ソードアート・オンライン ヴァルキリーズfeatボーイ   作:牢吏川波実

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メインシナリオ 第二章 第30話

「行きますわよ! うまるさん!」シュバフィーン

「じゃなくて、私は!!」

 

 その声と同時に出口、否空間への入口の通路から飛び出したのは、オレンジ色の長髪を持った女性プレイヤー。よく目を凝らしてみると、入口にはもう一人プレイヤーがいるようで、その格好は先ほどまでのエイミーたちと同じものであった事から、おそらく同じようにジャンプの補助をその人物がしたという事なのだろう。

 そして、飛び出した女性プレイヤーは、そのまままっすぐにゲルトルートの背中に飛び乗ると、ソードスキル≪スラント≫をすぐさま発動し、蝶の羽を根元からバッサリと切り裂いた。

 

『ッッッッ!!!!』

 

 途端に黒い液体を放出しながら、文字にも起こせないような叫び声をあげたゲルトルート。もしもこれが生き物であったのならば、痛みに耐えきれなくなったと表現すればいいのだろう。モンスターは、三人のプレイヤーを拘束していたツルを解き、地面に沈んだ。

 と同時に、その上部に見えていたHPバーが恐ろしいスピードで減っていき、イエローゾーンにまで突入する。彼女の攻撃がクリティカルだったのだろうか。それとも、あの蝶の羽がモンスターのウィークポイントだったのか。何にしてもこれは大ダメージと見てほぼ間違いないだろう。

 そして、ソレをなした人物は、ゲルトルートの背中から飛び降りると何事もなかったように髪を一度かき分けると言う。

 

「≪DOM≫だってば」

「ディーオーエム?」

 

 それが、彼女のプレイヤーネームなのだろうか。一緒にいた仲間に本名をばらされていたようだが。

 

「どうやら、間に合ったようですわね!」シュババーン!

「えぇ」

 

 といって現れたのは、先ほど土台になっていた青色の長髪の女性プレイヤー。そしてもう一人、黒い髪にポニーテールをした女性のプレイヤー。どうやら、二人ともDOMの仲間のようだ。

 

「≪TSF≫さん!」

「え? それじゃ……」

 

 クリプティッドの言葉にエイミーが反応する。そういえば、この場所に来るとき、≪TSF≫というプレイヤーも救援に来るという事を聞いたような気がするが、彼女たちがそうだったのだろう。

 

「そう、私が≪TSF≫こと、橘・シルフィーフォードですわ!!」シュバフィーン‼

「って、だから本名は……まぁ、この世界じゃもう個人情報の漏洩なんて気にする必要ないかもしれないけど……」

「わ、私は≪きりんりん≫です。よろしくお願いします!」

 

 要約すると、オレンジ色の髪の少女が≪DOM≫、蒼髪の少女が≪TSF≫、黒髪の少女が≪きりんりん≫というプレイヤーネームを使用しているようだ。

 

「あの! 友達を助けてくれて、ありがとうございました!」

「いいのいいの。私たちこそ、遅れてごめんなさい」

「その……森の中で迷って、この場所を見つけるのに時間がかかってしまいました」

 

 という彼女たち。考えてみれば、この森は〈迷いの森〉。その構造は入るたびに違うし、入っている間にもまるで生き物のようにその形を変える。故に、彼女たちがこの場所に来るのが遅れたのは無理もないだろう。

 しかし、そのために仲間が救われたのは間違いのないことだ。感謝してもしきれないというのはこのことを言うのだろう。

 

「小雪ちゃん! 今のうちのポーションを!」

「はい!」

 

 ツルから解放された三人は、他のプレイヤーに囲まれながらポーションによってHPを回復する。回復アイテムの使用には、必ずと言っていいほど隙ができてしまうので、ソレを補う形だ。

 とはいえ、アントニーたちに関してはノルゲイたちがいまだに抑えてくれるので問題なく、ゲルトルートもまた背中の羽を斬られたダメージなのか悶絶している様子であるので、油断さえしなければ大丈夫であろうが。

 

「それにしても、なんかグロイ……」

 

 と、DOMが言った。確かに、あのモンスターの姿、初見の人間にとってはとてもじゃないが直視できるような外見をしていないのは、間違いなく、また彼女が切断した部分から放出されている黒い液体も、大量出血しているように見えてなかなかにグロテスクである。

 まるで、その空間全てを漆黒に染め上げんとばかりに噴出し続けるモンスターの血。植物型のモンスターであるというのに血が出てくることに何か不思議な感じがしてならない。

 そう、エイミーが感じていた時だった。

 

「あれ?」

 

 今、何かが黒の中に光ったような気がした。墨汁のような黒の中に、ただ一点だけ光る桃色を閃光が見えたのだ。あれは、一体。

 

「エイミー、どうしたの?」

「ううん、なんでも……」

 

 気のせいだったのだろうか。周りの人間が何の反応も示していないところを見るに、自分が見間違えたのかもしれない。けど、その光が少しだけ気になった彼女。

 その時だった。

 

「あ……」

 

 彼女はようやく思い出した。そう、桃色の光といえば、そもそも自分がこの森に来た理由の一つ。というよりも原点といってもいい物。関連するものと言ったらあれしかない。

 けど、一つ大きな疑問点がある。それが何故、〈グラン・ネペント〉から変化したゲルトルートというモンスターの中にあるのか。いや、〈グラン・ネペント〉から変化したのであれば、なおさら可能性は十分にあるのかもしれない。

 なんにしても、今自分の目に映ったのは、おそらくソレに関連するアイテムであろう。でなければ、黒の中に見えた光の説明がつかない。

 できるのならば、今すぐにでもその中に取りに行きたい。近づき、手を伸ばし、モンスターの中から抉り出したい。そして、彼女にーーー。

 いや、ダメだ。危険すぎる。自分は約束したじゃないか。死にに行くようなことはしない。危険な行動はしないと。だから、好奇心に背中を押されてはダメだ。

 向上心に、支配、され、ては。

 

「エイミー!」

「え?」

 

 致命的なミスをしてしまうのだ。

 彼女が思考の渦に巻き込まれるその数秒前、苦痛によってもがき苦しんでいたモンスターは、通常時の状態に戻った。

 傷を負った背中はまだ癒えておらず、そこからは黒々とした血が今でも噴いているのだが、それでもゲルトルートは構わずにプレイヤーたちに向けて攻撃を飛ばした。

 ツル、それが十数本である。中には先端にハサミを持ったツルまで、数本紛れ込んでいた。

 いつ攻撃されてもいいようにと警戒していた全プレイヤーがそれを避けることができるはずだった。でも、彼女だけは、自分の世界に入り込んでいたエイミーだけは違っていた。

 

「ッ!」

「間に合えッ!」

「くそ!」

 

 反応の遅れた彼女に向け、無数のツルが飛んでくる。他のプレイヤーたちは、避けた直後でほとんどがすぐに行動することができない状態にあった。

 だが、数名のプレイヤーは逃げ遅れたエイミーを守るためにとその剣を振るった。必死で、その剣先を伸ばしていた。

 しかし、当然ながらその全てを止めることはできなかった。

 それも。

 

「あッ……」

 

 最悪な一本が紛れ込んだ物を、だ。

 エイミーの腹部に激痛が走った。見ると、そこにはツルにつながったハサミが自分のお腹に深々と刺さっているではないか。

 痛みを感じると言っても、現実で刺された場合と比べればかなり痛みは抑えられているのだろう。それが唯一幸運だったことといえる。

 でも、激痛に比例して減っていく右上のHPバーを見た彼女に衝撃が走った。

 

「嘘……」

 

 グリーンゾーン、つまり安全圏内にあったはずのHPが一気にレッドゾーン、危険域にまで達してしまっていたのだ。何たる偶然。奇遇。DOMの攻撃がゲルトルートに対してクリティカルだったことと同じように、ゲルトルートからの攻撃も、彼女にクリティカルヒットしてしまったのだ。

 

「エイミー!」

 

 パーティーを組んでいるクレールたちには、彼女のHPが危険域に達したことはすぐに分かっていた。今すぐにでも彼女にポーションを飲ませなければならない。

 そう考えていた彼女たちであったが、モンスターの行動は残酷であった。

 

「ッ!!」

 

 ゲルトルートは、エイミーの腹部にツルを絡ませると、そのまま持ち上げたのだ。この攻撃モーション、まさか。

 

「ダメ!!」

 

 そう、誰かが叫んだ時だった。ゲルトルートはムチを大きくしならせて自分の方向にエイミーを引き寄せた。

 その刹那、全員の思考がスローモーションとなった。

 

(あぁ、私死ぬんだな……)

 

 当事者であるはずのエイミーは、何故か冷静だった。自業自得だとでも思っていたのかもしれない。これは、自分が戦闘をおろそかにしてしまった罰なのだと、そう感じていたのかも。

 そう、あの時と同じ。最初に〈グラン・ネペント〉に挑んだ時と同じだ。自分が弱虫で、勇気もないのに、誰かのためになりたい、そう願ってしまって独りよがりの行動をとったせいで多くの人間に迷惑をかけた。

 今回もそうだ。きっと、自分はこれから壁に身体を叩きつけられるのだ。先ほど、クレールたちがされたように。

 そうなれば、危険域に達している自分のHPの完全消失はほぼ決定的。

 つまり、死んでしまうのだ。この世界から、そして、現実から。

 これは罰なのだ。自分が、誰かを助けたいと願った結果生まれた罰。多くの人間を危険に晒した。そんな自分に対する罰。そう、考えるしかなかった。

 

(お母さん、お父さん……たっくん、さやかちゃん、仁美ちゃん……私、帰りたかった)

 

 エイミーは、頭の中で覚えている限りの家族の顔を、友達の顔を思い出す。

 帰りたかった。あの場所に、朝起きたら父が家庭菜園のトマトに水をあげてて、夜遅くに帰ってきてベッドで熟睡する母を弟と一緒に起こして、朝ごはんを食べて、友達と一緒に学校に行く。

 あの場所に。

 彼女は、日常が好きだった。だから、帰りたいと願って、無茶をして、それで―――。

 

(あぁ、そっか。私って……)

 

 帰りたかっただけなんだ。弱虫な自分を変えたいとか、一歩を踏み出したいとか、勇気を持ちたいとか、そんなことじゃない。ただ帰りたかったんだ。何も変わらない、あの日常に。早く、帰りたかった。

 一年かかってもいい。二年かかっても。三年かかっても。

 それ以上かかっても、それでも帰れるかもしれない。

 でも、そこにさやかや仁美はいるのか。

 同級生の彼女たち、一年経ったら自分は二年生のままで、彼女たちは三年生に進級してて、クラスメイトはみんな変わってて。

 二年もたてば、彼女たちは高校生になってそもそも通う学校も違くなって、朝一緒に登校することもできなくなって。

 三年もたてば、もう、彼女たちにとって自分はただの過去の人。

 そうなるのが嫌だった。だから、自分はない勇気を振り絞ることができたのだ。

 怖かった。自分を待ってくれる人がいなくなることが、あの日常が消えることが、怖かった。だから、自分は戦おうと決心した。

 分かっていた。どれだけ早く攻略が進んでもあの日常が返ってくることはないと。道が違えば、友達との関係なんてすぐに終わってしまうと。分かっていたはずなのに、自分は。

 

(私って、ホント……)

『馬鹿だな』




プレイヤー№ 98 ???(ディーオーエム【DOM】)≪原作:???≫
プレイヤー№ 99 ???(ティーエスエフ【TSF】)≪原作:???≫
プレイヤー№100 ???(きりんりん【kirinrin】)≪原作:???≫

 祝 SAOプレイヤーの名ありキャラの数がついに百人超えました。なお、まだプリキュア勢とか戦隊仮面ライダー勢も、全員がまだ登場しておらず、他確実にプレイしてるであろうけど、まだ出てない人がゴロゴロいる模様。色んな意味でこれどないすんねん……。

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