SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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捕らわれの姫と六人の侍(元タイトル:SAO×スーパー戦隊)

 今、一人の少女が泣いている。ここはどこ、私はどこにいるのと。

 幼稚園児程のまだ幼い年齢である女の子は、母親の買い物に付き添って街中に出ていた。だがその時、彼女の目に映ったのは青い蝶々。あまり見たことのない、そしてあまりに綺麗で可憐な蝶々を追いかけていった少女。一瞬だけ目を離していた母親がそれに気がつく事はなく、十分後、少女は見覚えのない工場のようなところに来ていた。

 昼間という時間にも関わらず何も音がしないことから、そこは灰工場だったのだろう。しかし、幼い少女にそのようなことを考えていられる余裕も、知能もない。

 ただ、少女は泣き、叫び、呼ぶ。ママ、ママ、ママ、と。

 誰も聞いてはいなかった。誰も近くにはいなかった。それでも泣いて母のことを呼ぶ。

 ママ、ママ、ママ―――。

 その時、工場のスキマから赤い光が漏れた。

 幼子はそれを、妖精か何かが自分を導いてくれているのだと思った。世の中のことを何もしらない少女からしてみれば、多少の不可思議現象であったとしても、まさしく藁にも縋る思いであったことは想像するに難くない。

 幼子だけではない。誰も思ってもみないだろう。それが、比喩でもなんでもなく地獄へと通ずる光りであろうことなど。

 

「ナー!」

「ナー!」

「ナー!!」

 

 スキマから現れたのは、本来であればその幅から考えると絶対にありえないような大きさの赤い怪物たち。何体いるのかも分からない。数えたことがないほどの数量の怪物が続々と隙間から出現する。

 父と同じ、いや父よりも大きなその異形の姿に、幼子は悲鳴すらも上げることが出来ずに尻餅をついた。

 逃げろ。自分の中のまだ未熟な本能がそう叫ぶ。

 立て。走れ。叫びは、まるで祈りのように彼女の中で反響する。

 

「ナー!」

「ナー!」

「ナー!!」

 

 だが、その命令を受信できるほど彼女の身体は成長しきっていなかった。

 近づいてくる赤い怪物。包丁よりも巨大な刀を持ち、己の身を喰ってしまいそうなほどに巨大な口。それが複数近づいてくる。

 助けて。誰か、来て。そう叫びたくても口は恐怖に慄いて動かない。何も動かない。何もできない。幼子の眼に、涙が溜まり始める。

 死の概念すらまだない幼子が、その様子を理解できていたのかは定かではない。ただ、自分の身に迫る恐怖は感じ取っていたのは事実。

 けど、彼女にできることは何もない。念仏を唱えることも、ただ痛みなく死ねるように祈ることもない。

 

「ナー!!」

 

 ただ、絶望と共に振り下ろされる刀を見上げること。そして―――。

 

「ママ……」

 

 自分が、一番好きな人の名前をつぶやくことだけだった。

 彼女の視界は赤いものに覆われた。

 

「……ナー!!?」

 

 それと同時に聞こえてくる金属音。

 この人は、今自分の目の前にいる≪赤い人≫は誰。

 

「大丈夫か?」

 

 赤い人は幼子にそう声をかけた。幼子は、ゆっくりと頷く。

 

「そうか……」

 

 不思議だ。仮面で顔が見えていないハズ。なのに、そのヒトはまるで笑っているかのように見える。

 赤い人は、幼子を片手で抱くと、彼女を殺そうとした絶望の刀を受け止めた希望の刀を構えて怪物の方を向く。その手は、その身体はとても暖かかった。

 何だろうこの安心感は、先ほどまで絶望しか見えなかったのに、今はもう大丈夫だという感情しか湧いてこない。

 この人も、あの怪物も、自分にとっては得体のしれない者であるはずなのに、両者には歴然とした違いがある。まるで月と太陽のように違う。そう幼子はつたない語彙力で表現する。

 

「殿ぉぉ!!!」

 

 その時、背後から声が聞こえる。おじいちゃんみたいだ。見ると、そこには父よりも年齢を重ねたであろう男の人と、それから全身が真っ黒な人たちがいた。

 赤い人は、それを一瞥すると、目の前にいる怪物たちに向けて刀の先を向けたまま後退し、幼子を下すという。

 

「爺、この子を頼む」

「ハッ! 承知しました! ささ、こちらへ!」

 

 どうやら、この人たちは赤い人の味方らしい。全身真っ黒の人たちの間に自分が入ったことを確認した赤い人、そしておじいちゃんは前を向く。そして、おじいちゃんが赤い人の前に出て言った。

 

「外道衆ども! よぅく聞け!! こちらにおわすのが、貴様たちの総大将……血祭ドウコクを葬った侍の中の侍……志葉家19代目当主である。シンケンレッド……志葉丈瑠(しばたける)様だ!!!」

「シバァァァ!」

「シィンケンレッドォォォ!!」

「しんけん……れっど」

 

 幼子もまた、外道衆と呼ばれた怪物たちに続くようにつたない言葉でそう言った。シンケンレッド、志葉丈瑠。それが、自分の命を救ってくれた赤い人の名前。命の恩人。そして、太陽のように温かい人の名前。

 シンケンレッド、志葉丈瑠―――。

 

 その場所にこれほど早く到着できたのは、彼の住む屋敷とこの場所が近かったことが功を奏した。

 外道衆は三途の川から出現する怪物たちの総称だ。300年前の江戸時代より隙間を通ってこの人間たちの住む世界に現れた、人々に恐怖を与えてきた外道衆。

 今から十数年前、志葉丈瑠は信頼できる家臣、仲間たちと共にこの外道衆の総大将である血祭ドウコクを打倒し、その侵攻を食い止めた。

 しかし、外道衆は血祭ドウコクとは関係なしに自然発生する化け物。そのため、一時の目的を果たして、家臣たちがそれぞれの生活に戻った後も、彼ら《侍戦隊シンケンジャー》の戦いは続いているのだ。

 だが、彼が仲間たちを呼ぶ程の戦いになるということは極まれで、ここ最近は単独で処理することが出来る量しか現れないのが現状であり、市民の安全のためにはそのほうが良いのだ。

 とはいえ、数がすくなって言っていると言っても危険であることには変わりはない。

 今回も、もしも自分があと少し来るのが遅れていたら、今後ろにいる幼子の命はなかっただろう。

 

「恐れ入ったか外道衆ども! この由緒正しいシンケンマルのサビになりたくない者は、おとなしく……」

 

 などといまだに外道衆に対して向上を述べている爺こと日下部彦馬を尻目に、シンケンレッドはそのシンケンマルをゆっくりと構える。

 

「爺、相変わらず長い」

「しかし、できれば戦わずというのが一番かと……」

「それで帰ったためしはないだろ。あとは俺がやる。子供を連れて下がっていろ」

「ハッ!」

 

 日下部は、一度軽く頭を下げた後、後ろに控えていた黒子や幼子と共にその場から離れていく。

 ソレを見たシンケンレッドは、再び外道衆に向き直る。いるのは外道衆の中でも最もよく出る存在であるナナシ連中のみ。数はいつもに比べれば多く、油断などできない。

 シンケンレッドは、一度肩にシンケンマルの峰を載せる。それは、彼が名乗りをする際のいつものポーズであった。

 

「シンケンレッド! 志葉……丈瑠。参る!」

 

 その声と同時に丈瑠は走る。そして外道衆もまた丈瑠に向けて走り出す。まるで、それが決まっていたかのように。

 丈瑠は、わらわらと集まっているナナシ連中先頭に立っていたナナシをただ一太刀にて切り捨てると、さらにナナシを切り伏せながらその中心へと歩を進める。

 だが、そのような敵が密集する場所にいれば、四方八方から敵が襲ってくるということは必然。

 

「ナー!!」

「!」

 

 ナナシは、丈瑠が通り抜けた道をすぐに防ぐと、その背後から刀を振り上げて襲い掛かった。

 

「フッ! ハァッ!!」

 

 だが、その程度丈瑠の範疇の中であった。いや、むしろ隙を見せることによって敵がその隙を狙ってくるように仕向けたともいえよう。

 丈瑠は、その刀をシンケンマルを背中に沿わせて構えることによって背後のナナシを見ることもなくその攻撃を防ぐとすぐに反転し、横一文字に斬る。これにより、そのナナシのみではなく衝撃波によってその周囲においたナナシ数匹がまとめて撃破された。

 

「フ……」

 

 丈瑠は、シンケンマルの剣先を他のナナシに向ける。そして、そのまま走り出す。ナナシ連中は、それにつられて丈瑠と共に走った。

 そして、出てきたのは先ほどの場所よりもやや広い、海と隣接した場所。ここも工場の中であり、戦うにはうってつけであった。

 広い場所に出てきたことによりナナシは分散、先ほどまでの場所は狭く、ナナシが必然的に密集していたために戦いずらかったが、これで戦うスペースが十分出来上がった。

 

「フッ!」

 

 丈瑠は、ベルトのバックルを開き、中から一枚の刀の唾のような中心に穴が開いた円形のモノを取り出す。そして、シンケンマルに装填して回転させた。

 これは、秘伝ディスクと呼ばれるもので、これをシンケンマルに差し入れて回転させることによって、秘伝ディスクそれぞれが持っている力を発揮させることが出来るのだ。

 丈瑠がシンケンマルに装填したのは赤色の《獅子ディスク》と呼ばれる物で、シンケンレッドの相棒ともいえる獅子折神の火の力が折り込まれている。

 

「火炎の舞!」

 

 これで素の状態でも十分攻撃力のあったシンケンマルに火の力がまとわりついたためさらに攻撃力が上昇した。

 

「フッ! ハァッ!!」

 

 丈瑠は、殺傷能力の上がった攻撃で次々とナナシを切り捨てていく。先ほどまででも手も足も出なかったというのに、そこにさらに力が合わさったのだ。ただでさえナナシしかいない外道衆側が勝てる見込みなどあるわけがない。

 そう、この戦いは正攻法では勝てるはずがない。ならば、外道らしく外道な方法で相手をするまで。

 工場の屋上に三つの腕のない異形の怪物が現れた。

 彼らはナナシと同じく外道衆の戦闘員である怪物の一種、名をノサカマタと呼ぶ。腕が存在しないのはその巨大な顎に吸収されたのかそうではないのかと言わんばかりに大きな顎を持つその怪物は、その口から強力な火炎弾を発射する。つまり、遠距離攻撃に特化した怪物であるのだ。

 今、地面にいる志葉丈瑠はナナシ連中との戦いに集中していてノサカマタの存在に気が付いていない。ここからの攻撃であれば丈瑠を倒し切るとまではいかずとも、ともすれば大怪我を負わすことが可能である。上手くいけば、そこから志葉家弱体化まで持っていけるかもしれない。

 そんなことを考える頭脳が外道衆側にあったかどうかは疑問だが、もしも考えていたとしたらソレだろうか。

 だが、丈瑠がノサカマタに気が付いていないのは事実。ノサカマタは、一体、また一体とナナシを斬り捨てている丈瑠に向けて攻撃体勢に入った。

 その時である。

 

「フッ! ハッァッ!!」

「ッ!!」

 

 丈瑠は一驚した。自分が戦っているすぐそばにノサカマタが三体落ちてきたのだ。それも、致命傷を負っていた様子で、地面に落ちたすぐ後に爆発四散して跡形も残らなかった。

 まさか、工場の天井から狙っていたとでもいうのか。であるとすれば、危険な状況であったのだろう。助かった。だが、一体誰がノサカマタを、それも落ちてきたタイミングからして三体同時に倒したというのだろうか。

 丈瑠は、ふとノサカマタが落ちてきた天井をみる。そして、再び一驚を喫することとなる。

 

「あれは……」

 

 そこにいたのは、シンケンレッド。つまり、自分である。

 否、正確に言えば自分と同じ姿をしたシンケンレッドだが、腰にはスカートを付けている点等細部が違う。彼は、その姿をした人物のことを一人知っていた。しかし、何故この場所に《彼女》がいるのか。

 果たして、彼の疑問に対する答えがでるよりも先に、もう一人のシンケンレッドは言う。

 

「その程度のナナシにてこずるなど、鍛錬を怠っていたのか? 丈瑠」

「……」

 

 もう一人のシンケンレッド。普通に考えればあとに来た方が偽物であると考えるが、しかし実は違う。

 丈瑠も、そしてもう一人も、どちらもシンケンレッドであり、《今は》どちらも志葉家の人間であるのだ。

 丈瑠は、天井にいるシンケンレッドの言葉を尻目に再びナナシ連中に向き直り、一枚のディスクをシンケンマルに装填する。それは、最初にシンケンマルに装填されていた秘伝ディスクであった。

 回転する秘伝ディスク。その回転数が増していくと、次第にその秘伝ディスクから赤い力が湧いて出てき、シンケンマルに纏わる。それは、先ほどまでの獅子ディスクと似て非なる物。

 飛び出した火の力は、やがてシンケンマルの形を変える。先ほどまでとは全くと言っていいほどに姿形がが、そして大きさが違う《烈火大斬刀(れっかだいざんとう)》と呼ばれる巨大な刀だ。

 

烈火大斬刀(れっかだいざんとう)……百火繚乱(ひゃっかりょうらん)!!」

 

 烈火大斬刀は、炎を纏う。それは、先ほどまでとは比べ物にならないくらいに巨大な火柱を生み出していた。

 丈瑠は、炎を纏った烈火大斬刀でその場にいたナナシ連中を薙ぎ払う。先ほどまでは狭かったためこの技を使用すると工場に火が燃え移り、大火事になりかねなかったため、使用を控えたのだが、ここでなら問題なないだろう。

 

「ナー!!?」

 

 巨大な炎の大刀による斬撃はあたりにいたナナシを全て焼き払い、気がつけばそこに立っていたのは丈瑠のみとなっていた。

 敵はいなくなった。だが、安心するのはまだ早い。スキマから出現する外道衆は、一度倒し切ったと思っても、またスキマから出現するということが多々あるからだ。

 だが、今回はもうこれ以上ナナシ連中が出現するという気配はない様子だ。

 丈瑠は、フッと一吐きすると烈火大斬刀をシンケンマルに戻して納刀する。

 

「どうやら、まだ腕は落ちていないようだな」

 

 そこに、先ほど工場の屋根の上から丈瑠に声をかけたシンケンレッドが現れる。下から見上げた形で、太陽を背にしていたためにその時は分からなかったが、よく見ると丈瑠とはかなりの身長差があり、こちらの方のシンケンレッドはかなり小柄な体系であるということが分かる。

 それに、丈瑠との一番の違い、それはそちらのシンケンレッドには、腰にスカートを蒔いているということだ。別段、その下に下着があるとか、趣味でシンケンレッドとしてのスーツの上に穿いているというわけではない。丈瑠の家臣の女性戦士がそうであったように、何故か女性が変身すると、そのような装飾が成されるというのが理由なだけだ。

 丈瑠は、変身を解きながら目の前にいる親しい人間に対して言う。

 

「弱体化したとはいえ、外道衆は人間がいる限り湧き続けるのと同じ。鍛錬を怠ったことは一日たりともない……母上」

 

 その言葉と同時に、丈瑠が母上と言った少女。志葉薫(しばかおる)もまた変身を解いた。

 母上、というにはまだ若い少女。いや、このくらいの年齢であれば子供がいてもおかしくはないとは思う。しかし、丈瑠との年齢差を考えれば、彼のような息子がいるのは少し考えられない。

 

「当然だ。いや、そんなお前だからこそ、私は丈瑠を養子に向かえたのだからな」

 

 そう、実は丈瑠は志葉薫の実の息子というわけではない。彼は、この志葉家18代目当主志葉薫の養子であるのだ。

 元々、血祭ドウコクに対抗するための封印の文字という物を会得できるまでの間、当主を外道衆の目から逸らすために用意された影武者、それが志葉丈瑠の正体であった。

 丈瑠は、その影武者の役割を果たすために仲間たちにも嘘をつき、罪悪感にかられながらも約一年間にわたって戦い続けてきた。本当であれば、そのまま永遠に影武者を隠したまま戦うつもりでもあった。

 だが、志葉薫は彼らの予想よりも早く封印の文字を会得した。それは、家臣たちが決死の覚悟で戦っているというのに自分一人裏に回ったということの罪悪感や、影武者として自分を偽り続けている丈瑠に対して思うことがあった所以なのかもしれない。

 結果、本当の志葉家の当主として戻ってきた志葉薫は本物のシンケンレッドとして、丈瑠と共に戦い続けてきた家臣たちと少しの間だけではあるが戦った。

 だが、封印の文字は血祭ドウコクが半分人間である外道、薄皮太夫を取り込んでいたことによって封印の文字を無効化されてしまい、薫自身もすぐには立ち直ることが出来ないほどの怪我を負ってしまう。結果多くの人間の、特に丈瑠の人生を狂わせた一世一代の作戦は失敗に終わった。

 だが、薫はそこで止まることは無かった。

 この外道衆との天下分け目の大決戦の中、当主不在で大将である血祭ドウコクに勝つことは不可能である。そう考えた薫は、丈瑠を自らの養子に向かえ入れることにより、名実ともに志葉家の当主としての座を、丈瑠に渡すことを決心し、行動に移したのだ。日本の法律上では年上を養子にすることは不可能であるのだが、名目上であったとしても丈瑠を養子にしたという事実。それが代々続く侍の家系として大切なのだと、薫は考えたのだ。

 こうして、志葉家18代目当主志葉薫は引退し、改めて志葉家19代目当主志葉丈瑠が誕生した。

 そして、仲間たちの力と、そして支える者たちの力によって血祭ドウコクは打倒され、薫は志葉家の分家として隠居するということになった。だが、隠居の身ではあっても世界の危機、息子である丈瑠の危機の際にはすぐに駆け付けてシンケンジャーのもう一人のレッドとして戦っているのだ。

 そのため、このような小規模な戦いに出てくるというのは初めての事なのである。

 

「ところで、どうしてこの場所に?」

「理由は二つある。一つは、迷子を捜していた母親を見つけたことだ」

「あの女の子の……」

「あぁ、今頃私のところの黒子が引き合わせてくれている頃であろう」

 

 黒子は、丈瑠のところにいる者たちだけではない。当然、前の当主である薫のところにも何十人といる。今回、薫は何人かの黒子を連れて丈瑠にある話をするために街に赴いた。その際、迷子となった子供を探している母親に出くわしたのだ。

 少し目を離した隙にいなくなったという女の子を、一緒に探そうとした矢先に黒子から近くの工場跡地にナナシが出現し、さらに女の子を一人、丈瑠のもとにいる黒子や日下部が保護したとの情報を聞いた。

 もしかしたらその女の子が、母親が探していた子供なのかもしれない。そう考え、薫は駆け付けたということなのだ。

 そして、やはり女の子は薫が連れてきた母親の子供であったらしく、女の子は怪我一つなく親元に帰っていったそうだ。

 

「そうか……それで、もう一つの目的というのは?」

「あぁ……いや、そっちの方が本題だと言ったほうが良いのかもしれないな」

 

 確かに、迷子の女の子と母親の一件は突発的に発生した出来事であったため、本来はまだ彼女が語っていないもう一つの方が理由でこの街にやってきたと考えるのが無難であろう。

 果たして、彼女の口から発せられた言葉。それが、この先に待ち受ける志葉家の一大事に、そして世界の危機に繋がる物であるといったい誰が予想できたであろうか。

 

「丈瑠、私はソードアート・オンラインをすることにした」

 

 人の世は常に幸せな物事で回っているとは限らない。

 恨みと妬み、ひがみと嫉妬、恐怖と欲望。

 様々な負の感情も一緒くたにして回っているのだ。

 その感情は人を狂わせ、狂気に陥らせ、やがて誰かの人生を狂わせてしまう。

 狂わせた人間はその罰を受けなければならない。それが世の常である。

 後に薫はこう語っている。この事件に巻き込まれたこと、それは自分自身の罰。彼の人生を狂わせてしまったその罰が訪れようとしているのだ、と。

 あの時、自分の中にあったのは本当に世界を守る、人々を守るという正しき感情だけであっただろうか。

 違う。あの時自分の中にあったのは復讐心。父を殺し、自分から普通の人生という物を奪った血祭ドウコクへの逆襲。己の私利私欲のために戦った。

 だから、自分は負けたのだ。

 丈瑠の、志葉家19代目となった丈瑠と、家臣たちとの絆の力に。

 様々な感情が交差する中で、彼女のSAO(デスゲーム)の始まりの時が、刻一刻と訪れようとしていた。

 

 シンケンジャーとをあまりみつ 捕らわれの姫と六人の侍 開幕




 侍戦隊シンケンジャー
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