SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
店の中に、青い服を着た救急隊員がやってきて、自分は頭を動かさない様に固定され、担架に乗せられた。
その後、自分を診察した二人の男女が隊員に話をしながら救急車に運ばれる。その、直前、私はついに意識を失った。
ゆっくりと、じわじわ眠りにつくとか、そんな感じじゃなくて、本当に、まるでスタンガンで気絶させられたかのような痛みと共に、私は現実の世界から切り離された。
激痛だった。頭に走る、鈍器で殴られたかのような痛み。あれもきっと、脳出血のサインの一つだったのかもしれない。
けど、そんなことも考える暇もなく、私の意識は闇の中にあり。
目が覚めると、私はベッドの上にいた。
儚げな目で見た物は、シミ一つない真っ白な天井で、私はいろんな機材につながれていた。
ピッ、ピッという規則的な音も聞こえて来たから、たぶん、それは心電図なのだと思う。
聞いていると、ソレがどこかの国の歌姫の美声にも幻聴してしまうかのようで、そして、自分の生の証のような気がして、なんだか不思議な気分だった。
いや、まだだ。まだ、私は生きていない。生き返っていない。だって、私は。
唇をかみしめた私は、気を失う前にその、とても聞こえのいい耳で聞いた二人の言葉を思い出しながら、恐る恐る、ソレを、空気に吐き出した。
「あ……ぁ……」
私の歌は、まだココにいた。
「中野さん! 一緒に帰ろう!」
と、一人の少女を呼ぶ声が廊下に響き渡る。呼びかけた少女は、中野、という少女にとっては同じ高校の、クラスメイト、ただ、それだけだった。自分が、この高校に入学した時から、二年続けて同じクラスという、さほど珍しくもない部類の、クラスメイト。
呼びかけられた、中野は、ゆっくりと振り返ると暗い顔つきで言った。
「……いいです。私、行くところがあるので……」
ただ、それだけの言葉を残して、彼女は廊下を進むのであった。
「中野さん……」
「中野さん。あの日から変わっちゃったね……」
と、また一人の女生徒が、中野梓に声をかけた少女に声をかけた。
そう、彼女はこの一週間で変わってしまった。前まではあんな暗い表情なんてほとんど浮かべない、とても明るくて、とても元気で活発で、どこにでもいる様な普通の女の子だった。
ギターが得意で、周りを自分たちも羨ましいと思うほどにいい先輩たちに恵まれた、普通の子。
けど、あの出来事が彼女の全てを変えてしまった。彼女から、全てを奪った、あの出来事のせいで、彼女は変わらざるを得なくなってしまった。
「仕方ないよ。だって……」
「止めて!」
「え?」
と、梓を憐れんでいた少女たちの言葉を遮るように叫ぶ人間がいた。
「純ちゃん……」
鈴木純。中野梓と非常に仲のいい友達の内の一人であり、並びに、現状梓に残っている唯一の希望ともいえる存在だ。
そんな純は、おぼろげな目で階段の上を見つめる梓を、悲し気に、しかしそんな目をしている自分に悔しそうに言った。
「そんな事陰で言われて、一番いやなのは、梓なんだから……」
「……」
もう、彼女たちがそれ以上言葉を紡ぐことはできなかった。
梓は、階段を上ることなく帰路へとつくことになる。
前の自分だったら、考えられなかったことだろう。
でも、仕方のないことなのだ。だって、音符は、たった一つだけじゃ何の音楽も奏でることはできないから。
例えば、ド、の音。
ド、ド、ド。
それで、いったいどんな曲を生むことができるのだろうか。
たとえ、どれほど優秀な作曲家であったとしても、天才と言われている作曲家であったとしても、たった一つの音で音楽を作ることなんて、できはしない。
音階は、たくさんの音があるからこそ音階なのだ。
音楽は、そのたくさんの音階が縦横無尽に舞い踊ることによってできる奇跡の音色なのだ。
今、彼女はその音色を共に奏でてくれる人間を失っていた。
今、彼女の中にある音楽は、決して流麗な物であるとは言えない。
ぐちゃぐちゃに敷き詰められた、雑踏のごみ置き場のように乱雑に置かれていて、どこを探してみても自分の音を見つけられない。彼女は、自分の音を、見失っていた。
彼女の心の雑音は、彼女自身の笑顔さえも、消してしまうほど大きく、辛いものだった。
「澪先輩、律先輩、ムギ先輩……唯先輩……」
数時間後、彼女の姿はある病院の特別室の前に来ていた。
とても清潔感があって、広い廊下の先にあった特別室。
ガラスで仕切られた向こうの部屋には、四つのベッドが置かれていて、それぞれ彼女の見知った女子高生たちが眠らされていた。
その頭に、あの悪夢の元凶ともいえるナーヴギアをかぶって。
聞こえていない。それは分かっているはずなのに、彼女はまるで独語をしゃべる患者のように彼女たちに向けて話し始める。
「先輩たちのいない音楽室はとても静かで……まるで、私一人が世界から置いてけぼりを喰らったみたいでした……」
もとより、覚悟していたはずだったのに、彼女たちが卒業すれば、おのずと訪れることとなっていた孤独だと、分かっていた。それなのに、いざその時になってみるとここまで孤独感を感じるなんて思ってもみなかった。
いや、当たり前だろう。だって、当たり前の別れをしたわけじゃないのだから。
自分たちは、たぶん。考えられる限りで一番最悪な別れ方をしてしまったのだから。
「一度だけ、あの音楽室に足を踏み入れたんです。ギターを、もって……でも、一弦も引くことができなくなって、そのまま……音楽室に置いてきちゃって……」
梓は、そこで一度言葉を区切ると、とびっきりの、唯が抱きついてきてもおかしくない程に闇を感じる笑顔で言った。
「ビックリですよね。あんなに、練習しろって言っていた私が……もう、一週間もギターに触ってすらいないなんて……」
でも、その笑顔は徐々に薄れて行った。当然だ。だって、その笑顔は嘘なのだから。強がりなのだから。誰に対しての強がりなのか、しかし彼女はその答えを見つけることすらもできない。
カバンを持った彼女の手は、震えていた。涙をこらえるその表情が、まるで伝達したかのように、その手の小刻みな揺れを止めることはできなかった。
「でも、無理なんです。音楽室を前にすると、絶対に……先輩たちとの思い出が次々と浮かんできて……それが、まるで走馬灯みたいで……」
嫌だった。いつも女神のような微笑みで紅茶を入れてくれる、先輩の姿。
嫌だった。自分のお菓子を勝手に盗み食いする先輩の姿。
嫌だった。その先輩を叱るとても頼もしい、でも怖がりという二極性を持った先輩の姿。
嫌だった。
音楽に関しては何度教えても素人のようで何も覚えてくれなくて、いつも練習をさぼっていて、怠け癖があって、ことあるごとに抱き着いて来て。でも、その笑顔に自分も癒されて、自分も励まされて、自分も元気づけられて。
この部活だったら、この先輩たちと一緒ならどんなことがあっても乗り越えていけることができる。
そう、自分に思わせてくれた。あの優しい音楽室の光景が、思い出の一つとして昇華されてしまうなんてそんなの。
嫌だった。
だから、彼女はその時以来二度と足を踏み入れたことはない。そう、自分は二度と足を踏み入れるわけにはいかないのだ。
彼女を、地獄に送り込んだ自分が。
「……」
梓は、ふともう一部屋に向けて足を延ばした。といっても、その部屋は今彼女が立っていた部屋のすぐ隣の部屋なので、足を延ばしたというのもおかしな話になるのだが。
その部屋には、今、二人の人間が眠っていた。
四人部屋のはずなのに、二人しかいない。ことに関して多くはかたるまい。
そして、彼女の隣で眠っている中年の男性のことについて語る言葉も、彼女は持ち合わせていない。彼女が、その場所に来た目的はただ一つ。
自分から見て、左手奥側に眠っている少女。
「憂……」
自分の、純と同じとても仲のいいクラスメイトの一人であり、先輩の妹でもあり、そして。
自分が地獄に引きずり込んだ女の子。
「ごめんね、私のせいで……私が、風邪なんてひかなかったら……私が……」
そうだ。本当は自分がSAOをするはずだったのだ。自分が、ムギからSAOをもらって、先輩たちと一緒にあのゲームの世界に入るはずだった。
でも、その日、たまたま風邪をひいて、それで仲のいい友達にSAOを貸して、そして、そして、そして―――。
「私、どうしたらいいんですか? 教えてください……」
問いかける。自分はどうしたらいいのか。自分はどう償えばいいのか。自分のしでかした過ちの責任をどうとればいいのか。彼女は、何も分からなかった。
「目を開けてください、先輩。また、あの能天気な笑顔で、私に答えてくださいよ。ねぇ……」
気が付けば、彼女は再び四人の先輩がいる部屋の前に立って、語り掛けていた。答えが返ってくるはずのない問いを、何度も、何度も繰り返して、まるで壊れた機械人形のように、彼女は言葉を繰り返す。
「唯先輩……」
そのたびに強くなっていく罪悪感に、心を蝕まれながら、彼女はずっと問いかける。もう二度と目を開かないかもしれない少女たちに向かって。
悲し気な顔をのぞかせながら。
ずっと、ずっと、ずっと。
レコード人間であるかのように、その言葉は次第にかすれていき、やがて―――。
「うぅ……あぁぁぁぁ……!!!」
嗚咽だけが支配する空間へと早変わり。
もう、強がりを見せる余裕なんてなかった。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい