SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
歌は、私にとって全てだった。
歌は、私を救ってくれた母親のような、女神のような、そして、天使のような存在だ。
絶望の中にいた私を救ってくれた。泣いているのは、孤独なのは私だけじゃないと、歌が教えてくれた。
私は、そんな歌で誰かのことを救いたい。私が救われたように、今度は私の歌で誰かのことを救いたいと、本気で願うようになった。それは本当の事だ。
そんな時、私は大怪我を負ってこの病院に来て、あの女の子に出会った。
運命だと思った。友達を失って、絶望の淵にいる少女。あの子の事を救えるのは、私しかいない。私が救われたように、今度は、私があの子のことを救って見せる。
そう、私は、歌に出会って以来となる向上心と熱意に溢れていた。
それからは、寝る間も惜しんで彼女のための歌を作った。
病院側が用意してくれた防音設備のある個室の中で、私は必死になって歌詞を書いた。ありったけの音符を、均等に並んだ線の上に書いていった。
人生のどん底にいるあの子を救いたい。その気持ちに嘘偽りなんてものはなかった。
私の歌だったら、絶対に彼女のことを救えるはずだ。そう信じていた。
それなのに。
「どうして……」
彼女は、私の歌を否定した。私の歌が、ただの自己満足なのだと、そんなもので救えるものなんてないと、はっきりと言われてしまった。
初めての経験だった。いや、これまで自分の歌の感想を聞いたことがなかっただけで、もしかしたらあの、ストリートミュージシャンとしてギターを鳴らしていた時もみんな、同じようなことを考えていたのかもしれない。
誰かの心の支えになるはずの音楽が、私という人間が一人からんだおかげで、人生のノイズとして全員の身体に刻まれてしまっていたのか。
なら、私の歌はなんのためにある。
私が歌う意味がどこにある。
私には、歌が必要だ。でも、他の人には私は必要とされていない。
なら、私がこの世界にいる必要がどこにある。どうして、私は生き残った。
なぜ、なぜ、なぜ。
「相変わらず、散らかり放題。少しは片付けたらどうなの?」
と、その時だ。ベッドの上で体育座りをしている彼女の元に一人の女性が現れた。
女性は、梓がその部屋から出ていった後自分がほうりだした紙の束の上を上手に避けながら自分に近づくと言う。
「で、どう? 曲はできたの?」
大門未知子は、鉄仮面のような表情を一切変えることなく聞いた。ついさきほどまで、この病院で別の患者の手術をしていた彼女。そのため、梓と岩沢の一件や、特別室でSAOプレイヤーが一人死亡したということを知らずにここにきたのである。
岩沢は、そんな彼女に言った。
「どうして、私を手術したの?」
「……」
「私の歌じゃ、梓を救うことができなかった。私の歌じゃ、曲なんかじゃ誰も救うことができない……それなのに、どうして私なんかが生き残ったの?」
「……」
「私が生き残ったのも、手術が成功して、後遺症も無かったのも、全部この世界が私の歌を必要としてるから。そう思っていた。でも、梓は、私の歌じゃ誰も救うことができないって、そう……言ったんだ」
俯いたまま、ベッドの上に手を殴り下ろした岩沢は恨み節のこもった言葉で叫ぶ。
「なんで私を治したりなんてしたの!? 私が世界に必要とされてないんだったら、あのまま、死なせてくれればよかったのに。なんで……」
それは、決して拭うことのできない問題。それは、誰も彼もが生き残ることを望んでなんていないということを簡潔に表した人間の真理の一つ。
生き残った先に、辛い現実が待っているかもしれない。
こんなはずじゃ無かった。こんな未来なんて望んでいなかった。あの時、死んでいればよかった。それは、大病を患った人間が手術前に希望を抱くのとはまた真逆の心理。
人は生を望む。それなのに、いざ生き残ったらその生を恨む。それが人間の悲しき運命。人は、恨みがなければ生きていくことができない。他人への恨み、世界への恨み、そして、生きることへの恨み。
でも、それら全てを心の中に内包して人は生きなければならない。残念なことに、それ以外には選択肢はないのだ。
それでも、生きる目的があれば、例えどんな辛い道のりであったとしても人間は歩いていくことができる。岩沢にとってのソレは、歌だった。
その歌が否定された。それも、自分が歌で救いたいと願った人自身に。
それなのに、どうして自分は生きている。なぜ、自分が生き残った。なぜ、他の誰かが代わりに生き残らなかったんだ。
どうして、私は生きながらえてしまった。
こんな思いになるくらいだったら、生き残りたくなんて無かった。あのまま、人生のどん底のままでもいいから死んでしまいたかった。そうすれば、こんな絶望なんて知らずに幸せを持ったまま死ぬことができたのに。どうして。
「それは、私が病人が嫌いだから」
「え?」
大門は、気だるそうにそういった。
「なら、どうして医者なんて……」
「病人が嫌いだから」
「……」
なるほど、少しだけ天邪鬼な考えなのかもしれないが、真理としてはあっているのかもしれない。医者であるのなら、嫌いな病人を治すことができ、病人を一人でも多く救うことができる。
でも。
「そんな勝手な理屈で、私を助けたんですか?」
「えぇ、そうだけど?」
髪をかき分けながら、やや苛立っているかのように大門が言った。
その言葉に、岩沢はまるで諦めたかのように言う。
「なら、私を助けなければよかったのに……」
「……」
「助けられなかったら……私は、私の歌で誰かを救えるって、信じたまま死ぬことができた。希望を持って、死ぬことができた。それなのに……」
「アンタ、それ本気で言ってるの?」
刹那、それまで何物にも興味なさげだった大門の表情が、険しいものに変わった。
「希望を持って死ねる? 馬鹿なこと言わないで。死んだら何もない。何もできない、誰も救えない。それがどれだけ怖いことか、死にかけたあなたならわかるでしょ?」
「あなたに何が分かるの!」
「あたしも! 昔……死にかけたことがある」
「え?」
自分と同じ、死にかけた。それはいったい、どういうことなのか。
「私は、私の時は、怖かった……後腹膜肉腫ステージⅢ。アンタに言ってもわかんないかもしれないけど……かなり難しい病気」
「後腹膜肉腫……」
後腹膜肉腫。その名前の通り、後腹膜と呼ばれる場所に肉腫と呼ばれる癌の一種ができる病気だ。初期症状なんてほとんどなく、気がついた時にはすでに手遅れとなっている場合が多い。故に、ステージⅢと呼ばれる、癌がリンパ節へも湿潤している状態でようやく発見できたのも、無理はないと言える。
彼女の場合、さらにその近くにある腹部大動脈などの大きな動脈に腫瘍が巻きついているという、オペをするのも困難な状態だった。
たとえどれほどの技術を持った外科医であったとしても、自分自身を執刀することはできない。
だから、彼女は持てる限り、自分が知っている限り、考える限りの術式を、最善の策を≪いつものように≫ノートに書き殴り、他の医師に託すしか無かった。
「手術ができない。自分自身の、病気を治すことができない。それが、どれだけ辛い事か、思い出したくもない……でもね、それをのりこえたおかげで、今のあたしがある」
「……」
「だからこそ言うの。死んだ人間には、誰も救えないんだよ」
「死んだ人間には、誰も、救えない……」
もし、あの時、自分が死んでしまっていたら、その後救うことができた多くの病に苦しんでいた人たちが、救われたであろうか。多くの、難しい病気を、他の医師が執刀できていたであろうか。
それは分かるはずもないことだが。けど、彼女がいたからこそ救われた命が必ずあるのだ。彼女が生きて、執刀したからこそ救われた命たち。彼女が、死の恐怖を、病への恐怖を知ったからこそ救うことができた命たち。
「アンタ、自分が世界に必要とされてないって言ったわね。なら、必要とされる人間になりなさい」
「必要とされる人間なんて……私には、歌しかないのに……それ以外に何が……」
「なら、その歌を磨けばいいじゃない」
「え?」
「あたしだって、手術以外に取りえなんてない。だからこそ、その腕を磨いた。どれだけ時間がかかっても、どれだけ困難な道のりでも、それを乗り越えた先に、絶対に救える人間がいるから」
「大門先生……」
困難な道のりでも、時間がかかっても。果たして、その先に自分が目標とする歌があるのか。
分からない。
分からない。でも。
「……」
岩沢は再びギターを取った。その日に向けて。決して、届くと断言できないその先の明日に向けて。
いつかの、明日に向けて。
その大門と岩沢のやりとりを、コッソリと聞いていた人間が二人いた。一人は、鏡飛彩。そして、その隣で聞いているもう一人は、彼女のことを監視していた男性であった。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
-
ヴァルキリーズfeatボーイ
-
プロジェクトSAO
-
アルティメットカオス
-
無への逃走
-
肯定あるいは否定
-
フィクションスターズ
-
〜いろんな著作物から以降はいらない
-
タイトルはそのままでいい