん」

「うん、また明日」

 

 アパートの玄関にて海老名と別れたうまるは、二階へと上がる。

 そして、ある部屋の前で立ち止まった。そこは、自分と兄が二人暮らしをしている部屋だ。

 今、彼女の目の前にある扉。それをくぐると、彼女の印象の全てがひっくり返る。

 この先にあるのは楽園。楽園の中にいる彼女の本性を見たことがある人間は幾人か、しかしそれがうまるであることを気が付く人間はいなという不可思議現象の起こる場所。

 うまるは鍵を回して扉を開け、中に入る。玄関から見る限りでは普通のアパートの部屋の一つという印象しかない。少し進んだ先には曲がり角があり、そこを右に、左に進んだ先に彼女の寝室兼リビングたる一室がある。それ以外は後はバスルームだったりトイレだったり台所しかないというシンプルで狭い作りの間取りである。

 うまるは、背後で扉が閉まるのを待つ。待つ。待つ。

 閉まった。

 うまるの時間の幕開けである。

 

【うまるーん】

 

 謎の擬音が鳴る果たして、それがいったい何なのかうまるにも分からないような音だ。

 それを皮切りとして、うまるの身体に変化が生じる。

 それまで5頭身はあろうかというほどのモデル並みのプロモーションを持っていたはず。そんな彼女の身長がみるみる内に縮んでいく。断じて部屋の方が大きくなっているというわけではない。彼女の身長が明らかに低くなっているのだ。

 この不可思議現象、まるで魚介類を干せばその身がギュッと縮こまる干物を再現したかのよう。

 それが理由かは不明であるが、これについて兄はこう呼称している。

 

干物妹(ひもうと)

 

 と。

 

「うまる! 帰ッ還~!!」

 

 うまるは、先ほどまでの品行方正さが嘘であるかのように学生鞄や靴を放り出して廊下を走る。

 そして、突き当りを華麗なターンを加えながら曲がっていき、先ほど言っていたこの家に立った一室しかない部屋にたどり着くと、今度は制服を脱ぎ捨てて、オレンジ色のフードをかぶる。

 うまるは、さらに冷蔵庫から2Lコーラのペットボトルを取り出すと、それを携えてパソコンの電源を入れる。

 

「さぁてネットをチェックしないと! うまるが学校に行っている間に、なにか新しいゲームの情報は入っていないかな?」

 

 これが、家にいる時のうまるの正体干物妹うまるである。

 外ではゲームはしない、アニメも漫画もほとんど見たことがないというお嬢様系のキャラを演じている彼女であるが、一歩家に入るとその擬態をはぎ取って素の女子高生、いやもはや幼稚園児のようにもみえる姿に変貌することが出来るのだ。

 ちなみに、この状態の彼女を切絵が目撃した際、うまるが苦し紛れについた嘘が、うまるの妹こまるの正体なのである。

 以来、うまるは外で、そして海老名の前では可憐で非の打ち所がない少女を。シルフィンの前ではUMRとしての姿、切絵の前ではこまるの姿と合計四つの姿を使い分けて生きているのだ。

 そしてそんなうまるの正体、というよりもうまるの本当の姿全てを知っているのは、彼女の帰宅から遅れること数時間して帰宅した社会人の兄、土間タイヘイのみである。

 

「ただいまぁ~」

 

 みると、タイヘイはずいぶんと疲れているように見える。彼の会社は残業多め、仕事量多めという傍から見るとややブラック企業に片足を踏み入れているような会社なのだが、そのためかタイヘイは仕事から帰るとほとんど毎日のように屍のような顔を見せているのだ。

 疲れ切って帰ってきたタイヘイであるが、彼のすることはまだ終わらない。これからさらに晩御飯を作らなければならないのだ。

 

「あ、お帰りお兄ちゃん」

 

 そんなうまるは寝転びながら携帯ゲーム機を操作してタイヘイに向けてそう返事をする。

 外面のうまる、つまり海老名たちと一緒にいるうまるであればここで疲れているタイヘイに助け舟を出すところである。だが、本来のうまるに戻っている現在であるので、ここで彼女の口から出るのは。

 

「ねぇ、ジャンプー買ってきた? 先週面白いところで終わっているんだよねぇ」

 

 と、週刊誌をねだる始末である。

 

「あ、そうそう買ってくるんなら、ついでにポテイトとコーラも」

 

 舌の根の乾かぬ内に次から次へとタイヘイに要求をしているうまる。

 みると、帰宅したときには未開封であったはずのコーラはすでに飲み干しており、床にはお菓子の空袋やらゲームのコントローラーやら色々と散乱している。

 仕事帰りで疲れている中のこの惨状。いつもの事と言えばいつものことだ。だが、だからと言って何も感情が沸かないタイヘイではなかった。

 

「このッ、干物妹がぁぁぁ!!!」

「うわぁぁぁん! ゲーム返して!!」

 

 これが、彼女土間うまるの日常である。こんな感じの可もなく、不可もない日常がずっと続いているのだ。

 そう、これからもずっと、続くものだと思っていた。

 だから、このやり取りもずっと、ずっと、大人になるまで、いやもしかしたら大人になっても変わらず続いていくものだと、そう思っていた。

 あの日が来るまでは。

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