SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
「あれは……」
その日、天草シノは、街中でとある人物を見つけていた。
ここ最近の激務によって疲れ果てていた彼女は、放課後の時間を利用して気分転換にウインドウショッピングに勤しんでいたのだ。
といっても、それぐらいで彼女の心が癒えることはないのは、彼女自身がよく知っていることだ。しかし、それでも、何かでストレスを発散しないと、己の心が壊れてしまう。そう感じていたのだろう。
だから、気晴らしにきたこの都会の街。
少し前までは入ることも許されないような≪閉鎖都市指定≫を出されていたけれど、最近解除されて町並みも少しは昔のにぎやかさを取り戻してきたスクランブル交差点を渡っていた彼女の目に、とある人物の姿が見えた。
「あ、君は」
「お久しぶりです。井戸田さん」
金髪ショートヘアの若い男性。といっても、自分にとってみては十分大人の男性だ。
その髪色から少しだけチャラさというものを感じさせてしまう。だが、その中身はれっきとした真面目人間であるということは、かつて話したそのときから知っていることだ。
「前も、この交差点でしたよね……井戸田さんにスカウトされたのは」
「そう……だったね」
井戸田は、株式会社レイプリンセスという芸能事務所のマネージャーをしている人間。それ故か、街中でめぼしい人間を見つけたときには、声をかけ、スカウトをするというのも彼の仕事の一つでもあるのだ。
以前、シノはこの交差点で彼からスカウトを受けたという過去をもつ。過去、といってもほんの数ヶ月ほど前のことであるのだが。
その後、外で話すのも寒いからと井戸田は近くの喫茶店にシノを誘い込む。一見すれば、ナンパ男に引っ掛けられた女の子という印象を受けてしまうのだろうが、その点は彼の素性を知っているからこそ安心してお店のなかに入ることができた。
そして、それから当たり障りのない会話をして、頼んでいた二人分のホットコーヒーが届いた後のことだった。
「トリプルブッキング……」
「え?」
「大変ですね。飯田シホさんがSAOに閉じ込められて……」
「あ、うん……」
飯田シホ。レイプリンセス所属のアイドルであり、トリプルブッキングのメンバーの中心的な存在だった人物だ。
そして、プロジェクトSAOに参加していたアイドルの一人でもある。
そんな彼女もまた、この事件の犠牲者となり、SAOの中に閉じ込められてしまった。今の所、著名人の死亡ニュースは入っていないことから、彼女もまだゲームオーバーになっていないということは把握している。
しかし、大事な会社の所属アイドルを、仲間を失ったという意味では、現在のシノと井戸田の関係は同じようなものである。
「それに、プロジェクトSAOに参加していたアイドル達も……今ではほとんど干され気味で……」
「あぁ、まぁ……半数がSAOに閉じ込められた上に、残った子達も……精神的にも疲労困憊……衰弱って言ってもおかしくないはず、だから……」
彼女達に罪はない。それは、世間体的にも誰もが分かっていたことだ。しかし、それでもなお彼女達へのバッシングは現在もなお小規模にネット上で発生していた。
本当は、そんなことしてはならないと気がついている者もいるのかもしれない。しかし、どこかに怒りの吐口を見つけなければならない人間の弱い心がもたらした、ある意味酷いゴシップは、彼女達の芸能活動にまで影響を及ぼしていた。
元々、仲間達がデスゲームの世界に閉じ込められたという心労に加えてのバッシングに、プロジェクトに参加していたアイドルたちの事務所は、一時仕事を強制的に休業させて、世間から匿うということで一致。プロジェクトの中心的な存在だった765プロのメンバーで行っていたレギュラー番組も、現在一時的に休んで、再放送ばかりを流しているそうだ。
このままでは、アイドルの中に自殺者が出てもおかしくはない。そう考えて、どの事務所もカウンセラーの獲得に乗り出して、心のクリニック、いわゆる心療内科はどこもかしこも仕事で満載であるらしい。
かくいう自分も、最近はある心療内科に通っていたりする。その心療内科に勤めている看護師、少し前までは自分が話に食いつきそうな話題ばかりを振ってくる人で、少し好感が持てたな、そういえばその看護師の名前は、聖都大学附属病院に勤めている看護師と同じだったな、なんて思い出しながら、彼女は言った。
「……よく、わからなかった」
「え?」
「私が、あなたのスカウトに乗らず、芸能界の道を、モデルを目指さなかった。その理由が……私自身にも、わからなかった」
シノの絞り出すような言葉に、井戸田は何もいうことがなかった。
そう。確かに彼女はかつて井戸田のスカウトを受け、芸能界へと誘われたことがあった。しかし、結局彼女が事務所に入ることはなく、モデルになることも、トリプルブッキングのようにアイドルになることもなく平凡な日常の中に身を置き続ける事になった。
その理由を、彼女自身わかっていなかった。ただ、仲間達の生徒会役員の写真を、友達と共に撮った写真を見ていると、なんだか芸能界に足を踏み入れる気持ちがこれっぽちも沸かなかったのだ。
「でも、今は分かる。私は、あの場所が……仲間や、友達のいる、桜才学園が好きだったのだ。だから、私は……」
断ったのだ。芸能界という誰からも、知られ、愛される世界ではない。
ただ自分の信頼できる仲間達と、一致団結して困難に立ち向かえる世界に、身を置きたかったのだ。
そう、失ってみて初めて気がついた。
「なら、私は一体どうすればいい? 仲間達のいない、空っぽの生徒会室で、私は一体何をすればいいんだ。私は、それが分からないのだ……」
「……」
「疑念はもう一つある!」
まるで、自分の中の不安を吐露するかのように、一方的な会話が続く。井戸田は、それを黙って彼女の目を見続けて聞くばかりだった。
「津田たちが戻ってこないとは私も思っていない。きっと、帰ってくる。わたしが思うより想像しているよりも逞しく、成長して、帰ってくるだろう。けど……」
「……」
「そんな津田たちの中で、私は一体どう立ち回ればいいんだ?」
シノは、膝の上に乗せている拳を再度握り直す。
爪が、皮膚に食い込むこともお構いなしに。
まるで、そうしなければもっと大声で、もっと酷いことを口走ってしまう。そうやって、自分を押さえ込んでいるかのように。
「デスゲームの中で強くなって、友情を育んで、キズナで結ばれた仲間達の中に……安全な外の世界でのほほんと暮らしている私が、その間に入るのは、場違いなんじゃないのか? みなが死ぬ思いをした世界から生還して喜んでいる中で私は一人だけ話に入ることもできずそのうち……話をする機会が無くなっていく。だったら、普通の世界で生きている意味なんてないんじゃないのか? そう、最近毎晩毎晩考えてしまうのだ……」
環境は人を変えてしまう。それが、刺激的であればあるほど、人は大きく変わって、成長し続けていく。
けど、普遍的な世界では人が変わることは難しい。例え、変わりたいと願ったとしても、刺激によって進化した人間達には到底及ばない。
シノは恐れているのだ。成長した仲間達から蚊帳の外にされてしまうのが。
怖いのだ。デスゲームの世界での思い出を語って、それに対して何も答えることのできない自分が。
恐ろしいのだ。デスゲームの中で育まれた友情が、≪恋≫に変わってしまうということが。
薄々ではあるが気がついていた。自分は、津田に、恋をしているのだと。でも、もしSAOの世界で津田が他の誰かと友情を育んだら。そして、その先で恋愛に発展してしまったら。
吊り橋効果というわけではないが、死と隣り合わせとなった世界において成長した愛に、現実で平々凡々と暮らす自分の片思いなんて通じるわけがない。
きっと、津田はSAOの世界で出会ったその誰かに、取られてしまう。いや、そもそも自分のものでもなかったので、取られるという言葉自体がおかしいのかもしれない。
でも、それでも。それでも、だ。
自分は、この世界に一人だけ取り残された時点ですでに全てを失ってしまっていたのだ。
それまで育まれた友情も、彼、彼女達と過ごした青春の日々を。そして。
彼らとともに、あと数ヶ月だけでも過ごすはずだった思い出を。
失ってしまっていたのだ。
「井戸田さん……」
「何かな?」
だから、必然だったのだろう。彼女は、その言葉を発したのは。
「今からでも、間に合いますか?」
「え?」
「芸能界に入る道は、まだ残っていますか?」
彼女は求めていた。孤独を解消してくれる場所。
自分を、受け入れてくれる場所。
成長した彼らから、離れることのできる場所を。
もう一度、自分が一番輝ける場所を。
平凡な人生から、脱却できる場所を。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい