SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
全ての音が消えた世界。その世界に、たった一人の女性がいた。
今、自分の前には何もない。自分の耳には何も聞こえてこない。
ソレほどまでに彼女は集中力を研ぎ澄ませていた。
指を茶色い舗装された地面に置き、片膝も置いて、もう一歩の足はスターティングブロックの上に重ねる。すべてがいつもの事。
そう、いつも通りに突っ走ればいいのだ。この暗い世界の中を。真っ暗で、唯一人、誰にも邪魔されることなく走りきればいい。
ただ、それだけ。
≪SET≫
その瞬間。彼女は膝を付けた足を延ばした。ついに、最終段階だ。後はもう、何も考えない。ただ、目の前のゴールを目指して走りきるだけ。
何も考えず、何も縛られもせず、ただただ自分が走り抜ける道を思い描き、貫くのみ。
それが、スポーツの、陸上競技の本質なのだから。
ただ、走る!
バン!
その時、号砲が鳴り響いた。
それが、数時間前の事である。
「はぁ、疲れた……」
女性、速見瀬奈は競技場に備え付けのシャワーから出てきた直後、すぐに控室に備え付けられているテーブルの上に顔を突っ伏した。
その目の前には、今回の大会で手に入れた、≪金メダル≫が置いてある。果たしてこれで何個目なのかは、もう数えてすらいない。
でも、少なくとも優勝した直後にゆっくりとさせてもらいたかったというのは、彼女の心の底からの愚痴である。
彼女、瀬奈は今日、ある場所で行われた陸上競技大会の女子百メートル走に出場していたのだ。
結果は、彼女の優勝。それも、他の選手を抜くぶっちぎりでの優勝に、多くのマスコミが飛びつき、表彰式の後の多数のマスコミからのインタビューを受け、今ようやく安息の時が訪れたのである。
確かに、現日本記録保持者の自分が走ればどれほどの注目を浴びるのかに関しては理解している。でも、だからと言っていちいち行くところ行くところにマスコミがついて来ていては、おちおち≪お見舞い≫にも行けない。それが、ここ最近の悩みの種の一つであった。
「瀬奈、お疲れ様」
といって入ってきたのは、スポンサーとして、そして自分が社員として契約をしているスクラッチ社の社員で特別開発室室長、真咲美希、である。
スクラッチ社は、≪スポーツを科学と心でサポートする≫というキャッチフレーズの素、世界的な規模で商品展開を行っている総合スポーツ用品メーカーだ。
もちろん、瀬奈が使用している靴やリストバンド、ユニフォームも全てスクラッチ社製である。
美希は、大容量のスポーツドリンクを瀬奈に渡した。
即座にキャップを開け、口をつける瀬奈。その勢いは半端ではなく、一気に半分くらいは飲み干してしまったようだ。
「また、タイムが伸び悩んでいるみたいね」
「……」
美希は、今日の走行タイムのデータが入ったタブレット端末を操作しながらつぶやいた。
そうなのだ。実はここ最近、彼女のタイミングは伸び悩んでしまっている。
いや、そもそも彼女が日本記録を保持しているので、逆にこれ以上の伸びしろを期待するというのもあまりにも酷な話なのだ。
しかし、彼女には確かに自分自身の中での最高の記録を打ち破る自身がみなぎっていた。
それは、追っかけをしているマスコミたちにもひしひしと伝わっているようで、連日マスコミから追われ続けているのも、自分がいつの日にか、日本人女子百メートルで初めての十秒台に突入するんじゃないかという期待を込められての物だ。
だが、自分が目指している頂のことはともかくとして、だ。実際ここ最近タイムが少し落ちているのは気になる。
自分がかつて出した日本記録は十一秒一七。本来は、これに匹敵する記録をコンスタンスに出していかなければならないのに、今日は十一秒五一、この前の大会は十一秒四零と、タイムが縮むどころかどんどんと伸びてしまっている。
スランプ、なのだろうか。それともやっぱり―――。
と、その時だ。彼女の左手に付けてあるキラメイチェンジャーから声がする。
『瀬奈お嬢様、やはりSAOに囚われた彼らのことが……』
「うん……どれだけ走るのに集中しようと思っても、やっぱそれを考えちゃって……」
と、言った。そう、彼女もまた小夜と同じく魔進戦隊キラメイジャーのメンバーの一人、キラメイグリーンであるのだ。
陸上競技自体はキラメイジャー以前からしており、その速さ、そして大きなキラメンタルの持ち主という事で魔進マッハによって戦士に選ばれた女性。今も彼女に声をかけたのは、≪CARAT≫の本部にて待機中の彼である。
なお、キラメンタルとはキラメイジャーに変身する者に求められる素質の事で、才能、さらには魅力と言ったものが源とされる輝ける精神力の事。
今はヨドンヘイムの軍、通称ヨドン軍との戦いが終わり、小夜と同じように普通の生活に戻っていた。
のだが、そこに影が差したのは、やはり一週間前の事。
「充瑠君や為朝君たち……柿原さんも、無事に帰ってくればいいけど……」
『そうですね、お嬢様』
当然の事だが、彼女もまた同じキラメイジャーのメンバーである充瑠や為朝の、そしてその戦いの中で知り合った柿原のことを気にしていた。
だからなのだろう。走っている最中、一番集中しなければならないところで彼らの顔が時折チラつくのだ。
気にするなというのも、無理な話だ。もしも、ゲームの中で死んでしまえば、彼らが死んでしまうなんて、そんな事、知っていながら笑って走れるほど彼女は非情にはなれなかった。
「私もショックよ。直接の仲間が巻き込まれていないとはいえ……ね」
美希は、そう言いながら壁に背を付けた。
彼女のいるスクラッチ社。その社員、並びに仲間たちにSAOに囚われた者はいない。
だがしかし、充瑠や為朝たちのように一度二度ほどしか会ったことがない、しかし未来溢れる若者たちが囚われたという現状は、やはりどこか耐えがたい物があったという。
そして、十年ほど前に一度だけ出会った二人の男女。二人もまた囚われたとこの前話に聞き、その心配はやはり増すばかり。
自分がそんな状態なのだから、直接一緒に戦っていた仲間が囚われた瀬奈の気の落ち込み様なんて、考えるのもかわいそうになるほどだろう。
「とにかく、今はタイムを伸ばすよりも心の休養が必要ね」
「でも……」
「瀬奈……」
と、美希は彼女の肩にその手を置くと真剣な顔つきで彼女の目をそらさずに言った。
「あなた、少し気負いすぎよ」
「気負いすぎ……ですか?」
「そう……あなた、もしかしてこう思っているんじゃないかしら? SAOに閉じ込められた三人の、ううん。一万人の人たちの分まで頑張ろうって」
「……」
瀬奈は、彼女の発言に言葉が詰まった。
そうか、もしかしたら、そうなのかもしれないと。
自分自身、あまり気にしていなかった。でも、確かに少しだけ自分は焦っていたというのも分かる。
それは、彼女の言う通り、SAOに閉じ込められた三人の分まで頑張ろう。三人がキラメクことができない人生の分まで頑張ろう。
SAOに閉じ込められたすべての人たちの分までキラメこう。
そういう気負いがあったのかも。
でも、それはあまりにも無理な話だ。
だって、自分と、彼らの人生は全く同じではないのだから。
充瑠は絵が得意で、為朝はゲームが得意で、自分は陸上。それぞれ分野の違う人間が、他の人間のキラメキを、人生を描くことなんて不可能に近い。それなのに、自分は。
美希は、まるで母親のような笑みを浮かベべると言った。
「それに、シオシオの状態じゃなくて、ワキワキな瀬奈ちゃんの姿を見せることが、三人にとっていいことじゃないのかしら?」
と。
「ジャン語……久しぶりに聞きました」
ジャン語。それは、かつて美希の知り合いの野生児が使用していた独特な擬音を用いた言葉。先ほどの会話の中で言うのならば、“シオシオ”や“ワキワキ”という言葉がソレだ。
“シオシオ”は、悲しい、暗い時の状態を表す言葉。“ワキワキ”は、うれしい状態や楽しい状態の時を表す言葉である。
瀬奈は、キラメイジャーとして戦っていた当時も、自分の先輩であり、スクラッチ社勤務の美希の娘、なつめからその言葉を使われ、その時は意味も分からず困惑していた。
でも、今となってはなんとなくではあるがその意味も分かる。まさしく、言葉通りに自分は今、“シオシオ”であるのだから。
ふと、ここで彼女は思い出した。
「そういえば、なつめ先輩は?」
そう、いつもだったらこういった大事な測定会には応援に来てくれるなつめの姿が一向に見えなかった。それが、不思議でたまらなかった。
「あぁ、なつめは今、スクラッチ社の方でおもてなしの最中。今頃、模擬戦でもしているんじゃないかしら?」
「模擬戦……」
スクラッチ社。それは、表向きには、≪スポーツを科学と心でサポートする≫というキャッチフレーズの素世界的な規模で商品展開を行っている総合スポーツ用品メーカー。
しかし、それと同時にまた別の姿を持ち合わせている。今回は、その裏の顔に新しく入門したとある人物たちの接待をなつめに任せているのだ。
が、果たしてうまくやっているだろうか。彼女にとって、≪大金持ち≫の人間を接待し、教育をするなんて重責初めての事。二人に失礼がなければよいのだが。
これは、母としても、そして仕事の人間としての心配でもあった。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい