SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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 序盤完全に《例のアレ》の話ですね。


憂鬱の先にある見知らぬ未来(元タイトル:SAO×涼宮ハルヒの憂鬱)

流行

 人間社会を生きる中で切っても切れないであろうそれは、企業の販売戦略に影響を与えたりごく一部の人間にとって冷た~い氷ぶろに浸かる時のように慎重になったり、はたまた何の考えなしに龍の口の中に飛び込むが如くに惹かれてしまう代物である。

 中学生の時に世間であるアニメが流行った時、俺の周りの人間はバターで固めた団子に集まるネズミの如くに飛びついた。まぁ俺は、あまり自分がよく知らないものに金を使う程貯金してなかったため、U-ボートの如く静観していた。

 所がどっこい、周りの人間はそれを見ろ見ろと勧め、興味がないと一言言えば、まるで魔女狩りが如くに責め立てられ、俺はそのアニメを2度と見ない決意を固めた。

 まぁ、正直言えばあの時おかしくなっていたのは周りの人間だけじゃなく、いつもは当たり障りのないような情報ばかりを伝えるマスメディアもだった。

 例のアニメが話題になっていると知るや否や、昔は腫れ物のように扱ってきたアニメを急に煽てる様になり、さらにはまるで昔から応援していました、急に流行り出しましたとばかりにどこもかしこも様々なメジャーマイナー関係なしに取り上げ始めたのだ。あるクイズ番組では、識字率の如く誰もがキャラクターまで把握していることを前提とした問題までだし初め、排他的経済水域なんて知ったことはないとばかりにアニメという業界を乱獲し始めた。

 まぁ、本人たちにとってはただ流行に乗っただけでそんな思惑はないというだろうし、取り立てて気にするようなことでもなかった。ブームなんてもの2年も3年も続くようなものじゃない。爆発的に流行したものの賞味期限なんて1年やそこらで切れてしまう。かつて一大ムーブメントを巻き起こしたアニメをいくつか知っているが、今回のそれは余りにもアニメに興味のない人間を巻き込んでしまったのだ。

 結果は想像に任せる。

 そんな、時に人を暴力的にさせ、狂わせてしまう流行。俺たちは、その流行の波という断じて飲まれたくないようなものにある少女の一存で飲まれ、これから先続いていくであろう平凡だった日常という物を狂わせてしまった。

 長い前置きになってしまったが、それはさかのぼること一か月前、人間の視覚的美意識を極限まで高めるという役目のために紅葉がようやく赤くなってきたときにまで時を戻さなければならない。

 

「ん?」

 

 今から1年前、文芸部の部室を乗っ取る形で誕生したとある部活動の活動拠点となっている部屋に入った俺は、パイプ椅子に根を生やしているかのようにじっと本を読んでいる少女に声をかけた。

 

「長門、今日もお前一人か?」

 

 答えはすぐに帰ってこなかった。俺が長門と声をかけた二十数年前にブームになった深夜アニメのヒロインのような少女、長門有希(ながとゆき)は手に持った歴史物の小説からスッと眼をそらし、顔をこちらに向けると、何の興味も示さないかのように言った。

 

「そう」

 

 それを聞いた俺は思った。見ればわかる。だが、俺がした質問に対しての言葉の最小公倍数としての返事としては満点に近い物であるため、これに文句を言ってはいけない。

 そもそもの質問があまりにも簡易的だったのが悪かった。質問を変えてみよう。

 

「ハルヒはどうした?」

「まだ来ていない」

「そうか、今日もか……」

 

 こりゃ、今日もこの団体の設立者は来なさそうだ。なのだが、それでも帰ることもせずにカバンを置いてパイプ椅子に座り込む俺は、よほどこの団に飲み込まれてしまっているらしい。

 ここで、この団体のことをよく知らないという人間に丁寧に説明して存じよう。最初に断わっておくが、俺は小学校の先生でもないし、悪徳接客業の人間でもないためあまり分かりにくい説明になるかもしれないが、俺は責任を持てないのでその点注意するように。

 先ほどから俺が団と言っている物の正体、それは≪SOS団≫という物だ。SOSと言っても、緊急避難信号だったり桃色のレディの事ではなく、略さずに言うと『世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団』だ。

 涼宮(すずみや)ハルヒ。それは、俺の極々平凡な日常を180度以上変えてしまった破天荒な少女だ。今でも鮮明に覚えている。この県立北高等学校に入学し、同じクラスとなったハルヒの最初の自己紹介を。

 

『東中出身、涼宮ハルヒ。ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、私のところに来なさい。以上』

 

 この、忘れろと催眠術をかけられても忘れられないような素っ頓狂な発言と共に出逢った涼宮ハルヒという言動、行動ともにただの人間が一生辿りつけないような思考回路を持つ人間に、俺がうっかりといった言葉で作られたのが、このSOS団である。

 

「失礼します~」

「朝比奈さん」

「あっ、キョン君。えっと、涼宮さんは今日も?」

「あぁ、はいそのようです」

 

 唐突に始まった回想の渦に慕っていると、俺が入ってきたドアからとても豊満なモノをお持ちの女性が、湖から女神が登場するかのように降臨した。

 彼女は、俺達から見ると一年先輩となる朝比奈(あさひな)みくる。小動物系というか、小動物の中でも保護欲求が高まりそうなほどに弱弱しく、このような団体に置いていてはかなり危険ではないかとも思うくらいである。

 あぁ、因みに彼女の言ったキョンというのは俺のあだ名の様な物だ。もちろん、俺にはちゃんとした本名があるにはあるのだが、なんやかんやがあってこの学校の内部ではもはや本名よりも知られてしまっている。それもこれも、件の涼宮ハルヒのせいなのである。

 

「おや、涼宮さんはまだ来られていないようですね」

「あぁ、そうだよ」

 

 そして俺も含めて三番目に現れたにやけスマイルを崩さないもう一人の男子生徒、古泉一樹(こいずみかずき)、説明は以上だ。

 最初の長門を含めてこの四人に、団長である涼宮ハルヒを加えた五人が、SOS団の全団員である。のだが去年一年間と今年に入っての上半期、ほとんど毎日のように学校終わりに部室に現れていた団長涼宮ハルヒは、何故かこの二か月全くと言っていいほどに部室に顔を出さなくなった。

 今は10月であるので、逆算していくと8月のあくる日から付き合いが悪くなった。夏休みという昨年ある一大事件を無意識のうちに起こしていた頃合いにも、ハルヒからは何の音沙汰もなかった。そのため、今年もなにかあるかもしれないと思って用心していた俺たちにとっては、食べたフォーチュンクッキーの中に何も入っていなかったのように拍子抜けしてしまったのは言うまでもない。

 新学期以降、学校の授業には一日たりとも休まずに来ているはるひに対して、何故ここ最近SOS団に顔を出さないのか、聞いたことが一度だけあった。すると、帰ってきた答えは。

 

『アンタには関係ないことでしょ。今大事な時期だからそっちに集中したいだけなの』

 

 だけである。この言葉から察するに、本人にとってはなにやら重要な案件を抱えていることは確かなようなのだが、それを一切教えてくれることは無く、休み時間や昼休みにも一人どこかに雲隠れしてしまっているため、その話以降あまり彼女と話をしたこともない。

 そんなこんなで、創設者である団長様が顔を出さない中でも、俺たちはこの場所に集まり、それぞれに時間を過ごす。いつものように長門は本を読んでいるし、朝比奈さんはメイド服に着替えてお茶を汲み、そして俺は嫌々ながらも古泉と将棋をする。こんな毎日が、新学期に入って一か月続いていた。

 

「なぁ、どう思う古泉」

「待ったをかけるべきかどうかでしょうか?」

 

 そういう事じゃねぇ、と敵の陣地の中で一人孤立している金の駒を後ろに下がらせると言った。

 

「ハルヒのことだよ」

「そうですね。確かに、これまでの行動パターンから考えて、二か月以上も行動を起こさないというのは珍しいことだと思います」

 

 この状況で珍しいの一言で済ませることが出来るのは、お前のように何を考えているのかわからないような奴らと、隕石が一時間後に地球に落下すると聞かされてもナンパにいそしむような能天気な奴らぐらいだ。

 珍しいの一言で済ませることが出来るほど簡単な問題だったらこんな質問はなからしていない。

 

「珍しいじゃなくて異常だ。この一年間毎日のように部室に顔を出して常人じゃ考えつかないような発言をし、休みの日には不思議探しと称した市内散歩を繰り返してたんだぞ? それが全くないなんてな……」

 

 涼宮ハルヒ、その言動、行動が異常であると言わざるを得ない人間であるが、そんな人間が作ったこのSOS団が普通の部活動であるはずがない。

 そもそもこのSOS団の設立目的はハルヒ曰く、宇宙人や未来人、超能力者を探して一緒に遊ぶことだそうだ。はっきり言おう、正気の沙汰じゃない。

 だが、彼女自身は本気の中の本気な様子で、それらいるのかいないのかわからないような者たちを探すため若しくはそれ以外の不思議を探すためにこの市内のあちこちを休日には歩き回ったりしているのだ。だがしかし、前述したとおりにここ最近はそれすらもなくなり、一日の歩行数は一年前に比べれば天と地ほどの差くらいありそうなものだ。

 

「もしかして涼宮さん、SOS団の活動が嫌になってしまったんでしょうか」

 

 いいや朝比奈さん。そんなことは天と地がひっくり返ってくっつきでもしない限りありえない。そもそもこの部活動が嫌になって辞めるのであれば、恐らくそれは俺が一番最初になることだろう。

 だから、確実にありえないことだ。そう断言できる。

 

「そうですねぇ、実は一つ心当たりがあります」

「心当たりだと?」

「えぇ」

 

 そう言った古泉は、わざわざ持ち駒の成金で王手をしてから、カバンから一つの雑誌を取り出す。

 

「これですよ」

 

 古泉のもってきた雑誌、そこにはプリキュアなる者が横浜に現れた怪物を倒したと記されていた。

 

「なんだこれは? 少女向けアニメの映画の宣伝か何かか?」

「いいえ、どうやら関東地方で実際に活動しているようです。他にもこんなに」

 

 といって、次から次へと、まるでマジシャンのようにカバンから雑誌が出るわ出るわで、いっそ雑誌専門の本屋でも開いたらどうだろうかと皮肉を込めて行ってみるが、古泉はそのにやけスマイルを崩すことなくページを差し出した。

 そこには、スーパー戦隊なるものや仮面ライダーという都市伝説。渋谷はゆらぎという物で封鎖され、ザ・ワールドという全世界で2000万本売り上げたゲームの対抗馬として表れたと言われているSAOというゲームの特集までありとあらゆる情報が載っている。

 SAOのことはギリギリではあったものの知っている。確か、世界初のVRMMMORPGだったはずだが。

 

「一体これがなんだって言うんだ?」

「プリキュア、スーパー戦隊、仮面ライダー、ゆらぎによる封鎖……そしてザ・ワールド。ここまでくればお分かりになると思いますが?」

 

 とはいう者の、たったそれだけの情報で何か思いつけるのだろうか。ただ一つ言えることは、そのどれもが初めて聞く情報で、そんな名称今の今まで聞いたことがないという確約たる自信だけだ。

 

「ちょっと待て……」

「ようやくお気づきになりましたね」

 

 そうだ。気が付いた。どうしてこんな雑誌に載るようなこと、己が知らなかったというのだ。渋谷が封鎖されたり、横浜に怪物が現れるなんて大事件、そんなこと生まれてこの方聞いたことがない異常な事態、しかしそれをあまり異常なことだとは思うことが出来なかった。まるで、あたかもそれが普通であるかのように。日常であるかのように。それにザ・ワールドというゲームに至ってもそうだ。全世界2000万本売り上げたゲームだというが、そんなゲーム、地球の裏側のアマゾン川周辺の部族が使っているだろう聞いたことのない言語並みに聞いたことがない。

 仮面ライダーという都市伝説もそうだ。いや、よく見るとすでにその存在が周知の事実になっているため都市伝説として扱うのもおこがましい等と雑誌には書いてあるのだが、それすらも聞いたことが人生で一度もない。なによりもだ。

 

「こんな面白そうな話、ハルヒが今まで見逃していたっていうのか?」

「ありえません……よね。なら、考えられうることは一つ……」

「おい、まさか非日常出来なことが全然見つからないことを嘆いたハルヒが作り出した空想上の人間なんて言うんじゃないだろな?」

「ご名答です」

「……」

 

 このSOS団のことを全く知らない人間が聞いたら、古泉の頭がおかしくなったと考えられるほど、いや、実際におかしくなっているんじゃないかと思うほどの言葉だ。ただの高校二年生の女の子が、世間様に知られるほどのご当地ヒーローヒロインを生み出すことなんて、できるはずがないとあざけわらってしまいそうな話だが、俺は知っている。実際にハルヒに。そのような力が備わっているということを。

 先ほど、このSOS団の設立目的が、宇宙人、未来人、超能力者と一緒に遊ぶことと言ったのは記憶に新しいかと思うが、実は、このハルヒの願望はすでに達成してしまったりしているのだ。

 例えば今も部屋の方で熱心に本を読んでいる長門。無口で常に無表情であるということをのぞけば一見ただの女の子にしか見えない。が、はっきり言おう。

 彼女は宇宙人だ。正確に言うと、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。だそうだ。

 そして朝比奈さん。彼女は未来からこの時代にやってきた未来人。

 古泉はこれでもとある機関に所属している限定付きの超能力者だ。

 まさか、そんな都合のいいことがそうそう起こるはずがないだろと思うかもしれないが、古泉曰く、涼宮ハルヒがそう望んだからこうなった。かいつまんで言えばそういう事らしい。

 俺か? 俺はただの涼宮ハルヒに巻き込まれたただの一般人だ。それ以上でも以下でもない。

 ともかく、長門たちがいうことには、涼宮ハルヒには世界を思い通りに歪めて空想を現実にする能力があるらしい。古泉は、それを神に等しい存在であると認識しているらしいが、質の悪いことに彼女自身は自らの力について全く知らずに生きている。知ってしまえば世界が崩壊するとも言われているらしいが、俺にはわからん。

 とにかく、古泉たちはそんな能力を持った涼宮ハルヒの監視のためにこの学校にやってきたそうで、本気で彼女にそんな能力があるのだと信じている。かくいう俺も、それまでにハルヒが起こしてきた数々の奇跡を眼にすれば、嫌がおうにも信じざるを得ない。という感じだがな。

 

「もしかすると涼宮さんは、夏休みの間にこのどれかのグループに接触を図ったのかもしれませんね」

「あいつの好きな超常現象の世界だ。話を聞くだけでも天国にいる気分だっただろうな」

「それじゃ、涼宮さんは……」

 

 おそらく、朝比奈先輩はこう考えているのだろう。目的を果たした以上このSOS団の存在する意味はない。このまま、SOS団は解散してしまうのではないのかと。

 だが、俺『たち』はそう考えていない。

 

「心配ありませんよ朝比奈さん」

「え?」

「古泉、お前もそう考えてるんだろ? 朝比奈先輩をむやみに困らせるんじゃない」

「失敬、そうですね。仮に涼宮さんがこの雑誌に載っている、いえもしかするとそれ以外にもあるであろう現象に遭遇していたのなら、この世界はそう言った超常現象一色に染め上げられているはずですから。こんな局地的な物でおさまるわけじゃありません。貴方もそう考えているんでしょう?」

「そんな大それたものじゃない。ただ、あいつの事だ。そんな面白くて楽しそうなことを、独り占めしようとしない。いつものように俺たちも巻き込んでいるはずだ」

「ご最も」

 

 これまでもそうだった。どこに行ってもどんな場所でも、涼宮ハルヒは俺たちの興味や時間のあるなしにかかわらず様々なことに巻き込んできた。先述の不思議探しもそうだが、探偵まがいの人探し、別荘で行われた合宿、コンピュータ研とのゲーム対決もそうだし。最たるものとして昨年の夏休みには突然の連絡から始まった昆虫採集、夏祭りの参加、バイト等々を長門以外の記憶にはないが15532回繰り返すという地獄も楽しくなるほどの出来事にも巻き込んでいる。そんな人間が、面白おかしいことを自分だけで楽しむなどということ、考えられることじゃない。

 

「それじゃぁ、涼宮さんは……」

「これまでの行動パターンから考えるに……」

 

 いや、あの女の行動パターンを予測することなど、フェルマーの最終定理を導き出すよりも難しいことなのは重々承知だが、それでもこの一年間毎日のように一緒にいた経験から考えることは可能だ。

 恐らく、何かしらの準備をしているのだろう。突発的行動をし、大掛かりなことをする際には事前に準備をしているのだが、その準備段階ですら団員全員を巻き込んでのことが多かったハルヒではあるが、極まれに自分から準備をしていることもあるのだ。そもそもの話、このSOS団の部室として使用している部屋も、元々ハルヒが部員不足で廃部になった文芸部の部室であり、強引にではある物の部室使用の交渉を行ったのは涼宮ハルヒなのである。とはいえ、それ以外に目を向けると事前にハルヒの方から準備したと言えるのは自らのコスプレ衣装だったり朝比奈さんのコスプレ衣装だったりとかなり小規模な物ばかりであるのだが、前例がある以上涼宮ハルヒがそういった何らかの準備をするために走り回っているという可能性を除外することはできないだろう。

 

「ハルヒは」

 

 その時である。安寧の時を崩さんがごとくに扉という部屋そのものの概念を構築していた木を壊すかの勢いで開け、カチューシャという名前の絶対的無敵な装備品を身に着けた、少女という名前の暴虐無人な猪がこう言った。

 

「全員、そろってるわね!」

「お前意外はな、ハルヒ」

 

 何があったのか、また何をしていたのかは不明だが、彼女がこの場所に戻ってきた以上何かしらの厄介事を引き連れてきたことは想像するに難くない。

 果たしてその口から一体何が出てくるのやら。俺は、内心ワクワクしながら団長席に座るハルヒを黙って見ていた。

 団長席に着いたハルヒは、二か月間その場所を留守にしていたなんてことを忘れていたかのように以前のようにパソコンを操作し、SOS団の公式サイトを開いていた。

 

「ちょっとキョン、更新が止まってるじゃない。なに、もしかしてさぼり?」

「お前が言えるセリフか?」

 

 ここまで返す刀で反論できるような超大型のブーメランもこの世には存在しないだろう。そもそも更新というのも活動予定や活動記録を載せるものなので、ここ二か月完全に活動を停止していた部活動の活動報告等できるわけがない。

 

「それじゃ聞くがな、この二か月お前は何をしていたんだ?」

 

 当然のように、俺の口からはそんな当たり前の質問が無意識のうちに飛び出した。棚の中で着せずはずれの島民に入っていたハルヒの茶碗を探していた朝比奈さんも、一瞬だけ手を止めて赤べこの置物のように首を縦に大きく振るっている。

 

「よくぞ聞いてくれたわ!」

 

 聞くに決まってるだろ。

 

「これより、SOS団の今後の活動予定を発表します!」

 

 どうやらこの二か月の空白について話す気はさらさらないらしい。

 やや埃をかぶっていた黒いマーカーペンを手に取ったハルヒが、ホワイトボードにスラスラと大きく書いたのは、アルファベット三文字であった。

 

「えす、えー、おー?」

 

 それを見た朝比奈さんが首をかしげながら書かれているアルファベットを心にしみわたるくらいかわいい声で唱え上げてくれた。

 

「なるほど、SAOですか」

 

 そして机をはさんだ向こう側でいつものようにはにかんだ少しイラッとする声で復唱する古泉の声を無視し、俺はハルヒに聞いた。

 

「SAOって言うとあれか? 最近話題になっている……」

「そう! 世界初のVRMMORPGのソードアート・オンラインの事よ!」

 

 ソードアート・オンライン。それは、とある物理学の天才が生み出した最新のゲームソフトのことだ。これまたその科学者が生み出したナーヴギアと呼ばれるヘッドセット型のゲーム機を使い、実際に己がファンタジーの世界に足を踏み入れた気分を味わうことのできる日本中、いや世界中のゲーマーからマグマのように熱い視線を送られている。それが、ソードアート・オンライン。通称SAO。

 なのだが、ここで当然のように不可解な疑問が生じる。

 

「待てハルヒ。アレは確か来月発売じゃなかったか?」

 

 今日は10月7日。SAOが発売されるまであと一か月もあるはずだ。というと、ハルヒは言う。

 

「活動予定だって言ったでしょ。今日はただ予定を開けておけって言いに来ただけよ」

 

 そいつは重畳、という物だ。急に何かの面倒ごとに巻き込まれてしまうより先に心づもりしておけと言われた方が楽でいい。だが、問題はまだある。

 

「ですが、確かあれは限定販売で、一万個しか店頭に並ばないのでは」

 

 と、俺が質問する前に古泉の方から質問が飛んだ。

 確かに、俺がよく読んでいる雑誌にもそう言ったことが書いてあった。そのためゲーマー、ゲーマー以外の流行にすぐ飛びつく人間たち、転売ヤーと呼ばれる人間たちの中で激しい争奪戦が繰り広げられているとか。そんな競争率が何倍も何十倍もありそうな物、手にいれるのは困難を極めることだろう。

 

「8000よ。1000個がβテスターへの優先購入権で配られて、1000個が開発に援助してくれた企業や財閥への褒賞として配られるから、それ以外に売られるのは8000個だけだってパンフレットには書いてあったわ」

 

 随分と詳しいものだ。これは、かなり熱心に調べまくったのであろう。しかし、パンフレットとは一体何のことだ。

 

「パンフレット?」

「βテスターに配られるパンフレットの事よ」

 

 なるほど、事前にゲームをプレイして問題点やら改善点を抽出する目的で行われる稼働試験、通称βテストの参加者であるβテスターにならそう言ったパンフレットが配られてもおかしくはない。

 ん? ちょっと待った。事前にゲームをプレイできるβテスターにのみ限定で配布されたというパンフレットの存在をどうしてハルヒが知っているのか。

 まさか。その考えに至った瞬間、俺の中でこれまでのハルヒのこの二か月間の空白が、まるでホワイトパズルがすべて組みあがったかのように綺麗にハマっていった。

 

「ハルヒ、もしかしてお前。この二か月間βテスターをやってたのか? SAOの」

「そうよ。放課後から休日から全部を消費して、隅から隅までプレイしてやったわ」

 

 やはりか。というよりも、SAOの存在を知っているのであればそんな面白そうな物にハルヒが興味を持つだなんてこと容易に想像できることだったことであるのに、完全に失念していた。

 恐らく、βテストの参加者の募集もかなりの倍率があったはずなのに、それに当選してしているのにそれほど疑問を抱かないのはこれまでの彼女の経歴を見ればそれほど難しいこととは思えなかったのだろう。

 

「それで、どうだったんだ? そのSAOっていうのは?」

「面白かったわよ。だからみんなにもやってもらおうって思っているわけよ!」

「いやいや、お前の分を除いても四人分のSAOが用意できると、本気で思っているのかお前は? アレは蝶が付くほどのプレミヤ商品で、手にいれるのも一苦労だって聞いたぞ」

 

 オウムか壊れたレコーダーのように何度も何度も繰り返して悪いが、そんな高倍率のゲームを簡単に手にいれることが出来るのは、お前みたいな者くらいだ。と心の中で愚痴に近い俺に向かって何事もないようにハルヒは言った。

 

「大丈夫よ。だってもう予約したんだから」

「な、なに!?」

「ネットで予約しようとしたら、ちょうどお店の予約開始時刻ぴったりだったのよ。だから、SOS団全員の名前で予約したってわけ!」

 

 とあるライトノベルの主人公が腰を抜かしてうらやましがるほどの豪運をお持ちの様で。だが、ハルヒには、自分がそう望むことによって全ての願望が叶う能力、まぁ本当かどうかわからないような、しかしそれまでの実績から判断すればあるのかもしれないと判断できる能力のおかげでこれまでもたくさんの奇跡を起こしてきたのだから、それくらいできてもおかしくはないのだろう。

 

「と、言うわけで! 来月から我々SOS団は、SAOに殴り込みをかけるわよ!」

 

 こうして、涼宮ハルヒの独断によって決定した来月からのSOS団行事日程。なのだが、朝比奈さんは今年3年生で受験生なのでそのような物にうつつを抜かしている時間なんてないはずなのだがその辺はお構いなしというところなのだろうか。まぁ、彼女の素性からして、大学受験するのかも就職するのかも、ましては卒業するのかもあいまいなところはあるのだが、とりあえず涙目になっている朝比奈さんがとてつもなく可愛いので、考えるのは後回しにしておこう。

 涼宮ハルヒ高校二年生。陰謀やら動揺やら直感やら、それら諸々を完全に無視した俺たちの新たな物語は、こうして幕を開けてしまったわけである。

 今思うと、この時期が一番楽しかったように思える。

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