SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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メインシナリオ外伝 第二章 第33話

 泊進ノ介は、基本的に車は自分が運転するタイプの人間だ。それは、他の人間の運転技術を下に見ているわけではない。ただ、彼自身が運転するのが好きであるのだけなのだ。

 きっと、車を運転していると。かつて、仮面ライダーとして戦っていた時のことを思い出せるからなのだろうと、妻の霧子は考えている。

 しかして、そんな彼が霧子にハンドルを譲ると言うのはかなり珍しいことであると言える。ソレもこれも、昨晩の一件が関係しているといえよう。

 進ノ介は、神原名医紹介所で大門未知子の話を聞いたのち、なぜか一徹麻雀に付き合わされて徹夜してしまったのだ。故に、今の彼は寝不足。そんな状態で車の運転なんて危険極まりない故に、迎えにきてもらった霧子に運転を任せて、自身は助手席である動画をみていた。

 

「岩沢雅美……か」

 

 それは、大門未知子が自分に見せた、とある動画サイトにアップロードされていた演奏動画だった。といっても、サイトに乗せたのは、シャッターがおりた店の前でギターの弾き語りをしている彼女自身ではないのは確か。

 これは、おそらく隠し撮りというのだろう。通行人が興味をもって動画を撮って、それを勝手に彼女の許可も得ずにアップロードした。それがことの真相だ。

 現に動画はかなり遠めで、ときおり入る通行人によってその顔や演奏が妨げられており、とても綺麗に見れるものじゃなかった。

 けど、音楽に疎い進ノ介にもわかった。その動画の歌声だけで、彼女がどれだけ歌に命を燃やしているのかが。

 魂を乗せた歌。必死で練習して、必死になってギターを奏でるその姿は、格好いいと、俗には言えるのかもしれない。けど、彼には、その姿とても哀しく見えた。きっとそれが、今回の事件の発端の一つ。

 

「何回同じ動画を見るつもりなんですか?」

「いや……」

 

 と、運転中の霧子から質問を投げつけられた進ノ介は、少しだけ考えた後、自分の中に浮かんだ疑問を話す事にした。

 

「少し、引っかかることがある」

「引っかかること、ですか?」

「あぁ……」

 

 それは、大門未知子が言っていた、音楽セラピーのこと。たしかに、音楽には人のストレスを緩和させる効果があるし、彼女のその美声は誰かの心を救えると確信が持てるくらいいいものだと思う。けど。

 

「なんで、彼女の歌をきいたその夜に、バグスターウイルスが活性化したんだ?」

「なんでって……それは、親友が死んだと思ったから、それに……照井警視からきつい言葉を投げられたからじゃないですか?」

 

 確かに、霧子の言う言葉にも一理ある。それだけのストレス要因が加われば、どれほど屈強な人間の心も折れかねない。まだ高校生という精神が発展途上にある子供の梓ならなおさらだ。しかし、本当にそれだけだろうか。

 

「それに、中野さんが感染したバグスターウイルスは、ワクチン拮抗型の新種のバグスターだと言いますし、ソレも関係しているのでは?」

「新種のバグスター……」

 

 考えてみればそれもおかしな話だ。バグスターウイルスに詳しい九条貴利矢によると、確かにこれまで患者の体内から見つかったバグスターウイルスの中に、ワクチンに対抗した変異種が確認されたとの報告はあった。しかし、ソレらのバグスターウイルスは決して活性化したことはなく、バグスターとして実体を持って出現したのは今回が初めてのケースであるのだとか。

 

「これまで何人もの人間が変異種のバグスターウイルスに感染しても、不活性のままで進行していた。でも、今回に限って彼女の体内にあったバグスターは、アナザーポッピーは活性化した。これに、何か意味があるんじゃないか?」

「意味、ですか?」

 

 これは、彼の刑事としてのただの直感に過ぎない。しかし、その直感がこれまで何度も事件解決に役立ってきたことを彼は、そして彼の妻である霧子は知っている。

 だから、彼はこの直感にかけてみる事にした。その直感が、意味あるもの、今回の事件の打開策の一つになることを信じて。

 

 

「それで、何かわかったのかしら? 未知子」

 

 と、言いながらコーヒーカップにお湯と目覚めのコーヒーを淹れるのは、神原晶である。と言っても、彼も彼女も一睡もしていないのに目覚めの、と言うのは少し語弊があるのかもしれないが。

 

「だめ、これじゃ100%成功するなんて言えない……」

 

 と、言葉だけ聞けば女性がしゃべっているとも思えるような声掛けを行った神原の目線の先には、自身のノートと睨めっこ状態の大門の姿があった。

 ペンを持ち、ノートに向かうその姿、まるで大学生のような姿である。だが、その姿こそか彼女が失敗しないと言われる所以。そのノートこそが、彼女がこれまで何千冊も書いてきた手術のシミュレーションを書き記してきたノート。その最も新しいものである。

 

「あの子の音楽が、中野梓に効かなかったの、まだ気にしてるの?」

 

 確かに、彼女もまた悩んでいた。岩沢雅美による音楽セラピーの効果が、中野梓に効かなかったこと。いや、むしろストレス要因となってしまった可能性を孕んでいると言うことを。

 ならば、彼女の考えた治療法が失敗だったのかと、聞かれれば実はそうではない。そもそも、彼女の考えは少し前まで試す方法も全くなく、机上の空論も等しいものだった。それに、いくら手術が好きな大門であったとしても、患者を実験台にするような女性ではない、

 ソレらのことが原因で、これまで音楽療法によるバグスター切除術、という空想を実践することはなかったのだ。しかし、今回期せずして自分が考えたことと同じことを考えている人間がいた。

 それが、岩沢雅美本人。彼女が、中野梓を救いたい。そう考え、行動に移した。まるで、大門の考えを実践するかのように。もちろん、中野がバグスターウイルスに感染してたなんて、夢にも思わなかったが。

 しかし、結果は彼女が考えていた通りにならなかった。岩沢雅美の歌は、中野梓を救うどころか、彼女のストレスの原因となり、バグスターウイルスを活性化させるに至った。

 

「その子の歌、バグスターウイルスには確か効果があったんでしょ?」

「……そっちの方はハッチにもデータを送って確認した。間違いはない」

「そっちの方?」

 

 と言いながら、神原は彼女のノートを改めて見て見た。そして、ゆっくりと頷く。なるほど、どうやら、自分は大きな勘違いをしていたようだ、と。

 ここで彼女が言ったハッチ、というのは、蜂須賀隆太郎と言う男性の事だ。蜂須賀は、かつて彼女が契約を結んでいた東帝大学病院の病院長代理兼総合内科部長であった男。

 他人よりも感染症に関して大きな警戒心を持っており、現在も大きな爪痕を残している≪アレ≫が大流行し、パンデミックを起こした際にも第一線で陣頭指揮、また日本中にその脅威を伝えた男である。

 そんな彼は、現在とある国の感染研究所に就職し、日夜感染症に苦しむ人たちのために研究を続けているのだ。

 そんな感染症に対して一際力を入れている彼が、バグスターウイルス≪感染症≫を放っておくわけもなく、その別の国の研究機関に移動した後も、バグスターウイルスに対抗するワクチン―貴利矢がすでに作っていたが、いつの日にはそれに拮抗する変異種が出ることを予測していた―の制作に取り掛かっていた。

 大門は、今回動画で手に入れた岩沢雅美の歌のデータ、そして≪自分自身≫の採血データを密かに蜂須賀に送っていた。どうして自分の採血データなんてものも同封したのか。それは当然、彼女の体内にもバグスターウイルスが存在しているからだ。

 血液検査の結果の中には、そのバグスターウイルスが体の中にどの程度含まれているのか、という結果も示されており、それも同封することで、岩沢雅美の歌が本当にバグスターウイルスに対して効果があるのか確かめた。

 結果は、大門の思った通り、彼女の歌にはバグスターウイルスを弱める作用があることが判明した。これには、蜂須賀も驚きを隠せなかった様子で、電話口での興奮具合は今思い出しても笑みが溢れてしまうほどだ。

 そんな感染症対策のスペシャリストにもお墨付きをもらったはずの岩沢雅美の歌が、中野梓には効果がなかった。その事実に、彼女は困惑までは行かないまでも疑問を持っていた。

 結果、結論なんてでやしない。その理由も明らかだ。

 そもそも、なんで彼女の歌がバグスターウイルス感染症に対して有効であるのか。その理由がはっきりしていないのだ。

 確かに、彼女の歌を聞く前と、聞いた後では採血結果の中にあるバグスターウイルスの総量は減っていた。しかし、それじゃ彼女の歌の何が作用したのか、と聞かれればわからないとした言いようがないのだ。

 周波数か、あるいは音程か、それともギターを一緒に弾いた事による効果なのか。全くもって不明のまま昨日という日を迎え、そして結果。岩沢雅美は中野梓のことを救えなかった。

 バグスターウイルス感染症。その今まで自分が切ったこともない病気に対して、彼女は頭を抱えるしかなかったのだ。

 

「未知子。そんなに悩んでも仕方ないじゃない」

「晶さん……」

 

 そういうと、晶は彼女の目の前にコーヒーを差し出すと。長細くて黒いケースを背負って言った。

 

「音楽だってそうよ」

「え?」

「音楽は楽しむものよ。誰かを救いたいとか、自分の思いをぶちまけたいとか、そんな邪な考えを持ったまま演奏しても、誰の心も救うことはできないわ」

「楽しむもの……」

「それじゃ、私も楽しんできます」

 

 ただ、そう言い残して神原は紹介所の外に出て行った。最近、よくあのケースを持って出かけているのだが、果たしてどこでなにをしているのだろうか。

 それはともかく、一人残される事になった大門は、再びノートに向き合う事にした。中野梓を救うために、いや、それ以上に≪岩沢雅美≫を救うために。そして、これ以上自分の目の前で苦しむ患者を見ないように。

 

『音楽は楽しむものよ』

 

 その言葉が、耳から離れないでいた。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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