SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
思うに、パーカーと言う物を夜にかぶっている人物には視覚的に怖いものがある。
それは、相手の顔がよく見えないからなのか、それとも、その中から覗く赤い三日月が恐ろしいからなのかは不明だ。
おかしな話だ。もし、パーカーなんてかぶっていなかったらその辺を歩いている人間の顔なんてそんなに気にしないというのに、ただ雨も降っていないというのにパーカーをかぶっていると言うだけでその中を見たいという好奇心に駆られてしまうのだから。
人は、見えない物、更には見えそうで見えないものを見たいという欲求に駆られるのだろう。どこかにそんな文献があるのかもしれないが、今はそんなことをしている場合でも時間でもない。
真夜中、零時の帳を過ぎたころの事、夜の闇になじむかのような黒いパーカーを着た、ある、一人の少女が病院にやってきた。
うら若き乙女が、そんな時間に歩き回って危ないと思う者もいるかもしれない。だが、今回はやはり、上記した通りの人間心理が働いたのか、すれ違った誰もが彼女に対して声をかけることもなく、悪魔が、彼女をそのまま、その病院へと連れてきてしまった。
黒という闇に似た色であることもまた、理由にあるのかもしれない。
とにかく、彼女はそんな風貌をしているが故に、本当だったら声をかけられても、ナンパされても、何なら連れ去られてもおかしくないような美貌を持っているというのに誰も声をかけてくることはなかったのは、ラッキーだったのかもしれない。
いや、実はこっそりと彼女の後を家から追っていた者がいたため、もし声をかけられてどこかに連れていかれようとしても、その人物たちがすぐに助けに入って何事もなかったであろう。
全く持って、危なっかしい女の子だ、そう彼女を追っていた人間たちは思っていた。もしかしたら、獰猛で危険な狼に襲われるかもしれないというのに、度胸があるのか、それとも護身術でも習っているのか、はたまた、もうどうなってもいいと考えているのか。
やっぱり、彼女の精神状態はもう普通じゃなかったのだ。だから、自分の身の危険なんて顧みることなくこんな行動を取るしかなかったのだ。そう思いながら、彼女たちは尾行を続けた。
結果、彼女は何事もなかったかのようについてしまった。自分たちの先輩、そして親友、並びに多くのSAOプレイヤー、患者が入院している聖都大学附属病院のエントランス。その、すぐ横に設置されている病院の電気設備等が置かれているはずの場所への入口。
昼夜問わず空きっぱなしになっている扉の中。もう、引き返すことはできない。この先に入ってしまえば、その時点で自分は、犯罪者。不法侵入者となってしまう。
後戻りは、できない。
齢十七歳になって犯罪者となってしまうのは、誰だってゴメンこうむりたいことだ。でも、もう、うんざりだった。違う、心が、持たなかった。
彼女の、入口へと向かおうとした足が止まる。これが、最後通達だと言わんばかりに、身体が拒否反応を示してくる。胃酸が喉を上がってきて、吐き気を催しそうになる。マグマでも身体に埋め込まれたかのように、身体全体が熱くなって、妙に息遣いが荒っぽくなる。
武者震いなのか、それとも自分がこれからすることが恐ろしいのか、手が振戦し、ワナワナと蠢く手を押さえつけたその時、一粒の雫が顔を流れた。
それが、汗だったのか、それとも涙だったのかは彼女にすら分からない。ただ、喉の奥が痛くなってきたのは分かる。それから、自分が唇を、それこそちぎれんばかりに噛みしめているのも。
ハァ……ハァ……
荒い呼吸を続けながら、彼女は思い返す。自分が感じた絶望を。
ハァ……ハァ……
友が奪われ、先輩が奪われ、親しい者たちが絶望する顔。あまりにも非現実的な世界を目撃し、一言もしゃべらなくなった二人の顔。そして、絶望した自分。
友が死んだかもしれない。そんな絶望に絶叫を抑える事のなかった自分。その想像に、家に帰ってから何度も食べた物をトイレの中に吐き出した自分。
そして、同じく、先輩たちが死ぬ姿を思い浮かべてしまった自分。
いやだ、いやだ、嫌だ。こんな気持ちで生きるなんて、これからも、ずっと、ずっとこんな思いで待ち続けるなんて、できない。できっこない。自分はそんなに、強い人間じゃない。
だったら、どうする?
自分が、その手で≪テヲクダセ≫ばいい。
そんな、恐ろしい言葉が頭の中を駆け巡った。
背筋が凍った。なんてことを考えるんだ。そんなことしたらダメに決まっている。そんな倫理観と欲望との葛藤が、頭の中で行われ、ダメと、イケない。ヤレ、始末しろ。そんな天使と悪魔の戦いのようなものが脳内で繰り広げられる。
そして、天使が負けた。だから、私はここにいる。
そうだ、もうこれ以上待つのに疲れてしまったのだ。彼女は、もうこれ以上待つことができなくなったのだ。
彼女はもう、思い出として昇華したかったのだ。
それが、彼女自身の心をストレスを解放するたった一つの方法だったから。そう、≪思わされていた≫から。
ハァ……
一瞬、目が赤く光った彼女。その数舜の間に、彼女はついに一線を越えてしまった。
病院の中に、入ってしまったのである。もう、後には引き返せない。後は、前に進むのみだった。そう考えると、不思議と身体がフンワリと軽くなった。
ハァ、ハァ、ハァ
少女は走る。まるで、悪魔に魅入られたかのように、ただただ我武者羅にまっすぐ走る。
それまでの葛藤が嘘であるかのように、別人になってしまったかのように走る。走る。走る。
もう迷わない。迷っていられない。迷ってももう遅い。自分には、もう、これしかないのだ。
ハァ、ハァ、ハァ
荒い呼吸を繰り返しながら、彼女は走り続ける。まるで、子豚の家を吹き飛ばそうとする狼のように。
その子豚によって煮られる狼のように、荒い吐息が廊下と思わしき場所に溶けて消える。
不思議と、暗いはずなのに彼女にはその様子がはっきりと分かっていた。今まで夜の暗闇の中にいたから目が慣れたのか、それとも自分にそんな特殊能力が宿ったのか。何にしても、彼女はようやくたどり着いた。
ハァ、ハァ、ハァ……
病院の生命線。すべての電力を管理するブレーカーに。赤くともったパトライトのような光が照らすソレは、まるで死刑執行のためのボタンをレバーに置き換えたかのような印象を彼女に与えた。
とはいえ、実際にはそのボタンすらも見たことがないのであるが。
とにかく、彼女にとってそのレバーこそ、自分が目指してきた存在。すべてを、終わらせる武器。
そのレバーを下げることによってこの病院の全電力が遮断され、一部の電気機器が動かなくなる。
ソレはすなわち、現在病院の電力によって生きながらえていると言ってもいいSAOプレイヤーを殺すことになる。
分かっている。分かっているからこそ彼女はここに来たのだ。
そうだ、下げればいい。ただ一度、そのレバーに手を伸ばして、掴んで、下げれば。それで全部終わるのだ。
自分の苦しみも。
辛さも。
痛みも。
そして、先輩たち、親友の命も。
下げろ、下げろ、下げろ。≪サゲロ≫。
心の底から声が聞こえてくるような気がした。
……
少女は伸ばす。その手を、レバーに向けて。自分の、やや胸元くらいの低いところに設置されているレバーに向けて。
伸ばす。伸ばす。伸ば―――。
……
「そこまでだ」
「え……」
瞬間、赤目の少女はいなくなり、そこにいたのは、少女には似合わないような黒いパーカーをはぎとった黒目黒髪の少女だけとなった。
その場に現れた男性は、まるで彼女に言い聞かせるようにもう一度言った。
「そこまでだ。中野梓」
と。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい