SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
やめて、そんな音を奏でないで。
私に、これ以上そんな音を聴かせないで。
お願い、これ以上。私の思い出を蝕むのはやめて。
心を蝕むのはやめて。
私の中に、入ってこないで。
お願い。
「止めて下さい!!」
「ッ!!」
岩沢は、ギターを弾く手を止めた。
そして、その先にあった顔は―――。
「あれが、岩沢雅美……か」
それから一時間程前のことだ。男は、個室の中で一心不乱にギターを鳴らす女性を見ながら呟いた。
なるほど、あの人が欲しそうな人材には間違いないだろう。
少しだけ観察しただけでもわかる。あの世捨て人のような目付き。だが、その奥に確かに存在する物。
大怪我をし、手術をした直後。であるというのにそんなこともいにも返さずに熱心にギターに向かう姿は、一見して情熱があるようにも見える。だが、別の意味で言うのならば、破滅的願望を持った女性にも見える。
そう、それこそ彼のように。
「できた……」
「ん?」
その時だった。女性に笑顔が溢れたのは。
床にまでこぼれ落ちる紙の束、その一番上から数枚を取る彼女。どうやら、曲が出来上がったようだ。
光悦とした表情、あたかも新種の動物を発見した動物学者のようなその煌めいた笑顔に、男も一瞬だが仕事を忘れて微笑んでしまう程だ。
けど、なにかが引っ掛かる。男は、言葉に言い表せない何かを感じていた。
それでも、彼女は自分の書いた楽譜を一枚一枚丁寧に見ていくと、最後に笑顔を消して言う。
「これで、梓を元気づけられる……」
「誰かのための曲、か」
その顔を見た男は、心の中に不安感が芽生えた。なぜか。今度の答えは簡単に解き明かすことができた。
矛盾しているのだ。彼女の心と、やりたいことが。
そして、その事に全く気がついていないのだ。彼女自身が。
「妙なことにならなければいいが……」
一抹の不安を覚えた男だったが、取り敢えず今はあの人に報告しておこう。彼女は、≪あなた≫のメガネにかなう人物だった、と。
それから間も無くして、梓が岩沢の見舞いに訪れた。
「岩沢さん、どうですか調子は?」
お菓子をその手にもった梓は、ソレを岩沢の病室に置いてある机の上に置くといつものように聞いた。
彼女達が知り合ってから今日で一週間。つまり、≪SAO事件発生≫から二週間と少し、となるだろう。その間、梓は毎日毎日岩沢の元に来ていた。と言うよりも、先輩達のお見舞いのついでのようなもので来ている。
でも、実のところここ最近は、岩沢に会うこと自体がとても楽しみになっていた。
エレキとアコースティックで、少しだけ違うのかもしれないがやはり、同じギターを弾く物同士、惹かれ合うところがあったのだと思う。
それと同時に、自分と彼女とでは音楽の嗜好性が少しだけ似通っていた。だからこそ、有意義な音楽談義ができたのだ。
あの頃、まだ軽音部としての活動が出来ていた頃の自分とくらべれば 雲泥の差だ。
軽音部の仲間たちは、確かに一緒にいる分には楽しかった。でも、音楽の詳しいことになってくるとまともに話をすることができる人間がいない。時折、澪と小話程度で話をするくらいだったか。
だから、こうして日常的に音楽に関して真剣に話をすることができる友達というものができて、梓は嬉しいのだ。
けど、それと同時に彼女は不安に思ってしまう。
こうして岩沢と一緒にいる時間が長ければ長くなる程、先輩たちの思い出を無くしてしまうのではないかと。
自分にとって、先輩たちと一緒にいた時間が、過去の物となってしまうのではないかと。
そんな、いつも不安でたまらない彼女に沸いた一抹の不安。
そしてそれは現実の物となってしまう。
その日もまた、少しだけ音楽談義をしていた自分たち。すると、突然岩沢が言ったのだ。
「梓、曲が出来たんだ。聴いてくれないか?」
「え?」
入院中に作っていた楽曲が、ついに完成した。だから、聴いてほしいと言うのだ。
考えてみれば、彼女と出会ってからと言うもの、互いの音楽性に関して話すことはあった物の、岩沢の歌というもの自体を聞いたことはただの一度もなかった。
自分が、彼女のギターの音色を聞いたのはただの一度だけ。あの、最初に岩沢と出会った時のたった一回だけだ。
たしかに気になる。彼女がどんな楽曲を作ったのか。でも、それと同時にどこか怖いところがある。彼女の、作る曲がどんな物なのか。
自分、というより放課後ティータイムと彼女の音楽性はかなり違う。例えるのなら、自分達は温室でぬくぬくと育った人工栽培の花。彼女は、野生の中で逞しく育った力強い雑草。それくらいの違い。
そんな彼女の曲を聴いて、自分が一体どんな気持ちになるのか、とても怖くてたまらなかった。
でも、彼女の作った曲に興味があるという自分の心に嘘はつけない。梓は、ゆっくりとうなづいた。
「じゃぁ、聴いて……私の、曲」
そして始まった。彼女の、梓のためだけのライブが。
「え……」
その瞬間の、自分の感情は、はっきり言えばあまりにも複雑怪奇な物だった。
とても、いい曲だと、思う。彼女の心が、本音が、そして、自分の伝えたい思いが乗った。心に伝わる尊い音楽。
まるで、心の叫びをそのまま歌詞にしたかのような歌で、自分の歌が誰かを救うことができると、信じているに違いないその曲は、梓の心を揺さぶった。
すごい、この人。本物だ。
でも、何だろう。梓はつい不思議な気持ちになった。
もっとこの曲を聴きたい。ずっと、ずっと、聴いて、この身に刻んでおきたい。そう思う。
でも。
その感情がどうしても不快になってしまう。
なぜ、どうして。そんなもの答えられない。でも、ただ一つ言えることがあるとするのならば、自分は、これ以上、彼女の曲を―――。
「止めて下さい!」
「ッ!」
その時、まるで時が止まったかのような感覚に陥った。それまでそうぞうしく鳴り響いていたギターが止まって、静けさを取り戻したからそう感じたのだろう。
梓は、彼女の顔を見ることができないでいた。当然だ。だって自分が作った曲が途中でいきなしに止められてしまったのだから。
でも、嫌だった。これ以上彼女の曲を聴くのが。怖かった。これ以上、自分の記憶の中に、彼女の歌が入り込んでくるのが。
「梓、なんで……」
何で、どうして、そんなの、自分にもわからない。でも、彼女は意を決して言った。
「嫌なんです、もう、これ以上、岩沢さんの歌を聴くのが……」
「なっ……」
それは、岩沢にとっては青天の霹靂のような言葉だった。
「なんで、あたしは……梓のために……」
自分は、自分の歌を聞かせることによって梓を元気付けようとした。それなのに、その梓自身から拒絶の言葉。
彼女は、頭の中が真っ白となった。まるで、自分の全てを否定されたような、そんな気が。
でも、これはまだ始まりに過ぎなかった。
「私のため? 違いますよね……」
「え?」
「岩沢さんの歌は、自分の心の底にある憤りとか、怒りとかを、ただ乗っけているだけの自分勝手な歌詞じゃないですか……」
「そッ……」
そんなことはない。そう言いたかった。でも、彼女はそれ以上言葉を紡ぐことはできなかった。だって、事実だったから。
自分は、自分の書いた曲に自分の思いを乗せた。思いの丈を、心の中にある闇を解き放つかのように、この一週間歌の連なりを必死で楽譜に記してきた。それは、確かだったから。
「それで、岩沢さんは確かに楽しいのかもしれません。でも……」
そういうと、梓はスクッ、と立ち上がって叫ぶ。
「聞かされる人間にとっては、ただの自己満足に付き合わされて、溜まったもんじゃないんです!!」
と。
「自己満足、あたしの……歌が……」
「ッ!」
とんでもないことを言ってしまった。梓は、自分を恥じた。と、同時にどこかで感じていた心のつっかえが取れたような感じがした。
そう、これが正解なんだ。自分にとっての正解が、彼女を傷つけることだという残酷な事実なのだ。残念なことに。
梓は、背筋に氷を入れられたかのような言いようのない冷たさを感じ取ると同時に、荷物を持つとすぐに個室から出て行ってしまった。
「あたしの……歌が……」
一方、岩沢は個室の中で一人呟き続けていた。自分の歌が自己満足と言われた。
ショックだった。それと同時に、まるで自分のアイデンティティの全てを崩壊させられたかのような、そんな感覚に陥った彼女。
自分の作る曲は、いわば自分を形作ってくれたバンドの形を再現したような物だった。それによって、自分が救われたように、自分の心の底からの訴えで、誰かを救えるようにと。
でも、その歌が、自己満足?
なら、自分の歌は一体何のために存在する。
何のために自分は歌う。
自分は、どうしてあの時生き延びた。
それは、誰かに自分の歌を聞かせるという重要な使命があるからじゃないのか。
違うのか。
なら、自分は―――。
「ッ!」
その時、彼女は机の上に乗っていた楽譜を払いのけた。
宙にまった紙の束は、エアコンの風に乗って緩やかに舞う。
その時の彼女には、その様子が、悪魔の羽が舞っているように見えたという。
自分の折れた翼から飛び散った、羽が、舞っていたように見えたという。
「どうして、私は生き延びたんだ……どうして……」
その中で、彼女は一人頭を抱えて自分に問いかけ続けていた。
自分の歌で誰かを救うことができない。のならば、自分はどうして生き延びた。
どうして、自分はまだ生きている。
どうして、自分はまだこの世界に存在している。
どうして、どうして、どうして。
私は、一体何がしたいんだ?
梓の言葉、それはただの言葉に過ぎない。
でも、その言葉は確実に彼女の心を傷つけていた。
二度と修復できないような傷を、その心に刻み、彼女はこれから生きていくしかない。
地獄のような虚無の日々を。
自分の全てを否定された、この世界の中で。
そんなの、あたしは。
「嫌……」
岩沢は、その目線を下にさげたまま、動かなくなってしまっていた。
まるで、壊れかけだったブリキの人形が、完全にその命を絶たれてしまったかのように。
グッタリ、と。
その瞬間だった。
≪ビー!!!!≫
「ッ!」
岩沢は、耳にした。遠くから聞こえてくるアラーム音を。
特別室の前に帰って、また先輩達の顔を見ようと思っていた梓は、しかしその音に嫌な予感を感じ取った。
≪ビー!!!!≫
「まさか!」
思い過ごしであってほしい。自分の勘違いであってほしい。梓は、走った。病院の中で走るなんてご法度だという事は重々承知だ。でも、どうしてもはやる気持ちが抑えられないでいた。
早くこの嫌な予感の正体を知りたい。どうせなら、思い過ごしであってもらいたい。
でも、でも、でも。
いくつものもしもが浮かぶ中、彼女はついに辿り着いた。
その部屋の前に。
特別室の前には、一人の見覚えのある男性と、これまた見覚えのある二人の女の子の姿があった。
「お前は……」
「和先輩、純、それに……ッ!」
彼女は言葉に詰まってしまった。なぜなら、彼女は見てしまったから。
曇りガラスになった、特別室を。
彼女は特別室の構造に関して初めて面会に来た時に受付の女性から聞かされた言葉を思い出していた。
『部屋は五つほどの部屋で構成されていて、安全性の観点から中には入ることができません。なので、ガラス張りになっている部屋の一面の廊下から、見舞う事しかできません。また―――』
「嫌……」
現在、曇りガラス状になっていた部屋。その中を窺い知ることはできない。
『もしも、プレイヤーが死亡した場合には、その部屋のガラスは一時―――』
ただ。
「嫌ッ」
一つ、言えることは。
『曇りガラスになって見えなくなります』
その部屋は確かに、憂が寝かされていた部屋だった。
「嫌ぁッ!!」
梓は荷物を投げ出すと、ガラスを叩き始めた。銃弾すらも跳ね返す防弾ガラスだ。彼女程度の力ではびくともしない。
「憂! 憂! お願い、死なないで、憂!!」
彼女は叫んだ。必死になって、部屋の中でスモークが焚かれたようになった状態の窓を何度も何度も叩いて、中にいる彼女に向けて叫んだ。
嫌だ。こんな形で別れるなんて、嫌だ。
彼女には伝えたいことが、謝りたいことが山程あるのに、それなのに、このままソレを伝えることもできずに彼女が死んでしまう。
そんなの、許していいわけがない。
「梓!」
「落ち着いて!」
「いや、離して!!」
半狂乱状態になっている梓を、止めようとする純、そして和。大我は、その様子をただ見ているだけ。
「憂! 憂!!」
梓は叫び続けた。ずっと、ずっと。
まるで、壊れたレコードのように同じ言葉を何度も何度も吐き続けた。
そんなことしても、現実が変わるわけでもないのに。
全てが、狂い出す予感がした。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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タイトルはそのままでいい