SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
その次の日、岩沢と梓が出会った次の日から、彼女のリハビリは過酷を極める物となったと言ってもいいだろう。といっても、それは、病院側が強いていることではない。
リハビリテーション専門の理学療法士である女性は、本来は長期間にわたってゆっくりとしたペースでのリハビリのメニューを考えていた。
彼女はまだ若く、治癒能力があると言っても、頭を手術した後なのだから、すぐに激しいリハビリなんてしたら手術した血管が再び破れることにつながる可能性があると、そう考えたからだ。
それだけじゃない。聞くところによると彼女の脳出血の原因は両親の喧嘩を仲裁に入ろうとした時に殴られたことによる外傷性の物。今回破けた血管とはまた別の場所の血管にも傷がついている可能性がある。
だから、入院中何度も脳の検査も交えながら、脳に影響を与えるような激しい物、つまり血圧をあげるようなものを裂けて長期的な目線でリハビリメニューをこなしていく予定だった。
しかし、岩沢はそんな理学療法士の願いむなしく、ギター練習をするばかりだった。
何度も何度も。時には、歌を歌って、そのたびに止めて、でもギターを弾くのは絶対にやめなかった。
その行為の一つ一つが彼女の寿命をすり減らしているかもしれないのに。それでも彼女は歌を奏でようとすることを止めなかった。
全ては、彼女のために。
「岩沢さん、調子はどう?」
「小夜さん……」
と、病室に入ってきたのは、あの日梓と一緒にいた小夜だった。
「何とか、感覚は取り戻した……後は、曲を作るだけ……」
「そう……」
といって、岩佐は目の前にあった紙の束を見つめる。
梓と出会ってから三日。その間ずっとギターをかき鳴らし続け、音を出すことができない時にはエアーで、何度も右手を上から下に、上から下にと動かし続けてきた。
結果、手術前とは完全に同じとはいかないまでも多少はギターを奏でられるようにはなってきた。
となると、その次は曲作りだ。
友を失い、先輩を失い、悲しみの底にいる梓を救うことのできる歌。それは、これまで自分が作ってきた曲じゃ心もとない。
もっと、彼女の心に響く歌を。彼女を元気続けられる歌を作らなければ。
彼女は、寝る間も惜しんで考えていた。夜見回りに来る夜勤の看護師の目を盗んで、必死に、ほぼ二十四時間ずっと歌のことを考えていた。その結果が、目の前にあるこの紙の束だ。
「梓さんのため……。でも、そのために岩沢さんの身体が壊れたら、元も子も……」
「あ……」
「え?」
と、小夜が話をしているにも関わらず、彼女はおもむろにボールペンを持つと、ルーズリーフの紙に言葉を書き並べていく。
そこには、規則正しく並んだ五本の線と、産卵直後のオタマジャクシのような小さな音符が大量に書かれていた。その部分の、まだ、白紙の、何物にも侵されていない綺麗な線の下に言葉を書くと言う
「良い歌詞が浮かんだ。ありがとう」
そして岩沢はギターを鳴らす。きっと、その言葉にふさわしいメロディを探しているのだろうか。
本当に、この子の頭の中には歌の事しかないのだと、思い知らされるような気がした。
自分が歌を作れさえすれば、歌を歌えさえすれば自分の身体なんてどうなってもかまわない。そういう覚悟さえも感じる。
小夜も、ギターを弾く少年の担当医だったことがあったから分かるところがあるが、今の彼女はその少年とは全く違う。
一体、何がそこまで彼女のことを突き動かすのか一体、何故そこまで他人のためになることができるのか。小夜は聞いてみることにした。
「どうして、そこまでして梓さんのためになるとするんですか?」
「……」
その時、彼女のギターを弾く手が止まった。
「歌は、私の恩人なんだ……」
ジャラララン、岩沢は、ギターを一弾きして言う。
「歌は、私にとって閉じこもるしかなかった殻を破ってくれた、とても大事な物だった……。両親は、いつも喧嘩ばかりで、自分の部屋もなく、その怒鳴り声の中隅で小さく丸まって、耳を塞いだ……どこにも、休まる場所はなかった」
「……」
とても、むごい話だ。ネグレクトに近いもの。
少年少女の生長期に喧嘩ばかりしている親の声を毎日のように聞いていたら、それは確かに耳を塞ぎたくなるのも分かる。
