SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
桜は、一本限りの代物ではない。日本各地、北から南に至るまで、多くの場所に植えられている。
春には、満開の桃色の空を、新入生たちに見せてくれ。
また夏には、青々とした葉っぱで、学校になれてきた生徒たちを高いところから見守ってくれる。
それが、桜。
当然のことだが冬の今に桜の花が咲いているはずもない。
桜の木々は、その全てが葉を落としていて、あたかも枯れた木である、という印象を抱いてしまう。それは、やはり春というここ一番で咲く季節を待っているかのようだ。
そんな、季節限定で綺麗に咲く奇跡の花の名前を冠している学校が、いくつも存在していた。
これは、その桜の名前を持つ高校の中でも、非常に極似した、しかしその本質が全く違う二つの学校の、中心的な人物二人が出会う物語、でもある。
「あの、会長いいですか?」
「どうした? フム、バスケットボール部の備品の新調か。なるほど、検討しておこう」
「会長! 学校の花壇に新しい花を植えたいんですけど!」
「分かった。検討しておく」
会長、と呼ばれた女性。桜才学園三年、生徒会長天草シノは、テキパキと仕事をこなしていた。
学校内に数多に存在する部活動からの改善案などに目を通し、また生徒たちから出る不満に耳を貸す。その姿は、とても凛々しくて、何も知らない人間からして見れば、いつもと何も変わらないようにも見える。だが、知る者から見れば、それがあまりにも不気味で仕方がなかった。
「天草会長、あんなことがあったのに全然変わらない……」
と、呟いたのは風紀委員長でシノと同じ、三年の五十嵐カエデだった。カエデは、風紀委員長という役職も関係して、生徒会長のシノと接する機会が非常に多かった。故、生徒会の役員でもある他の三人ともよく頻繁に話をして、そしてシノたちの奇行に対して突っ込む常識人タイプの人間。
そんな人間が訝しむのも、無理はなかった。
なぜなら、彼女、天草シノは現在たった一人でこの桜才学園を切り盛りしていると言ってもいいのだから。
同じ生徒会役員である三人を欠いた状態で早一週間。最初は確かに気落ちしている部分が見受けられた物の、今では落ち着きを取り戻し、いや、かつての自分を取り戻したかのように学校内で発生している様々な問題ごとに自ら首を突っ込んでいるようにも見えるほど。
それが、カエデには不自然で、そして、辛かった。
「どうした、五十嵐? そろそろ下校時刻だぞ?」
「あ、はい。すみません……」
「では、私は行くところがあるから、先に失礼する」
と、シノは一言カエデに言うと、その横を素通りしてキリっとした表情で廊下を歩き去っていく。
変わらない。なにも、変わらない。でも、その変わらないというのが不気味で不気味で、仕方がない。
やりきれない思いを残したカエデは、シノに声をかけるべきなのか、それとも素直に帰るべきなのか、迷ってしまっていた。その時点で知っていたのだろう。
彼女に、かけるべき言葉なんてものはないと。
「やっぱり、どこかで気にしてるんだろうねぇ……」
「あ、先生」
と、行ってきたのは生徒会顧問で、英語を教える女性教師、横島ナルコだった。
ナルコは、シノの後姿を見つめながら真剣な顔つきで言った。
「五十嵐、気づいていたか?」
「何を、です?」
「……」
ナルコは、一瞬だけ沈黙した。きっと、気が付いているからなのだろう。本当は、カエデもまた気が付いているという事を。
彼女の、とても大きな変化に。けど、それを指摘するのは同じ女性としてどうなのかという理性が働いて、結局言葉に出すことができなかった。そんな変化。
いや、考えてみれば、その変化自体は特に問題はない。むしろ、無くなったほうがいいと言ってしまうほどの、言葉に言いづらい変化。
でも―――。カエデは悲しげな顔を浮かべて言う。
「なんだか、痛々しくて……天草会長。会長としての仕事を休みなくすることで、そのことについて考えないようにしている。そんな気がします……」
「だな……」
天草シノは、いやシノだけじゃない。カエデやナルコ、他の多くの生徒が今回の事件において大切な物を奪われていた。
特に、一番被害が大きかったのがシノだった。ただ、それだけだ。
それだけ、と言葉にするのは簡単。しかし、その簡単な言葉も無下にしてしまうほどに、彼女が失った物は計り知れないものであった。
「アリア……スズ……津田……みんな……」
一方で、五十嵐に帰るように伝えたシノ本人は、まだ生徒会室の中にいた。うっかり、忘れ物をしてしまったのである。
次の会議に必要な、大事な資料。ソレに目を通さなければ。
書紀であるアリアがいないことによる誤字や脱字があるかもしれない。
スズがいないことによっての計算ミスが起こっているかもしれない。
それに、津田がいないことによって―――、冷静さを失っている自分が、何らかのミスをしている可能性がある。
だから、一度資料を持ち帰って、確認しなければ。その日、何十回と目を通した、その資料を。
彼女は、ふと、生徒会室の中を見渡すと呟いた。
「お前たちのいない生徒会室は、まるで……そう……まるで……」
まるで、何なのだろうか。自分でも、分からなかった。
「ダメだな。こんな時こそ、おどけないといけないのに……何も浮かんでこない……何も……」
シノは自嘲する。四人でいる時はとても狭く感じたこの長方形に囲まれた一つの教室が、たった一人で座っているとなんとも物寂しい、みじめな思いになる物なのかと。
そして、そんな生徒会室を見渡して、何の言葉も出てこなかった自分自身のボキャブラリーの無さに、涙が出てきてしまうほどに悔しかった。
全く、どうしてこんなことになってしまったのだろう。本当だったら、自分もあの日彼らと一緒に地獄の世界に取り込まれていたはずなのに、皆と、一緒に居ることができたはずなのに、どうして自分だけが一人、取り残されてしまったのだろう。
何故、こんな愚かな自分が一人、この世界に取り残されてしまったのだろう。シノは、今にも爆発するようなストレスを抱えこんで、悩むしかない。
その悩み、先生に相談すればいいのではないかと、何度も思った。でも、それは嫌だった。他人に共有されたくない悩みだからか、違う。
他の誰かにも、自分と同じ悩みを持ってほしくないから。だから、彼女は―――。
「今日も、行ってみるか……」
そうつぶやいた彼女は、今度こそ生徒会室から出て行った。
そして、学校からの帰り道、とある病院に来た。
「みんな、今日も見舞いに来たぞ」
そこは、アリアを除いた生徒会の仲間たち、そして彼らと一緒にSAOの世界に旅立っていった友が眠っていた。
ソレを見た彼女は、はかなげな笑みを浮かべるとつぶやく。
「不思議だな。一週間前まで、普通に話すことができていたはずなのに、今ではこうしてガラス越しでしかお前たちを見てるしかできない……」
もはや、懐かしいとすらも思えてしまう。あの日々を思い返すと、ふいに涙が目に浮かんでしまう。
そんなことしてしまえば、まるで彼らが死んでしまったと、もう二度と戻ってこないと感じるようで、とても嫌なのに。
自分も、罪人の一人であるというのに。
「どうして。こうなってしまったのだろうな……」
シノは、ガラス窓に手を置いた。ついに、止めていたはずの一粒の涙が落ちて行った。
そんな権利、自分にはないのに。
さっきまではちゃんと抑えられていたはずなのに、それがとめどなく溢れてきた。
もはや、彼女の中でも感情の整理がついていない。コントロールができていないのだ。
それは、今の彼女の表情を見れば分かることだろう。
彼女は、笑っていたのだ。誰に対してでもない、ただただ自分自身をあざけ笑いながらもなお、友人たちのために泣いていたのだ。
それが、彼女に許されたたった一つの償い。そう、信じることでしか、彼女は涙を流すことができなかった。
「……」
「え?」
その姿を見つめる、一人の男性がいた。長身のモデル体型で、髪の色は金髪。海外の人間なのだろうか。けど、その一見すればハンサムであるといえる姿も、病院の服と点滴台、それからすこしだけ痩せこけた頬が、台無しにしてしまう。
まるで、生気を悪魔に吸われてしまったかのような男性は、シノに近づくと言った。
「彼らは、君の友達なのか?」
と。彼ら、というとシノには身体と身体を遮る透明の膜の向こう側に存在している津田たちのことしか思えない。だから、シノは涙を拭くと言った。
「あぁ、そうだ……」
「ッ!」
言葉を耳にするのが早いか、それとも行動に移すのが早いのか。
男は、点滴が自らの腕に刺さっていることも忘れるかのような速度で、地面に頭を突く、いわゆる“土下座”の形をとると言った。
「すまない! 俺のせいで、彼らを、君の友達をこんな目に合わせて……本当に、すまないッ!」
「え……」
その、みっともない姿に、シノは何も言うことはなかった。
なおも、彼の、須王環の土下座は続く。
まるで、自分自身を戒めるかのように、ずっと、ずっと、ずっと。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい