SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
二十数名のプレイヤーに対して、ヒースクリフが伝えた策。それが意味するものが何であるのか。少しくらい頭のいい人間にはすぐに分かってしまった。
「気を引くって……それがどう言う意味なのか分かってるんですか!?」
と、フラウがどこか怒りのこもった発言を投げかけた。しかし、ヒースクリフはまるで何でもないようすで笑みを浮かべると言った。
「無論だ」
「ッ……」
フラウは、この時点でヒースクリフというプレイヤーへの信用を失ったという。
この、一つの判断。一つの策の過ちが最悪の結果をもたらすことになるデスゲームの世界において、彼の提案した作戦は正直、あってはならない愚策に等しいものだったからだ。
「え、なに? どういうこと?」
そう聞いたのはマリンだった。どうやら、彼女―とキッド―はヒースクリフの提案の真意に至ることができなかったようだ。ちょうどいい、ヒースクリフの策のおさらいと、その裏に潜んでいる暴力を知ってもらうために、じっくりと聞いてみることにする。
「モンスターの気を引くって、つまり囮ってこと……ですよね」
と、セノが聞いた。
「その通りだ」
「それじゃ、他のみんなが脱出するまでの時間を稼げばいいってことだよな?」
と、こともなげにキッドが言った。確かに、簡単に言ってしまえばそういう事。誰か一人がゲルトルート、アントニーというモンスターのタゲを取っている間に、他のプレイヤーたちが出口から脱出する。あまりにも単純な作戦であるように思える。
だが、ナイトが言った。
「問題はその後だ」
「後?」
「あぁ、一人残ったプレイヤーはどうする」
一人残ったプレイヤー、つまり、囮となってモンスターたちのタゲを取っていたプレイヤーの事だが。
「えっと、そりゃ皆んなが脱出したのを見届けたら出口に……」
「モンスターはどうなる。たった一人残ったプレイヤーに対して、モンスター達はどう行動すると思う?」
「え……」
ナイトの言葉に、マリンは想像した。モンスターのアントニーは、見たところ今ここにいるプレイヤーの一.五倍くらいはいる。その全てと、そしてゲルトルートという巨大なモンスターが“たった一人”のプレイヤーに―――。
「!」
「まさか!」
そこまできて、ようやくマリンとキッドは気が付いた。ヒースクリフが考えた作戦の最大で最悪な欠点に。
「そう、たった一人、フィールドに取り残されたプレイヤーを囲い、その命を奪おうとするだろう」
「つ、つまり……」
「残るプレイヤーは、確実にモンスターの犠牲になってしまう。そういうことだ」
「そんな……」
マリンとキッドはようやく戦慄した。
たとえ、そのプレイヤーがどれだけ上手に立ち回ったとしても他の仲間たちを守るため、モンスターを出口から遠ざけるためにできるだけその場所から遠くに逃げれば、仲間たちを見送った後自分も出口に行こうとしても、モンスターたちに阻まれて前に進むこともままならない。
囲まれ、攻撃され、どれだけ倒しても倒しても無限かのようにわき続ける敵の攻撃にさらされたプレイヤーがどうなることか。
キッドは、ヒースクリフの胸倉をつかむという。
「お前! そんなの作戦でもなんでもないだろ!」
「何を言う。これは、現在の状況を冷静に鑑みた結果の判断だ。他の者も、考えていたのではないのかね?」
「なんだと!?」
ヒースクリフはやはりほくそえんだ。だが、彼の言う通りだ。
事実、何人かの人間は考えていた。この状況で多くの人間を生き残らせる方法はなんであるのかを。だが、浮かんだとしても言葉には出さなかった。そんな作戦、いや、作戦なんて言うのもおこがましいから。
「なら! あのモンスターを倒そうよ! それならみんな生き残れるでしょ!?」
スターがゲルトルートのことを指差すと言った。
この場にいる二十数名の力を合わせてゲルトルートを倒し、この空間から脱出するという方法。それも多くの者が考えた。
だが、その作戦はとても危険極まりない物。
「相手がどのような力を持っているかわからない以上……少なくとも〈グラン・ネペント〉を超える力を持っているように思うが……そのような敵に対して何の対策もなしに戦うのは無謀以外の何物でもない。このSAOはデスゲーム。一度死んでしまえば……それまでだ」
「ッ……」
ヒースクリフのいう言葉もまた正論だ。そもそも事前に少しくらいの情報があった〈グラン・ネペント〉に対して、今自分たちの目の前にいる≪ゲルトルート≫というモンスターに関しての情報はほとんどない。あるとすれば、武器は〈グラン・ネペント〉と同じ、ツタがあるという事。それ以外の武器も隠し持っているかもしれないし、弱点も一切わからない。
そんなモンスターを全員で相手にした結果、全員が全員生き残れる保証がどこにある。
このゲームはデスゲーム。無茶や無謀をした結果死んじゃいましたでは済まされないリスクを伴う最悪のゲーム。果たしてそのリスクを背にして戦うという手段が本当に正しいと言い切れるのだろうか。
「……」
少なくとも、エイミーは正しいとは思えなかった。
自分たちの周りにいる仲間たち。ノルゲイやアンチョビといったここに来る直前に出会った者たちを除けば、サマーやキッド、サーヴァントたちは、少ない時間だけど一緒に旅をして、一緒にクエストをした大切な仲間たちだ。そんな仲間たちを危険にさらすなんて事、できるはずがない。
それならば、自分が―――。
『約束して、絶対に死なないって』
その時、彼女の脳裏に聞こえて来たのはサキの救出に出る直前、クレールから言われた言葉だった。
『死にに行くようなことはしないって』
再度、まるで自分に言い聞かせてくるかのように頭の中の彼女の言葉がリフレインする。
そう、自分は約束した。彼女と。もし、ここで自分が自己犠牲の精神を出してしまえば、それこそ彼女との約束を反故にする形になってしまう。けど、そうしなければ彼女を救うことが、仲間たちを救うことができないのだ。
彼女と交わした約束を破って、自分が死ねば、皆が助かる。
『いのちは、チャンス』
『私の命なんです……よね』
またもや頭に浮かんできた言葉。それは、自分自身がかつて発した言葉だ。そうだ、確かに命は何かを成し遂げるために神が与えてくれたチャンスなのかもしれない。そのチャンスを不意にするなんてこと絶対にしてはならないことだ。
と、誰かは言うのかもしれない。でも、結局命は他人の物じゃない。自分の物なのだ。その命をどう使おうと自分の勝手なのだ。
そして、自分一人の命で大勢の命が救えるのなら、これほど素晴らしいことはないじゃないか。
あの時は、確かに心のないNPCのためにそのチャンスを不意にしそうになった。
でも、今回は違う。
「では、囮になってくれるものは挙手を」
自分の命は、誰かの助けになる。誰かを救うことになる。
誰かの明日になることができる。
自分が歩むことができなかった明日を歩かせることができる。
だったら、捨てても構いはしない。
「……」
ヒースクリフがまるで地獄の処刑人もかくやの言葉を述べた後、彼女『達』は手を挙げた。
「え?」
エイミーは、あまりに驚き過ぎて逆にその顔色を変えることはなかった。
その数、『二十八』人。つまり、ヒースクリフを除いた全てのプレイヤーが囮に名乗り出たー内十数名はアントニーとの戦闘を中断して挙手した後に再度戦闘に戻ったーのである。
この結果にはさすがのヒースクリフも予想外であったらしく。
「まさか、全員とは……」
と、驚きと困惑の混じった不思議な表情を浮かべていた。
「約束、忘れたのエイミー?」
と、彼女の隣で手を挙げたクレールが言った。
「でも、クレールだって手を……」
なら、どうしてクレールもまた手を挙げているのか。いや、それ自体は全員にも言えることのような気がするのだが。クレールはフッ、と笑うという。
「誰かのため……ライバルたちのために一人犠牲になるのは、初めてじゃないから……」
「え?」
と、自嘲気味に笑うとクレールは手を下げた。
詳しい話は省くが、かつてクレールは現実世界で仲間たちのために一人犠牲になる道を選んだ。誰かの持つキラメキを犠牲にした舞台を演じる代わりに、自分の中にあった残り数少ないキラメキで舞台を演じた。
積み上げては崩され、積み上げてはまた崩されるという何の面白みのかけらもない舞台を。
一人ぼっちの、寂しい舞台。でも、それでも仲間の、親友の、ライバルのキラメキを奪わなくて済んだ事、それが彼女の中で希望となり、そして同時に絶望となった。
「それを言うなら私も……自己犠牲で自分の命を危険にさらすのは初めてじゃないです」
「ベーゼラさんも……」
まぁ、自分の時は単なるこけおどしに命を張っていたにすぎないのですけど、と心の中で苦笑いをしたベーゼラ。
結局のところ、その時はある女の子に助けてもらったばかりか、その少女をとある装置の犠牲にしてしまった。
前述のとおり、こけおどしの装置であったために少女の命は助かっていた物の、あの時の自分の、誰かを命がけで助けたいという思いは確かなものだった。
「僕の兄……アイツは、僕のために全世界を敵に回すようなことをした。アイツにできたことなら……僕にだってできる」
「いや、全世界を敵ってどういう状況?」
シシーラが言った。信じられないような話だが事実である。彼女の兄は、かつて多くの人間を敵に回した。
その結果、それまで一緒に戦っていた人間と相対することになったとしても、愛する妹のためにその身と心をすり減らして戦った。たとえどれだけズタボロにされたとしても。
ただ、妹がいる世界を守るために。
「というか、これだけの仲間がいるんだよ! 何とかなるよ!」
「シズ……えぇ、そうですね」
「まぁ、あたしはシズが一人飛び出しそうだったから手を挙げたけど……」
「俺だって、たまにはいいところ見せなくちゃ、部長や優希に笑われちまうからな」
と、口々に言うのは阿知賀と清澄の麻雀部だ。自己犠牲には点で縁のない人生を送ってきた彼、彼女たちですらも囮に名乗りを上げる。この状況にヒースクリフはますます混乱する。
作戦を立てた本人としてはアレだが、まさかこんな馬鹿げた作戦に全員が手を挙げるなんて、思っても見なかったのだ。
「信じられんな……山の峰に花が咲かないのと同じだ。たとえどれだけ希望を論じたところで、現実は……」
「それでも……」
「何?」
現実論。いや、一般論を述べるヒースクリフに彼女は言う。
たとえ、どれだけ枯れた大地でも。
たとえ、どれだけ高い山の上でも。
たとえ、どれだけ不可能と言われようとも。
例え、それがいくら理想論と吐き捨てられたとしても。
「花は必ず、咲き誇る」
「サキ……」
「その花がどんな色になるのか、どんな形になるのか私にもまだわからない。でも、私は見て見たい……ここにいるみんなと、満開に咲いた花を!」
彼女はまだ知らないのだ。その満開に咲き誇った花の姿を。その場所に行くまでに、封じられてしまったから。
だから彼女は知りたい。高い峰にも咲き誇る満開の花。それを見るために、もう一度立ち上がりたい。ここにいるみんなで、誰一人、欠けることなくその花を見て見たいと。
「花なら任せてよ! 私の友達フラワーショップやってるし、その友達のおばあちゃんがやっている植物園もあるから、今度案内するって!」
「そういうことをいっているんじゃない」
「へ?」
と、比喩をそのままに受け止めてしまったマリンに突っ込むハワードなど、話が横道にそれることもあった。
まぁ、要するにである。
「結局さ、皆責任持ちたくないんだよ、他人の命で生き残ってもさ」
「サーヴァントさん……」
サーヴァントはエイミーの頭に手を乗せると言った。
「誰かが犠牲になって、大勢の人が生き残っても、必ず誰かが不幸になる。誰かが悲しむことになる。自己犠牲っていうのは、大の命のためにその大以上の悲しみを他人に強いることなんだ」
続けて、ビショップが言う。
「そして、その悲しみを背負った人間は絶対に後悔することになります。どうして、その人を犠牲にしてしまったのだろうかと……」
ノルゲイが言う。
「どんな状況でもあきらめず、最後まで全員が助かる方法を考え、そして帰ってくる。それが、冒険者だ」
「冒険者……」
不思議な気分だ。自分の決意を否定されているはず。
それなのに、どうしてこうも心に響く。
どうしてこうも納得できてしまう。
エイミーは困惑と同時に、どこか心のどこかに芽生えた物があった。それがまだ何なのかはわからない。でも、いつかは咲くであろう花のように暖かな種だ。
「よし! 私たちの考えは決まったよ!」
「あぁ! 我々は誰一人逃げたりなんかしない!」
「みんなで戦って、皆で生き残ろうよ!」
スター、アンチョビ、クリプティッドが言った。
「君たちがそういうのならば、私も止めはしないが……覚悟はできているのか?」
ヒースクリフが最終確認をするかのように言った。その言葉に対して、彼の目の前にいたキッド。
「当たり前だろ……」
彼は、剣をゲルトルートに向けて言った。心の奥底から響いてきた、聞いたことのない、しかしとても懐かしい言葉を。
「戦わなければ生き残れない! ……だからな!」
「城戸……あぁ!」
「しゃあ!」
こうして、二十九名のプレイヤーによる『生き残るための戦い』が始まるのであった。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい