SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
プロジェクトSAO。それは、その名前の通り、ソードアート・オンラインというゲームを世間一般、ゲーマーでもない人間にも広めるために開発元のアーガスが企画したプロモーション。
名だたる有名人にβテスターとなって先にSAOの世界を体験してもらい、その素晴らしさやリアリティを感じて、自分たちの番組で宣伝してもらう。
その効果は絶大だった。元々のクオリティに比例して、名だたる著名人が宣伝したおかげで、本来だったらゲーマーくらいしかプレイしないような価格と世界観にもかかわらず、多くの一般人まで取り込むことができた。
この企画には、茅場明彦は満足げだった。しかし、その理由は自分のゲームが一般層向けにも関心が沸いたからじゃない。ゲーマーでもない普通の人間もまた、自分の作り出した世界に連れ込むことができる事を喜んでいたのだろう、そう後にアーガスの社員だった人間は語っている。
その結果、現実世界でもこのゲームの世界でもバッシングを受けた名だたる著名人たち。現実世界では、その活動を一時辞めることによってその混乱を抑えようとしたが、しかしバッシングはいまだに止るところを知らぬそうだ。
そして、ゲームの世界に入り込んだメンバーは、顔を隠すことができるローブを着用したり、表立った活動はせずに裏で元βテスターとして情報を送ると言う作業を行っていた。
そう、この世界に置いて、アイドルと言うのは世界中の皆に笑顔を与える存在ではない。自分たちをこの地獄に送りこんだ憎悪の対象なのだ。そして、それは桜井まゆりも同じことだった。
「え、は、はいそうです!」
と、まゆりは目の前に現れた男性プレイヤーを前にしていつものように笑顔で挨拶をした。しかし、男たちの顔が朗らかになることはない。むしろ、その顔つきはこわばるばかり。まゆりはそれに気が付けなかった。純粋であるが故に。
「えっと、ファンの人……ですか?」
「俺はな、現実の世界じゃ普通のサラリーマンだったんだ」
「え?」
それって、ひろりんと同じ。そう思った直後だった。まゆりの目の前に剣が振り下ろされたのは。
「ゲームなんて興味もない。ただただ上からの命令に動かされるだけの趣味と言った趣味もない普通のサラリーマンだった。けどよ……」
男は、一度地面に振り下ろした剣を、小刻みに震える手でまゆりに向けると叫ぶ。
「アンタたちが、アンタらアイドル達がSAOの事を楽しそうに話す姿をみて買いたいって思っちまったんだ」
「え?」
ここまで来て、まゆりにも彼が、いや彼らが何を言いたいのかはっきりと分かってしまった。男はさらに続ける。
「平凡で! 何のとりえもなくて! そんな人間でも勇者になれる! 辛い社会の事なんて忘れて楽しい生活を送ることができるリアリティ溢れるゲーム! そんなこと聞いて、興味を持たない人間がいるか? 一度体験してみたいと思わない人間がいるのか? いや、いない! そうだろ、プロジェクトSAOに参加していた、桜井まゆり!!」
そうか、この人も、自分と同じ人生を無茶苦茶にされてしまった被害者だったのか。
「うん、そうですよね。私と同じ……」
「全然違う!」
「え?」
違う。どういうことなのかまゆりには分からなかった。しかしそんな彼女に向けて男はさらに言う。
「アンタにとってここでの数年間なんて虫に刺されたくらいの事だろ? アンタには帰った時に仕事がたんまりあるだろ!? けど、俺たちには席なんてない! 俺たちの居場所何て会社なんてないんだよ!!」
「そんな……」
身勝手な言い分だ。だって、自分だって芸能界に居場所があるか、不安だったのだから。松川マネージャーが言っていた。芸能界の様々なキャラを持つ人間たちにとって、今この時、多くのアイドルや有名人がいなくなった今、芸能界でのし上がる絶好のチャンスになっているはずだと。
今まであまりスポットが当たることがなかった芸能人にとって、目の上のたん瘤的な存在だった人間たちがいなくなって、そのスペースに自分達が入り込む余地が出てきた。それはつまり、その人たちにとってはチャンス、そしてこのSAOの世界にいる芸能人たちにとっては地獄。
ブーム、流行何て簡単に途切れてしまう物。それが、継続されなければされなくなるほど、人はまるで最初からなかったかのように、ゴミのように頭の片隅にしまい込んで、そのまま忘れ去られて、あぁそんな人いたな、位になってしまう。
だからこそ、松川は一生懸命になってゲームを早くクリアして、もう一度まゆりを芸能界に復帰させるために頑張っているのだ。そんな松川の頑張りを、多くのもう一度芸能界に戻りたいと願って、危機感を感じている人間たちの思いを無視するような発言に、まゆりは言葉が出なかった。
「お前たちのせいで、俺たちの人生は無茶苦茶だ!」
「そうだそうだ!」
「俺たちの人生を返してくれよ!!」
と、今まで聞いたことがない様な怒涛のような罵声がまゆりに浴びせられる。アイドルとして生きてきた人間にとって、罵詈雑言と言うのは日常茶飯事の事なのかもしれない。しかしことまゆりに関しては鬼の松川との異名を持つマネージャーがすぐそばにいてくれたおかげで、そんな醜い世界を見ずに済んでいた。
でも、今回は違う。彼女は今、正真正銘、本当のアイドルとしての試練に立たされてしまっているのだ。あの宿を勝手に出た、その瞬間から、こうなることは予想ができていた。でも、それでも自分が幻覚を追ったが故に浴びせられる悲哀な言葉に、まゆりは閉口するしかなかった。
怖かった。恐ろしかった。人間って、男の人って、こんなに怖い物だったのか、純粋だったまゆりにとって、この光景は地獄。
相手もまた、同じ地獄に送りこまれたいわば同士であると言うのにそのことも棚に上げて相手を罵ることしかできない彼らもまた身勝手な人種。でも、そのことをまゆりは理解できるはずもなかった。
何もできずに、ただただ暴言を浴びせられていた。その時だった。
「まゆり!!」
「え?」
この声、聞き覚えがある。いや、知っている。あの子の声だ。でも、どうして。
決まっている。彼女もプレイしていたからだ。この、とてもじゃないが普通の精神を持ったまま過ごすことができない地獄の世界に、来ていたからだ。
「エリカ、ちゃん?」
「やっぱり……ッ!」
アンタだったのか。エリカはそう思いながら素早く、男たちとまゆりの間に立った。
あの時、彼女は見ていた。ホルンカの村から一人の女性プレイヤーが出て行く姿を。ほとんど初期装備、何の工夫もしていない女性プレイヤー。そしてその顔と髪。それだけを見て彼女は判断したのだ。自分が見たのは、桜井まゆりであるのだと。
彼女は考えた。どうしてそんな初期装備のままでフィールドに出ているのか。装備が変わっていないことに関しては恐らく松川が宿かどこかにいるように、つまり人前には出てこないようにと言明していたからと言うのは容易に想像できていたが、しかしその装備でどうして外に出てしまったのか。それも安全圏である村を出てしまって、何故モンスターが出現するフィールドの中に出てしまったのかと。
なんにしても、直感的にまゆりが危ないと感じたのは、ある意味でファインプレーだったと言えるだろう。
そして案の定囲まれているまゆり。しかし、彼女の事を囲っていたのはモンスターではない。プレイヤーだった。なぜそうなったのかは何も話を聞いていないエリカにも明白だった。
「アンタたち、どうせまゆりに八つ当たりしに来たんでしょ!」
「なっ!」
やはり図星か。プロジェクトSAOに参加し、自分たちの人生を破滅させた、そう考えている人間たち。まったくもって醜いものだ。自分たちの現状を、他人のせいにするしかできないなんて、どうかしている。
そう、エリカが考えている時だった。男たちが口々に言う。
「お前、どこかで顔見たことがあるな」
「あぁ、確か……」
「あぁ、バラエティアイドルのエリマリのエリカかマリカじゃないか?」
「ッ!」
エリカはその瞬間、唇を噛みしめた。やっぱり、自分は普通のアイドルなんかじゃない、バラエティアイドル、バラドルだと思われていたのか、と。そして、エリマリのどっちかじゃないかと言う言葉にも、どこか引っかかるものがあった。確かに自分たちは双子アイドルとして売っている。でも、それでもどちらか分かってもらえないと言うのは辛いものがあった。
そう、今まで自分の事をエリカだと、最初に言ってくれたのは、自身を持って言ってくれたのは、あの子だけ。
「違うよ! エリカちゃんはバラエティアイドルじゃない。アイドルだよ!」
「まゆり……」
そう、まゆりだけだった。まゆりが、最初だった。一度、マリカの格好をして、といっても髪型を変えるだけだったが、まゆりの前に出た時に、最初からエリカだって言ってくれた。初めての人だった。
悔しかった。自分だけは、まゆりの事を嫌いになりたいのに、雲の上の存在として自分たちのはるか先を行っている彼女に、自分の名前を当てられて、ショックだった。でも、嬉しかった。けど、ソレを素直に喜べなかった自分に、腹が立った。
「いつも一生懸命で、現場でも必死に頑張ってて、少しでも自分たちの事を知ってもらおうと身体を張って、エリカちゃんは、立派なアイドルだよ!」
「……」
「は、プロジェクトSAOにも選ばれなかった三流アイドルがか?」
「ッ……」
「それでも、私は……エリカちゃんの事を応援している……だって、エリカちゃんは友達……ううん、私の……ライバルだから!」
「え……」
ライ、バル。そっか、ライバルだったんだ。そう思っていたのは、自分だけじゃなかったんだ。
エリカは嬉しかった。今を時めくトップアイドルのまゆりの事を自分はライバルだと思っていた。でも、そんなの自分が勝手に思っているだけのただの妄想だと、そう思っていた。
違っていた。まゆりもまた、自分の事をライバルだと思っていてくれていたのだ。それは、彼女が本当に自分の事をアイドルであると思ってくれている何よりの証拠。同じ土俵の上で闘っているのだと、そう思っているからこそ出る言葉。
嬉しかった。嬉しかったからこそ、彼女は、決心した。
悪の道を、走ることを。
その時、彼女は微笑んでいたと言う。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい