SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

157 / 361
メインシナリオ外伝 第二章 第13話

 この世界は、こんなにも灰色だっただろうか。梓は、小川沿いにある並木道を歩きながら考えていた。

 この道、たぶん自分は初めて通る道だ。今まで、見向きもしなかった。できなかった道。

 先輩たちと一緒に居ると、大体いくところなんて限られて、というかほとんどをあの音楽準備室の部室で過ごしていて、そのほかの場所に行く必要なんてなかった。

 そこにいれば、ムギ先輩がとても香ばしい紅茶を淹れてくれて、律先輩が澪先輩をからかってそれで一緒に笑って。そして、唯先輩は―――。

 ただ、いるだけでも良かった。笑顔で、明るく、のほほんとした表情で自分のことを見つめている先輩を見ている。ただ、それだけで自分の心は満たされていた。

 自分にとって、あの世界はただそこにあるだけで心の底から笑顔になれて、そこにいるだけで、幸せに包まれる空間だった。

 それ以外に、自分は何も必要はなかった。それなのに、自分は、己は、皆、奪われてしまった。奪ってしまった。先輩たちが遠くに離れて行ってしまった。

 もう、戻ってくるかどうかわからない。信じ切ることができない。そんな心の弱い自分が、恨めしく悔しくて切なくて、なんだか憤りを通り越して怒りが芽生えてしまうほど。

 今、自分が歩いているこの並木道、春や夏になると、きっと満開の桜や、青々とした葉っぱを付けるのだろう。でも、今は秋冬の冬よりの季節。

 木々は、今にも散りそうな枯れ葉ばかりがくっついており、少し揺らしただけでパラパラと崩れ落ちてしまいそうなほど。

 まるで、今の自分のようだ。今自分は、ちょっとやそっとの衝撃で崩れ落ちてしまいそうなほどに心が脆弱になってしまっている。

 あと、もう一押し。あともう一押しで自分は自分を見失ってしまう。そう思えてしまうほどに。

 けど、彼女はまだマシな方だ。だって、彼女はまだ自覚しているのだから。自分が、自分の心が壊れそうになっているのだと自覚しているのだから。

 だから、彼女はまだ大丈夫だ。といっても、彼女の言う通りに一つ、二つの間違いで崩れ落ちてしまいそうなほどにギリギリの綱渡りの状態なのであるが。

 フッ、と考えなしに枯れ落ちた葉を一枚拾った梓。彼女は、それを無表情のうちに握りつぶしていた。

 手の平から解き放たれた屑の葉は、首筋を切り裂くような冷たい風にさらわれて飛ばされていく。

 梓は、空中に飛ぶソレを一瞥するとまた歩き始めた。行く当ても、到着する予定もない、果てのない道。

 ソレを彼女は、たった一人きりで歩くのだ。これからも、この先も、ずっとずっと、毎日。

 

 

「はぁ……」

 

 小夜は、聖都大学附属病院の中にある食堂で、一人ため息をついていた。

 心配で仕方がないのだ。彼女、岩沢雅美のことが。

 彼女は、今自分ができる精一杯の力で曲の作詞を、そして作曲をしている。昼夜問わずに。それこそ、まるで悪魔にでも取り憑かれたかのように、音楽と戦い続けている。

 はっきり言えば、危険だ。まるで泳ぎ続けなければ死んでしまう回遊魚のように全速力で自分の人生をすり減らしている感じがして、どうにも気になった小夜。

 そんな彼女は、自分の所属先の病院に無理を言って、長い有休を取得した。幸いにして、大きな手術が間近に迫っていなかったこと、それから自分が担当している患者が安定していることも彼女にいい方に働いたと言えるだろう。

 でも、その有休を消費して彼女の見舞いを続けて三日目、全く代わり映えしない彼女の姿に、いったい自分が何をしたいのかがハッキリと分からなくなってきてしまっていた。

 確かに彼女の言いたいこと、やりたいことは分かる。自分の、憧れのバンドが自分にしてくれたように、自分も誰かを自分の曲で元気づけたい。その夢は分かる。

 でも、だからと言って努力の方向性が少しだけ間違っているのではないか。そう、小夜は思うのだ。

 何故なのか、そう聞かれれば答えに困るのだが、ともかく、今はっきりと言えることといえば一つだけだ。

 

「エモくない……」

 

 まさしく語彙も減ったくれもない言葉である。

 これは、彼女の口癖のようなもの。自分の心に響くような出来事には≪エモい≫、逆に心に響かない、または気に入らない出来事には≪エモくない≫という言葉を使う。

 今回の場合、岩沢の言動、そして生き方に対してエモくないと言ったのである。

 一体、どうすれば彼女の心を変えることができるのだろう。どうすれば、彼女が自分自身の身体のことを大切に思ってくれるのだろう。

 何人もの心の壊れかけた患者を診て来た小夜でさえも、答えを見つけることができないでいた。

 

「あれ? 小夜くん?」

「え?」

 

 と、その時である。どこか懐かしい声が背後から聞こえて来た。

 この声は確か。小夜が振り返ったその先には、アロハシャツを着た眼鏡の男性がいた。

 

「あ、ハーさん。どうしてここに?」

 

 男性に向けて、そう疑問の言葉を発した小夜。

 彼の名前は博多南無鈴。魔進戦隊キラメイジャーを支援する対ヨドンヘイム防衛組織、≪CREATIVE AND RADICAL AMBITIOUS TEAM≫、通称≪CARAT≫の設立者であり、代表でもある人物である。

 そして、表向きの会社としての宝石宝飾ブランド≪コナッツベイ≫の経営者でもある。

 その仕事の種類の違いや、互いの忙しさもあって、最近は顔を合わせることは少なくなり、時折キラメイチェンジャーのメンテナンス等のためにちょくちょく会っていた程度だった。

 それも、彼がいるべきココナッツベイの会社の中であって、こんな彼にとっては何の接点もない場所で出会う事なんて本来あり得ないはずだった。

 

「ちょっと、ここの院長に呼ばれてね」

「院長に?」

「そう。小夜くんは、どうして?」

「実は……」

 

 小夜は、博多南にこの病院に入院中の岩沢雅美のことを伝えた。本来患者の個人情報という物を外部に漏らすのは守秘義務法に違反する物。

 だが、彼女はこの病院に所属しているわけではなく、プライベートで付き合いがあるだけなので、今回は問題ないと判断したのである。

 

「なるほどねぇ……」

「一体、どうすればいいのか……今までいろんな患者を診て来たけど、あんなに命を軽く見ている人は初めてで……」

「……それは、少し違うんじゃないかな?」

「え?」

 

 少し違う、とはどういうことなのだろうか。博多南は続けて言う。

 

「小夜くんにとって、一番輝いていたころは、いつの事かな?」

「私にとって……」

 

 自分が一番輝いていた時、それは、勿論。

 

「キラメイジャーとして、戦っていた時……って言いたいところですけど、一番エモイって感じたのはやっぱり、手術に成功した時……かなって」

 

 確かに、キラメイジャーとして戦っていた時、あの時の自分はまさしく輝きに満ち溢れていただろう。

 でも、彼女は知っていた。自分が、自分たちが一番輝ける瞬間は戦っている時じゃない。自分が一番やりたいことをしているその瞬間なのだと。

 小夜の場合は、医者として患者に向き合い、そして数々の困難な手術に立ち向かっているとき。それが、彼女自身が考えている自分が一番輝く時なのだ。

 

「それと、同じじゃないのかな?」

「え?」

「きっと、その岩沢さんという子も、今が一番輝いている時間だって、自分で思っているからこそ、今一番やりたいことを一生懸命にやっている。ただ、それだけなんじゃないのかな?」

「一番、やりたいこと……」

 

 確かに、彼女にとっては、今が、今曲を作っていること自体が一番輝いているタイミングなのかもしれない。

 けど。

 

「でも、そのために命をすり減らすような真似をするのは……」

「間違っている。確かにそうだ。けどさ……だったら、小夜くんはどうしたいんだい?」

「もちろん、あの子に伝えたい。自分の命を大切にしてもらいたいって……でも、もし今が彼女が一番輝いている時だとするのなら……」

 

 それは、自分の勝手なエゴ。そのエゴのせいで、彼女が一番輝いている今を奪うなんて。

 

「小夜君。なら、その気持ちを素直に伝えればいいんじゃないか?」

「え?」

 

 と、言った博多南は、いつものふざけた様子を垣間見せる事なく言う。

 

「そして、君が彼女の未来を、明日を変えるんじゃない。彼女自身が変えようと努力することが大切なんだ」

「彼女、自身が……」

 

 博多南は、そういうと目の前のコーヒーを飲み干していう。

 

「未来なんてどうなるかわからない。ちょっとしたことですぐにいろんな分岐が起こって元に戻らなくなる。そんな未来を、それも他人のものを変えるなんて、難しいかもしれない。けど……」

「けど?」

 

 数瞬、博多南は目を一度つぶってから言った。

 

「せめて、自分の明日くらい変えないと」

「自分の明日……」

 

 つまり、岩沢自身が、自分の明日を変えるために努力しなければならないという事なのか。

 いや、それだけじゃない。彼は言った。未来を、他人のものを変えるなんて難しいと。不可能ではないと。

 確かに到底無理に近いのかもしれない。しかし、それでも不可能じゃない。少しでも希望があるのなら。

 今の自分に何ができる。医者として、いや一人の人間、大治小夜として、一体何が。

 何が。

 何を。

 彼女に。

 歌を。

 

「はーさん……」

「……ん?」

 

 博多南は、彼女の呼びかけに少しだけ遅れて反応した。そして、小夜は立ち上がるといった。

 

「ありがとうございました。おかげで、私が……私たちがなにをするべきなのか……分かったような気がします」

「そうか……頑張って、小夜君」

「……はい」

 

 そういうと、小夜は鞄を持ちその場を後にした。足取り軽く、あたかも自分自身の未来に向けて歩き出したかのように。

 そして彼女が向かった先は―――。

 

「岩沢さん、お願いがあります」

「え?」

 

 こうして、また未来は少しずつ変化を始めていった。

 ある人物達に仕組まれた、でも自分たちで変えようと誓った、異なる未来へと。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。