SAO/UNLIMITED プロジェクトSAO   作:牢吏川波実

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 彼女達は確かにこの世界からはいなくなったかもしれない。
 だが、その意思は残り続ける。


メインシナリオ外伝 第二章 第41話

 警視庁内の食堂。そこは、お昼時になれば庁中の半数近い職員が昼飯を食べにくるためにかなり混雑する場所であった。

 しかし、事この時間、ピークタイムの昼間を過ぎてしまえば、食堂は閉められて、ほとんど暇を持て余した職員たちの休憩スペースへと早替わりする。

 もっとも、今この時期に暇をもてあましている職員なんてそうはいないのだが。

 全員が全員、茅場晶彦の捜索や、他の多くの事件捜査に駆り出され、警視庁の中はほとんどもぬけのからと言っても過言ではないくらいに、ガランとしていた。

 そのため、いるとしたら。

 

「……」

 

 のんびりと動画を眺めている、昨日徹夜、先程まで仮眠室で休憩をしていた泊進ノ介くらいなものだった。傍目から見ても、その姿はかなりだらしない。

 スーツ自体は仮眠をする際に脱いでいたためにシワはほとんど見受けられないが、ネクタイは緩まっていて、おまけにその顔も、覇気がなくてだらしない。まるで、エンジンを止められた車のようにボケーと、一つの携帯端末の中身を見ていた。

 

「進ノ介!」

 

 と言って大声を上げたのは、霧子である。余談だが、彼女は結婚する前は彼のことを『泊さん』と苗字で呼んでいた。しかし、結婚して姓が同じになってからは、進ノ介、と下の名前で呼ぶようにしているのだ。

 

「こんなところで何ボーとしているんですか! はやく、現場に向かいますよ!」

 

 と、彼の顔を真正面からジッと穴が開くほど見つめ、机を両手で叩いた霧子。しかし、ソレにもなんの反応も見せない泊。いったいなんの動画を見ているというのだろうか、いやソレ自体は容易に想像できるのだが。

 

「また、岩沢雅美さんの動画を見ているんですか?」

 

 ソレこそ、穴が開くほど何回も見たじゃない、と心の中で呟きながら彼の真横に立って彼が見ている動画を見た彼女。

 しかし、そこには彼女が予想したものは映っていなかった。

 

「これは?」

 

 それは、無数のバグスターウイルスと何者かが戦っている映像。側から見ると、ゲームのFPSというジャンル。一人称シューティングゲームの映像のようにも見えるものだった。

 

「さっき小沢さんから送られて動画。例の現場で起こった戦闘の動画だそうだ」

 

 どうやら、泊はサボっているわけではなかったようだ。ちゃんと、自分たちがこれから向かう予定の現場、つまり今日の昼過ぎに発生したバグスターウイルスによる騒動の動画を見返していたのだ。

 とはいえ、その動画からわかることなんてほとんどないのが事実。現に、こうして何回繰り返し見ても分からないことが多い。

 小沢はその動画を他の捜査員たちに共有させるような真似をしていない。泊が今回の事件の目撃者のひとりであるということで、動画を回してくれているだけなのであり、故に彼は一人で悩んでいたのだ。

 

「ダメージを受けるバグスターウイルスと、受けないバグスターウイルス……何か違いがあるのか?」

 

 進ノ介もまたGトレーラー内にいる面々と同じ疑問にたどり着いた。だれにも説明がされていないのに、その事実に気がつく彼の洞察力は流石であろう。しかし、その意味がわからなければ先には進むことができない。

 いったい、この黒と茶のマーブル色のバグスターウイルスに何があるというのだろうか。いったい、何が引き金となってダメージ判定をもたらすことができたのだろうか。

 どれだけ頭を捻っても、その真実には辿り着けない。

 そういえば、である。

 

「この色の配色……どこかで見たことが……」

「え?」

 

 そう、実は泊は、この色の配色。つまり、赤、黄、黒、茶、黒と茶という五つの配色をどこかで見たことがあったのだ。でも、それをどこで見たのかが思い出せない。

 どこだ、どこで見たんだ。多分、直近の事だったと思うのだが―――。

 

「よ、暇か」

 

 なんて、現れたのは。

 

「角田課長……」

 

 薬物銃器対策課課長である角田六郎、である。その手には、とても可愛らしいコーヒーカップが握られており、どうやらその中に入っているコーヒーを飲みながら現れたようだ。

 

「って、暇なわけないな。こうも立て続けに事件が起こってちゃ」

 

 と言って角田はコーヒーを全部飲み干した。この様子からして彼は休憩ではなく、わざわざ己に声をかけに来てくれたのだろうと察した進ノ介は。

 

「はい……こんな時に、自分の無力さを痛感させられます」

 

 と、画面から目を離して角田の顔を見ながらそう呟いた。そして、自分自身の腰に目を向ける。もしも彼が、ベルトさんがいてくれたのなら、こんな無力感は味わうことはなかったのだろうかと。

 しかし、いくら考えてもしょうがない。ベルトさんは、仮面ライダードライブに変身するための相棒は、その頭脳を悪用されないようにと地下深くで眠りについている。他ならぬ彼自身が、そう決めたのだから。

 だから、自分は仮面ライダードライブの力なんて頼りにせず、これからも捜査を続けなければならない。変身できなくても、自分は、仮面ライダーなのだから。

 

「ま、事件がひと段落したら、嫁さんと一緒に休暇を取るのも悪くないんじゃないか? 子供だって、まだ小さいんだろ?」

「はい、まだ五歳。来月六歳になります」

 

 と、霧子は誇るようにそう言った。泊進ノ介、霧子夫妻の間には、実は子供がいるのだ。名前は、エイジといって、十二月に生まれたため、来月に六歳となる愛すべき息子。そして未来への希望たる子供である。

 今の時分は、二人とも共働きで、家にいないため保育園へと預けているのである。

 

「一番可愛い年頃だね。俺の子供もさ、そのくらいが一番可愛くて。まぁ、今は独り立ちして立派になってるけどさ」

「独り立ち……ですか……」

 

 その言葉をきいて、進ノ介はやや暗い顔をした。実は彼、というよりも彼と霧子は未来のエイジの姿を知っているのだ。といっても、息子の顔をそっくりコピーした敵、である。

 自分たちの本来の息子は、その時点でその敵に殺され、姿と、そしてある物を奪われてしまった。今ではその未来は訪れることはないだろうと、進ノ介たちは考えている。しかし、似たような事が起こってしまう可能性だって、無きにしも非ず。

 未来なんて誰にも予測することが不可能であるのだから。一人一人が変えていき、一分一秒ずつ変わっていく物なのだから。

 彼は、角田の何気ない言葉を聞いて思い出してしまった。子供の、死を。

 角田は、なにか地雷でも踏んでしまったと思い、とにかく別の話題を提供しなければならないと考える。そして、結果。

 

「おぉ、そうだ。フェスなんてどうだ? フェス!」

「フェス? ですか?」

 

 なんて話題を二人に提案した。

 

「そう、音楽フェス。俺もこの前さ、カミさんに誘われて行ったんだよ。全然知らない歌手とかバンドばかりでな、まぁ退屈するだろうなって思ったけど……始まってみてびっくりしたよ。知らないアーティストの曲でも、なんかこう、胸にくるものがあったり、迫力があったり」

 

 角田は思い出す。あの時の音の激しさ、音圧の波。観客の声援や笑い声、その全てが耳に残っているいい物だった。

 少々観客がヒートアップし過ぎて自分も飲み込まれそうになる一幕もあったが、それでもいいものを聞かせてもらったという印象がとても強かったのだとか。

 

「そういえば、中には珍しいバンドがいたなぁ……DJがいるロックなバンドとか、ヴァイオリンなんてお洒落な物弾いているバンドもあったりしてな!」

 

 それは確かに珍しい。聞くところによると、そのバンドはとあるアニメ作品出身のバンドで、全員が声優で構成されているという。バンド活動と声優活動というとてもじゃないが普通の人間にはできそうもない二足の草鞋を履いている。

 かつて、自分が警察官と仮面ライダーという二足の草鞋を履いていたときもあったので、少しだけ親近感を覚えた進ノ介は、その話を深掘りしてみることにした。

 

「確かに、珍しいですね。俺が聞いたところによると、バンドはボーカルとギターと……」

 

 刹那。脳内に電撃が走った。そして、まるで彼の脳内からあふれ出した記憶と言葉が、彼の口からオイル漏れした車のように流れ出す。

 

「ベース、キーボード、ドラム……まさか!」

 

 頭の中で何かが弾けた感覚と共に、彼は手に持っていたタブレットで動画サイトを開いた。

 

「進ノ介?」

「ENOZ、違う。でこぴんロケット、違う。結束バンド、違う……あった!」

 

 霧子の言葉にも耳をかさず、彼はついに見つけた。目的のバンドを。霧子、そして角田の二人は横目でその泊が目を付けた動画を見る。

 

「なんだ? 学校の、文化祭か?」

「これって、まさか!」

 

 それを、じっくりと、隅から隅まで眺める進ノ介。巻き戻したり、先に進めたり、止めたり倍速にしたり。何かを確かめているかのような動きに、これはただことではないと感じた角田と霧子は、その進ノ介の動きをただみていることしかできなかった。

 そして、それから三十分足らず経った頃だろうか。進ノ介は、突然立ち上がると、スマホを取り出してある場所に連絡をとった。

 

『はい、氷川です』

 

 それは、Gトレーラー内で小沢が解析したデータのことについて離している氷川誠である。

 

「氷川警視、至急確認したい事があります!」

 

 と、進ノ介が言った。そこには、それまでエンジンの切れた車のようにだれていた男の姿はなかった。ガソリン満タン、ブレーキもぶっ壊れてしまったかのように突き進むだけの一人の刑事がいた。

 

「あの姿、まるで杉下警部みたいだな」

「杉下警部……ですか?」

 

 杉下警部。当然、警視庁に所属している霧子は知っている。警視庁の陸の孤島、窓際部署に追いやられた元キャリア組の警部。灰色の脳細胞とも称される天才的な脳みそを持ち、数々の難事件を密やかに解決してきたという伝説の人。今は、茅場晶彦捜査のためもっぱら警視庁を相方の男性と共に開けている事が多いというその男性。

 角田は、その杉下右京の面影を、進ノ介から感じ取ったのだ。

 

「そ、まぁ警部殿の場合は人の話を聞いたらスッ、とその場からいなくなるクールな面があったから、それと比べたら全然違うんだろうけどね……どちらかというと、亀山タイプだなぁ」

 

 と、杉下と言うより特命係のことをよく知ってる角田。確かに、話に聞いた杉下警部と泊進ノ介にはその性格面でかなりの違いがあるらしい。杉下警部はクールで、進ノ介の方は熱血漢。どちらかといえば、杉下警部のいまの相棒であり、そして彼の初代相棒と言っても過言でもない亀山薫にそっくりであるそうだ。

 でも。

 

「それが、進ノ介ですから」

 

 彼女は、そんな熱血漢の泊進ノ介だからこそ惚れる事ができた。そう実感しているのだ。

 

「やっぱり、そうでしたか……」

 

 そして、ついに全ての謎が解かれる時が来た。スマホの電話口から口を離し、力なくその腕を下ろした進ノ介。その頭に、これまでの事件のキーワードが次々と流れ始める。

 

『AR技術とホログラムを利用したゲームみたいなものよ』

『音楽のもっているリラクゼーション効果を利用して患者のストレスを下げる』

『生の音源を使わないと、バグスターウイルスは抑えられない』

『今回に限って彼女の体内にあったバグスターは、アナザーポッピーは活性化した。これに、何か意味があるんじゃないか』

『どうして!? ちゃんとリズムに合わせて音符にも触れてたのに!?』

『中野梓、軽音部……か』

 

「繋がった!」

「分かったんですね」

「あぁ……」

 

 全ての謎が、解明された。その瞬間、まるで車のシートベルトを閉めるかのように、そして自らの身を引き締めるかのようにネクタイを締めて、彼は、あのセリフを言う。

 自分が、かつて仮面ライダードライブ時代に幾度となく言った。あのセリフを。

 

「脳細胞がトップギアだぜ!」




 いなくなった彼女たちの意思、しかしその意思はまた別の形で角田課長を通じてこの事件の謎をカギとなる、
 実はこの章にシノが登場してるのは元々頭の中にあった展開の名残だった。

タイトル、また変えようと思ってます。今度はシンプルに。でもそんな頻繁に変えていいものかと思ったので、ちょっとアンケートとります。なお、前提としてSAO、あるいはソードアート・オンラインを頭につける事としてます。よろしければお答えください。

  • ヴァルキリーズfeatボーイ
  • プロジェクトSAO
  • アルティメットカオス
  • 無への逃走
  • 肯定あるいは否定
  • フィクションスターズ
  • 〜いろんな著作物から以降はいらない
  • タイトルはそのままでいい
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