SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
「飛彩、どうだ?」
「さすがは、ドクターXだな」
と、父の灰馬から手渡された資料に目を通した飛彩が表情を変えることなく言った。
その資料は、つい一週間ほど前、自分がいない間に行われたとある患者のオペ、その全容を映したカルテだ。
「内視鏡による血種除去術、および血管縫合……それも複数個所に及ぶ難しい手術を、これほど短時間に終えるとは」
「だろ? いやぁ、飛彩がいない時にこんな大手術……きっと、彼女じゃなければ不可能だったろうねぇ」
大手術、それは過言でも何でもない事実だった。深夜に入る少し前、救急夜間出入口から運ばれてきた患者、岩沢雅美。MRI検査の結果、賢木が診断した通りに左側頭葉や前頭葉の複数の箇所からの出血が見られ、一刻を争う事態に陥っていた。
だが、この聖都大学附属病院きっての名医である鏡飛彩は、全国で搬送されたSAOプレイヤーの全国的な対応の共通化会議のために、病院を少しの間離れていた。当夜の夜勤の医師もまだ経験が浅く、本来ならばそんな大手術の執刀ができる医者なんていなかったのだ。
院長の灰馬は、移植医療がメインであり、脳外科手術に関しては他の医師と何ら変わらない技術しか持ってない。もはや、絶望的な状況だった。
そこで現れたのが、というよりも岩沢と一緒に病院に来たのが、フリーランスの外科医、大門未知子。彼女の噂は、病院長の灰馬の耳にもしっかりと届いていた。
数々の難手術を持ち前のスキルと冷静な判断力で幾度となく切り抜け、患者の命を助けて来たスーパードクター。その腕前は、息子の飛彩に匹敵する実力者であると。
実際に、彼もまたその手術を目の当たりにしたが、正直想像以上の技量の持ち主であったことが見てわかる。ソレは、データとしてカルテを見た飛彩も分かっていた。
「確かに、だが……」
「ん?」
「その分かなりの金を取られたようだな」
「うっ、それは……」
といって、飛彩が取り出したのは、領収書だった。そこには、大門美智子が所属している神原名医紹介所という場所宛てにお金を振り込んだという旨のことが記載されている。
神原名医紹介所は、元医師の神原晶という男性が所長を務めている医師紹介所。大門美知子を含めた何名かの医師や麻酔科医等が所属している。のだが、その中でも大門美知子が執刀した場合の病院への請求額は馬鹿高いものになるのだ。
その額、脅威の壱千万円。確かに、実際そのお金を支払うに値するほどの大手術だったのは分かるが、しかしそれを抜きにしても本当にそれだけの額を要求するなど、考えられなかった。
彼が気にしているのはそれだけではない。
「それに、俺だったらもっと早くにオペを終わらせることができた」
これは、別に負け惜しみではなかった。今回の手術、彼女は本来であれば九十分以上はかかる物を七十五分程度で終わらせたのである。
患者の体力への負担を考えると、手術を早くに終わらせるには越したことはない。しかし、飛彩はカルテを一通り見、さらに手術の際の映像を確認した結果、自分だったらもっと早くに終わらせたはずだと、そう確信しているのだ。
「まぁ、こういった手術はその場その場においての状況次第で変わる物だからねぇ……」
と、灰馬は言う。飛彩は、そこも確かに考えていた。今回の手術、出血箇所がかなり多く、血種、つまり血管から外に出た血の塊のような物であるが、それを除去しながらも、出血箇所を縫合して止血、さらにそれを前頭葉、側頭葉という二か所で行うという大変ハードな物。
それを鑑みれば、これほど短時間で手術を成功させたのは評価に値する。
が、彼には一つ懸念点があった。彼女のスキルの高さは認めるが、しかし何故彼女は―――。
それに、術後に行われた検査結果にも疑問があった。確かに今のところは問題は発生しないだろうが、しかしかと言って―――。
飛彩の疑問は尽きない。だが、その思考は一度中断せざるを得ない状況に陥る。
そう、院長室のドアがノックされたのである。コン、コン、コンと耳障りの良い音が三回。
院長が、返事をすると、扉の向こう側から聞き覚えのある女性の声が聞こえて来た。
「失礼します」
「ポッピーピポパポか」
看護師の、仮野明日那である。
明日那は一度小さくお辞儀をすると笑顔で言う。
「院長、それから飛彩にお客さん」
「客?」
と言って、彼女の後ろから現れた人物。それは、自分たちが一方的に知っている女性だった。
「あなたは……」
「どうも充瑠君たちが世話になっています」
女性の名前は大治小夜。飛彩や灰馬、そして先ほどから話に出てきている大門美智子と同じくドクターである。
ただし、ただのドクターではない。どんな手術でも冷静かつ適切に対処し、数々の難手術を成功に導いてきた、飛彩や大門未知子と同じくスーパードクターだ。
彼女の言う充瑠、というのは現在とある理由でこの病院に入院中である青年のこと。
その青年と彼女は、とある秘密を持った者同士プライベートで親交がある。今日は、例の事件が始まってから初めての非番の日。故に見舞いに来たのだ。自分たちの仲間たちを。
「いや、ただそれが仕事なだけだ」
「飛彩、失礼だよ」
明日那が、ある意味ではいつも通りと言えなくもない対応をとる飛彩を叱る。
しかし、小夜はあまり気にしていない様で微笑み言う。
「いいの、明日那さん。それより、これは充瑠君たちを見てくれているお礼です」
といって、小夜が小袋の中から取り出した物。それをみた飛彩の顔は、それまでのそっけない、いい意味で言えばクールだったそれまでとは違う。興奮と驚きの顔に変わる。
「これはッ!」
その慌てように、通常の彼の姿を知っている者にとっては異常であると思われても仕方ない。
だが、彼をよく知っている者たちからすれば、そんな反応をするのも当然と言えるもの。
そう、彼女が取り出した物は。
「今、ネットでエモイって話題になってる超人気店のカップケーキ。並んで買ってきたの」
つまり、スイーツであった。
「甘い物が好きだって聞いたから」
「んん……手術の後の影響補給には甘いものが適しているだけだ……とりあえず、いただこう」
と、大の甘党である飛彩は、一度咳ばらいをしてかその小袋を受け取った。
しかし、手術という物は、非常に集中力を必要とする物。糖分が疲労回復の手段として適しているのは事実であるため、ある意味では理にかなっているのかもしれない。
そもそも彼がそこまでの甘党になってしまったのは彼の悲しい過去に少しだけ触れなければならなくなるためこれ以上は語らないが。
とにかく、今の彼が重度の甘党であり、疲労回復手段として糖分が適しているのも事実。
件の大門美智子も、手術後はガムシロップをコップ一杯分一気飲みするのが習慣化しているので、優秀な外科医ほど糖分を欲するというジンクスでもあるのかもしれない。
「もう、飛彩は素直じゃないんだから」
「これからも、≪三人≫を、よろしくお願いします」
と言って、小夜は飛彩、引いてはその後ろにいる院長に頭を下げる。
実のところ、今現在彼女の友人たる『三人』の人間に対して飛彩たちができることはほとんど限られている。
バイタルのチェック、点滴などの輸液セットの点検や、バルーン管理。そう言ったモノは看護師の仕事であるためだ。彼ら外科医が担当できることなんてほとんどないに等しいのだ。
それは、当然同じ外科医である小夜も知っていた。でも、それでも彼女は頼むのだ。
自分の、仲間たちの命を。
「言われなくても、最善の手を尽くす。それが、ドクターだ」
「そうですね。それでは……明日那さん。充瑠君たちのお見舞いに行ってもいいですか?」
「もちろん、こっちです」
と言って、小夜は明日那に連れられて院長室から出ると、彼女の知り合いたちが眠っている特別室へと歩き出した。
「大治小夜、か」
「いやぁ、まさかこの病院に三人もスーパードクターが集まるなんてなぁ……」
「三人?」
「あ……」
陽彩は、父親の言葉に違和感を持った。
三人のスーパードクターとは一体、どういう意味なのかと。
自画自賛の言葉になってしまうが、自分がスーパードクターの一人に数えられるのだとするのなら、今この病院にいるスーパードクターは小夜も含めて二人のはず。
それなのに、三人のスーパードクターとはいったい。
「あぁ、もうそろそろあの施設の視察のために警察の方が来る時間だ! 急がないと……」
と、そそくさと院長室から退散しようとする灰馬。だが、飛彩はそんな事を許さなかった。
「親父。まさか、俺に何か隠していることがあるのか?」
「うっ……」
どうやら図星のようである。こういったあたり、父親が分かりやすい単純な人間であるという事に運の良さを感じてしまう。
まぁ、とにかくである。
「三人目のスーパードクター……誰なんだ?」
「えっと、か、隠していたわけじゃないぞ! ただ、言うタイミングがなくてだなぁ……」
汗をかきながら言い訳をする灰馬は、とても滑稽であった。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい