SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO 作:牢吏川波実
ここに、一人の女の子がいた。
腕を降って、足を極限まで回し。汗だくになり、重いその身体を必死で動かす女の子。
中野梓が向かっていたのは、自分の、いや自分たちの居場所。
「はぁ、はぁ、はぁ」
昇っても昇っても辿りつかないあの音楽準備室。階段のような物を昇っているのは間違いないのに、あたりは真っ暗闇で、何も見えない。
それでも、彼女には分かっていた。今、自分が向かっている先に、必ず、あの音楽準備室が、軽音部の部室があるのだと。
「はぁ、はぁ、はぁ」
そこに行けば、全てが報われる。今の自分の苦労も、疲労も、全部。解決しくれる人たちがいる。その場所に。
どれだけ辛くても、悲しくても、あの人たちに会えさえすれば何もかも吹き飛んでしまう。吹き飛ばしてくれる。そんな、一緒にいるだけでとても楽しいと思える先輩たち。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
もう、これで何段階段を昇ったのか。何階上に昇ったのか。そして、何度挫けそうになったのか。でも、その苦労も全て報われる。その時が来た。
「ここだ……」
桜が丘高校、音楽準備室。彼女の目の前には、両開きで、木製の扉に曇りガラスが取り付けられた部屋の入り口があった。
自分は、その扉をいままで何度開けたことか。もう、数え切れるほどではない。
時にワクワクしながら、時に凹みながら、時に迷いながら、時にどきどきしながら、そうやっていつも通っていたその部屋に、彼女は再び足を踏み入れる。
「唯先輩……澪先輩……ムギ先輩……律先輩……」
ギィィィー
彼女は、聞いたことのない恐ろしい音に戦慄が走った。なんだ、この音。この扉、こんなに建て付けが悪かったか。こんなに、錆び付いたかのような音がしていたか。
梓は、なにやら悪寒のようなものを覚えながらしかし、ゆっくりと扉を開けた。
その先にいる。きっと、いつも通りお茶会をしているはずの先輩たちの姿を見るために。
そして、自分をお茶会に誘ってくれるはずの先輩たちの姿を探しに。
「先ぱ……」
刹那、梓は凍りついたように立ち止まってしまった。
その部屋に、暖かさなんてものはなかった。
やっぱり、真っ暗闇で、どこかからか冷気が襲いかかる。そんな世界。
ここは、本当にあの音楽準備室なのか。自分たちの部室なのか。
梓は、ゆったりとした歩幅で部屋の中に入った。その瞬間、背後で扉がこれまた奇妙な音を立てて閉じられ、消えた。
「ッ……」
梓は再び、真っ暗闇の世界に閉じ込められてしまった。
ここはどこ、自分は、一体どうなってしまったの。そんな恐怖に打ちのめされそうになった彼女。
しかし、泣きそうだった彼女はあるものを見つけると、まるでそんな物が幻想であったかのようにぱぁっと輝くような笑顔になった。
「ギー太……」
彼女が見つけたのは、スポットライトに照らされるかのように光り輝いた茶色のギター。そう、唯の使っていたギターだ。
その時、梓は直感的に感じ取った。
いる。彼女は、唯先輩はこの真っ暗闇のどこかに必ずいる。
だって、あの先輩が、自分の大切にしているギー太をおいてどこかに行くはずがないもの。
「唯先輩、どこにいるですか! 唯先輩!!」
梓は探した。ギー太に当たる光を頼りに、その近くを一所懸命に探した。
探して、探して、探して。
その時だった。なにかが、コツン、と足に当たる感覚がした。
なんだろう、何か重い物のようだ。梓はゆっくりと足下を見た。
そして、後悔した。
「え……」
彼女が蹴ついてしまったもの。それは、
棺。
だった。
木製の、長方形に形作られた棺。みると、上の方には小さな両開きの扉があるようだ。ちょうど、
≪人一人の顔≫が見れるくらいの。
それが、≪ギー太≫の前に、置かれていたのだ。
「いや、いや、いや……」
それが指し示す真実。その棺の中にいる人物。梓は当然、心当たりがあった。そして、その瞬間に頭に浮かんだその人物の絵を消し去った。
うそだ、嘘だ。ウソだ。こんなの幻だ。現実じゃない。そう、彼女は言い聞かせる。
そう、幻だ。これは、彼女の罪悪感が見せるひどい幻。
だが彼女の幻は、彼女がそれであると気がついてもなお消えることはない。
いや、むしろひどくなる一方だった。
今度は、なかなかめったに見ない珍しい左利き専用のベースがスポットライトに照らされた。
その次にキーボード。
その次はドラムセット。
そして、それぞれの前にはまるで計っているかのように棺が置かれていて。
「嫌ぁ!」
もう、たくさんだ。はやく、現実に戻りたい。こんな幻想、もう見たくない。そう思った梓は、しかし、自分自身の罪から逃れることなんて決してできない。
何かが、弾ける音がした。
「え……」
見ると、さきほどまで自分がいた場所、つまり自分の後方にもう一つの棺が置かれているのが見えた。でも、その棺は他の四つとは違っているところがあった。
蓋が、開いているのである。
見たくない。そう思っていたはずの梓はしかし、好奇心の成せる技であるのか、まるで導かれるかのようにその棺に近づいた。
そして、その中にいたのは―――。
「憂……!?」
顔中血だらけで、目が完全に見開いた状態の、自分の親友の姿だった。
吐き気を催しそうになる梓。けど、彼女にはそんな、自分自身を慰める時間なんて与えられるはずがなかった。
『どうして私たちを殺したの?』
「ッ!」
棺の中にあったはずの名を失いし肉塊は、ゆっくりと起き上がると梓の目を見るとそう言った。
「違う、違うの! アレは!!」
『何が違うの? 梓ちゃん』
「ッ!」
と言って、現れたのは、これまた顔中血だらけ、頭の割れた部分からは中にある脳が見えるほどに異形の存在のようになってしまったムギだった。
『梓が、私たちを殺したんだ』
『痛いよ、痛いよ、梓……』
「違います。私は、私はただ……」
何が違う。何も違わない。自分は、彼女たちを確実に≪殺そうとした≫のだ。それの何が違うと言うのだ。
ただ、怖かったから。先輩たちが、親友が死ぬ時が来るのを、帰ってくるのを待っているのが辛かったから。待ちきれなかったから。限界だったから。
だから、自分はあんなことをした。
あんな、取り返しのつかないことを。
自分が、自らの意思で、先輩たちを、親友を。
『あずにゃん……』
「唯……先輩」
梓は、まるで助けを求めるかのように彼女の名前を呼んだ。自分に、そんな資格はないと、知っていてなお、それでも彼女は愛する先輩の名前を呼んだ。
けど、そんな彼女にかけられた言葉は。
『人殺し』
今の、自分の状況を真正面から表した、痛烈な一言だった。
「いやァァァァァァァァ!!!!!!!!」
罪人の叫び声が、闇の中にこだまする。決して、誰にも届かない、悲痛な叫び声が。
そんな権限、彼女は持ち合わせていないと言うのに。
「異常警報!?」
「何があった!」
「血圧、脈拍、呼吸数。全部のバイタルが急激に上がっている!」
「ストレスを感じて、症状が悪化しているのか!?」
一方、現実の世界、CRにいる明日那と飛彩は突然発生した梓の変化の対応に追われていた。
患者、中野梓は昨晩のあの一件以来一度も起きることなく眠り続けていた。だと言うのに、まるで急激なストレス反応をうけたときのようなバイタルの異常な上昇。
これは、おそらく、夢の中で彼女のストレスになりうることが起こったのだろう。考えられるのは、悪夢だろうか。
飛彩自身、かつて幾度となく夢の世界で自分にとっては信じられないようなこと、信じたくないような悪夢を目の当たりにして汗だくで起きたことがある。
きっと、中野梓もまた、同じように夢の世界で信じたくないような世界を垣間見ているのだろう。
「どうしよう、飛彩!」
「……」
どうするのか。そう聞かれて考える飛彩はしかし、彼女も予想していた答えを出すしかなかった。
「バグスターを切除する。それ以外に、彼女を救う方法は……ない」
氷枕などを使って体温を下げたり、点滴などを用いることで患者自身を鎮静化させることはできるかもしれない。しかし、たとえどのような対処をしたところで、大元であるバグスターを彼女から切除しないことには、その全ての症状が治ることはないのだ。
だから、一刻も早くバグスターを倒すしかないのだが。
「でも、そのバグスターがどこにいるのかまるで見当もつかない……」
「その通りだ。衛生省や警察の情報網を持ってしても、いまだにバグスターが生み出したウイルス以外の情報はない……」
それは、つい一時間ほど前にあった事件。ドラマ撮影現場で発生したバグスターウイルス襲撃事件のことだ。
その時にも、大元であるバグスターは現れることなく、バグスターウイルスがその場でひたすらに暴れまくった末に姿をくらました。
依然として、バグスター本体の消息は掴めないままだ。
いや、もし掴めたとして、自分たちにあのバグスターを切除できるのか。そんな不安が、彼の中によぎる。
「俺に切れない物はない……だが……」
自分に、自分たちにあのバグスターを倒すことが、切除することができるだろうか。昨晩は全くと言っていいほど自分たちの攻撃も受け付けなかった、あのバグスターを。
今ここに、永夢がいれば、一体なんて言っただろうか。
大丈夫です。飛彩先生なら絶対に患者を救うことができます。
と、言ったのだろうか。それか、彼自身が彼女を救うために奔走するか。いや、彼の性格からしたら後者であろう。
そして、彼の持つ力だったら、絶対に梓を救うことができた。それは、バグスターと何年にもわたって戦い続けている自分がいうのだから間違いないこと。
しかし、今彼はいない。だから、自分たちがなんとかしなければならないのだ。
自分たちが、彼女のことを救わなければ。
「ねぇ、飛彩。もし、バグスターが見つからなかったら……梓ちゃん、どれくらいもつの?」
それは、ある意味で看護師らしい質問だったのかもしれない。患者と真摯に、そして医師よりも長く向き合う看護師にとって聞くべきだった、自分の職務を全うする看護師としての質問。
しかし。
「明日まで持つかどうか……下手をすれば、今夜中にも……」
「そんな……」
明日那はとんでもないミスを、インシデントを犯してしまったのである。
患者の目の前で、患者の病気の予後を聞くという、とてつもなく大きなミスを。
中野梓が、目覚めていると言うことも知らずに、聞いてしまったのであった。
タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。
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肯定あるいは否定
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〜いろんな著作物から以降はいらない
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タイトルはそのままでいい