SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
梓は、目に入った信じられない光景に、思わず立ち眩みを起こしそうになっていた。
一瞬だけ漏れた声。よく知っている。でも、そんなはずはない。だって、彼女は、先輩は、今も。
けど、でも、そんな、どうして。そういう困惑が混じった表情で、彼女は呟いた。
「澪……先輩……」
「え?」
と。
岩沢との邂逅を果たした後、梓は、彼女から特別室にいる唯たちのお見舞いがしたいとの申し出を受け、小夜と共に向かった。
入院中であるはずの岩沢が見舞うなんて、ある意味でおかしな話でもある。そもそも、どうして急に唯たちを見舞う気になったのだろうか。
言ってはあれだが、自分と岩沢は今日、つい先ほどたまたま、偶然出会ったばかりの初対面である。自分たち軽音部と彼女との接点はないに等しい。
であるというのに、わざわざ一度リハビリ―彼女の場合自主的であるが―を取りやめてでも、自分の大好きなギターを病室に置いてでも、彼女が軽音部の四人のことを見舞いたいいと言った理由が理解できなかった。
いや、この世の中は、つねに理解できない事で満ち溢れっている。きっと、彼女の行動だってその一つ。
多分、自分はその彼女の考え、その答えに辿り着くことはないのだろう。梓は、諦めにも似たため息をついて特別室に向かった。
そして、出会ったのだ。
「澪……先輩……」
「え?」
彼女の面影を。
特別室の前には、綺麗な白い花を持った一組の男女がいた。
男性の方は、金髪のショートヘアで、高身長のモデル体型。きっと、普通の人間であったら一発で一目ぼれしてしまうのだろうなと簡単に想像できるような人間だ。
しかし、彼女の目が奪われたのはそちらではなかった。
もう一人の、見知った風貌をしている女性の方だ。
似ている。確かに、ツヤのかかった秀美な黒髪。細くて長い、ピアノ線のような艶やかな髪の毛。
まるで、自分の先輩、秋山澪がそこにいるのではないかと、思わせるくらいにそっくりな女性が立っていた。
もちろん、彼女であるわけがないのだが。
「あ、すみません……」
梓は、突然彼女にとっては初めて聞くであろう名前を口走ってしまったことを謝罪した。
一方の澪と間違われたシノは、その意味もよく分からなかった。が、うっすらとした笑顔で言う。
「君たちも、見舞いに?」
「あ、はい……先輩と、友……達を……」
梓は、クシャとした顔つきになって言った。涙を流すのを我慢していますよ。そうアピールしているかのように露骨な顔つきだ。
「そうか……すまない……」
「え?」
その顔を見て、金髪の男性環は、手を握りしめて彼女に頭を下げた。
「俺は、須王環……SAOの開発に出資した人間だ……」
「え……」
本当は、彼の父親の経営しているグループがお金を出した。
また、須王グループ以外にも、SAOの開発に出資した財閥や金持ちが存在していた。
彼は、この二つを隠して彼女に謝罪した。
まるで、この事件は全て自分が悪いのだと、他の人間は誰も悪くないのだと、言わんばかりに。
彼自身も、何も悪いことなんてないのに。
そんな彼の対応に面を喰らった梓、しかし。彼女は言った。
「だったら、ムギ先輩と同じですね」
「え?」
呟いた梓は、ゆっくりと先ほどのように特別室の向こうにいる彼女たちの姿を見た。
それに引き寄せられたかのように環は、彼女の視線の先にいる少女たちの姿をみる。
そして、気が付いた。そこに眠っている四人の中に、見覚えのある人間がいたという事を。
「あれは、琴吹グループの……」
琴吹紬。様々な事業展開をしている琴吹グループのご令嬢だ。確か、今は高校三年生だったか。
彼女とは、よく政財界のお偉方が参加するような社交界でたびたび会う機会があり、年齢が近しいこともあってよく社交辞令的に、しかしとても仲良くしていた人間の一人である。
まさか、彼女までこのゲームに巻き込まれていたなんて、この時まで彼は知らなかった。
「ムギ先輩が用意してくれた五つのゲームと、ナーヴギア。琴吹グループも、援助したからもらえたモノだって、あとから知りました……。最初は、私たちも喜んだんですよ。最新のゲームがプレイできるって、最先端の、未来では主流になるであろうゲームをプレイできるんだって、喜んだんですよ……でも、それがまさか……こんな結果になるなんて、誰が想像できたんですか?」
「……」
誰も、何も言えなかった。その悲痛な訴えに、彼女に声をかけられる者なんていない。
「もうすぐ大学受験だったんですよ。卒業するはずだったんです。桜が丘高校から巣立って、自分たちの輝かしい未来が、待っていたはずだった。それなのに、ソレを、たった一つのゲームなんてものに奪われて、未来を奪われて、こうして眠り続けているのを、私は黙ってみていることしかできない。こんな理不尽な事ってありますか……? 本当は、笑って見送りたかったのに、本当は感謝してもしきれない程の言葉があったのに、ソレを伝えることなく先輩たちは、ガラスの向こうに行って帰って来ない。そんな理不尽な事、あっていいんですか?」
その独白は、まるでそれまでの梓の苦しみを投げかけているかのように聞こえた。誰にもいう事ができなかった胸の内を、自分の中にあった苛立ちをぶつけているようにも見えた。
多分、抑えきれなくなったのだろう。目の前に、急に先輩の背格好に似た人間が現れて、先輩と似た境遇の人間が現れて、どうして先輩たちはここにいないんだろうと当たり前のような疑問がふつふつと沸き上がった。
彼女は、間違いなく壊れつつあった。そのココロが。
「私だって、先輩たちと一緒にゲームをしたかった。置いて行かれるくらいだったら、連れて行って欲しかった! それなのに、私は……友達を地獄に送り込んで……私が風邪なんてひいたから……私が、体調管理ができていたら……」
突然の高熱だった。それに、吐き気や頭痛もして、これはただ事ではないと感じた母親に、緊急外来に連れてきてもらった。
そこで、実は自分の風邪がただの風邪じゃないことを知った彼女。
そして、日曜日でも営業しているその病気専門の個人病院に行って、病気に対抗するためのワクチンを注射してもらった。
それで少しは体調がよくなったものの、しばらくは安静にしていることと言われた彼女は、結局SAOのプレイを断念して、友人を経由して彼女に、平沢憂にゲームを渡した。
確かに、自分は自分のことを守れたのかもしれない。でも、その結果梓は大切なものをさらに手放すことになってしまった。
親友という、かけがえのないものを。
彼女は分からなかった。このイラだちをぶつける相手を。この悲しみを伝える相手を。
彼女にはまだこの世界に家族も、そして軽音部の顧問の先生や、もう一人の中のいい親友の純がいた。でも、そのイライラを彼女たちにぶつける気にはならなかった。
彼女は優しすぎたから。誰にもいう事の出来ない胸の内をさらけ出すのが、苦手だったから。
だから、彼女は今日まで我慢してしまった。自分自身の痛みを、苦しみを、そしてやるせなさを。
「梓……」
誰も、声をかけることのできない。そんな彼女に対して、岩沢はゆっくりと近づき、肩に手を置いた。
「え?」
振り向いた彼女。岩沢の目は、どこまでも見通すことができるくらいにまっすぐで、ただ自分の目を貫こうと言わんばかり。
そんな目と向き合った梓は、一瞬ではあったが、それまでの罪悪感を忘れてしまうようだった。
そして、彼女は言った。
「私が、お前の心を救う。私の、全身全霊の歌で」
「え?」
とてもまじめな口調で、しかし彼女なりの信念を持った、その口調で。
そう、彼女は本気だった。かつて、自分が歌で救われたように、今度は自分が彼女のことを救うのだと、彼女を暗闇から救い出すのだと。
たとえ、それが自分勝手なわがままであったとしても。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい