SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
さて、宿に戻ってきて数十分。まゆりが落ち着いてきたところで待っていたのは、松川のお説教タイムである。
「まゆり! 宿から出るなって口が酸っぱくなるほど言ったわよね! こうなるってわかってたから外に出さなかったのに!」
そこには、先ほどまでの優しい女性の姿はなかった。
そもそもの話まゆりが宿から出て行かなかったら今回のような事態に陥ることはなかったのだ。それを理解していたと言うのにこの様になって、しばらくは松川達もまた容易に外に出ることもできないだろう。
まゆりが無事に戻って来れたことは幸いなことではある。しかし彼女の勝手な行動を咎めないわけにはいかなかった。
「ご、ごめんなさい! でも、ひろりんが見えたから……つい……」
「まゆり……」
「……」
ミユキはその二人の姿を見て何か違和感を感じていた。松川からは、彼はまゆりの兄であると紹介された。でも、本当にそうなのだろうか。
その互いに互いを心配している姿、そして宿にある小さなガラスの外にその姿を見つけた瞬間に駆け出したというその様子からして、それ以上の関係にあるような気がしてならなかった。そう、それはまるで夫婦のように。
「全く、エリカもエリカね。芸能人生を今度こそ棒に振るかも知れなかったわよ」
「それは……」
と、その横ではこちらもサンデーゴーゴーによるエリカへの説教タイムの始まりである。聞くところによると、芸歴で言えばエリカの方が上だそうなのだが、それでもそんな彼女に説教をできるのは、ある種芸能界の後輩としては頼りになるところ、と言ってもいいのかもしれない。
ミユキもその姿を見て、一度まゆりと博嗣(プレイヤー名はまんまヒロツグらしい)の事は頭から外して、エリカの顔をじっと見ると言った。
「エリカ、貴方の誰かを救いたいって気持ちは分かるけど、感情的になったらだめよ。落ち着いて、冷静になって判断して、行動して。私たちにメッセージを送ればよかったのに」
「あ、そっか……」
その手もあったか。彼女に言われるまで、自分があまり冷静でなかった事を恥じるエリカ。もしあの場面、男のプレイヤーたちに包囲されている状態でも彼女たちにショートメッセージを送信していたら、彼女たちはすぐに駆け付けてくれていただろう。
あまりに頭に血が上りすぎてそこまで考え付かなかった。自分にはまだまだ方法がたくさんあったのだ。でもその方法という可能性を意識していなかった結果、自分は一番最悪な、悪者と言う汚名をかぶろうとしていた。あまりにも短絡的で、しかし誰かを守りたいと言う決して忘れてはならない大切な物のために。
「さて、ここで会ったのも何かの縁ね。エリカ、貴方レベルは?」
「12……よ」
その数字は、このSAOという世界の現状におけるトップランナーと言われる攻略者たちと言ってもそん色のない物だった。聞くにミユキとサンデーゴーゴーも大体同じようなレベルであるそうだ。それを聞いた松川は言う。
「うん、ならいけるかしらね。どう、私たちと行動しない?」
「え?」
それは、少しだけ意外な提案であるとエリカは思った。松川が自分たちとともに行動しようなんて、現実世界の芸能界ではありえないことだったから。いや、今は現実じゃない、異常な状況だ。それに、確かに高レベルのプレイヤー同士でパーティーを組んで行動すると言うことは悪い提案と言うわけじゃない。
互いに互いの背中を守り合う。そんな仲間がいることがフィールドを駆け巡る中でどれだけ頼もしい事か、これまでソロでしか活動することができなかった彼女にとっては、松川と言う存在はミユキ、サンデーゴーゴーに続く頼もしい存在であったと言える。
それに、だ。松川は説明する。
「実は、次の階層に進むための迷宮区の攻略が進んでて、もう少しで迷宮区最深部での攻略戦。つまり、ボス戦があるかも知れないのよ」
「そのための仲間は、一人でも多い方がいいですし」
「もうそこまで行ってたんだ……」
エリカは確かにレベルの面だけ見れば攻略組の中でもトップクラスと言ってもいい。だが、ソレは多数のクエストをこなして、さらにたくさんのモンスターを倒すことによって得られた経験値によってレベルアップしていった結果の事で、実際に迷宮区と呼ばれる、次の階層に進むためのダンジョンへと向かったことはほとんどなかった。
そのため、今その迷宮区の攻略がどれだけ進んでいるのかを彼女はあまり把握していなかったのだ。特に戦って、あらがって、そして死んでやろうと考えていた彼女にとって、次の階層へのチャレンジなんて考えもしてなかった。
「なら、私たちも同行させてもらうわいいでしょ? 松川さん」
「もちろんよ」
「階層ボス……どんな敵かは分からないけど、なんか燃えて来るわね!」
と言って、サンデーゴーゴーは握りこぶしを手のひらにぶつけた。そう階層ボス。つまり封じられていた第二層へと続く道を今まで封じていたボスと戦うのだ。いったいソレがどんな敵であるのか、彼女たちは全く分からない。
しかし、例えどんな敵が相手であったとしても、勝たなければならないのだ。彼女は燃えていた。ここでそのボスを倒せば、自分の名前はこのSAOの世界に響き渡るのだという、向上心を持って。
いや、ある意味それは少し違う向上心のような気もするのだが、しかし戦う理由がある人間は強い。ソレはこれまでのエリカやそれから松川の姿を見ても分かる事であった。
人間は目標があるからこそ生きられる。逆に言えば目標がなければ生きられない。目標とは人間の生きる糧であり、人間を形作る礎である。だからこそ、彼女たちはこうして今を生きられるのだ。
未来に、やりたいこと、したい事があるからこそ。
「勿論まゆりとついでに博嗣さんはお休みで」
「え? 俺もですか?」
「アンタが死んだらまゆりんが自殺するかもしれないでしょうが」
「あぁ、なるほどそういう……」
と、松川からたしなめられたヒロツグ。その言葉を聞いた周囲の人間はどこかおかしな感じがした。確かに、兄が亡くなると言うのはショックなことなのかもしれない。だからと言って松川の言う通りまゆりがすぐに自殺するという考えにつながるのは少し早計ではないのかと。
やはり、この二人には何かある。何か、誰にも知られてほしくない秘密と言う物が。けど、ミユキたちはそれ以上何も聞くことはなかった。
ミユキは大人である故、他のプレイヤーたちは、なんとなく松川が恐ろしすぎて聞こうにも聞けない。もし聞いてしまったら自分たちに芸能人生が終わってしまう。そんな予感がしていた。
「……」
「エリカちゃん」
「いっとくけど、まゆり! あなたと私は友達じゃないからね!」
「え、でもさっきは……」
さっきは、友達と言ってくれた。それに、自分の身を呈して守ってくれたじゃないか。そう考えるまゆりに対してエリカは指を刺して言う。
「さっきはさっき! 今は今! 私はね……その」
エリカはその言葉を言うと口ごもる。言いずらい。この言葉を言ってしまえば何か全部が終わってしまうような、という不安。
はるか高みにいる彼女。煌びやかなステージの上で歌って、踊って、そして皆を笑顔にさせているその彼女。
決して届くはずがないと何度も何度もあきらめかけた。でも、どこかでその言葉を自分の中の芸能生活の糧にしていたおかげで今の今まで辛いその生活を頑張って来れた。そんな気がする言葉。
そう、自分にとって彼女は、自分にとってのまゆりは。あこがれだけじゃない。彼女は。
「ら、ライバルだって……思ってるから」
「え……」
そう、ライバルだ。自分は彼女の事をライバルだと、そう思っているのだ。同じ地位に立つことはできないかもしれない。でも、いつかはきっと、彼女と同じ土俵に立ちたい。そう言う願いも込めて、自分は彼女の事を心の中ではライバルと呼び続けている。
全てはそう。彼女に追いつき、そして追い越すために。上と下、全然違うのかもしれない。しかし、その想いはまゆりと一切の相違無く、同じであった。
「え、エリカちゃん……」
「何よ?」
「今の! もう一度言って!」
「はぁ!?」
エリカはまゆりのその天然ボケの入った言葉に素っ頓狂な返事をしてしまう。
「私も、エリカちゃんの事ライバルだって思ってるから! アイドルとして、お笑いやバラエティに一生懸命に頑張っているエリカちゃんの事」
「いや、アイドルとしてのライバルだったら歌とかダンスでライバル視してほしいんだけど!?」
というエリカだが、事実まゆりは色々とエリカのやっているような身体を張ったバラエティ企画にはあこがれを抱いていた。だから、彼女はあのプレイヤー達に宣言したのだ。エリカは自分のライバルであるのだと。
そして、そのアイドルとしての熱意は自分よりも高いのだとまゆりは考えていた。事実、かつて町内でお祭りをやった時彼女のコネでエリマリの二人とそれからもう一人の男性アイドルを呼んでお化け屋敷をやった時、エリマリの二人は自分以上に来場客を驚かせ、プロ根性を見せ、あの時程完全敗北と言う言葉を実感した時はなかった。
だからこそ、まゆりはエリマリの事を、いや、アイドル全員の事を友達であり、仲間であり、そしてライバルであるのだと思っていた。そして、こうして真正面でライバルと言ってくれたこと、そのことにまゆりは感激していたのだ。ある意味、この世界に来なければ一生出てこなかったであろう言葉を聞けたことに感謝しながら、まゆりはさらにエリカにもうい一度その言葉を要求する。
「ふふ、なんだか面白くなってきたわね」
「全く、こっちの気も知らないで……」
とはしゃいでるアイドル組を見ながら、ミユキと松川は微笑んでいた。
だが、これくらい士気が高いくらいがちょうどいいとも思う。
こうして、デスゲームと言う最悪の世界でまた巡り合ったアイドル達は、共に頂を目指して立ち上がることとなったのだ。
トップアイドルと言う名前の、その頂に向けて。
次回、第三章メインシナリオ。
次回予告は『メインシナリオ外伝 第二章 エピローグ』の後書きに載せます。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい