SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
お世辞にも、上手な演奏というわけではない。
むしろ、下手な物好きの人間による道楽。それくらいにあまり練習をしていない人間のソレにしか聞こえなかった。
けど、何故なのだろうか。その演奏が、いや、その響がとても心に残ったのは。
なにか、とてつもない力強さを感じる。途方もないエネルギーともいえるかもしれない。それくらいに、ココロに重石の乗るくらいに残る音。
それが、心の底からの、そして命を乗せた演奏だったからと気づくのは、すぐの事だった。
「あ、あの……」
「?」
岩沢は、突然の来訪者に頭に疑問符を浮かべた。
来訪者は二人。一人は、たぶん自分と同じ高校生であろう少女。制服姿の黒髪ツインテールというよくいそうな平凡な人間だ。
もう一人の女性は、とにかく可愛いらしい女性だった。大人の女性にそんなことを言うのは悪いのかもしれないが、それが自分が最初に感じた第一印象だった。
「あなた、頭の手術をしたの?」
「え?」
何故、そのことを。岩沢は不思議な顔を浮かべたその直後、当たり前のような事実に気が付いた。
「そっか、この包帯か……」
と、彼女はやんわりと自分の頭にターバンのように巻いてある包帯に触れながらつぶやいた。
そう、その包帯こそ自分が頭の手術を、少なくとも頭にケガを負うような事があったという証拠。
病院に入院しているのならば、頭の手術をしたという結論に至るのは、至極当たり前のことだろう。
「脳の血管が、破れて……」
「脳出血……それで……」
小夜は、納得したような表情を浮かべた。
一方の梓は、彼女のその姿を一目見た時から、目を離せないでいた。
とても、はかなげな女性だ。少しの風が吹けばちぎれて飛んでいきそうな、枯れ木の最後の一葉のような、そんな印象があった。
因みに明日那はというと、いつまでも仕事を放っておいてはいけないという小夜の言葉で仕事に戻っていったそうだ。彼女も医者なのだから、看護師の仕事の大変さを身に染みて分かっているのだろう。特に、こんな大病院で働いている看護師に関しては。
「さっきのギターは……」
「あぁ……ひどいものだったろ?」
「いえ、そんなこと……」
梓は取り繕う様に言った。しかし、彼女にはちゃんと分かっているようで、自嘲するかのように言葉を吐いた。
「たった一週間、弾いていないだけでこれさ……リハビリをすれば、もう少し弾けるらしいけど……」
「待って、一週間?」
「うん」
小夜は、その言葉に驚嘆の表情を浮かべ、続けざまに、
「それじゃ、あなた……一週間前に手術を受けたの?」
「うん、そう、正確に言うと一週間と少し前、かな? 今日ようやくギターが届いて……」
その後の話を、小夜はちゃんと聞くことができなかった。
彼女は、唖然ともいうべき表情を浮かべるだけだった。
通常脳の手術、というよりもどの手術でもそうだが、手術を受けた後はその傷が癒えるのを待ってからリハビリを始める。
そうしなければ、手術後の縫合糸が外れたり、また血管が破れている場合などは、その箇所の傷がもう一度開く恐れがあるから。
だから、通常リハビリというものは術後最低でも数週間、抜糸して、術後後遺症の不安が無くなったときにはじめて開始する物であるから。
それを、彼女はたった一週間で始めようとしている。危険だ。
いや、見たところ彼女は高校生くらい。それくらいの年齢の子供だったら年老いた人間と違って身体が治るスピードという物が大幅に短縮される。
それに、もしも本当にギターを弾くことすらもダメだとするのならば、この部屋にギターがあること自体、主治医が許可しないだろう。
それにしても、だ。
「あなた、後遺症は? 失語とか、麻痺、とか……」
「今のところない……右手は、まだ少しだけ動かしづらいけど、さっきよりはましになった」
なるほど、つまり彼女は、脳出血の後遺症がほとんど起こらなかったのだろう。
一体彼女の脳出血がどれほどのものだったのかは分からないが、少なくとも脳出血が発症してからすぐに治療しなければ後遺症はかなり高い確率で起こってしまう。
彼女は、とても運がいい方だったのだろう。
「きっと、それはほとんど動かなかったことによる筋力低下で、少し前のように身体を動かすことができないから。リハビリを続ければ、きっと脳出血以前のようになれるはず」
「……似たようなこと、さっきも二人の医者に言われたよ」
「そうなの……」
梓は、小難しい話が頭に入ってくるが、そのほとんどを無視していた。
なるほど、彼女のギターがさほど上手と思わなかったのは、それが彼女の本当の演奏じゃなかったからなのか。
きっと、彼女の本来のギターテクニックはこの程度の物じゃないのだろう。それは彼女の、その命を懸けたような演奏が表していた。
「私、聞きたいです……」
「え?」
思わず、梓は口に出していた。自分の本心を。
「あなたが全快して、演奏して、歌っている姿……私も、聴いてみたいです」
「……」
岩沢は、梓のことを不思議な子だと思っていた。
自分自身、お世辞にも上手な演奏とは言えないソレを聞いて、自分の本気の歌を、演奏を聞いてみたいというのだから。
「私、学校でギター……を、やっているんです。だから」
「へぇ……」
学校でギター、という事はなにかのグループに入っているのだろうか。
「それじゃ、一緒に演奏する人たちとかいるの?」
と、何気なく聞いてみた。
それが、失言であることを知ったのはすぐ後のことだ。
瞬間、彼女の顔つきが曇る。
下を向き、全てに絶望した、そんな表情に。彼女が、岩沢の音楽に出会うその前に戻ってしまったかのように。
「……なにが、あったの?」
「先輩たちは……」
そして彼女は聞くのである。梓の、そしてその隣にいる小夜の仲間たちが、SAOに囚われているという事を。
とてもじゃないが、その時の感情を一言で表すことなんて、できなかった。
一方、病院の廊下の端。関係者以外の出入りが禁止されている場所にて。
「何のために親父と契約した?」
「は?」
飛彩は、大門に問うていた。
「親父から聞いた。神原名医紹介所の紹介で、大門美智子としばらく契約することになった、とな」
そう。それが、飛彩が先ほど父親から聞いた話。フリーランスの外科医大門美智子を、聖都大学附属病院で雇ったという話だ。
正直のところ、あまりにも不都合な契約だ。そもそも、この病院には自分というスーパードクターの外科医がいるというのに、他にもう一人のドクターを雇うなんて。
確かに、彼女の腕前は知っている。その実力、実績は大半が他人の手柄にされてしまっているが、風の噂に聞く彼女の手術スキルは、自分と同等レベルだろう。
そんな人間と契約するなんて、親父は自分のことを信用していないのか、それとも。
「別に、私の方からこの病院に居たいって、頼んだだけだし」
と、不機嫌そうに大門は言った。
そう、今回の契約、実は神原名医紹介所を経由してはいるものの、実質大門美智子の独断即決によって決められたと言っても過言ではない。
いつのまにか、自分の所属している紹介所の所長に話を通して、すぐさま契約書を用意させ、この病院と期限を決めることなく契約をした。その真意が何なのか。
「まさか、あの少女の手術経過を見るため……か?」
「……」
あの少女。つまり、彼女が執刀した岩沢雅美の手術。その後に後遺症が現れないかどうか、それが気がかりになっていた。だから、彼女はこの病院と契約をした。そう飛彩は考えていた。
と、いうことはである。
「つまり、お前の手術には何かミスがあったのか?」
「……」
大門は、怒りの表情をあらわにする。当然だ。自分の手術にミスがあった。そう言われてしまえば誰だってそうなるだろう。
そして、その顔つきだけで彼には十分だった。
「いや、貴方の手術にミスはなかった。それは俺も断言できる……そして、貴方がそう思っていないという事も」
「……」
試したのか。自分を。大門は憎たらしい男の顔を見ながら心の中で呟いた。
「ホント、アンタとは気が合いそうにないわね」
「それに関しては俺も一理ある」
と言って、二人はなんの合図もすることなく散り散りに分かれて言った。
だが、飛彩はこれで確信した。
彼女は、自分とはまったく真逆な医師としての信念を持つ女性なのであると。
そう、かつての自分とは、まったく真逆の信念を持った。強い女性なのだと。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい