SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
シノ、そして特別室の前に現れた一人の痩せた青年は、共に近くにあった病院の待合室のベンチに座った。
そこは、病院にしては非情に薄暗くて、まるで深夜に病院の中にいるかのような印象を持たせるほど、怖く、そして恐ろしい場所だったと記憶している。
後から聞いたら、その場所は本来なら一般の人間が入ることができないいわゆる関係者以外立ち入り禁止の場所であったらしい。そんな場所に来れたのは、ひとえに、彼が、青年がこの病院の関係者の知り合いであったから、なのだろう。
シノは、今にも崩れ落ちそうなほど憔悴している青年に対して、近くの自動販売機で買ったホットコーヒーを手渡す。
「これが、庶民がたしなむという自動販売機のコーヒーか……」
と、おもむろに呟いた彼は、一気にソレを飲み干した。
そして、フゥと息を吐くとつかさず言う。
「インスタントコーヒーと同じだ……粗雑で、苦みの奥にある奥深しさも感じない……」
何とも、腹が立つ言い方をするものだ。まるで、自分たちが いつも飲んでいる物を馬鹿にしているような、そんな言い方。
でも、シノはそんな彼に対して何もいう事ができなかった。
「だが……暖かい」
その、懐かしい思い出を回顧する。顔を、見せられてしまっては。
捨てられた子犬のように儚げなその顔に惹かれたのか、それともただの気まぐれなのか、彼女は言う。
「私の名前は天草シノ。君は……」
「俺は……」
青年は、目線を申し訳なさそうに下に移すと、おぼろげに言った。
「須王……環……」
と。
≪須王≫、か。その名前、以前どこかで聞いたことがある。でも、どうしてか思い出すことができなかった。
それに、先ほど彼が言ったあの言葉。
『俺のせいで、彼らを、君の友達をこんな目に合わせて』
あれは、いったいどういう意味なのだろう。気になってくる。
幸いにも、今この場には自分たち二人しかいない。今ならば、何か、話しづらいことも話してくれるかもしれない。シノは、自分自身の悩みの件も棚上げにして、環の様にホットコーヒーを啜ると言った。
「君がいいのであれば、話を聞きたい。なんでも、話してくれ」
「……」
環は、その言葉にも目線を下げたままだった。
しかし、しばらく目をつぶると、覚悟を決めたように言う。
「俺の家は、SAOの開発資金の援助をしていたんだ」
「え……」
それって、≪彼女≫と同じ、シノは瞬間的に言葉を発することができなかった。
「だから、SAOを八個、手に入れることができて、本当はあの日、俺もプレイするはずだったんだ……けど」
運命の、いたずらだったんだ。
「今頃、ハルヒたちはSAOの中か」
「そのようだな」
と、環は同級生であり、親友でもある鏡夜と屋敷の隅で話をしていた。
この日、環と鏡夜は政財界の大物が多数参加するパーティにお呼ばれされてしまっていた。
家柄の事も非常に関わってくる重要なパーティーだ。断りを入れることもできず、彼らは社交辞令的に参加せざるを得なかった。
そして、このことによって最も割を食った―と当時は思われていた―のが、須王環である。
「本当なら、たまちゃんもゲームするはずだったのにねぇ」
と、彼らと同じくそのパーティーに参加していた埴之塚光邦―ここからは分かりやすいように、愛称のハニーと呼ぶことにしておこう―が言った。
その後ろには、モリの姿もある。が、無口であるがゆえにいまいち存在感がないのはいつもの事。彼が多弁になるタイミングと言ったら、大体寝不足気味で体調が悪い時、他何らかの理由で自責の念に駆られたときも多弁になる。それくらいしかないがゆえに、存在感が薄いと言っても過言ではなかった。
話を戻す。ハニーの言う通り環はこの日、サービス開始となったゲーム、SAOを他のホスト部の仲間や、その常連と一緒にプレイする予定になっていた。
だが、急遽入ったこのパーティーへの出席を父によって強制させられ、サービス開始時よりプレイすることができなかったのだ。
父と自分は、以前祖母にまつわる事情によって仲たがいをしかけたことがあった。
だが、ホスト部の仲間、そしてホスト部が作り上げて来た絆のおかげで祖母ともども和解することができ、今では須王グループの跡取りとして、多くのパーティーへ参加して自身の名前を政財界に知ってもらう事が、父や祖母から課せられた課題のようなものとなっていた。
今回のパーティーへの参加もその課題の一つである。
「その間、ハルヒは双子と三人きりか」
「ぐっ!」
と、環の胸に何かが突き刺さるような音がした。
はっきりと言っておくが、この時点で環は、藤岡ハルヒと付き合っている状態だ。
故に、かつての恋のライバル、だったらしい双子とハルヒが一緒に居たとしても。
いたとしても。
しても―――。
「な、なぁに、心配はいらない。なにせ、ホスト部の客四人が一緒だから、な!」
なんだか、強がっているようにしか見えない環の言葉。
しかし、確かに彼の言う通り今回のプレイにはハルヒと双子たちだけではない、他にもホスト部の常連であるお客四人が招かれている。
だから、ホスト部としての活動をマジメにしてくれるのであれば、ハルヒに危害が加えられることはない、ない、はず。
「やっぱり今から俺も!」
「やめておけ」
「ぐあっ!」
ハルヒのことを考えるといてもたってもいられなくなり暴走する。
もはやパブロフの犬の状態に近い環を止めるのは、鏡夜の一つの仕事のようなものになっていた。
鏡夜は、環の首根っこを掴み、元居た場所に戻すと言う。
「ゲーム自体はいつでもアクセスできる。パーティーが終わるのが午後三時過ぎ、それからプレイしても遅くはない」
「鏡夜! お前は心配にならないのか!? かわいいハルヒがあの双子にいいようにおもちゃにされるその姿が、哀れに思わないのか!?」
環は、頭の中で悪魔のような形相を浮かべている双子と、涙目で女の子座りで縮こまっているハルヒの姿を思い浮かべる。
彼の中で、ハルヒと双子がどのような人間たちであると思っているのか、とても端的でわかりやすいイメージ図である。
「とりあえず、お前の中でのあの二人のイメージはともかくだ」
と、あたかも彼の頭の中を覗いたかのような発言をした鏡夜は、手に持ったグラスをその場にあったテーブルの上に置くという。
「少なくともこれだけは言える」
「な、なんだ……」
眼鏡の向こうに見える鏡夜の目つきは真剣そのものだ。その、何を言ってもおかしくない視線に、環の顔にも緊張感が走る。
一体、何を言うのか、唾を飲み込んだ環に対して鏡夜が言ったこと、それは―――。
「ズボンのチャックが開いているぞ。須王グループの跡取り候補として、無様な姿をさらさないことだな」
「なっ!?」
赤面した環は、すぐにズボンを見た。すると、確かにズボンのチャックが上から下に降りていて、その向こうには服の下に来ていたカッターシャツの下部分が見て取れる。
一体いつから開いていたのだろうか。そして、何故それを今言うのだろうか、と親友に対して心の中で愚痴る環。
しかし、この程度の事で慌てたことが、逆に彼に冷静さを取り戻させたのかもしれない。
そうだ、たとえネットゲームの世界であれ何であれ、自分とハルヒは彼氏と彼女の関係。
そして、ソレを双子たちも祝福してくれていたではないか。
それに、二人のいたずらも、ゲームの世界においてはいくつもの規制がかかって不発に終わるはず。
この期に及んで一体何を心配しているのだ、自分は。
だが、もしかするとこの時環は気が付いていたのかもしれない。
自分の胸の奥で渦巻く、嫌な予感に。
大切な者たちがとられていくという、とても嫌な妄想に、囚われ、そしてあがこうとしていたのかもしれない。
逃げようとしていたのかもしれない。
自分の中の、悪夢から。
でも―――。
「ん?」
運命は、決して人を逃しはしない。
環が手に取ったスマートフォン。その先にいたのは、このパーティーに参加するために車で向かっていた父親、須王譲だった。
「もしも」
『環! 環!? 無事かぁ!?』
「うぉッ!」
電話に出た環は、その向こうから発せられた父親の大声に思わず面を喰らい、スマホを落としそうになる。
が、なんとか持ち直し再びスマホを耳に当てると聞く。
「ど、どうしたんだ父さん、そんなに慌てて!」
『よかった……環、お前は今、SAOをプレイしていないんだな!』
「プレイしていないんだなって……」
『お前は俺の息子だからな、パーティーを抜け出してSAOをプレイしているんじゃないかとも思ってな』
図星である。実際、先ほど鏡夜に止められなかったら、彼はパーティーを抜け出そうとしていたから。
きっとこの電話も、自分がちゃんとパーティーに参加しているかどうかを確認するための物だったのだろう。
本当にそうなのか?
だったらなんだ。この父の焦り様は。
自分がSAOをプレイしていないことが喜ばしいことであるのはよくわかる。
でも、だからと言ってここまで喜びを表現するだろうか。環は、何かが引っかかっていた。
「父さん、一体何が……」
『いいか環、よく聞け……』
「え?」
そこから先のことはおぼえていない。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい