SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ 第二章 第29話

 ゲルトルートが投げた巨大な椅子。優に人間五人分が座れそうな広さと、五メートルくらいある巨人が乗っても壊れなさそうな頑丈そうな椅子が、とんでもない速度で飛んでくるのだ。

 そりゃ怖かろう。

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

 マリンは、その椅子を認識するとすぐさまその場から退避した。それから数秒後、彼女がいた場所に椅子がその大きさに相応しいくらいの音を立てて落ちた。

 椅子が投げられてから逃げるまでの判断をここまで短時間に行うのはかなり大雑把な危機管理能力の持ち主だとは思うが、ともかく椅子が投げられたせいで地面は陥没し、白い煙が上がるとともに壁となる形で彼女たちとゲルトルートの道をふさいでしまった。これは、まずい。

 

「ちょっとマリン!?」

「どうすんのよ!?」

「え!? あたしのせい!?」

 

 なんだか理不尽に後ろから怒られているような気がするのだが、しかし先ほどのクリオネみたいな生物が一種の罠であるのだとすれば、ソレを踏んでしまったマリンに責任があるのは当然の事だ。

 何度も言っていることだが、相手の力量か分からないといのに勝手に飛び出すことは危険極まりない。命があっただけでもまだ運がいいと言っても良いだろう。

 

「どうしよう、あのモンスターに近づけなくなっちゃった……」

 

 そう、椅子が道をふさいでしまったため簡単にゲルトルートに向かうことができなくなった。やや通り道して接近するという方法もあるにはあるのだが、逆に言えば攻撃のルートが完全に決められてしまっているというデメリットにつながる。

 もしもゲルトルートのAIが有能であれば、その道に先ほどのような罠を張る、もしくはツルで待ち構えるあたりしてきそうだ、と考える。

 ならば。

 

「右と左がだめなら!」

「うん! のどか!」

「え?」

 

 そう言うと、シズは、のどっちを呼んで耳打ちをする。その間みるみる内に変わっていくのどっちの顔色。それは、驚きを多分に満ちた表情であった。

 

「ほ、本気ですか!?」

 

 そんなこんなで、最後まで彼女の話を聞いたのどっちの反応がこれである。一体何を言われたのだろうか、随分戸惑っている様子だ。

 

「もちろん!」

 

 一方のシズはいい笑顔でサムズアップするだけ。なんだろうこの二人の表情の違いは。一体、彼女はどんな作戦を思い付いたというのか。

 

「はぁ、分かりました……」

 

 と、呆れながらに、というか諦めた様に言った。彼女が一度決めたことを考え直す頭を持ち合わせていないことは古い知り合いである自分がよく知っていること。ここは、彼女の作戦を後押しするしかない。

 

「それでは、決まりですね!」

「え、もしかして?」

「そっ。そっちと同じ作戦!」

「でも、タイミングがずれたら終わり……エイミー、行ける?」

「う、うん!」

 

 どうやら、スノー、そしてクレールもまた同じ作戦を考えていた様子で、それぞれにサマー、エイミーに話しかける。しかし、話を聞くに互いの呼吸がぴったり合わさらなければ成功しない作戦だ。

 小学生の頃からの仲であるというのどっちとシズ、同級生の友達であるスノーとサマーはまだいい。

 だが、自分とクレールはまだ出会って数日しか経っていないような即席コンビ。果たして、息を合わせることなんてできるだろうか。

 いや、できるかじゃない。絶対にやってみせるのだ。自分のことを信用してくれているクレールのためにも。

 

「ならば、残った我々は……」

「左右からアプローチしてみる」

「お願いします!」

 

 と、残った討伐体の面々は最初に言った通り椅子の左右からゲルトルートに向かうようだ。二の手、三の手を出せるようにと。

 こうして、すべての人間が配置についた時だった。

 

「それじゃ、行くわよ! レディ……」

「「「ゴー!」」」

 

 その掛け声とともに、サマー、のどっち、そしてエイミーの三人はゲルトルートに向けて走り出した。さて、それから二秒ほど遅れてスタートしたスノー、シズ、クレールの三人。

 ほぼ同じスピードでゲルトルートに向かう六人を援護するように、彼女たちを追おうとするアントニーを他の仲間たちが退けている中、ようやく彼女たちは椅子の前にまでたどり着いた。

 

チャンスは―――。

 

一度―――。

 

「ッ!」

 

 その瞬間だった。サマー、のどっち、エイミーの三人は突如として急停止すると反転し、掌どうしを合わせて体の前に出した。あたかも、バレーボールのレシーブの体勢のように。そんな三人に向かい、スピードを緩めることなく、スノー、シズ、クレールの三人が駆け寄った。

 そして―――。

 

「ッ!」

 

 三人は小ジャンプし、それぞれのパートナーの掌に足を乗せた。

 ずっしりとした重さが伝わってくる。少しでも気を抜けばすぐ下におろしてしまいそうになるほどだ。

 けど、エイミーたち三人はそれに耐えると。

 

「ハァァァァ!!!」

「いっけぇぇぇぇ!!!」

 

 腕を思いっきり上げた。そして、掌の上に足を乗せた三人はそのタイミングを見計らって思いっきり足に力を入れると、普段の二倍、三倍くらいある跳躍力を見せる。

 そう、一人で乗り越えられない壁があるのならば仲間を頼ればいいのだ。土台となった者たちが打ち上げたことによりジャンプ力を増した三人は、簡単に椅子の高さを超えてゲルトルートに向かいながらそれぞれにソードスキルを発動させる準備を整える。

 突然思わぬ方向から現れたことによって、ゲルトルートも自慢のツルを出す暇もない様子だ。

 これならいける。彼女たちがそう考えた時だった。まったく想定していなかったような事態が発生したのは。

 いや、想定しておくべき自体だったと言っても良いだろう。

 

「ッ!」

「え?」

「なんですって!?」

 

 あともう少しでその剣先が届くというところまで来た瞬間だった。ゲルトルートは飛んだのである。

 “跳んだ”のではない。“飛んだ”のだ。

 空中に浮かんだゲルトルートはすぐに背後に飛び、彼女たちの攻撃は合えなく空を切ることになってしまった。

 

「そんな!?」

「クッ……」

 

 うかつだった。クレールはそう考えた。

 確かにゲルトルートには蝶の羽という飛ぶことを示唆する体の特徴があったじゃないか。自分たちはそれをただの飾りとして認識して、モンスターが飛んで逃げることを想定していなかった。これは、完全なるミスだ。

 

「逃げられた!」

「速い!」

 

 地面に着地したクレールたちは、すぐさま飛んでいるゲルトルートに目線を合わせた。そして、その速さに驚愕する。

 巨体に似合わないような速さだ。チーターのように早いとまではいわない。しかし、普通に大空を滑空する鳥類と同じくらいのスピードで飛んでいることは確か。

 あそこまでのスピードを誇る敵をどうとらえるか、そう考えていた時だった。またもや、彼女たちは己のミスに気が付くことになる。

 

「ッ!」

「なに、これ!?」

 

 最初にマリンが押しつぶした謎の生物と同じものが、クレールたち三人の足元に集まり、真っ黒なツタへと変身しながら三人の身体に巻き付いたのだ。

 

「うわぁ!」

 

 三人は、そのツタを切る余裕すらも与えられず身体を持ち上げられ、壁に身体を叩きつけられてしまった。みるに、ツタはいつの間にかゲルトルートにまで伸びていて、ツタを操っている様子だ。

 

「あぁ!?」

「シズ!」

「ま、まだ大丈夫!」

 

 とはいう物の、実はHPゲージはその攻撃で三分の一が削られてしまっていた。後もう二回同じ攻撃を喰らってしまえばゲームオーバーだ。

 

「早く何とかしないと!」

「でも、あの高さじゃ……」

 

 現在、ゲルトルートは空中を飛んだまま。攻撃しようにもあまりにも高さが足りない。よしんば、ゲルトルートに攻撃できたとしても、ツタが切れるという保証すらない。何にしても、今はゲルトルートへと攻撃を与えられる手段を探さなければならない。しかし、どうすればいいのか。

 

「あ、あの出口は?」

「え?」

 

 と、スターが閃いた。よく見ると、ゲルトルートの位置は、先ほどから壁にある出口となっている通路に近く、もしあそこから先ほどのようにジャンプに勢いをつけてやれば、ゲルトルートにまで届くのではないか。そう考えたのである。

 

「確かにいい案かもしれない。だが、間に合うのか?」

 

 確かに、今から通路に二人のプレイヤーが上って助走をつけて、タイミングを合わせてジャンプをするというのは、そんなに瞬時にできるようなものではない。しかし、やらなければ今攻撃を受けている最中の三人の命がないのも確かだ。

 

「このまま何もやらないよりはましです!」

 

 そう、心の中が罪悪感で埋め尽くされていたエイミー。もしも自分が彼女の土台になんてならなかったら、もしも自分が飛ぶ役目を変わっていたら、クレールの代わりになれたのに、そんな後悔。

 実際には、彼女以外の二人もまた同じように失敗をしているため、彼女一人が責任を負う事でも、罪悪感を背負い込むこともないような事。

 だが、彼女はあまりにも優しすぎた。だからこそ、何者かの甘い言葉に騙されてその人生を翻弄されてしまうのだ。

 自分が弱虫だから、自分が頼りない、どうしようもない人間だから。そんな後悔を抱く彼女。

 でも、そんな彼女を笑う者なんていない。

 だって彼女は、間違いなく最善のことをしたのだから。それでも報われないことがある。それを知らないが故のショックも、何かできたはずなのにという後悔も、彼女が成長するための武器なのだ。

 たとえ、その武器のために誰かが犠牲になろうとも。

 

「その役目、私たちにお任せですわ!」

「え?」

 

 もっとも、今の彼女には、犠牲よりももっと頼もしい成長の糧たる、仲間たちがいるのであるが。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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