SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
病院の駐車場に降り立った瀬奈は、その物々しい雰囲気に困惑していた。
その原因はただ一つ、病院の目の前に止まった二台の黒と白の配色の車からだろう。
「なんで、パトカーが止まっているの?」
パトカーの周りには、黒山の人だかり、とまではいかないまでもかなりの人数が何があったのかと注目している様子。
当然だろう。病院にパトカーが、それもパトライトをつけて複数台が停車している姿なんて、あまり見たことがないから。
「もしかして、何かあったのかしら……」
と、車を運転していた美希が彼女の隣に来て言った。
今回、彼女達≪三人≫は、充瑠たちを見舞うために厳しいスケジュールの中を掻い潜ってその病院に来ていた。
その途端にこの騒ぎである。一体何事かと不安になるのは当たり前であろう。
「瀬奈ちゃん!」
「え?」
と、その時彼女の名前を叫ぶ声が聞こえてきた。
とても懐かしい、そして、とてもよく聞いた仲間の声だ。振り向くと、その先にはやはり、彼女の知っている女性がいた。
「小夜姉!」
そう、同じキラメイジャーの仲間である小夜だ。同性であることもあって、彼女の事を姉のように慕っていた瀬奈に、小夜が近づくと言う。
「充瑠君達のお見舞いに来たの?」
「うん。そしたら、この騒ぎで……小夜姉は、何か知らない?」
「私も、今来たばかりだから……」
どうやら、小夜にもこの騒ぎの原因はわからない様子だ。
でも、と美希の≪向こう側≫にいた一人の女性が言う。
「少なくとも、ただことじゃない事態が起こったのは、確かかも……」
美希と同じく、スーツ姿で髪をポニーテールにまとめた女性。小夜は、そんな彼女に見覚えがあった。
「あなた、確か瀬奈ちゃんの先輩の……」
「真咲なつめ。こうして会うのは、あの戦いの時以来ね」
「はい」
彼女は、小夜が言った通り、瀬奈の大学の先輩、そして美希の娘であるなつめ。現在は、母親とおなじく≪スクラッチ社≫の開発部で働いている女性だ。
なつめと小夜、いやキラメイジャー一同は以前ある戦いにおいて面識があるのだ。その際一番彼女達と関わっていたのはもちろん瀬奈ではあったのだが、しかし彼女はある戦いにおいて自分達キラメイジャーを助けてくれ、ともに戦ってくれた勇気ある戦士である。
こうしてかつての友人に出会えたことで、親睦を深めたいところではある。しかし、今はそんなことをしている場合ではないことは重々承知。この騒ぎの原因を突き止めなければ落ち落ちお見舞いになんて行っていられない。
「パトカーが止まっているってことは、なにか事件でも起きたのかもしれないわね?」
と、美希が言った。確かに、一番に考えるのはそれであろう。
もしそうなら、今日彼らに見舞うこと自体不可能になってしまうのだが、いったい何が起こったのだろうか、それだけは知っておきたかった。
何故なら、小夜は、胸騒ぎがしてならなかったからだ。
何か、悪いことが起こっているような、そんな、想像もしたくないような予感が。
その頃、病院内において、四人の刑事、男性が三人、女性が一人の二組が、やや俯き加減気味でその時を待っていた。
この場合において彼らが取れる行動なんてものはない。あるのはただ、目の前の男性が報告書を書き終えるのを待っているだけなのだから。
だから、じっとその時を待っていた。冬眠中のクマが春の訪れを待っているかのように。あるいは、信号待ちをしている車が、今か今かと信号が青になるタイミングを待っているかのように。
「よし、終わりっと」
と、急に男性が言葉を発して振り向いた。それと同時に、パソコンの横に置かれていたプリンターから数枚の用紙がプリントアウトされてくる。
そこには、文字がびっしりと書き込まれていて、はっきしいって読むのも面倒になりそうなほどだ。
「貴利矢先生、それで結果は?」
と、その場にいる刑事の一人、氷川誠がもはや耐えられないと言わんばかりの勢いで聞いた。
「死因は、脳を焼かれたことによる脳挫傷。怪しいところなんてこれっぽちも見当たらない」
「では、それ以外の犯罪の可能性を示す痕跡は?」
「ない。血液からは毒物も検出されなかった。心臓や肺といった、人間のバイタルに直結する臓器の損傷も、脳以外には見当たらない」
「病院の機器の故障などはなかったんですか?」
「それもないな。機材は全部問題なく稼働してた。点滴も、成人男性一人に必要な栄養量はきちんといっていたし、病院の過誤はないと、断言できる」
と、監察医九条貴利矢が矢継ぎ早に飛んでくる質問に対して淀みなく返答を返してくる。
監察医、それはいわゆる行政解剖を行う医師の名称である。その医師が属する都道府県の知事が任命する職であり、本来なら死因のはっきりしない死体に対して行われる行政解剖を行うことができる医師のことだ。
とはいえ、その数は日本国内を見てもさほど多くなく、一つの県に一人も監察医がいないということも無きにしも非ず。そのため、行政解剖を行う場合にも、他の県から、あるいは遺体を他の県に輸送することで解剖を行うこともあるのだとか。
いや、話が逸れてしまった。今は、この場においてその監察医が誰の行政解剖を行ったのか。
総括するように、赤いレザージャケットに袖を通した上から下まで真っ赤の服の男が聞く。
「では、事件性はないのか」
「あぁ、100%内部で……SAOの中でゲームオーバーになったことによる死だ。そう、断言できる」
「そうか」
そう、男は呟くとまるで黄利矢に興味をなくしたかのように報告書に目を通し始めた。
これで、いったい何人のSAO被害者を解剖したことか、貴利矢も同じ死亡理由の報告書を書いてばかりでうんざりしている程だった。
実際問題、SAO被害者の死因なんてものは、脳が酷い損傷を受けた場合に記される脳挫傷一択だ。故に、本来は監察医の彼が出てくる必要もない。しかし、問題になってくるのは病院の対応にある。
その患者が死亡した原因が、内部、つまりゲーム内でのゲームオーバーによるものなのか、それとも病院の管理ミスによるものなのか。はたまた、外部から侵入した第三者による殺人なのか。それをはっきりとさせなければならない。
こと今回の場合は、聖都大学附属病院が特別室の中に監視カメラを設置していたことが功をそうし、簡単に立証できた。おかげで、報告書も別の病院の半分程度で済む。
まぁ、人の命が一つ消えたと言うことは、変わりないのだが。
「にしても、刑事さんも楽じゃないね……風都からこっちへと行ったり来たりで」
「特別案件だ。問題ない」
照井竜は吐き捨てるように言った。
そう、彼は本来ならば風都という街に存在している所轄の刑事なのである。
だが、今回のSAO事件において多角的な捜査を求められた結果、集められた各都道府県を代表する刑事の一人でもある。
以前にも話したことかもしれないが、今回のSAO事件。茅場晶彦の居場所を特定するためには一つ一つの県がバラバラに捜査をしていれば、集まった情報の共有できないという恐れがあった。
そのため、各都道府県から茅場晶彦捜索のために刑事を集め、情報の共有、包囲網の徹底を強化することになった。
無論、茅場晶彦のことばかりに集中していては元々自分たちが所属していた場所で起こった事件に関与することができないという問題があるため、出張という形式で月の半分くらいは元の管轄に戻る刑事が多数存在する。
照井も、その一人だ。
「また一人、SAOの犠牲者……ということですか……」
「早く、茅場晶彦を見つけて、ゲームを終わらせないと……」
「あぁ。永夢、向こうのことは任せたからな……」
と、氷川。それから別のパトカーで駆けつけた霧子と進ノ介の三人が口々にそう言う。進ノ介は、監視カメラで映し出された画面の向こうの特別室の中を見ながらつぶやいていた。その向こうにいる、自分たちの知り合いの姿を見て。
仮面ライダードライブ、泊進ノ介は以前とある事件においてその病院で入院中の仮面ライダーエグゼイド、宝生永夢と共に戦ったことがあった。
その時には、ほとんど話すことはなかったのだが、後々同じ仮面ライダー同士と言うことで意気投合し、仲良くなったという経緯を持っている。
今回の事件において、私情を持って茅場晶彦のことを追っている刑事は少なくはない。故、彼もその一人なのかと聞かれればそれは違う。
彼は、茅場晶彦のことが憎くて追っているのではない。彼によって人生を狂わされた全ての人たちのために、犯人を追っているのだ。
それに彼は信じていた。宝生永夢が簡単に死ぬような人間ではないと言うことを。ゲームの世界で生き延びて、絶対にいつの日にかゲームをクリアすると言うことを、彼は信じていた。だから、自分は自分の仕事を、茅場晶彦を捕まえるという仕事をこなせばいい。ただ、それだけだ。
「それで、茅場晶彦に関して、何か分かった事あるの?」
「あぁ、すみません。捜査情報に関しては教えられなくて……」
と、氷川が真面目に警察官として対応した。が、しかし。
「ほとんど情報が集まらない。まるで、最初からいなかったかのように霧のように消え失せて消息不明だ」
と、照井が報告書を読みながら言った。
「ちょ、ちょっと待ってください照井さん! 捜査情報の漏洩は……」
「今、俺たちは茅場晶彦についてなんの手がかりもえてない。その時点で、捜査情報の漏洩もないだろ」
「まぁ、確かに……」
照井の言葉にも一理ある、と氷川は思った。
確かに、彼の言う通りだから。事件の発生からもう二週間。自分たちは茅場晶彦が立ち寄りそうなところ、そして彼が接触しそうな人物全員をリストアップし、捜査を開始した。
しかし、どこにも茅場晶彦の手がかりなんてものはなくて、まるで透明人間を探しているかのような、雲を掴むような捜査を展開しているのは確かである。
だから、情報もほとんど何も集まっていない状態で情報漏洩なんて物を気にしても仕方がないのだ。それに、である。
「それに、この人も仮面ライダーです。何か情報があったら教えてくれますよ」
「え?」
進ノ介の言葉に氷川は驚いた。この人も、仮面ライダー、と。
「仮面ライダーレーザー。俺も、監察医のドクターで、仮面ライダーだ」
と言って、貴利矢は立ち上がった。
九条貴利矢。彼もまた、永夢と共に戦ったドクターであり、仮面ライダーでもある男だ。
そして、今日に至るまで、バグスターウイルスに対抗するワクチンの開発に対し、多くの貢献をした人間でもある。おかげで、本人が変身して戦うことはあまり無くなってしまったものの、しかし戦うための力を使用しなくても良いというのは、世界にとって、平和であるという証拠でもある。
故に、こうして彼は監察医としての仕事に、そして、次々にあらわれる≪新たなバグスターウイルス≫に対処することができるのだ。
「よろしく」
「あ、はい。よろしくお願いします」
と、年齢的にも立場的にも上であるはずの氷川は腰を低くして貴利矢に挨拶をした。
それから、あっ、と仕事を思い出したかのような声を発して照井に向って進言した。
「照井刑事。事件性がないのなら、手続きをしてすぐに、遺族に遺体を引き渡しましょう」
「あぁ……」
「刑事?」
照井は、どこか上の空になっている様子だ。報告書の中に、なにかおかしな部分でも見つけたのだろうか。
「九条先生。この人物の死亡時に面会者がいたと言うのは?」
「あぁ、特別室の前で、三人……いや、その後にもう一人来たから四人だな」
といって、彼はパソコンの映像を巻き戻し、場面は、SAOプレイヤーが死亡した時間の、特別室の前の映像になった。
そこには、男性が一人、そして制服を着た女子学生が二人映っていた。
「学生が二人……か」
「この男性は?」
「俺の知り合い。こいつもドクターで、仮面ライダー。今は、ゲーム病専門の個人病院を持ってる」
「なるほど……」
と言いながら、映像が再生された。映像の中の少女たちは、突然の警告音に驚き、そして曇りガラス状になった特別室の窓に唖然として言葉もない様子で手で口を塞いでいるようだ。
それからしばらくして、また一人の、少女二人と同じ制服を着た少女が現れた。その間も、特別室の中ではSAO被害者が脳を焼かれている。その姿を見せないための曇りガラスの処置だった。
しかし、今回はそれが悪い方に作用してしまった様子だ。
後から来た少女は、必死になって特別室の向こう側に向けて叫んでいる。『憂、憂』と。今回死亡した≪男性≫と同じ部屋で眠りについている少女の名前を。
進ノ介は、貴利矢の制作した報告書に目を通した。そこには、几帳面にも誰がその時、プレイヤーの脂肪現場に立ち会っていたのかが記載されていた。もちろん、エントランスで和や純が記載したようなあの紙を元にしたものだ。
「中野梓、軽音部か。曇りガラス状になっているから中が見えなかったのか……」
「憂って子、この子のお友達だったんですね……」
「だろうな……それも、半狂乱する程の……な」
今回、犠牲となった人物は平沢憂じゃなかった。先も言った通りに、同じ部屋で眠りについていた中年の男性であったのだ。
それが良いことであるのかと聞かれれば、そうでもない。なぜなら、彼女たちはその瞬間、曇りガラス状になってしまったが故にもしかしたら、自分の友達が死んでしまったのではないかという恐怖を感じてしまったのだから。
友人が、仲間が死んでしまう恐怖。絶望。そして虚無感。それは、かつての自分を想起させるのに十分の既視感だった。
「思い過ごしなら、いいんだがな……」
「どう言うことです?」
氷川の言葉にも耳を貸さず、照井は一人その部屋から出ようとした。その刹那、彼は振り向いて氷川に言う。
「人の死を目の当たりにした人間がどうなるか……俺はよく知っている」
「え?」
自分の場合は、≪復讐≫だった。けど、彼女の、いや彼女たちの場合はどうなるのか。照井竜は、一抹の不安を抱えながら部屋から出ていってしまった。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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