SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
今、私はこの世界で一番見たくなかった光景を目撃してしまった。
ただ、友達みんなで、一緒に、ゲームをしようって約束して、それだけで入っただけの世界だったのに。
私は今、死を目の当たりにしている。本来ゲームという世界では決して起こりえないはずの死。
それが、自分の友達や知り合いではなかったとはいえ、それでも誰かにとっての大切な人だった。そして、目の前で悲しんでいる人の仲間だった。
その人の死。
青白いポリゴン片となって消滅したプレイヤーの死。モンスターと同じエフェクトでの消滅。これが、この世界での死。己もまた、この世界で死ぬとそうなる。
「嫌……」
彼女、サキは人生で“二度目”となる死の実感がわいてきた。一度目は、そう、あの全国大会の時だ。
全国高校生麻雀大会。団体戦の決勝。その舞台に立とうとしていた彼女に、突如として衝撃が起こった。
大会の会場となった建物が崩壊したのだ。後でわかったことだが、ソレは八百年も前に封印されていた王が復活し、攻撃した事による物だったと言う。
その攻撃で、彼女や、他の大会出場者も怪我を負うことになった。
八百年前の王は仮面ライダーをはじめとしたヒーロー達に倒された。けど、会場が崩壊したこと、そして出場者の多くがケガをしたことが原因となり、大会は無期限の延期、事実上の中止という事になった。
その時に彼女に去来した気持ちを簡単に表すとしたら、不完全燃焼だった。
絶縁状態にある姉ともう一度麻雀を打つチャンスを逃し、最上級生の先輩の最後の夏があっけなく終わった。
そして、友達も、旧友のいる学校と打つことなく、彼女達の高校一年生での麻雀は終わりを告げることになった。
最上級生である部長は、
『今度ばかりは悪運が尽きただけだから』
とキトクに振る舞って言ってはいた。けれど、でも絶対に悔しかったはず。自分たちの、最後の舞台を文字通り崩されてしまった。その彼女の気持ちを推し量ることなんて到底できるはずがなかった。
そして、サキの心にも深い傷が残されてしまった。あの時の、命の危機。
瓦礫が迫ってくる中で逃げ惑う恐怖。
もう、麻雀を打つことができないんじゃないかという恐れ。
もう一度だけでも、姉と麻雀を打ちたかったという後悔。
今、彼女が目の前にしているのは、その時の恐怖にも似た風景。
見てしまったのだ。ついに、人間の死の瞬間を。
しかし、あまりにも非現実的な死の瞬間を。
“自分自身”の、“偽物”のその目でしっかりと目撃したのだった。
「カケル……くそぉ!」
サキは、目の前で仲間を、友を失ったアランに話しかける言葉が見つからなかった。見つけられなかった。というか、話しかけちゃいけないと思っていた。
そうだろう。だって、彼の友達の命を間接的にでも奪ったのは、実質自分なのだから。
己が、彼の友達とはぐれなかったら。自分が、この二人に見つからなかったら。こんな森の中に迷い込まなかったら。
もしも、もし、もしも。いくつものイフが浮かんでは消え、浮かんでは消えていく中、それでもソイツは止まらない。
『シャァァァァァ!!!』
「!」
一人のプレイヤーの命を奪った〈グラン・ネペント〉の次なる標的は、先ほどまで屠っていた男の身体に近づいていたアラン、そしてサキの二人であるのだ。
「畜生!」
アランは、〈グラン・ネペント〉と戦うことなく自分たちが今来た方向へと走り出した。
本当ならスミシーの仇を取ってやりたかった。だが、このまま戦い続けていたとしてもミイラ取りがミイラになるだけ。それほどまでの実力差がある。
この状況でどうして戦うことができる。だから、彼は選んだのだ。戦略的撤退を。
そして、彼女もまた選択したのだ。彼とは別方向に逃げるという選択を。
「な、おい!」
「二手に別れましょう! そうしたら、モンスターも標的を見失うかも!!」
彼女は、左右バラバラに分かれることによって〈グラン・ネペント〉の標的を絞らせないようにする作戦をとることを提案したのだ。
確かに、その作戦は現実の世界でクマやイノシシといった害獣に出会った時には有効な手段となりえるのかもしれない。だが、彼女は間違っている。
それが、自己犠牲という、この世で最もしてはならない行為であるのだと。
彼女は失念している。
『シャァァァァァ!!!』
この世界が、ゲームの世界であるという事を。
モンスターは、茅場晶彦がプログラミングした通りの行動しかしない。すなわち、今モンスターがとる行動は、二手に分かれた敵のどちらを追うか迷う事じゃない。≪たった一人≫のプレイヤーにターゲットを絞るという事だけ。
そして、今回そのターゲットとなったプレイヤーは。
「くそ、オレかよ!」
アランだった。
彼は、〈グラン・ネペント〉のタゲが自分にあることを察すると、走る速度をさらに上げた。標的にされたからには、〈グラン・ネペント〉はその距離に応じた行動をとるであろうと考えたからである。
その行動、特に一番に気にかけるべきは先ほどスミシーを拘束していたあのツルによる攻撃。あれにつかまれば厄介なことこの上ないのは確実だろう。
早く、ソレを出される前にこの広場から脱出しなければならなかった。
しかし、彼は知らない。〈グラン・ネペント〉の攻撃方法がツルだけではないという事を。
いや、焦りにより忘却していた、ネペント系モンスターの攻撃というものを。
『シャァァァァ!!!』
「うお、こいつは!」
突如として、〈グラン・ネペント〉はその巨大な口から紫色の液体をアランに向けて発射した。
これは、まさか腐食液か。リトルネペントの使用する物と同じ。となるとかなりまずい。
「畜生! この、離れろ!!」
アランは、自分自身無駄だと分かっていても動き続けていた。そうすることで、粘着効果の持続時間が早く切れる可能性もあったから。
でも、無駄なあがきとはこのことだ。
「アランさん!」
「ッ!」
少女の言葉に下を向いていた頭を上げた瞬間だった。
彼の頭上から、巨大なとても太いツルが振り下ろされたのは。
サキは見た。〈グラン・ネペント〉が腐食液を発射した直後、自らのツルをすべてまとめ上げて巨大なツル、いやあれはもはや大繩とってもいいのかもしれない。それほど巨大なモノに変えていたのを。
あんなもので攻撃されたら普通のプレイヤーなんてひとたまりもないはずだ。彼女は、せめてアランだけでも救いたかった。だから、剣を取った。
せめて、目の前にいる命だけでも、救いたかった。でも―――。
「ッ!」
足がすくんで動けない。先ほどまでとても活発に動いていたはずの足が、全く動かなくなってしまっていたのだ。この感覚、麻雀大会でとても強い雀士と対戦した時のソレによく似ている。
寒気がして、自分が自分じゃない気がして、そして牌を掴む手がとても重く感じる。あの、とてつもなく嫌な、それと同時にワクワクするような感覚に。
でも、今はそんな感覚いらない。今動かないと、確実にアランが死ぬ。そんな確信じみた感覚がサキにはあった。
そう、これが恐怖だ。あの時感じた恐怖だ。誰かの死を前にした恐怖。それに対して、彼女の力はあまりにも無力だった。
彼女には力があった。牌に愛された子の一人としての力が。でも、そんな力この世界じゃ何の役にも立たない。誰の命も救えない。自分自身を奮い立たせることもできない。
だから、彼女は。
「アランさん!」
「ッ!」
目の前でつぶされたプレイヤーの名前を、叫ぶしかなかった。
いやだ、死にたくない。それが、彼に飛来した思い。ツルが、振り下ろされた瞬間から、すさまじい勢いで減っていく右上のHPバーを見ながら、彼は走馬灯を思い出そうとしていた。
でも、無理だった。これが、ゲームの世界での出来事だからなのか。それとも本当に死ぬわけじゃないのか。
いや、分かる。自分は死ぬ。ゲームの世界でも、現実の世界でも。どういうわけかそんな感覚だけはあった。
無駄な感覚だ。そんな無駄な感覚のおかげで、自分は死の恐怖という人生でたった一度しか味わうことのできない感覚をゲームの世界で、そして現実の世界でと、二度も味わうことになるのだから。
「し……」
一体、彼は何の言葉を残すのか。かつての英雄や、偉人が残したような名言を、後世に残るような言葉を残してくれるのだろうか。
いや、後世に残る言葉という物は、大体が後の世で勝手に付け加えられた言葉であるという場合が多い。それに、ただの人間である彼がここで何を言おうとその言葉が後世に残ることはない。
でも、今遠くで自分の死に関わった少女は聞いている。自分の言葉、自分の、最後の言葉を。
彼女には何かを残せるかもしれない。たとえ、彼女がそれを覚えなくてもいい。明日にはもう忘れてしまっていてもかまわない。ただ、一瞬だけでも覚えていてもらいたい。自分の、最後の言葉。
でも、彼に浮かぶ言葉なんて、たった一つしかなかった。
万物すべての生き物が死の直前に祈る最後の願い。ゲームの世界でも、現実の世界でも決して変わることのない自分の人生の後悔を表す言葉。
「死にたくねぇよ……」
奇しくも、それは彼の親友と同じ言葉であった。
その言葉は、彼にとって幸運なことに、サキの心に生涯残る言葉となる。彼女が、目の前で見た、スミシーに続く“二人目”の人間の死に際に放った呪詛として。彼女の心の中に、永遠に。
「そんな……」
また一人、プレイヤーがポリゴン片となって消滅した。
また一人のプレイヤーがゲームオーバーとなったのだ。この、空想の世界からも、現実の世界からも。
すなわち。
死んだのだ。
「私のせいだ……私が、あんなこと言わなかったら……」
二手に分かれる。そんな作戦を勝手に立てたせいで、自分のせいで、アランというプレイヤーが死んだ。自分は、二人のプレイヤーの死に関わってしまったのだ。
もちろん、彼女にそんなつもりはなかった。でも、結果的に二人のプレイヤーの死に間接的にかかわってしまったのも事実だ。
「私の……せいで……」
サキは動くことができなかった。その間にも、〈グラン・ネペント〉は次なる標的を探している。サキが見つかるのも時間の問題だろう。
でも、もし見つかったとしてもサキに一体何ができるのだろう。戦う。いや、無理だ。たった一人であのどす黒いカーソルを持ったモンスターを倒すことできるはずがない。
なら、逃げる。どうやって。この広場の出口は、自分とはまるっきり反対側にある。そう、〈グラン・ネペント〉の向こう側にだ。もしあのスミシーを殺したツルに捕まえられたら。あの、アランの動きを止めた腐食液に絡まれたら。
もしも―――。
『シャァァァァァ!!!』
その時だった。〈グラン・ネペント〉は新たなる標的を見つけたのだった。
果たして、それは失意に沈む罪人であったのか。
それとも―――。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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タイトルはそのままでいい