SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
世界は、残酷なまでに時を刻みこむ。
そして、その中で死したもの達の残したものは、いつの日にか綺麗さっぱりと無くなって、誰も思い出せなくなる。
それが、例えどれほどの栄光を手にしたスターであったとしても。
例え、どれだけ小さなバンドの足跡であったとしても。
唯一残っていたその手がかりは、この日、崩れ去ろうとしていた。
「そこまでだ、中野梓」
「え?」
梓に呼びかけたのは、照井竜であった。
その時、ブレーカーの真上にあった赤いランプは、いまだに光を放ち続けていた。が、それもごくわずかな時間だけだった。
徐々に徐々にその血のように真っ赤な光が真っ白く、そして神々しく光を放ち始めていた。
眩いばかりの光に、目が眩んだ梓。手でその光から目を守ったその瞬間だった。
世界が、崩れ去ったのは。
「なに、これ……」
梓は、自分の目が信じられなかった。当然だろう。
先程まで自分がいたのは、赤い非常灯と思わしきものに照らされた、薄暗く、そして狭い通路だったはず。
だというのに、光に目が眩んだその後に見えた物は、その真逆をいく物だったのだったから。
真っ白い部屋。それこそ、白い光が反射して眩しく見えてしまうほどに真っ白な、今の自分の心とは真逆の純白の箱。
大きさは、大体この病院の四人部屋のソレと同じくらいの大きさだろうか。違うと言えば、置かれているもの、と言うよりその部屋に唯一存在するもの。今自分の目の前にある巨大な≪ブレーカー≫を模したレバーが、壁に埋め込まれているくらいだ。
自分は、夢か幻かを見ていたのだろうか。狐にばかされてしまったのだろうか。そう、思えるほどに奇妙な出来事に、梓は身震いと共に、恐ろしさを感じてしまう。
「ホログラムだ」
「っ!」
しかし、その男性の声が一気に彼女の心を現実に引き戻した。
その声の主は、鏡飛彩であった。その隣には看護師の仮野明日那や、昼間に出会った花家大我がいる。
そして、自分が≪入ったであろう≫入り口からは、二人の男性―氷川誠、泊進ノ介―と、一人の女性―泊霧子―の姿。そして―――。
「小夜さん……」
「……」
こちらを、憐れむかのような表情をした、小夜の姿があった。
どうして、こんな深夜にも関わらず、彼女達がいるのだろう。そんな疑問を呈する前に、飛彩が言う。
「お前が先程まで見ていたのは、CARATが提供したホログラム装置で作り出した立体映像だ」
「立体映像……」
≪CARAT―今更だがこれ以降はカラットと記載する―≫は、魔進戦隊キラメイジャーの支援を行う組織であると言うことはすでに論述したことであろうが、そのためにさまざまな機材を開発していた。その中の一つが、梓の目を誤魔化したホログラム装置である。
かつて、魔進戦隊キラメイジャーに選ばれたばかりの小夜もまた、そのホログラム装置によって敵であるヨドン軍の兵士と擬似的に戦わされたことがあり、そのリアリティは折り紙つきであるとも言える。
しかし、どうしてそのようなものがこの病院に設置されているのか。それが、梓には不思議でならない。
「以前別の病院において、自暴自棄となったSAOプレイヤーの家族によって、その電源を抜かれるという事件が発生した」
と言うのは、唇の下にホクロのある長身の男性、泊進ノ介である。
「不幸中の幸いにも、病院関係者が近くにいたため、大事に至ることはありませんでした」
進ノ介の言葉に補足するように、霧子がそう付け加え、一瞬の間を置いてさらに、氷川が言った。
「この部屋は、二度とそのような悲劇を起こさないために作られた部屋なんです」
おかしいと思った読者もいたのかもしれない。どうして、この病院や、他のいくつかの病院は、SAOプレイヤーと、その友人を、家族をガラスという一枚の壁を隔てて隔離していたのかと。
その答えが、上記の事件。SAOに、家族が閉じ込められたことを悲観した人間によって、その電源から抜かれてしまうという、いわゆる殺人未遂というものが発生したのだ。その時には、女性のいう通り死者が出ることはなかった。しかし、偶然が二度、三度と起こるとも限らない。
そのため、現在SAOプレイヤーを受け入れた多くの病院は、プレイヤー自身を守るために、そしてプレイヤーの友人家族を犯罪者にしないために様々な対策を講じていたのだ。
中でも、聖大学附属病院を含めた一部の病院は、プレイヤーの搬送ということが決まった時に急ピッチで隔離部屋を作り、その中にSAOプレイヤーを隔離することに成功した。
その結果、友人家族がプレイヤー本人に触れることができなくなるという少し不本意な事態にもなったが、おかげで≪意図的に≫死んだプレイヤーが一人も出ることが無くなった。
更に、その隔離部屋に入る人間を制限したことによって、SAOプレイヤーの日和見感染等の対策もできるとして、他の多くの病院でもSAOプレイヤーのための隔離部屋を作ろうとしているそうだ。
だが、それでも念には念を、慎重に慎重を喫するに越したことはない。院長の鏡灰馬は飛彩の提案もしっかりと耳に入れ、部屋全体にホログラム装置による投影ができる部屋をこれまた急ピッチで仕上げたのだ。
全ては、SAOプレイヤーを、そしてその友人家族を守るために。
「それじゃ、このブレーカーも……」
「当然偽物だ。と言うより、もし本物のブレーカーを落としたところで、予備電源が働いて被害なんて出なかっただろうな」
「……」
花家大我の言葉に、梓は、項垂れるようにその場に崩れ落ちた。
彼の言う通り、もしも本当に病院全体を司るブレーカーなんてものがあったとしても、大きな病院には必ず災害時の停電に備えての予備電源が備わっている。そもそもSAOプレイヤーが病院に移送されたのも、そういった予防措置が取られているからである。
つまり、元から彼女の、その短絡的とも言える行動は失敗していると言えるのだ。
「梓さん、どうしてこんなことしたの?」
「……」
「もし、それが本物のブレーカーだったら、あなたのお友達が死んでいたかも……それだけじゃない。ICUにいる重篤な患者や他にも機械で管理されている患者さん達が死んじゃうかもしれなかったのに、どうして?」
明日那は、そう梓を非難するかのように疑問をぶつけた。
確かに、実際には誰かを傷つけるという行為は≪不可能≫であった。しかし、彼女がこうして自らの意思でブレーカーを落とそうとしたと言うことは、そういった意図をもっての行動であったと認識することができる。
つまり、自分の仲間を、軽音部の仲間達を、友達の憂を殺す行いを自らの意思でしたと言うことになる。
それだけじゃない。この医療の最先端をいく聖都大学附属病院には数多くの重篤な患者が入院している。人工呼吸器をつけている患者や、その他にも心電図管理をしなければならないような患者も。
もしも彼女のしたことによって停電が発生していれば、そういった機械もたちまちストップし、命の危機に瀕していたことは間違い無いだろう。
彼女は、何十、何百人もの命を奪う可能性があった。猟奇殺人事件の犯人も真っ青な事件となる可能性もあった。それを知っていてなお、どうして彼女はブレーカーを降ろそうとしたのか。
膝をつき、俯いたままの梓は、その疑問から数秒後、絞り出したような声で言った。
「もう、耐えられないんです……」
「え……」
梓の目には、涙が浮かんでいた。果たして、それは自分が行った愚かな行いに対しての贖罪なのか、それとも、自分が決意して行った行為が無駄なものであったと知ったことによる落胆なのか。
しかし、彼女はそれでも吐露し始める。自分自身がその凶行に走った原因を。
「昼間、人が死ぬ姿を見ました。曇りガラスでしたけど、その姿は苦しそうで、悶えているみたいで……それを見た瞬間、私、怖くなったんです。先輩達が、憂が、そんな醜い姿を晒して死んでしまうかもしれないって、考えると、怖くて、たまらなくなって、それで……」
「矛盾しているな」
「ッ!」
と、赤いレーザージャケットを着た男性が梓の懺悔を一刀両断した。
その言葉を聞いた梓は、ハッとした表情を浮かべると呆然としたままその後の言葉を聞くことになる。
「もし今回の出来事で君の友人が死んでしまえば。今日の男のように、それこそ君が想像したように醜い姿を晒すハメになる」
「そ、それは……」
「お前は疲れたんだ。待ち続けることに。何日、何ヶ月、何年後に目覚めるか分からない友を待ち続けることに」
「うッ……」
「照井警視!」
泊は、照井の言葉を静止しようとした。しかし、彼は止まることはない。
「お前のやろうとしたことは、死のゲームの中でも必死で生きようとしている仲間達の思いを愚弄する行為だ。それを、決して許しておくわけにはいかない……」
「っ……」
「中野梓。お前を、逮捕する」
と言って、照井は懐から手錠を取り出した。
梓は、その姿を涙に濡れる眼で朧げに見るばかり。
わかっていた、自分のこの行為があまりにも自分勝手であると言うこと。
SAOの世界で頑張って生きようとしている先輩達や憂を、信用していないとも言える行為であると。
いつか絶対に帰ってくる。そう信じていたはずなのに、そのいつかを信じ切ることのできなかった自分の弱さ。
ナーヴギアによって頭を焼かれて、無惨な姿を晒すかもしれない彼女達の姿が頭によぎった。その瞬間、彼女は壊れてしまっていたのだ。
おそらく、というよりも十中八九自分はこれから殺人未遂で刑務所、いや年齢から考えて少年院に入れられることになるだろう。
そうなれば、彼女達が例え生きて帰ってきたとしても、自分はそのすぐそばにはいないのかもしれない。
もし、彼女達が死んだとしても、その遺体を見ることもなく荼毘に付されてしまう。
そして、こんなことをしてしまったのだ。たとえ生きて帰ってきたとしても、二度と彼女達の顔を拝むこともできないだろう。
つまり、自分はもう二度とその顔を見ることができないのだ。彼女達の、その顔を。
生きていたとしても。
死んでいたとしても。
彼女達の笑顔を、見ることができない。
自分が好きだった、あの空間が、戻ってくることは二度とない。
「いや……」
わかっていたはずなのに、数ヶ月前からわかっていたことなのに、それなのにーーー。
「いやっ……」
どうして、どうして今になって、こんなに、こんなにも。
「いやァァァァァ!!!」
頭ガ、痛イノダロウ。
刹那、彼女の身体にノイズが走った。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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ヴァルキリーズfeatボーイ
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プロジェクトSAO
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アルティメットカオス
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無への逃走
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肯定あるいは否定
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フィクションスターズ
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい