SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ外伝 第二章 第11話

「はぁ……」

 

 病院の休憩スペースにおいて、中野梓はとても深いため息をついていた。どうして自分はあんな反応をしてしまったのだろう。どうして、自分は彼女のその顔に、その声に反応してしまったのだろう。どうして、あんなに頭の中に激痛が走って、ウズウズとした感情が渦巻いたのだろう。

 分からない、彼女には分からない事だらけだった。

 

「君」

「あ……」

 

 と、その時だった。一人の女性、先ほど自分が見かけた女性が、話しかけてきた。

 そう、自分が忌避している女性が、だ。

 

「突然すまない。私は、天草シノ、桜才学園の三年だ」

「桜、才……」

 

 桜才学園。少しだけ聞いたことがあるような気がする。多分、同じ桜の文字を学校の名前に冠しているからなのだろう。

 それにしても、やはり、見れば見るほど思う。とても、美人な人なのだと。

 胸に関しては、自分と同じでスマートと言っても過言ではないが、すらっとした手足は、まるでモデルを思わせ、背筋もピンと張っていてまるで天井から吊るされているかのよう。

 そして、その顔立ちはやはりモデルにいてもおかしくはないほど、こういう人が容姿端麗というのだろう。

 そして、何よりもその髪―――。

 

「ッ!」

 

 それを考えた瞬間、彼女は首を振った。そうか、その時ようやく気が付いてしまった。自分が行ってしまった罪について。自分が、とんでもないことを考えていたということに、気が付いてしまったのだ。

 きっと、目の前にいる人は知らないことだろう。知る由もないことだろう。自分が、頭の中でどんなことを考えているかなんて、知ろうともしないだろう。

 でも、もし、もしも、知ってもらえたなら―――。

 

「いや!」

「ッ!」

 

 梓は、思わず彼女が差し出した手を払いのけていた。

 なんという事だろう。自分が、こんなにも他人の事を拒絶するなんて、自分自身が信じられなかった。

 でも、そうでもしなければ、そこまでの事をしなければ自分は耐えられなかった。なんとも自分勝手な人間である。自分の心を守るために他人を拒絶してしまうなんて。

 そんな事、今まであまりしたことがなかったはずなのに。

 

「す、すみません……」

「……驚かせてすまない。ただ、私は君と話がしたかったんだ」

「私、と……」

「そうだ」

 

 と、シノは彼女が座っているソファーのすぐ横に腰を下ろす。

 

「君、名前は?」

「中野、梓……桜が丘高校の二年生、です」

「桜が丘か……」

 

 確か、東京にある学校だったか。シノはそう記憶していた。

 つくづく、自分は桜に縁があると思ってしまう。この間であった須王環の高校は桜蘭であるし、彼女の高校は桜が丘。そして、自分が生徒会長をしている学校は桜才学園。互いが互いの事を知らなくても、何か親近感のようなものが湧いてならない。

 特に、彼女の境遇に関しては、自分と似たようなところがあるから。

 

「梓も、大切な人たちをSAOに連れて行かれたんだな……」

「……」

 

 梓は、下を向いたままだった。シノは、その姿をみてこれ以上彼女に何かを語らせるのは酷であると判断し、ならばと、自分が話をすることにした。

 

「私もだ。大切な、仲間を連れていかれた……」

「……」

「私は、学校で生徒会長をしていてな、その生徒会のメンバーが全員、SAOに閉じ込められた」

「え……」

 

 ここでようやく梓が顔を上げた。自分が生徒会長だったことに驚いたのか、それとも、生徒会の仲間を全員SAOに囚われたという境遇が同じことに驚いたのか、どちらかは分からない。

 シノは続ける。

 

「書記のアリアに会計を担当していたスズ。そして、副会長の津田……一年前からずっと一緒に生徒会をやりくりしていた仲間たちだ」

「……」

 

 梓は思っていた。その四人だけで生徒会を切り盛りしていたのかと。生徒会というのは本来はもっと大勢の人間で切り盛りしていると思っていた梓からすれば、少しだけ意外だった。

 しかし、シノは確かにその三人の仲間とともに生徒会をやりくりしていた。それは、彼女自身が優秀であったのに加え、アリア、そしてスズの二人がとても優秀だったから。そして、なによりも、津田タカトシという自分にとって心の支えと言うべき人間がいたから。

 

「それだけじゃない。私は津田の妹や、柔道部の部員。そして、他校の生徒会長まで巻き込んでしまった……」

「……」

 

 それは、恐らく自分以上の重罪だろう。

 いや、この件に関して罪の重さをどうこう言う立場には自分にはないし、そういうことを言ってはならないという事は理解している。しかし、それでも彼女はそう思うことによって自分の心を守ろうとしていたのかもしれない。

 まるで、外界からの危機に対して丸くなるダンゴムシのように。

 

「私にとって、生徒会は安心できる場所だった。安心できた、場所、だった。それを私は、自分で、捨ててしまったのだ……」

「……」

 

 同じだ。この人と自分は、梓はようやく理解することができた。彼女は自分と同じなのだ。信じている人たちを奪われ、他人を巻き込んで、そして、自分にとって安心できる場所を自分で奪って。

 罪悪感にさいなまれている。

 同じだ。自分と、この人は。

 

「梓、私は……」

「……」

 

 そして、同じだ。この人も、自分と同じ。これからどうすればいいのか分かっていない。分からない。分かるはずもない。そんなところまで似ている。

 そんな自分たちが出会ったのもまた、岩沢と同じ運命だったのかもしれない。

 もしかすると、自分はこの人と仲良くなれるかも。それは、同族嫌悪にも似た何かだったのかもしれない。

 彼女にとっては、それこそも自分にとっては都合のいい材料だったのかもしれない。

 自分は、一人じゃない。

 愚か者は一人じゃない。

 自分のような死神は一人じゃない。

 そう、先ほどの金髪の男性のように。

 自分は、自分たちは、仲間なのだ。

 

「違う……」

「え?」

 

 梓は、叫びながら立ち上がった。

 

「違う!!」

「梓……」

「私たちは、仲間なんかじゃない! 私たちは、私たちは……」

 

 その時、梓の言葉が詰まってしまった。そう、自分たちは被害者、SAOに大切な人を取られた≪仲間≫であるのだ。

 それは、正確な事。それなのに、どうして自分はそれを否定しようとする。

 何故、自分たちは仲間であると、そう彼女に言えない。

 何故。

 何故。

 何故。

 そうだ。似ているからだ。彼女に、自分の≪仲間≫に≪大切な人たちの一人≫に、似ているから。だから、否定したかったのだ。自分たちが、仲間であるという事に。

 

「ッ!」

 

 梓は、声を出さないままにその場から立ち去ってしまった。逃げるかのように、そして罪から身を守るように。

 決して、逃れることのできない罪だと、分かっているはずなのに。

 

「梓……」

 

 シノは、そんな梓に手を伸ばすしかなかった。しかし、その手は決して届かない。

 一人の手じゃ、届きっこない。

 そんな事、分かりきっていた。

 誰かと手を繋いで、そうじゃなきゃ届くはずのない救いの手。

 けど、そんな自分は、その大切な者たちを失っていた。

 そんな人間の手じゃ、女の子一人を救い出すことなんて、到底不可能だった。

 シノが、そのことに気がつけるのか、≪ある女性≫を監視するために病院に来ていた男性は、二人のそのやり取りを見て、自分の手を見つめるのだった。

 果たして、自分の手もまた、彼のように誰かに届くのだろうかと。届かせることができるのだろうかと。

 ギュッ、とその手を握りしめた男性は、監視対象である女性を見張るため、再びその場から立ち去った。

 そして、残されたのは休憩スペースで空虚に向けて手を伸ばすシノ一人だけとなった。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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