SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
その場所で一体何が起こっていたのか。話はアランとサキが彼の地へとたどり着く十数分前にまでさかのぼる。
「くそぅ、一体どこだよ、ここはよぉ……」
アランとはぐれたスミシーは、一人森の中を歩き回っていた。アランを見つける。もしくは、出口とも入口ともいえる場所を見つけるために。
しかし、歩けど歩けどそのような場所は見えることなく、ただただ時間と、それから時折出会うモンスターとの戦いでHPの浪費が続くばかり。
一体、どうしてこんなことになったのか。ゲームが始まるまでには考えられなかったことだ。
自分とアランは、同じ大学、同じゼミに所属する悪友だった。どんな話、それこそ下の話に至るまでなんでも笑って話し合うことができるほどに仲のいい、親友といってもいい関係だった。
そんなある時、アランが言ったのだ。
『SAOのβテスターに応募しようぜ!』
と。実は、ネットゲームに関しては全くと言っていいほどにド素人だった自分。ソレとは違い重度のゲーマーであったアランが、世間でも話題になっているゲームに飛びつくのは必然の事だったのかもしれない。
そんなゲームが、発売前に遊べるかもしれないというから、ネトゲ素人のスミシーも、そのβテスターとやらに応募してみた。
けど、結果は見事に落選。でも、一番ゲームをやりたがっていたアランが当選したという話を聞いて、微笑むことができた自分は、きっと強い人間なのだろうと思う。
それから、アランはゲームの世界から帰ってくるたびに自分に嬉しそうに話してくれる。こんなモンスターがいた。とか、こんなプレイヤーがいてむかついたとか。
とても綺麗で、美しい世界だった、とか。
そんな話を聞いているうちに、自分の中でもSAOというゲームの存在は大きくなっていって、絶対に正式サービス開始の時には遊んでやるぞという気持ちにさせられた。
今考えてみると、自分は羨ましかったのかもしれない。限定、という言葉に、弱かったのかもしれない。日本全国で、たったの千人だけが体験できる最新のゲームの世界。今、一番新しい娯楽を、先に体験することができたアランのことが、妬ましかったのかもしれない。
そんなアランと、同じ土俵に立ちたかった。置いて行かれる気がした。そんなスミシーが、SAOの世界を目指さないわけがなかった。
そして、限定一万個のSAOのうちの一個を手に入れた時、自分は今までにないほどに喜んで、アランもとてもいい笑顔でほめてくれた。おそらく、人生であれほど褒められたことは今までにないだろう。そう思えるくらいに。
例え、ソレが打算も含んだものだとしても、スミシーは嬉しかった。
でも、その世界がまさかデスゲームなんて危険でいっぱいの世界に変えられるなんて、その時のスミシーも、アランも思ってもみなかった。
幸か不幸か彼らは他のプレイヤーとは違って心の傷はそんなに深くなかった。その理由は前述のとおり、彼らにとって一番の悪友であり、一番の親友が一緒にいてくれるからだ。
スミシーにとっては、元βテスターであるアランが一緒にいてくれることも、心の支えになっていたのかもしれない。
彼に教え、導かれ、スミシーもまたこの世界で強くなることができた。いや強くなった自信があった。
でも、その自信はあっさりと崩されてしまった。
あの、はじまりの街で出会った女性プレイヤー、シシーラとの決闘。そして、元βテスターのアランの敗北によって。
あの後のアランはかなり荒れていた。それもそうだろう。他の九千人ものプレイヤーと違って、元βテスターというイニシアティブを取っていた自分が、ただの一プレイヤー、それも決闘の最初に剣を折るなんて考えられない大ポカをやらかしたプレイヤーに負けたのだから。
アランは、自分も声をかけるのも憚れるほどで、自分は、そんなアランについて行くしかなかった。
それで、あぁ、そうだ。その後この〈迷いの森〉の近くのフィールドでとてもかわいい女性プレイヤーを見つけて、アランがこういったんだ。
『へへ、あのプレイヤーでもいいや』
って。その時のアランの顔は、まるで山賊か野盗かってほどに恐ろしくて、背筋が凍るような気分になったのは言うまでもない。
そして、その女性プレイヤーを追いかけて、追いかけて、追いかけて、たどり着いたこの森の中で、自分はアランとはぐれてしまったのだ。
今、彼が一体どこにいるのか。そして自分がどこにいるのかもわからない。
木々が、風によってこすられる音がモンスターの鳴き声のように聞こえる。
少しだけ歩いてて、気が付けばすぐ後ろにはモンスターが迫っていて、危うく攻撃を受けそうだった時もある。
目の前に休憩できる場所。確か、安全エリアといっていただろうか。ソレを見つけて駆け寄ろうとしたら、突然道が変化して、行き先が分からなくなってしまったことも。
もう、こんな場所から早く出たい。そう願っても出ることのできない深い深い森の中。彼の精神状態は下降の一途をたどっていた。
どうして自分がこんな目に合わないといけないのか。もとはといえば、アランがあの女の子に目を奪われたからいけないんだ。
そうだ。全部アランが悪いんだ。
自分が森の中を彷徨う羽目になったのも。
自分が、デスゲームをする羽目になったのも。
全部、全部、アランのせいなんだ。
彼は、間違いなく壊れかけていた。
その時だった。
「ん?」
その、広場にたどり着いたのだ。
「なんだ、ここ……」
まるで、木々がその場所にだけ根を下ろすのを忘れてしまったかのようにだだっ広くなっている不気味なスペースが目の前に広がり、スミシーは気味が悪かった。
もう、お分かりだろう。そう、その場所こそ、エイミーが一昨日訪れたフィールドの中の広場。あの、怪物が出現するスポットであるのだ。
故に。
『シャァァァァァァァア!!!!』
「ッ!!」
当然、彼の前にもあらわれた。リトルネペントに似た姿形。
しかし、全体的な色合いがとても毒々しく思える黒色。なおかつ、見る物を圧倒させるほどの巨体を持ったモンスター。〈グラン・ネペント〉の登場である。
「ヒィッ!」
この時、スミシーがすべきことは逃避だった。なぜなら、そのカーソルの色は、血よりももっと赤く、自分よりもはるかに格上のモンスターである事を指し示していたから。
今、彼がいる場所からだったらすぐに広場から逃げ出して、道に出ることも可能。そうすれば、彼は無事に逃げおうせることができるはずだった。
しかし、彼は誤った選択をした。彼は、自らの得物を取り出すと、戦闘態勢に入ったのだ。震えるその手を必死になって抑えながら。彼は逃げずに立ち向かおうとした。
それは、男という性別が持つ矜持だったのか、それとも彼が持つ無謀心がそうさせたものだったのか。今となっては判別することは不可能だ。
しかし、今分かることと言ったら。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」
それが、無謀を通り越した蛮勇であったという事くらい。
まるで、ドン・キホーテの童話のような戦い。風車に立ち向かった愚かな妄想家の戦いのように勝ち目のない戦いだ。
〈グラン・ネペント〉は、ムチの一本をスミシーに向けて勢いよく伸ばした。
「ッ!」
レベル差のある彼は、その攻撃を黙視することすらもできなかった。気が付いたら、彼の体躯にそのムチが絡みついて、身体を締め付けていたのだ。
「うわぁ! やめろぉ!!」
スミシーは、自分の右上で徐々に減っていくHPバーを見ながら恐慌状態になる。ただやみくもに剣を振り回し、その一撃も当たることはない。
このツルは、エイミーが助かったときと同じようにちょっとの攻撃でも簡単に断つことができる。
だから、もし彼が冷静に対処できる人間であったのならば簡単にしのげることができた状況だった。
でも、彼はそのラストチャンスを逃してしまった。
「ひぃ!」
次第に絡まっていくツル、ツル、ツル。右足、左足、左手、そして剣を持った右手に至るまで絡まったツル。
もう、身動き一つとることができなくなってしまったスミシーは、なすすべなくその身体を持ち上げられたのだ。
「なんだ! どうするつもりだ!?」
そう、スミシーが叫んだ瞬間だった。〈グラン・ネペント〉は、巨大な口を開いたのだった。
「ま、まさか……」
この時点で、スミシーにもモンスターが何をしようとしているのかを察することは容易にできてしまっていた。問題は、それが自分の命に直結するような物であるという事。
スミシーは必死に体を動かそうとする。
「やめろ! 頼む、止めてくれ!!」
必死の命乞いをする彼。だが、そんなことも意にも返さないデータの敵は、無慈悲にもその大きな口の中にスミシーを招く。決して戻ることのできない、暗黒の世界へと。
「スミシー!」
「何、あれ……」
その時だった。アラン、そしてアランについてきたサキの二人がその広場にたどり着いたのだ。
しかし、もはや手遅れ。彼らにできることは何もなかった。
「あ、アラッ!」
無慈悲にも、スミシーの姿は〈グラン・ネペント〉の口の中に消えて行った。
「ス、ミシー……」
アランが、力なく手を伸ばした。だが、その手が彼に届くことはなかった。
それから数秒間、二人は一切動くことができず咀嚼を始める狂暴な植物を見上げていることしかできなかった。口の中からスミシーの身体を縛り付けていたツルを、サクランボの茎のように取り出した〈グランネ・ペント〉は、何度も何度もかみ砕く。何度も、何度も、何度も。
そして―――。
ペッ!
という擬音が聞こえるような勢いで、ガムのように吐き出された人影。スミシーである。
二人は、すぐにスミシーの下に向かった。
「スミシー! おい! スミシー!!」
アランは、倒れて動かないスミシーの身体を仰向けにして、その手を握った。
現在彼とスミシーはパーティー登録をしていた。だから、その左上には常にスミシーの名前と、そしてHPバーが可視化された状態になっているのだ。
そのHPバーが、徐々に徐々にその色を失っている。彼が、ネペント系モンスターの口の中に入った瞬間からずっと減り続けている。
早く回復アイテムのポーションを使わなければならない。そう考えたアランがアイテムストレージからポーションを出そうとした。その時だった。
「なぁ、大吾」
「え?」
「ダイゴ?」
それは、アランの本当の名前。プレイヤーネームじゃない、現実世界での本名だった。どうして、今、ここでソレを使う。アランは怒りと、そして悲しみを込めて言った。
「馬鹿やろう。ネトゲの世界で本名言うなよ……」
「あぁ、そうだった……でもさ……」
きっと、この時彼は感じていたのだろう。もう、自分は助からないのだと。
確かにHPバーはまだその色を完全に失ったわけじゃない。でも、近いうちにきっと、いや絶対にその全てを失うことになろう事を。
だから、そんな自分に対してポーションなんて使うな。そう言いたかったのだろう。そして、言いたかったのだろう。
死の直前に、最後に、感謝の気持ちを。
確かに、自分は彼のせいで全く興味のなかったゲームに惹かれて、プレイして、その人生を滅茶苦茶にされた。
でも、そのゲームの中にいたニ週間は、本当に楽しいものだった。楽しくて、楽しくて、今まで自分が現実の世界で体験してきたどのアトラクションよりも楽しくて、そして刺激的だった。
なにより、ずっとずっと親友といられた。この二週間は、きっとこれから先送るはずだった一生よりも、かけがえのない時間だった。そう言えるはずだ。
そう、思いたかった。思って、彼は消えたかった。
けど。彼から出た言葉は、ただ一つ。
「まだ、死にたくねぇよぉ……」
生への渇望。
だった。
「カケル……カケル!!」
アランが、叫んだ瞬間。
彼の左上の、スミシーのHPバーが、全消失した。刹那。
「!」
「嫌……」
スミシーの肉体が、青白いガラス片となって砕け散ったのだ。それは、あたかもモンスターが死ぬときのそれと似た物で、故に二人はすぐに悟ることができたのだ。
そして、アランは左上の名前が自分の物だけになった瞬間に確信した。
スミシーというプレイヤーのゲームオーバー=死を。
その日、一人の、プレイヤーがゲームオーバーとなった。
それでも、世界は何も変わることなく時間を刻み続けていた。それが、自然の摂理であると言わんばかりに、残酷なまでに時を刻み続けていた。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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タイトルはそのままでいい