分かるけど、でも自分はそんな経験がないから彼女には何もいう事ができなかった。所詮部外者だから。彼女の気持ちを推し量ることなんてできないのだろうと。
とてもすさんだ生活を余儀なくされた、結果なのだろう。彼女は学校でも友達と呼べるような人間はできず、仲のいい人間も、ましてや、自分の気持ちを吐き出せるような人間なんていなかった。
彼女は、そんな孤独の中で生まれた時から暮らしていたのだ。悲しいことだが、今の日本には、いや世界中に彼女のような境遇の人間が、何人も、何人も存在している。その全てを救うことはできない。自分にも、誰にも。
「そんな時出会ったのが、SADMACHINEというバンド」
そのバンド。小夜にも聞き覚えがあった。実は彼女も一時期バンドを組んでいた時があり、ドラムを担当してたのだ。
魔進戦隊キラメイジャーとして戦っていた時も先述した少年のためにドラムを叩き、少年が手術を受けられるように、そして敵の間の手から救い出せるように演奏したこともある。
だから、彼女の言うSADMACHINEも、聴いたことがあったのだ。
「そのボーカルも、私と同じ……恵まれない家庭環境にいて、精神的に辛い時には、耳をイヤホンでふたをして、音楽の世界に逃げ込んでいた……」
「アナタもそうだったの?」
「少し違う……その時までは、私も耳と目を閉じて、口を塞いで、孤独に生きてた。私が、CDショップにいったのは、気まぐれだった」
ほんの、気まぐれだった。気晴らしだった。少しでも家にいない時間を作ろうと、ただそれだけを考えて、彼女はCDショップに向かった。
そして、試聴用のイヤホンを、耳にかけた瞬間、
「すべてが吹き飛んでいくようだった。ボーカルが私の代わりに叫んでくれる。訴えてくれる。理不尽を叫んで、叩きつけて、破壊してくれた……私を、救い出してくれた」
運命の出会い、という物だったのだろう。いや、その後の言葉を聞く限りではもう一つ、運命的な出会いをしたようだが。
「それで、そのギターも買ったんですか?」
「買ったんじゃない。コイツと出会ったのは、雨のごみ捨て場。アタシは、コイツと一緒ならいい曲を奏でることができる。歌うことができる。そう信じて……それから、アタシは歌を歌い始めた」
投棄されたゴミの中にあったギター。雨が降る中であったソレを足掛かりとして、彼女の歌手人生は始まった。
彼女の人生は、変わろうとしていた。
「何にもないと思っていた私の人生にも、歌があったんだって……歌があれば、あたしはどこにだって行けるんだって、そう思って……」
それから、彼女は必死で腕を磨いた。バイトもしながら、路上ミュージシャンとして歌を歌って、毎日毎日ギターの練習に明け暮れて、勉強をおろそかにしてでもギターに人生のすべてを注いだ。
「歌で生きていく。そう決めたから……」
進路相談でも、自分は大学への進学をすることなく、歌の道を生きることを先生に伝えた。
もちろん、反対された。それが、どれだけ厳しい道か、どれだけ邪道であるのか、それは彼女自身分かりきっていた。
でも、彼女の意思は固かった。
たくさんの事務所のオーディションを受けて、いろんなところで歌って、弾いて、自分のすべてを、心の底にある訴えを声に出して、伝え続けた。たとえ、それを誰も必要としなくてもいい。それが、自分勝手でも、誰の心に届かなくてもいい。
「あたしには、歌しかないんだ……」
それしか、自分の生きる道はなかったから。
だからこそ、今回が初めてだった。自分の歌で、誰かを救いたいと。梓のことを救いたいと、本気で願うようになったのは。
小夜は、もう、何もいう事ができなかった。彼女の心を救う手段を、何も持ち合わせていなかった。
もう、彼女には何も見えていないのだ。ただ、自分の歌を誰かに聞かせたい。今回の場合は、梓に聞かせたい。梓の心を救いたい。そのために、自分の思いのたけを叫ぶのだと。決めていたのだ。
強固な意志を持った人間を変えるには、それ相応の対価が必要となる。
でも、きっと彼女はその対価すらも燃料として自分の命を燃やし尽くすまで音楽を奏で続けるのだろう。
自分の心の叫びを、届けるために。
それが、なんだか悲しかった。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい