SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
彼女、鈴木純が聖都大学附属病院に来るのは、これが初めての事だった。
非情であると思われるかもしれない。彼女自身、梓と共通の友人である憂を、SAOに囚われているのだから、一度くらいはお見舞いに来てもよかったはず。
それなのに、なぜかその足が病院に向くことがなかった。
何故なのだろう。それは、隣を歩くもう一人の女の子も同意見だった。
「おかしな話だけどね……」
「和先輩……」
純の隣を歩いている女性。眼鏡をかけたショートヘアの少女は、ふとそうつぶやいた。
「もしも、私が来たときに、唯たちが死んじゃったら嫌だなって、そう思ってたのよね……」
不謹慎な話だけど、と彼女は続ける。
純は、その言葉を聞くと、どこか安心したようで、頷きながら言う。
「私も……もしかしたら、自分のせいで、って思っちゃうから……だから、全然お見舞いにも来れなかった」
実際に、もし本当にそんなことが起こったとして、それが彼女たちに直接的に原因があるわけではない。
そもそも、彼女たちの友は、仲間は、先輩たちは、SAOの世界でどのように生活しているのか全く把握できていないのだ。
冒険に出ているのか、安全圏内である街の中でじっとしているのか、それとも、また別のアプローチでゲームの世界を旅しているのか。
唯の事だから、きっと軽音部の仲間たちがいなかったらいつも通りのほほんとした雰囲気でフィールドに出ていたのかも、なんてブラックジョークにも似たことを言う和。
和、本名真鍋和は、平沢唯の幼馴染みであり、幼稚園の頃からの付き合いを持っていた女の子。桜が丘高校では生徒会役員を得て、三年生の現在は生徒会長として生徒たちの模範となっている女の子だ。
と言っても、近々その役職を他の人間に譲ることは決定されているのだが。
そんな彼女だからこそ、唯という少女の性格を、そしてその妹の憂の性格を知っている。だから本当は分かっていたはずなのだ。唯は大丈夫。憂が近くにいれば、彼女が死ぬような行動を取ることなんて絶対にないと、そう信じていた。
でも、それでも彼女はお見舞いに来なかった。
もし自分が行った瞬間に、彼女たちが、自分の親友たちが目の前で死んでしまったら嫌だから。
そんな、奇跡的な確率、あるはずがないとは思っている。
でも、もしも、本当に、自分の目の前で唯の、桜が丘高校の友達の頭が焼かれる場面に出くわしたとしたら―――。
いや、考えるのも恐ろしいことだ。とりあえず、和と純は聖都大学附属病院のエントランスをくぐることにした。
それにしても大きな病院だ。一体、どれくらいの患者を抱えているのだろう。純は、何故か不安になってしまっていた。
もしも小さな病院だったとしたら、いわゆる少数精鋭みたいな感じで、集中的にSAOプレイヤーの憂達を見てくれるであろう。
でも、これだけの大病院になってしまえば、ほぼ寝たきり状態の憂たちは、ある意味では置物の状態であるからして、後回しにされてしまっているのではないか。
そんな、大病院に対して失礼な不安。
多分、そんな考えるまでもない不安が頭の中に浮かんでしまうのも、やはり彼女たちが今現在も命の危機に瀕しているからなのだろうか。
よく、分からなかった。
ともかく、彼女たちはなぜか≪開きっぱなし≫になっているエントランスから中に入ろうとする。
だが、その時だった。
「おい」
「え?」
やや、ぶっきらぼうともいえる男性の声が後ろからした。
振り向くとそこには左の一部分だけが白髪の、若い長身の男性が立っていた。
男性は、純と和との距離感を保ったまま首だけを傾けて言う。
「本当の入口はこっちだ」
「え?」
「こっち?」
「あぁ、そっちには、この病院の電気設備しか置いてねぇ」
「電気設備?」
「あ、みて純。ここに説明書きが書いてある」
「え?」
と和に言われてドアの張り紙に気が付いた純。
確かに、そこには≪注・この先は病院の電気設備しかありません≫という注意書きが書かれていた。
二人は、そんな奇妙な張り紙、というか珍妙な様に顔を見合わせた。
何故、そのような場所へ直通の入口があるのだろうか。第一、病院にとって電気設備という物は非常に重要な物。もしもソレが何らかの異常をきたしてしまった場合多くの人工呼吸器を使っている患者、何よりSAOプレイヤーの命にもかかわってしまう。
そんな場所がこの先にありますよと、馬鹿正直に書いてしまうなんて、この病院は本当に大丈夫なのか、と今になって再び不安に陥ってしまう。
「まぁ、本当は……」
「え?」
聞こえてきた言葉に、どういうことなのかと聞こうとした純や和を置いて、男性はずかずかと本来の受付があるエントランスへと向かっていく。
二人は、そんな彼の後を追った。
そして、やはり、病院の中はとても広かった。全面的に白を基調とした色合いの内装で、清潔感溢れるその内情は、不思議と大病院にふさわしいと思わせてしまうほどの説得力があり、なんとなくだが、先ほどまであった不安を払拭させてもらったように感じた。
「大きい……」
「さて、唯たちはどこにいるのかしら……」
病院の中を見るのに気を取られて、いつの間にやら先ほどの男性の姿も見失ってしまっていた彼女たち。
あの男性が何者であったのか、非常に気になるところなのだが、ともかく、今は唯たちの見舞いの方が先決だ。
二人は、受付に行き、SAOプレイヤーとして入院中の五人の少女の名前を告げた。
すると、受付の女性は、問診票のような物を差し出してきた。どうやら、住所や名前を書く欄があるようだ。
恐らく、これはいつ、どのような人物がSAOプレイヤーである人間たちに接触したのかを把握するために用いられているのだろう。
何故そのような真似をするのか、二人は点で検討もつかなかったが、ともかく必要事項を書いた二人は入館証のような物をもらい、特別室前まで案内された。
すると、そこには。
「ん?」
「あ、さっきの……」
先ほど、病院の前で出会った怪しげな男性の姿があった。
特別室というのは、この病院に運ばれてきたSAOプレイヤー全員が入院している部屋である。つまり、そこにいるという事はこの男性もまた自分たちと同じ、大切な人をSAOに奪われた人間なのだろうか。
「あなたも、SAOに知り合いを?」
と、純は好奇心からか聞く必要のないようなことを聞いてしまった。
男性は、やや不機嫌そうな顔をしながらもガラスの向こうにいる一人の少女を見つめながら言う。
「俺は、アイツの主治医だ」
「主治医?」
「あぁ……」
というと、男性は改めて二人の方を見て言った。
「俺は花家大我。ゲーム病専門のドクターだ」
「ゲーム病……」
「それって……」
確か、数年前に大流行した感染症、だったはず。現在では多くのウイルスに対してワクチンが作られているためちょっと前に比べれば流行する兆しは見られなくなってはいるが、しかしその病によって多くの人間が≪消された≫という事実、そして多大なる社会的不安を発生させた病気という事で、彼女たちの記憶にも深く根付いてしまっていた。
「そのゲーム病専門のお医者さんの、患者さんが……巻き込まれたんですか? SAOに……」
「……」
それっきり、大我は何も話そうとはしなかった。元々おしゃべりがあまり好きではないのだろう。
ともかく、自分たちは元々の目的を果たすまでだ。二人は、ガラスの向こうにいる唯や憂たち、五人の少女の姿を探した。
そして、ミツケタ。
「ッ!」
その瞬間、彼女たちは息を呑んでしまった。
全然、違う。自分たちの知っている彼女たちとは、全くと言っていいほどに体型が違っていた。
五人の外見はやせ細り、麗しかった可憐な少女たちは、頬がこけて骨が浮き出ているのではないかと思うくらいに、まるで、枯れた細木のような姿になっていた。
「憂……あんなに痩せこけて……」
「二週間、栄養なんてほとんど取れてねぇ……痩せるのは当然のは話だ」
「でも、点滴が……」
「点滴で取ることのできる栄養にも限度ってものがある。食べ物を直接注入するのなら別だが、点滴だけで、普段取っているような栄養を補うのは、無理な話だ」
「……」
この時、彼女たちに芽生えた感情は後悔だった。
何故、自分たちはもっと早く見舞いに来なかったのか、何故自分たちは彼女たちがまだ元気なうちにその姿を視なかったのか。
怖かったから、自分の目の前で、彼女たちが死ぬのを見るのが怖かった。そんな何万分の一の確率の奇跡的な不幸が頭をよぎって、結果、自分たちは見逃すことになってしまった。
彼女たちがまだ、元気なうちに見舞いに来るというチャンスを。彼女たちがやせ細っていない、自分たちの知っている姿のままの彼女たちを。みるチャンスだったのに。
「憂……」
純は、ただ彼女の名前を呼んであげることしかできない。ただ、それだけが彼女に許された行動だ。
彼女は、梓はこんな絶望を毎日繰り返しているというのか。こんな、苦しい思いで毎日お見舞いに来ているというのか。
自分じゃ、とても耐えられない。そう思ったその時だ。
「そういえば、梓は?」
「あ……」
そうだ。梓はどこだ。確か、先に来ているはずなのに。
特別室の廊下はさほど広いとは言えない廊下、きっと突貫工事で作ったのだろう。そんな場所であるのだから、いたとしたらすぐに目につくはずなのに、見渡しても自分たち二人以外にいるのは大我一人。
一体、彼女はどこに。
≪ビー!!!!!≫
その時だった。
「え?」
けたたましいほどのアラーム音が、鳴り響いたのは。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい