SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ外伝 第二章 第32話

「音楽療法?」

 

 神原名医紹介所。ドクターXこと大門未知子を含めた、フリーの医療関係者が所属している事務所である。

 元々は、美容室があった雑居ビルの中に事務所があったのだが、国内での大門未知子の活動が制限された結果一時閉鎖。その後、日本で再び手術ができる様になってからは、空いていた元銭湯を借りて事務所を開設。以来、大門未知子を含めた神原名医紹介所所属のフリーランスの医療関係者の拠点となっている。

 しかし、その日神原名医紹介所にいた半分の人間は、そもそもフリーランスの人間でもないし、一人に至っては医師でもなかった。

 その人物こそ、先ほど疑問符を発しながら麻雀牌を雀卓の上に置いた泊進ノ介である。

 

「私、仮面ライダーではないので」

 

 と、言いながら大門は不満気に牌を置いた。この様子、どうやら今回の執刀に本腰を入れて関われないことがよほど不満そうだ、と泊は考える。

 確か、事前に聞いていた情報によると、彼女はどんなことよりも手術が好きであるそう。履歴書にも、≪特技 手術≫≪趣味 手術≫と書くくらいに手術を人生の糧にしているらしい。

 そんな人間が、目の前で苦しんでいた少女の手術に関われない。それが、よほど悔しいのだろう。

 

「しょうがないでしょ、未知子はバグスターウイルス感染症に抗体つかなかったんだから」

「抗体?」

 

 そう言ったのは、この神原名医紹介所の所長である神原晶。情報によると、彼もまた昔は腕のいい医者であったそうだが、キューバで手術をした患者がマフィアの人間であり、そのことが原因で現地の警察に逮捕され、医師免許を剥奪されてしまったそうだ。

 その後、この事務所を設立。以来、大門未知子をはじめとしたフリーランスの医療従事者のバックアップをしているのだとか。

 それにしても、免疫とは一体なんのことだろうか。

 その時、泊から見て向かい側に座っていた男性が言った。

 

「ゲーマドライバーを使用する手術を行うためには、バグスターウイルスに対して抗体を持たなければならないんだ。私の息子である飛彩や、その他のドクターも、永夢君をのぞいてその抗体を作るための微量のウイルスを注入する適合手術を受けているのだよ」

 

 聖都大学附属病院、院長の鏡灰馬が、そう言いながら一つの牌を置いた。

 ゲーマドライバー、それはバグスターに対するワクチンが作られる前までは唯一のバグスターウイルスに対抗するための医療器具であった。しかし、普通の人間がそれを使用しようとしても、バグスターウイルスに体を犯され、ゲーム病に感染。つまり、ミイラ取りがミイラになるという酷い状況に陥る恐れがある。

 それを阻止するために、ゲーマドライバーの使用者はあらかじめ、微量のバグスターウイルスを身体の中に入れて慣らしていく適合手術といわれるものをしていく必要があるのだ。簡単にいえば、予防接種のようなものだ。

 現在ゲーマドライバーを使用して変身する仮面ライダーの中で、バグスターウイルスの適合手術をせずに変身しているのは、元々バグスターであるパラドやポッピー、そしてパラドに感染していた宝生永夢だけである。

 

「それじゃ、その適合手術を大門先生も?」

「そ。でも、未知子にバグスターウイルスは適合しなかった。だから、未知子じゃゲーム病の執刀はできないの」

 

 と、言いながら神原は牌を雀卓の上に置く。

 それにしても、なんで自分たちは麻雀をしながら会話をしているのだろうかと、泊は不思議に思った。

 最初は、CRのドクターでもない普通の医師である大門未知子が中野梓のゲーム病治療に協力を志願したと聞き、仮面ライダーでもない彼女が一体どうやってゲーム病に立ち向かうつもりなのかと、現在彼女が契約中である病院の院長である灰馬とその真意を聞くためにこの事務所にやってきた。

 しかし、入った途端に面子が足りないからといって麻雀に誘われて、あれよあれよという間に話が進んでいき、事務所の中に入って数時間。ようやくその真意を聞き出す足掛かりを手にした。

 

「幸い発病はしなかったけど、一歩間違えたら大惨事だったわよねぇ、未知子」

「……」

 

 どうやら、彼女の中に入ったバグスターウイルスはそのまま発病することなく、彼女の体の中を今もなお彷徨い続けているという。結果として、彼女はストレスとはある意味無縁の生活を送っていたが故にバグスターが出現するということはなく、またワクチンの利用によって残されていたバグスターウイルスもほとんどなくなり、ゲーム病発症の可能性はゼロに等しいらしい。

 しかし、抗体ができなかったことにより、彼女にはゲーマドライバーを使用する資格がないと判断されて、ゲーム病への介入が認められなかったのだ。

 とはいえ、そもそもゲーマドライバーを使用したバグスターウイルス切除術が許可されているドクターというのは、あまり多くないのが現状なので、多くのドクターがワクチンができるまで歯痒い思いをしていたのは確かなのだが。

 

「それで、音楽療法とはどういうことですか? 大門先生?」

 

 と、灰馬が言う。大門は、やはり、やや不機嫌そうな顔を崩さないままに言った。

 

「バグスターウイルス感染症は、患者が強いストレスを与えられた結果、体内に存在しているバグスターウイルスが増殖して、発病する。そして、その増殖は発病した後にも強いストレスでなお増殖して、最後にはその身体を消滅させるに至る」

「その通り」

「なら、その患者からストレスを無くせば、ウイルスの増殖を抑えることができるし、なんならウイルス自体を弱体化することができる」

「弱体化?」

「確かに、そういったケースもなくはないが……」

「だから、音楽療法なの」

 

 と言って、大門は灰馬にその顔を引っ付けんが勢いで迫った。灰馬は、彼女の迫力につい、座りながらにしてやや腰が引けている様に見受けられる。

 

「音楽療法には、音楽のもっているリラクゼーション効果を利用して患者のストレスを下げる効果を目的としたものもある。バグスターウイルス感染症に対して執刀ができないと知った後から、未知子はそれでも、どうすればバグスターウイルスに立ち向かえるのか、考えていたのよね」

「……」

 

 自分には、バグスターウイルスに苦しんでいる患者を直接助けることはできない。でも、それでもなにか、別の方法で救う手立てがあるはずだ。そう考えた彼女は、バグスターウイルスがストレスに強い反応を示すことに注目し、それを抑えるための方法としての音楽療法の利用を考えていた。

 幸か不幸か、今まで彼女の目の前でバグスターウイルス感染症に苦しめられらた患者は一人もいなかった。故に、彼女の考えを実践に移すことは一切なかった。

 だが、ついに、自分のすぐ近くでバグスターウイルスに感染した人間が出た。それも、ワクチンに抗体を持ち、ゲーマドライバーを使用した仮面ライダーたちですらも歯が立たないほど強力で、凶悪なバグスターに変貌して。

 このままでは患者が消滅してしまうのも時間の問題だ。そう考えた彼女は、ついに今回、この音楽療法を利用した彼女なりの≪執刀≫を決意したのである。

 

「しかしだねぇ、音楽でバグスターウイルスが抑えられたなんて事例今まで一度も……」

 

 と、苦言を呈する灰馬。バグスターウイルス感染症の第一線であるCRの責任者でもある彼としても、仮面ライダーの力やワクチンの他にもバグスターに対抗する手段ができるのは願ったり叶ったりだ。

 だが、だからといってぶっつけ本番で、感染者である中野梓を実験台にするような真似を、真顔で認可することなんてできはしなかった。

 しかし、ここで泊が助け舟を出す。

 

「ですが、CRのドクターが歯が立たなかったのは確かです。ここはダメ元でも方法があるのならやってみたほうがいいんじゃないでしょうか?」

「しかしだねぇ……」

「それで大門先生」

 

 泊はまだ何か言いたげの灰馬の話を途切らせて未知子に質問する。

 

「一体、どんな曲を≪かける≫つもりなんですか?」

 

 と。

 この時、泊はある勘違いをしていた。それは、大門にもすぐにわかることだった。大門は、ため息をつきながら言う。

 

「≪かける≫んじゃなくて、≪聴かせる≫の」

「え?」

 

 泊はこの時、大門未知子がリラクゼーションミュージックの類のCDを用いるものとばかり思っていた。しかし、そうではなかったのだ。大門は続けて言う。

 

「データに記録された音楽じゃ無理。生の音源を使わないと、バグスターウイルスは抑えられない」

「その根拠は?」

「……」

 

 大門は一度あさっての方向を向いてから、カバンの中から一台のスマホを取り出し、操作をし始めた。

 そして、動画サイトを開き、それを雀卓のど真ん中に置く。

 

「彼女は?」

 

 そこには、一人の赤髪の女の子がシャッターがしまった店の目の前で歌う姿が映し出されていた。どうやら、その動画は彼女自身が撮影した動画ではなく、通行人が撮影したものを動画サイトにアップしたものであるようだ。

 

「岩沢雅美。聖都大学附属病院に入院中の患者」

「え?」

 

 この時、泊が初めて知った岩沢雅美という女の子の名前。しかし、この物語のキーマンと言っても過言ではない女の子の名前。そして―――。

 

「この子の音楽は、バグスターウイルスに対抗することができる」

 

 大門未知子と、同じ匂いをもった女性。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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