SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ外伝 第二章 第4話

「話によれば、俺の取り乱しようは相当なものだったらしい」

 

 曰く、SAOがデスゲームとなってしまったことを聞いた自分は、スマホを壊れんばかりの勢いで投げ捨てると、一目散にハルヒのところに向かおうとしたそうだ。

 ハルヒは、家の環境がSAO、というよりもネットゲームをするのにはあまり向かないネット環境だったため、特別に桜蘭高校の保健室を利用させてもらっていた。そこなら、完全なセキリュティ体制も整えられているので、安全にゲームをプレイすることができると、そう、自分が説得したのだ。

 

「桜蘭……か」

 

 シノは、環が呟いた学校の名前を復唱した。自分でも聞いたことがあるほどの超お坊ちゃまお嬢様学校だという噂だ。そこに通っていたのだから、ハルヒという≪女性≫もさぞかし名家であると思ったのだが、それにしてはネット環境が整っていないというのはどうにも―――。

 話を戻そう。

 SAOの事件の事を知った環は、それこそ一種の錯乱状態だったらしく、モリやハニーが止めなければ、きっとそのまま桜蘭高校へと向かって、ハルヒの頭からナーヴギアを外し、そして殺していただろう、そう環は自嘲気味に語った。

 それからは、補足するようにホスト部の事やハルヒという女性の事、そして一緒に閉じ込められた双子のホスト部員について、のべつ幕なしに語っていく。

 その姿は、シノにはどこか楽しそうに見えて、それでいてとてもかわいそうな人間に見えて仕方がなかった。

 

「聞きたいことがある。何故、君は入院しているのだ?」

「……」

 

 その言葉に、天使を見つけた時のような表情を浮かべていた環は、一気に地獄に突き落とされたかのような顔つきになる。

 そう、今はあの事件発生から約≪一週間≫が経過。いくら、同じ部活の仲間たちが囚われたからと言って、ここまで心身衰弱になって、入院を余儀なくされることはないだろうに。

 そう、シノは考えていた。

 しかし、実は違っていた。

 それは、彼が最初にシノに出会った時にすでに言っていたことでもある。

 須王グループによる資金援助。それによって出来上がったゲームに、大勢の人が閉じ込められた。

 環は、そのことにとても深い自責の念と、そして絶望を感じていた。

 だから、あんな行動をとることになってしまった。

 

 環がシノと出会った前の日。彼の姿は、とあるポロアパートの前にあった。

 無論、そのアパートが彼の家であるわけがない。

 

「……」

 

 その家は、彼女の、藤岡ハルヒの家だったのだ。

 環は、そのアパートの前で、傘もささずに地面に正座をして、ある人物を待っていたのだ。

 土砂降りの雨に濡れ、綺麗だった正装の服も上から下までずぶ濡れで酷いもの。それでもじっと彼は待っていた。あのヒトが帰ってくることを。

 その姿は、あまりにも哀れで、道行く人たちはその美貌とかけ離れた異常な行動に対して、ひそひそ話をして通り過ぎるだけ。

 雨でぬれた金色の髪はその力を失ったかのようにダラとさがり、その目を隠す。

 まるで、彼には涙を見せる資格なんてないと、そう、言っているかのように。

 そんな彼に対して、傘をさした一人の人物がいた。

 

「せめて、傘くらいはさしておいた方が身のためだぞ、環」

「鏡夜……」

 

 鳳鏡夜である。

 環は、そんな彼に対して無関心を貫くような心のこもっていない言葉を発する。

 

「何をしに来た……」

「いや、ただ親父の病院に新しく入れる設備の下見。その帰りに寄っただけだ」

 

 これは半分本当で、半分嘘である。

 確かに、鏡夜は彼の父親が経営している病院に新しく入れる設備の下見に行った。その設備は普通の病院に置かれていてはおかしいと言えるほど、あまりに大規模な設備であり、また過剰な戦力といっても過言ではない設備一式。

 しかし、この世界は多くの人外の敵が出没する。故に、何かしらの出来事が起こったときにすぐに対処できる方法が一つでもあればよいとの彼の父の方針で取り入れた設備。鏡夜は忙しいその父の代理で下見の帰り道だった。それは本当だ。

 だが、まったく環のことを気にしていなかったというには嘘を交えることとなる。

 鏡夜は、ハルヒのアパートの全景を見渡すという。

 

「蘭花さんはまだ帰らないのか?」

 

 蘭花、というのはハルヒの父親である。

 名前といっても本名ではない。本当の名前は藤岡涼二。ニューハーフであり、蘭花というのは仕事の際に使用している源氏名だ。

 環は、その蘭花を待ち続けているのだ。

 

「俺は待ち続ける……あの人に、謝らなければならないんだ……」

 

 環は、足の上に置き続けている両手を握りしめて言った。

 そう、元々ネットゲームなんかに興味のない、無関心だったハルヒをSAOに誘ったのは自分。彼女の人生を奪ったのは自分だ。

 自分には、彼に、そして他の被害者の家族や友人に謝る責任がある。

 

「今回の事件はお前のせいじゃない。それは、蘭花さんも分かっているはずだ」

「だが! 俺がハルヒと蘭花さんを……家族を、引き裂いてしまったのは事実だ……そうだろ、鏡夜……」

「……」

 

 鏡夜は、何もいう事ができなかった。

 元々、彼の家族に対する熱意は異常な物であると知っていた。

 かつては祖母によって両親が引き離される様を間近に見て、それがトラウマになって、家族の絆という物に固執することが多分にあった。

 そんな彼にとって、家族が引き離されるというのはまさしく、自分の身が削られるほどに辛いことなのだろう。

 それも、間接的にとはいえ自分が関わってしまったという、罪悪感も加えれば、その心の重圧は恐ろしいものとなるはず。

 既に、彼は桜蘭高校学生の中で、SAOに囚われた七人の生徒の親への謝罪は済ませている。

 その誰もが、社交辞令的に環は悪くはないと言ってくれる。でも、きっと本心では思っていることだろう。

 

『お前のせいで、娘や息子の人生が無茶苦茶にされたのだ』

 

 と。

 少なくとも、環は、そう感じていた。

 そして―――。

 

「ッ……」

 

 ついに彼にも、限界が来た。

 

「そろそろ、限界が来る頃だと思っていた」

「くっ……」

 

 飲まず食わずで数日間もほとんど同じ体制をとっていたのだ。

 環は、しゃがんだ鏡夜の胸の中に飛び込むかのように倒れこんだ。きっと、栄養失調なのだろう。

 鏡夜は、背後にいた黒服たちに合図を送った。

 

「およびですか、鏡夜さま」

 

 いわゆる、彼直属のプライベートポリスのようなものである。

 鏡夜は彼らに言った。

 

「すぐにこの馬鹿を、うちの病院に運んでくれ」

「分かりました」

「まったく……世話のかかる奴だ……」

 

 と、鏡夜はあきれるように呟いた。

 

「そして今に至る……というわけか」

 

 と、話は現在に戻ってきた。

 それにしても驚きなのは、今自分たちがいるこの病院が、環の友人の親族が経営している病院であるという事。さすがは、お嬢様お坊ちゃま学校出身といったところだろうか。

 環は、シノがそんなどうでもいいようなことを考えているという事も知らずに行った。

 

「直接ではないとはいえ、悪魔のゲームに手を貸してしまったのは事実だ……君と友人との間を引き裂いてしまったのは、俺の責任だ……俺の……」

 

 というと、環は、両手の中に顔をうずめた。

 罪の意識が重しとなって、持ち上げられなくなっている頭を持ち上げるように。

 なんて無様な姿だ。と、普通の人間であれば思うのかもしれないが、残念なことに、シノはそんな感情を抱かなかった。

 分かっているから。犯罪に手を貸してしまったという事実が、友を巻き込んでしまったという事実がどれほど重い重責であるのかを。

 そして―――。

 

「……それを言うなら、アリアだってそうだ」

「え?」

 

 自分も知っているから。間接的に死のゲームを作るのに助力してしまった友達のことを。

 

「七条アリア……名のある金持ちであるのなら、知っているはずだ」

「七条……あの、名家の……」

 

 環は、アリアという少女に出会ったことはなかった。しかし、噂だけは知っている。

 須王と同じく、日本の名家に数えられている家柄で、そこの一人娘は、確か自分の一つ上くらいの年齢だったはずだ。

 シノは続けて言う。

 

「彼女の家も、SAOを作る際に資金援助をしていた。だから、それを言うのなら、私の友人もまた共犯という事になってしまう……」

 

 七条の家もまた、須王グループには及ばないものの、そのゲーム制作に援助したのは事実。

 もしも環が非難されるのであれば、彼女もまた非難される対象にされてしまう。

 だから、彼女は非難できなかった。

 いや、非難すること自体が間違いだと知っていた。

 だって、彼女は確かに良かれと思ってやったことだったのだから。

 シノは、環に言う。

 

「だから、顔を上げてくれ……アリアのためにも」

「ッ……」

「それにだ。私も学校の仲間たちを何人もSAOに送り込んだ元凶の一人だからな……」

「……そうなのか」

「……」

 

 もちろん、知っていたのなら彼女たちにSAOを預けたりなんてしなかった。

 知っていたのなら、彼らがプレイするのを止めていた。

 知っていなかったから、自分は無邪気に閻魔大王のようなまねごとができた。

 そう、知らなかった。それが、罪。

 

「どうやら、君と私は似た者同士のようだな」

「……そのようだ」

 

 こうして、意外な共通点が理由となりつながりを持った二つの桜の関係者。

 しかし、ここで環がふと、疑問に思っていた。

 

「しかし、先ほどの特別室には、七条なんて名前は……」

 

 そう、確かに先ほど彼らがいた特別室。そこに掲げられたネームプレートの中には、七条の名前なんてなかった。

 彼女の親族が、ソレの掲示を拒んでいるというのならば、話は別だが、しかし見たところベッドは満床で、ネームプレートも当然埋まっていた。

 これは、一体どういうことなのか。そんな疑問にシノは、紙コップをゴミ箱の中に入れると言った。

 

「簡単なことだ。アリアと他何人かは、他の病院で保護されているからな」

「他の病院?」

「あぁ……」

 

 そして、これもまた一つの桜の運命を引き寄せるきっかけになるなんて、この時の彼彼女たちは、まだ知らなかった。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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